2018年01月13日

種子法廃止事務次官通達が参議院農林水産委員会で質問

法律が生きているのに制度を廃止する通達

Tomoya-Innyaku.jpg 種子法廃止をめぐって、農水省事務次官名で11月15日に通達が出されている。

 これについて、印鑰氏は「大きな問題だと思うので、感じた問題点をまとめておく」と述べ、まず、次のようなことを指摘する(20171201)

 この通達は、主要農作物種子法に基づく主要農作物種子制度運用基本要綱の廃止等を指示したものだが、いつからこの通達が実施されるのか明記されていない。識者によると明記されていなければ通達が出た日から実施だという。しかし、種子法は2018年3月31日までは存続しているはずだ。それなのに早くも、種子制度を終わりにしてしまうとしたら、なんということだろう(20171201)

 印鑰氏は、農水省はまだ数年は種子制度の継続をなんとか計ろうとするだろうと思っていた。けれども、その期待は外れた。11月15日の次官通達はその幻想を完膚なきまで打ち砕く。

「通常出される局長名の通達ではなく、次官名での通達は重い」と参議院農林水産委員会でも問題視されていたが、まさに、そうした事態がいま農水省で起こっているのである(20171205-2)

参議院の付帯決議・国会を無視した通達が出されている

Yasue-Funayama.jpg 2017年12月5日の参議院農林水産委員会では、舟山康江議員(民進党)、川田龍平議員(民進党)、紙智子議員(共産党)、森ゆうこ議員(自由党)が質問を行った。ここであげた議員はすべて種子法の問題を指摘した(20171205-2)

 舟山議員は11月15日に農水事務次官名で出された通達の問題点を指摘した。参議院で議論の上、採決された付帯決議をまったく無視し、国会を無視した通達であり、撤回すべきだと迫った。当の通達を出した事務次官はなぜか委員会には参加しておらず、大臣が代わりにのらりくらりの答弁をした(20171205-2)

事務次官通達には種子計画がない

 また、印鑰氏は「この通達で気になるのが「種子計画」について何も言及がないことである」と述べている(20171201)。種籾を作るには4年はかかる。急に足りなくなったからといって作れるものではない。過不足なく作るためには事前に需要をつかんだ上で種子を作るための計画が不可欠となる(20171201, 20171205-1)。そのため、種子が不足する事態にならないように、これまでは種子計画が作られてきた(20171201, 20171205-1)。都道府県別に計画を作り、さらにそれを日本全国で調整させる。そのことがこの基本要綱で規定されていた。それを廃止したら種子計画はどうなるのであろうか(20171201)

 確かに、この通達は種子計画について何も言及していない。この問題点は川田議員も追及した。

「その種子計画までを廃止するのか」という川田議員の質問に対しては、農水省は「都道府県がやりたければやってよい」と対応した(20171205-2)

都道府県の種子生産の根拠がない

 一方で、「都道府県内における稲、麦類及び大豆の種子の生産や供給の状況を的確に把握し、それぞれの都道府県の実態を踏まえて必要な措置を講じていくことが必要である」と通達には書かれている。計画策定とその調整なしには需要に応じた生産は不可能である(20171201)。基本要綱を廃止して、都道府県は何に基づき、種子を生産するのであろうか。それが書かれていない(2017120,120171205-1)。農家は他の都道府県から種子を購入することもある。そこで、都道府県のうち作りたいところだけが個別に種子計画を作るのでは対応できない。日本全体で各都道府県の種子計画が相互に調整された上で最終的な計画となってきたのはそのためなのである。それを「やりたいところだけやる」というのではまったく計画にならない(20171205-2)。印鑰氏は「計画がなくとも神の手が働いて不足など起こらないと信じろというのだろうか」と首をかしげる(20171201)

 議会質問でも、「作りたい都道府県が種子計画を作っていく場合には、何を根拠とするのであろうか」と川田議員が聞くと、農水省は「過去の通達だ」と答えた。けれども、それを廃止する通達を11月15日に出してしまっているのである。過去の通達を根拠にするのであればそれらを廃止する通達は出してまずいではないか(20171205-2)

利潤があがらず民間企業が種子を生産しないリスク

 民間企業が現在出している品種は基本的に外食・中食向けの業務米、原料米であって、消費者向けのコメではない。しかも、そうしたものはすぐ出てくるものでもない。また、出てきたとしたら種子の計画的な生産はさらになるのではないだろうか(20171201)。民間がどれだけの種子を生産するのかを把握する手段があるのだろうか(20171201,20171205-1)。また、民間企業は儲かれば作るだろうし、儲からなければ生産を止めることもありうるだろう。突然、種子が足りなくなる状況も想定される。それを避けるためにどのような手段を講じるのであろうか(20171201)。あるいは、儲からないために民間が事業撤退する事態にはどう対応するのか(20171205-1)。こうしたリスクについてはまったく書かれていない。そして、そのような事態にどう責任を取るのかも不明なのである(20171201,20171205-1)

計画廃止は民間企業に種子生産を前提としている

 今後も都道府県が生産していくとすれば、その根拠が必要である。けれども、行政レベルでもはやその根拠がない状態になっている。これだけでも大問題である。農水省の存在意義が問われる。けれども、事務次官は通達を撤回する姿勢も見せない。印鑰氏はこの答弁を受けて、こんな感想をもらしている。

「さらにおそろしいことを感じた。今後の種子生産は完全に民間企業に明け渡すことを農水省は前提としているとしか思えない」(20171205-2)

一方で自由な民間の種子流通は規制しようとしている?

 これと符合するかのように、奇妙なことを通達は求めている。それについて、印鑰氏はこう書く。

「また、疑問なのは通達の3ページ目「4 稲、麦類及び大豆の種子の品質の確保」にかかれている内容である。これまでは特定品種について流通前に生産圃場で品質を確認して証明書を発行してきたが、今後は流通の場面で民間含めたすべての種子の検査を行う、とある。

 これまでは奨励品種や産地品種銘柄に指定された特定品種のみが認証されて、独占的なルートに乗り、そうでないものは排除されて、「その他の品種」としてしか表示できず、品種名を表示することもできず、個々で細々と売るしかない状況だった。そこがこれまでの種子制度の排他的な点として批判されることもあった。けれども、今後、すべての種子の検査を流通場面で確認するとなると、これまで自由に売ることができていた種子が流通の中で規制されてしまうことにならないのか、気になる。国や都道府県が種子の自由な流通を規制しないことを明言させる必要があると思うと印鑰氏は述べる(20171201)

UPOVに沿って種子をグローバル化させる準備がされている

 また、12月15日には農水省の農業資材審議会、第17回種苗分科会が開かれている。これは、農林水産省令において、植物の区分を新たに定めることに伴い、当該区分ごとに審査の指標となる「重要な形質」の新設及び「植物新品種保護国際同盟(UPOV=Union internationale pour la protection des obtentions végétales,ユポフ)」が作成・改正した国際標準への準拠等に伴う既に定められている植物の「重要な形質」の改正について審議を行い答申をするものである。

「近年のわが国の品種登録制度における重要な課題である審査期間の短縮及び国際間における迅速・的確な権利保護を達成するためには、審査データの相互利用等の国際審査協力を促進することが必要であり、その前提として、審査基準の国際的な調和を図ることが不可欠である。このため、わが国独自に定められていた農林水産植物の区分について、植物の新品種の保護に関する条約の締約国から構成される同盟(「UPOV同盟」)の定める新作分に準拠するように全面的に見直す規則改正を行うとともに、旧告示を廃止し、新たに告示を制定して、規制改正後の農林水産植物の区分ごとに、「重要な形質」を定めることとする」(農水省の2008年の資料)

 要するに、種子開発企業の特許権を優先させるUPOV1991年条約にそって、日本の種苗法の運用をよりUPOV同盟との一体化を計ることを進めているのである(20171204)

 なお、UPOVについては、拙ブログ「なぜか世界の潮流とズレている種子法廃止」及び「木を見て森を見ず~種子法廃止はフード支配の前哨戦」にも書いたので、合わせてご覧いただきたい。

国際条約への配慮でバランスを欠く日本国政府

 どうみても、今の日本政府の動きには正常なバランスがあるとは思えない、との感想を印鑰氏はもらす。種苗法とUPOV1991年条約の整合性を合わせることにはやたらと熱心に思えるが、こちらの同盟国は世界でまだ50カ国しかないからである(1991年の場合)。

 一方、2010年10月に愛知県名古屋市で開催された「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で採択された「名古屋議定書(名古屋プロトコル)」に対しては、自国で開かれた会議で決められたことにもかかわらず、日本政府は全く熱心ではなく、日本が批准したのは100カ国中99番目(2017年8月20日)という遅さである。ちなみに、米国政府は生物多様性条約を批准していない  (20171204)

小農民の権利宣言に日本国政府は米国とともに反対した

 さて、現在、「世界人権宣言」の流れをくんで「小農民と地方で働く人びとの権利宣言」が国連で2007年6月に成立する予定だった。けれども、米国政府の反対と日本政府の棄権(実質的反対姿勢表明)等で、成立が来年に遅れることになってしまった。日本政府は起草作業にはまったく無関心であったにも関わらず、小農民の権利を独立した新たな権利として認めないという立場表明を国連でわざわざしに出かけているのである(20171201)。5月に国連人権委員会での会議の4日目には「土地、種子、適切な収入、食料主権、そして、安全で汚染されない環境を「人権」として認めようとはしない国から強力な反対があった。グアテマラ、日本とニュージーランドである」と書かれてしまっている(20171205-1)

食料・農業植物遺伝資源条約は農民の種子の権利を認めている

 種子の多様性を確保しなければ今後の気候変動の荒波を乗り越えることは難しく、その意味で、特定品種だけではなく、農家の人たちが育てている多様な品種を生かしていくことはさらに重要になっていく。これは日本政府も批准している食料・農業植物遺伝資源条約が明記しているところである。日本政府はこの国際条約を批准しているのだから、それを実行に移すことが求められているはずである。それを実施していくためにも、そうした農家の種子を守る姿勢を明らかにする必要がある。

 食料・農業植物遺伝資源条約の第9条2項には「締約国は、農民の権利(Farmers' Rights)が食料及び農業のための植物遺伝資源に関連する場合には、これを実現する責任を負うのは各国の政府であることに合意する」と明記されている(20171201)

 つまり、日本政府が批准している食料・農業植物遺伝資源条約では種子の権利を農民の権利として認めている。この態度は資源条約の文言とは矛盾するものではないだろうか。日本政府の立場は何に基づいているのだろうか(20171201,20171205-1)。 

 日本政府はいったい何を根拠にこのような態度表明をしたのか、疑問だ。果たして、どんな国会での議論を元にそうした態度が決定されたのか。それとも官僚の独走なのか(20171201)。成立しかけた小農民の権利宣言を止めたその根拠は何なのであろうか(20171205-1)。印鑰氏はそう問いかける。

小農民の権利宣言に外務省が反対したことには答えない

 疑問に思ったのは印鑰氏だけではない。川田議員が国連で進められている「小農民及び農村住民の権利宣言について農水省は知っているのか」と尋ねると一人も手を上げない。そこで、議員は今年5月に外務省が宣言の反対の答弁を行ったことの問題を指摘した。すなわち、「日本の国会における議論もないままに、外務省が宣言成立に反対していたことを農水省は知っていたのか」と質問した。すると、農水省側はフリーズした。最終的には農水大臣が今後精査して対応すると述べたに留まった(20171205-2)

 川田議員は「米国ですら廃止していない法制度を日本が率先して廃止したことはきわめて危機的である」とし、廃止された主要農作物種子法に代わる新しい法律を議員立法として作ることに川田議員も参加することを宣言し、与党議員にも賛同を求めて種子法に関する質問を締めくくった(20171205-2)

 印鑰氏は「食料・農業植物遺伝資源条約が日本国内でも重要な条約であることが確認され、国連での小農民の権利宣言に対しても世界の国の農民と日本の農民の権利をつなぐ宣言として議論を国会の中で始めることができたことは、今後の農民・消費者の国際連帯、海外に対する開発政策と日本国内の農業政策をつなぐ政策議論の端緒となるだろうし、大きな意義を持つ質疑となったと思う」と述べている(20171205-2)。そして、上述した事務次官通達について「撤回させるべきです。マスコミは報道してほしい。本当に」(20171205-2)と祈りのような言葉をマスコミに対して投げかけている。

編集後記

 本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。さて、いつも、編集後記と題して「駄文」を書いている。けれども、今回は、それを止め、印鑰氏が2017年12月13日に書かれたものを転載したい。

 今、狭い意味での「日本」に直接関わらないものにはほとんど関心が示されなくなっているのではないか。だからそれとは逆の「はやり」を追えば、確実に「うける」だろう。トレンドをつかめ、というヤツだ。でもその行方に何があるだろう。

 世界から自ら意識をそらして、縮んでいく関心(略)。所詮、関心を呼ばないことをやっていても意味がないと言われるかもしれない。誰も読まないものを書いたとしてもその文章は無力だ。関心を呼ぶように、その狭い文脈にあえて強引に載せ替えるべきだろうか。

 こういう時代だからこそ、あえてそんな空気を読まずに、世界の動きに飛び込んでいく方を選びたいものだ。内向きの意識を配慮しながら取り組むのであれば、どんどん現実から遠ざけられてしまう。それは日本にとってもどんどんチャンスから遠ざかることでもあるし、危機にどんどん近づくことでもある。

 日本だけ違う方向に行くことが世界をさらに危険にすることにもつながる。死にかけたTPPを生き返らせ、世界の人びとの生活をより危険にしているのは他ならぬ日本政府である。そして、たった一人だけであっても伝わればそれは意味のあることだと思う(20171213)
(2018年1月12日投稿)
【画像】
印鑰智哉氏の画像はこのサイトより
船山康江議員の画像はこのサイトより
【引用文献】
2017年12月1日:印鑰智哉氏のFacebook
2017年12月4日:印鑰智哉氏のFacebook
2017年12月5日−1:印鑰智哉氏のFacebook
2017年12月5日−2:印鑰智哉氏のFacebook
2017年12月13日:印鑰智哉氏のFacebook


posted by José Mujica at 07:00| Comment(0) | 種子法廃止 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする