2018年02月15日

いのちの種を未来に ―いま、なぜ固定種の種が大切なのか

F1とは雑種のことで最新の意味はない

 まず、タネがどう変わってきたのかについて話したい。うちは「固定種専門」のタネ屋だが、「固定種とは何なのか」とよく聞かれる。

「在来種」とは農民たちが自家採種してきたタネだが、「固定種」は、タネ屋が形質を固定したタネのことである。そして、今は、ほとんどのタネがF1となっている。F1とはFirst Filial Generationの略で、ハイブリッド・シードとのことでもある。「ハイブリッド」というとかっこよく聞こえるが、そこには「最新」という意味はない。ラテン語の語源は「猪豚」だ。つまり、イノブタが交雑したものをハイブリットという。私から言わせれば、ハイブリッドーカーも、ガソリン自動車と電気自動車の雑種だ。そして、これを食べる時代になっているのである。

本物の三浦大根はいま作られていない

 では、F1のタネと固定種のタネとはどう違うのか。その話をしてみたい。まず、その違いが一目瞭然でわかるのは、三浦大根である。今、固定種や在来種のタネを使って三浦大根を育てている農家は1軒もない。すべて「黒崎三浦」というF1である。「らでぃっしゅぼーや」という団体が「いと珍し野菜」というものを作ろうと言い出し、冬野菜が揃ったというので誘われて試食会に行った。その時、「いと珍し100選」の第1位を射止めたのが種子島の「安納芋」だった。これを最初に売り出したのは、「らでぃっしゅぼーや」なのである。そして、2番目の人気が三浦大根だった。今の青首大根と違って、首まで白いのが消費者に喜ばれた。梨のようにみずみずしいと。けれども、茹でたものを食べて見たら、どうもおかしい。

miura.jpg そこで、「これ本当に三浦大根なの。F1じゃあないの」と聞いて見ると担当が、「やはり、わかりますか」と言った。つまり、本来の大根であれば生では硬くて辛い。これを煮ると酵素の働きで甘くなる。さらに、肉質が均一なので大根おろしにも向いている。F1の大根では大根おろしにすると繊維がおろし金に絡みついてぐちゃぐちゃになる。

 なぜかというと、本来4ヶ月かかるものがF1では2ヶ月半でできる。ということは細胞が水ぶくれしている。翌年、子孫を残すためには冬を越せない。そこで、大根もなんとか一生き残ろうと細胞壁を維持しようとするのでないか。その強くなった細胞壁が繊維になるのではないかと思う。

 さて、長野県には有名なねずみ大根がある。これを大根おろしにすると粉のようになる。そばツユに入れても薄まらない。こうした在来の大根が江戸時代には全国で200種類も300種類もあった。それが、今は青首だけになってしまっている。

揃って出荷できない在来種のタネは流通で不利になった

「らでぃっしゅぼーや」の担当が、「昔の三浦大根を再生させてセット野菜に組み込みましょう」というのでタネを提供してみた。だいたい9月に播種して12月には収穫できるのだが、生産者がカンカンになって怒っているという状況になった。そこで、現地に足を運んで見ると、広大な大根畑でF1はすべて出荷が終わっている。けれども、うちのタネで育てた大根だけが残っている。

「この揃いの悪さはなんだ。1月も遅れている。これだけ遅れる以上は一本でも高くF1よりも高く売りたい。けれども、同じ金額では引き取れないと。大きさがまちまちで流通できないではないか」

 そう言われた。確かに、今は、有機野菜も宅配で流通している。らでぃっしゅぼーやだけでなく、大地の会にしてもオイシックスにしても同じ箱に入れている。そして、近所の友人に「これいいわよ」とお薦めしたりする。で、何人かが顔を付き合わせると、同じものを頼んだのに、うちの大根は小さくてお隣の大根が大きかったりするとこれはもうクレームどころではない。とても同じ金額では引き取れないということになる。

 もちろん、固定種の頃は、すべて選抜をしていいものだけを選んでいた。今は選抜もせず、ただ遺伝子資源を維持するだけになってしまっているから、こうしたことが起きる。とはいえ、固定種の場合はどうしてもムラが出ることが避けられない。

 タキイやサカタのタネでは絶対に同じになるのに、そうならないために、たまにクレームが入ったりする。つまり、大量生産、大量消費には向かない。

 昔のこうした時代の大根は、八百屋の店先で八百屋の親父がお客と対面販売しながら値段を変えて売っていた。今は、同じ箱に同じ値段で並べるだけになっている。つまり、揃いが悪ければ売れない。こうして、在来種はプロが使う種ではなくなった。

大手種苗会社が寄ってたかって日本の野菜はまずくしている

2018020404.jpg 昔は、小さなタネ屋が小さな町にあった。それが、今はホームセンターに食われてしまってなくなっている。

 この写真もそんな小さなタネ屋である。そして、この写真の三輪車に乗っている子どもが私である。昭和24年に祖父が死に、私の父親が後を継いだ。当時は、世界中が「固定種在来種」であった。それが昭和34年頃からF1に押されていく。私が中学、高校の頃には固定種は売れなくなり、例えば、昨年に2000リットルも注文があったものが、たった10リットルしか売れない。

 もうこれで固定種の時代は終わったと感じた。父親からは「農学部に行け」と言われていたのだが、それを止め、大学は文学部に行ってその後、好きであった手塚治虫の虫プロに入った。けれども、その後、漫画の世界も手塚が描くようなものは受けなくなる。ストーリー性もなく、ただヒット作があれば、だらだらと100巻、200巻と続けていく。これで漫画の世界も止めようと家業のタネ屋に戻った。

 さて、昭和50年代まで、タネ屋の世界では「そ菜原種審査会」、いわゆる原種コンクールがあった。うちは「みやま小かぶ」を出していた。そして、固定種の時代には、金町小かぶの中ではトップで、大所が100リットルとかタネを買っていた。うちのみやま小かぶがタキイ種苗の袋に入れられて売られていた。

2018020405.jpg けれども、それが昭和40年代にF1の時代になるとさっぱり売れなくなる。ということで、初めて審査会に行ってみた。埼玉県の久喜にある園芸試験場がその会場だった。審査の方法はこうである。まず、自分が出品した蕪がどの蕪なのかわからない中で、ほ場で良さそうな蕪を選んで紙に書き、それを試験場の職員にわたす。その結果が集計されて、成績が悪い品種は後で種明かしがされる。

 先ほど言ったように、固定種は同じ親から生まれても早く育つものと遅く育つものとがある。選抜していても生育状態にばらつきがある。おまけに、F1に比べて茎が弱い。F1は少し荒く扱ってもビクともしないが、在来種は弱い。それは、逆に柔らかくて美味しいということでもあるのだが、スーパーでは日持ちがしないし勝てない。で、うちは負けたのだが、タネ明かしされたうちのかぶを「F1のかぶなんてまずくて食えてものじゃないよな」と大きな声で言って皆が持ち帰っていた。つまり、誰も、F1がまずいことを知っている。その上でも勝てない。つまり、食べ物が見栄えだけでしか評価されない時代になったとつくづく感じた。

 大手種苗会社のセールスマンといっても現場を知らない。すると、ある非常に正直なサカタのタネのセールスマンは、当時25歳の若者だったのだが、僕が「大手種苗会社が寄ってたかって日本の野菜はまずくしている」と言ったら、畳に土下座して「おっしゃる通りです。申し訳ございません」と言ったのだ。

 サカタのタネの通販部長も「のらぼう菜のタネを送ってくれ」と依頼してきた。その後も「のらぼう菜はうまいんだ。固定種だからなと。うちのオータムポエムなんて目じゃない」と言っていた。本当に不思議な会社だと思った。

F1は化学肥料・農薬・ビニールとセットで普及した

 戦争中に作られていた爆弾が戦後には化学肥料に、毒ガスは農薬となった。そして、ビニールハウスによって周年栽培が可能になる。そして、これを前提とした品種が求められる。つまり、化学肥料、農薬、塩化ビニールはF1と足並みを揃えて普及した。この仕組みが、完成したのが東京オリンピックの時である。地方から人々は東京等の大都市に押し寄せ、都市部に食料を提供するため、指定産地制度、キャベツだけを作る嬬恋村等が誕生していく。

F1と在来種の違い

 ここでF1と在来種との違いを整理しておこう。

F1は揃いが良い。出荷に有利。固定種は伝統野菜では味がよい

F1は毎年タネが必要なのでメーカーに利益。固定種は自家採種できる。

F1は生育が早く収穫後の日持ちが良い。固定種は多様性と環境適応力がある。

F1は特定の病害に対して耐病性をつけやすい。固定種は自家菜園向き。

F1は特定の形質を導入しやすい。固定種は様々な病気に耐病性を持つ。

F1は作型や味等、流行に合わせたバリエーションを作りやすい。固定種はオリジナルの野菜を作れる。

ヘテロシスによって収量が増大する?

 メンデルの法則では、優性、劣性という言葉が使われるが、これは優性が優れていて、劣性が劣っているということではない。例えば、ホモ・サピエンスはもともと紫外線が強いアフリカで産まれた。その強い日差しから身を守るために黒くなる必要がある。そこでメラニン色素を大量に持って生まれる。けれども、5、6万年前に出アフリカを果たして北方に移動していく。フィンランドやノルウェーでは紫外線が弱いためにビタミンDができなくて、くる病になってしまう。そこで、黒い皮膚を作る遺伝子が欠落して白人になった。けれども、その黒人と白人が結婚するとメラニン色素が産まれてオバマのように黒くなる。

 ダーウィンの時代から言われていたのは雑種になると大柄になったり生育スピードが早くなることである。これを雑種強勢(heterosis ヘテロシス=ハイブリッドビガー)という。確かに、F1では生育量が早まって収穫量も増大する。そこで、世界がF1になってきた。けれども、これは、2代目になるとバラバラになる。また、自家採種できない。昔も交雑して4、5年するとダメになったために買いに来たものだが、今は毎年買わなければいけない。

F1が病気に強いというのは嘘

 F1が病気に強いというのは嘘である。より正確に言えば、病気に強い遺伝子は固定種から持ってきている。そして、耐病性検査をやって病気に強い遺伝子を見つけ出すことで取り組んでいる。

 今はモノカルチャーになってしまっているためある作物の病原菌もそれに応じて増えていく。例えば、多くの病気に強い「ツキヒカリ」という最初のF1のタマネギは、固定種の「札幌黄」から改良したF316にアメリカのW202を掛けた雄性不稔タマネギから得たフラヌイを、さらに病気抵抗の強いタネを求めて掛け合わせたものである。けれども、6、7年経つとやはり病気にかかるようになる。乾いたまま腐る乾腐病である。つまり、F1だけでは耐病性品種は生まれない。

F1とちがって固定種は美味しい

 一方、固定種の利点は長く食べ続けられてきたために料理と合致して美味しいし、自家採種できることだ。

 植物は動物と違って足がないために移動できない。その土地で生きていくしかない。そして、その土地の気候風土を判断するのは表皮細胞である。こうして、2、3年も経てばその土地の野菜に変わっていく。

 また、家庭菜園では早い育つ野菜と遅く育つ野菜があった方がよい。一度種子を蒔けば、12月から3月までずっと長く収穫する大根だった。長く収穫ができるからである。

F1の作り方その1〜最初は除雄で埼玉で誕生

 では、F1はどうやって作るのか。ナス科は、両全花で、同じ花の中で雄しべと雌しべが受粉してしまう。このため、小さな蕾をこじ開けて、雄しべを一本残らず引っこ抜く。これを「除雄」という。人件費がかかって面倒臭いが、世界で最初にこれをやったのが1924年(大正13年)、埼玉県農事試験場の柿崎洋一(1895〜1976年)博士である。埼玉の真黒(しんくろ)ナスとかけ合わせ、新潟の巾着ナス(きんちゃく)をかけた「埼交茄」と、白ナスをかけた「玉交茄」の二種類を発表した。このF1ナスが、雑種強勢で草勢強く、丈夫で収量も多かったことから、柿崎博士は栽培農家から「ナス博士」と呼ばれて尊敬されることになる。そして、それ以後、日本各地の農業試験場で作られていく。大阪はきゅうり、奈良県でも大和スイカが作られる。そして、明治になってアメリカから来た縞のあるスイカを父親、味が良い「旭大和」を母親として創り出す。

F1の作り方その2〜アブラナ科を利用した

Woo_Jang-chun.jpg その後、日本だけがアブラナ科野菜で独自の方法を編み出す。やり方を発明したのは、韓国人の禹長春(ウ・ジャンチュン,1898〜1959年)博士である。アブラナ科の野菜は自分の花粉では受粉できず、他の株の花粉を必要とする。近親結婚を避けるためか、自家受粉を繰り返すと自分の花粉で受精しなくなる性質「自家不和合性」を持つ。けれども、この性質は成熟してから働き、つぼみの段階では働かない。兎博士はこの性質を利用した。つまり、成熟したものはタネをつけないが、幼い時には自分として認識できない。つぼみの段階でそれをこじ開け、すでに咲いている自分の成熟した花粉をつけてやれば受粉する。そして、しかも、ここでできたものはクローンである。こうして、別のアブラナ科の花粉をつければF1ができる。

アブラナ科が好まれた背景にある宗教的世界観の違い

 けれども、この方法が広まったのは日本と韓国、せいぜいアジアでしかない。ここには西洋との世界観の違いがある。

 例えば、西洋では「菜っ葉」という単語がなくマスタードと訳する。菜っ葉の祖先は蕪である。原産地は地中海沿岸の砂漠地帯である。雨が少ないために子孫を維持しようとして球根植物が生まれた。ヒヤシンス等もそうである。

 さて、カトリックの世界では最も天に近いのは鳥である。次が空中になる果物、次がケダモノ。そして、ケールや不断草。地中に太っている蕪や大根は悪魔の社会である。ハリポッターで「マンドラゴラ」と同じものとみなされる。そこで、蕪や大根は家畜のたべものと見なされる。

 一方、日本では5、6世紀に仏教が伝来し、肉食が禁じられる。位が高いのは五穀であり、そこに大豆も入ってくる。大根や蕪は秋まきで、漬物文化も生まれる。秋から冬に作ったものが国民を飢えを防げるため、蕪や大根を作れとそれが重視される。実際、推古天皇(554〜628年)の頃から、秋野菜を栽培していた。こうした背景もあってF1が必要になるのである。

F1の作り方その3〜生理障害を利用

 さて、私は、1974年、30歳になってから店を継いだのだが、アブラナ科は交雑してしまう。それ以外の個体の花粉を喜んで受け入れる。そこで、1キロ内に小松菜があると交雑してしまう。けれども、今は二酸化炭素を使っている。普通の大気中の二酸化炭素の大気中の濃度は0.036%だが、これを4%と100倍に高めると菜の花の生理が狂って種子をつけてしまう。ミツバチは体液が透明であることからわかるように、血液にヘモグロビンを含まない。そこで、受粉ができる。

F1の作り方その4〜「雄性不稔」を利用

2018020402.jpg さて、この表をご覧いただきたい。世界で最初にF1を作ったのは日本である。1914年に蚕で日本産の蚕と中国の蛾をかけ合わせた。

 黒い字で表現しているのが、「雄性不稔」による育種で、1924年に前に述べた「除雄」の技術が生まれているが、その後に増えているのが赤い字で表した「雄性不稔」であることがわかる。同じF1であっても蕾受粉は日本独特のガラパゴス技術となり、今は、米国で発見された「雄性不稔」の技術がグローバルスタンダードになってしまっている。

男性精子症の子孫を増やしているのがF1

 それでは、「雄性不稔」とはなにか。英語では「Male sterile」。人間でわかりやすく言えば、男性不妊症、無精子症である。生物の中でも男性の機能がない個体がたまに見つかる。この子孫を増やしているのが、「雄性不稔」である。これが、玉ねぎ、とうもろこし、人参で見つかっている。ちなみに、日高市の人参農家が私のタネを「試しに作ってみたい」と言って買っていったが、「野ねずみが食うから困る」とクレームを受けた。そして、今、そこが作っているのがタキイの向陽2号。これは、芯まで黄色ではなく赤い人参である。最近の若い奥さんは芯が黄色だと変な病気ではないかと思ってしまう。けれども、このタキイの向陽2号はネズミすら食わない人参なのである。

 さて、「雄性不稔」は最初はタマネギで始まった。1925年に米国の技師ジョーンズがこれをイタリアンレッドで見つける。そして、これを掛け合わせ1944年に初めて「雄性不念」のタマネギを誕生させている。

2018020403.jpg 戻し交配。英語では「Back Cross」というのだが、このタマネギは雄しべがないために母親の遺伝子しか継承できない。そこで、黄色のタマネギとかけあわせると、雑種の子どもはF1になるが、赤が50%、黄色が50%の割合で子どもが生まれる。これにまた黄色をかけて孫を作ると、やはりおばあさん譲りで雄しべがないために、これを6、7世代かけ続けると黄色に限りなく近くても、男性機能を持たない黄色い玉ねぎが誕生する。

 それでは、なぜ雄性不稔が生じるのか。ずっとわからなかったが、ミトコンドリアの異常であることがわかって来た。では、なぜ、雄しべにだけ異常が生まれるのか。ミトコンドリア遺伝子の異常である。

活性酸素で痛んだミトコンドリアを子孫に伝えない生物の知恵

 なぜミトコンドリアは母系遺伝するのだろうか。瀬名秀明,‎ 太田成男の著作「ミトコンドリアと生きる」(2000)角川oneテーマを読むば、なぜ、父親のミトコンドリアが子どもに伝わらないのかがわかる。受精卵が8分割する間に、卵子に食われ、分解されてしまうのである。このため父親のミトコンドリアの精子は子どもには伝わらない。

 これは、2016年のノーベル生理学・医学賞を受賞した東京工業大学の大隅良典(1945年〜)栄誉教授が、解明した「オートファジー」の代表例な事例である。つまり、卵子の中でオートファジーが起こって、精子を分解する。そして、これは良いことでもある。というのは、精子のミトコンドリアは精子の付け根の部分にあるのだが、精子が卵子にたどり着くのは、人間で例えれば、マラソンを2回、100㎞を全力疾走することに相当する。東北大学の山本雅之(1954年〜)教授の仮説では、酸素エネルギーを使っているがくたびれきっている。すると、こうしたミトコンドリアは活性酸素がコントロールができなくなり、活性酸素を出して自分の細胞を傷つけたりする。事実、ミトコンドリアの核の遺伝子は他のDNAの100倍も変化している。これだけ傷つけていると何かのリスクがある。そうしたものは子孫に伝えるべきではない。そこで、見つけ次第食べられてしまうのであろうというのが今の説である。

 細胞の模式図ではミトコンドリアは2、3ケしか描かれていないが、心臓筋細胞では何千個もある。卵子では10万。精子は100個足らずである。そして、全部のミトコンドリアを集めると体重の1割にも及ぶという。

雄性不稔はミトコンドリアの異常だった

 千葉大学の大学院園芸学研究科の田中寛教授の研究では、核内のDNAが複製されるには、先だってミトコンドリアや葉緑体のDNAが複製される必要があり、ミトコンドリアが単細胞生物を分裂させていることがわかって来た。また、神戸大学の井垣達吏准教授は、ミトコンドリアの機能低下が周辺組織の悪性化(がん化)を促進することを発見し、その仕組みを解明した。

 そして、2006年に、筑波大学の中田和人(1969年〜)教授は、雄性不稔の場合、ミトコンドリア膜に異常があることを明らかにする。また、2011年6月には、東北大学の鳥山欽哉教授ら環境適応生物学教室では、稲の細胞でミトコンドリアのDNAの一部が作るタンパク質がミトコンドリアの膜に蓄積すると雄性不稔が起きることを発見する。

F1での栽培を続けていると種子は小さくなる

 実は、種苗業界では絶対に認めないのだが、F1を作り続けていると種子が小さくなってしまう現象がある。実際、オクラの種子がF1で小さくなっているのを目にした。例えば、サカタのタネ、サカタ七日では小さくなっている。脇が甘いのか、サカタは正直なのだが、他の種苗会社は絶対に言わない。

 ラディッシュで見つかった雄性不稔を使って、硬い細胞壁を溶かして細胞融合をさせ、ブロッコリーの核に入れれば1回でできる。そこで、今は雄性不稔の個体探しが基本トレンドとなっている。ピーマンでも雄性不稔のピーマンが信州で見つかり、これに健康なピーマンをかけたりしている。雄性不稔の食品は野菜だけではない。テンサイ(ビーツ)はすべてF1になっている。米国の米国の育種家オーエン(F. V. Owen)氏が発見したものが世界中のビーツの母親になっている。ビーツは不断草の仲間だが、絞ったカスも清涼飲料水の食物繊維、インスタントラーメンのつなぎとして使われている。知らず知らずのうちに食べていることになる。コメの雄性不稔も沖縄で見つかるのだが、これにジャポニカをかけ、2009年の推計値だが、いま、米国ではコメの39%、中国では58%が雄性不稔になっている。

雄性不稔でも復活する生命の神秘

 生命大爆発は、目ができたことによって起きたという。クラゲのような腔腸動物であったときには、腸が脳のかわりの役目を果たしていた。その腸が変化したのが生殖器である。また、植物プランクトンが持っていた光を感じる能力を子孫に伝えることでクラゲは目を持つようになったのだという。

「一粒万倍」とは一粒の種子もまけば万倍の粒となるとの意味で、少しのものでも粗末にしてはならないことを含め、「報恩経」というお経に由来する。収穫コメでは7000粒が限界で1万粒にはならないが、それでも4年目には1京粒になる。種は無限の生命力を持っている。

 確かに、現実には1000粒に1粒か2粒の割合で雄しべは復活してしまう。そこで、逆に「安定しないから困る」と言われてしまう。つまり、不健康な子孫を作れないタネだけが売られていることになる。そして、今、タネを支配すれば世界が支配できるということで、大手化学企業がタネの世界に進出して来た。GMもある。そして、今、マネーゲームでやっている。どのようなタネが売られているのかわからない時代となっている。

 それでは、本来の生命が出せなくなるのではないだろうか。現代農業の2018年2月号もタネの特集で、子孫ができなくなるという噂について話題にしている。

 米国でも、CMSで検索をかけるとこうした問題を憂えていることがわかる。そこで、ある東京農大の先生に、この問題を話したら、現代の育種学が崩壊しますと唸ったままだった。

編集後記

2018020401.jpg 2018年2月4日(日)、長野県有機農業研究会の主催によって小諸市・ステラホールで開かれた野口氏の講演を聞きに行ってきた。驚いたのは200人以上のかなり大きなホールが満席で動けないほどだったことだ。東京ならばわかる。けれども、小さな地方都市での話なのだ。どれだけ多くの人が「種子」に関心を持っているのか改めて感じた気がした。

「2週間前に弘前で行った講演では4時間。その前に大阪でした講演では5時間話した。自由にどうぞと言われた東京では5時間半も話した。今日は3時間といわれているが、時間的に足が出るかもしれないのでご勘弁願いたい」

 そういって話始まった野口節は、圧倒的で、休みも取らずに、時間をオーバーするほど熱弁が続いた。そして、最後には「あくまでも僕の仮説」と言いながら、ミツバチがいきなり消え失せる問題についてこう主張されていた。

「一般的にはミツバチの消失はネオニコチノイドのためだとされている。けれども、実際には、それ以前から起きている。一時は環境ホルモンだと言われていたが、これは雄性不稔のためではないか。こんな精子では走れるわけがない」

そういって、野口氏は、サルの精子と人間の精子の動画を上映した。恐ろしいことに、人間の精子はほとんど動いていない。

 不妊症が増えているのもわかる気がした。最も、私は印鑰智也氏の「環境ホルモン説」も否定できないでいる。氏によれば、一時ブームとなった「環境ホルモン説」は日本では眉唾物として忘れ去られてしまったが、短期的な影響がでないことがわかっただけで、長期的な問題があることは判明しており、ヨーロッパでは真剣に議論されているのだという。なお、野口勲氏が紹介された英文サイトでどのようなことが議論されているのか、まとめとして意訳を紹介しておこう。

 2004年の有機種子生産者会議では、「F1問題」が話題になった。「雄性不稔(CMS=cytoplasmic male sterility)」では、F1種子が確実に、かつ、廉価に作れる。さらに、種苗会社以外の者が自家採取することも防げる。そこで、ある植物細胞から核を除去し、別の種や属からの植物の核と取り替える遺伝子工学技術、「細胞融合(Cell fusion)」がなされている。ある細胞からのミトコンドリアや葉緑体DNAと別の細胞からの核DNAを混ぜ、まったく新たな植物を作り出してしまうのだ。これは、体細胞融合(somatic fusion)や原形質融合(protoplast fusion)とも呼ばれて、このテクノロジーを用いてつくられる植物は、トランスジェニック・サイブリッド (transgenic cybrids)と呼ばれることもある。

 この「細胞融合」の技術は、いま、慣行農作物だけでなく、有機農産物の生産でも幅広く使われている。そこで、この種の遺伝子工学技術を有機農業に使うことが適切なのかどうか。そして、使ったものが有機農産物として認証できるのかどうかに議論は集中した。

 私は、2011年以降この問題を話題にしてきたが、有機種子運動での多くの著名人が参加するような大きな会議でも全国的に注目されている。そこで、一般でも話題になることが期待できるし、米農務省の全国有機農業計画(National Organic Program)がこの問題についてのパブリック・コメントを求めることもありえよう。

 さて、現在の状況では、その種子が細胞融合の遺伝子工学によって作られたものかどうかを確認できない。これを避けるうえで最も信頼できるのは、非F1種子を選ぶことだ。

 アブラナ科、ネギ、アカザ科であれば、F1であっても「自家不和合性(self-incompatibility)」で作られているかもしれない。そうであれば、ナイスだ。そこで、私としては「雄性不稔」の使用、とりわけ、細胞融合遺伝子工学を禁ずる「Safe Seed Pledge 2.0」が広まることを期待したい。「細胞融合技術」を有機農業としては認めないとなれば、大規模な生産者はいまから計画を始めたるだろうし、小規模な生産者は、F1種子を蒔かないことでトランスジェニック・サイブリッドを避けられる(2)

【画像】
三浦大根の画像はこのサイトより
野口種苗の写真は文献(1)より
みやま小かぶの画像はこのサイトより
兎長春博士の画像はこのサイトより
野口勲氏の画像はこのサイトより
【引用文献】
(1) 2016年5月10日松岡正剛「1608夜野口勲タネが危ない」松岡正剛の千夜一冊
(2) Joseph Lofthouse, Genetic Engineering and Cell Fusion CMS, 2/5/2014.


posted by José Mujica at 22:46| Comment(0) | 種子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする