2018年03月14日

ラ米・カリブ海のアグロエコロジー2

アグロエコロジーが論じあわれたラウンド・テーブル

 オープニング・セッションに続いては、4つのラウンド・テーブル毎に、食料主権、生物多様性、技術、公共政策が論じられた。それでは、どのようなことが論じられたのか。順次見ていこう。

Maria-emilia-pacheco.jpg  ラウンド・テーブル1は、「食料と栄養の安全保障に向けた道」と題して、エクアドルの公共政策コミュニティ委員会のフェルナンド・ロセロ氏の司会進行で、 ブラジル全国食料安全会議のマリア・エミリア・パシェコ議長、コロンビアのラテンアメリカ・カリブ海アグロエコロジー運動のハヴィエル・リヴェラ氏、ラテンアメリカ・アグロエコロジー学会、カリフォルニア大学バークレー校のクララ・ニコルス教授、そして、ニカラグアのビア・カペシーナのラテンアメリカアグロエコロジ―校のヨルリス・ルナ氏が参加した。

 ラウンド・テーブル2は「アグロエコロジーと生物 多様性、水、土地、遺伝資源と領域」と題して、ブラジルの農業開発省のカロライナ・リッツィ・スター氏の司会進行で、メキシコ農村多面的開発サービスの ウィベルト・オルドニェス代表、コロンビアのビア・カンペシーナのヌリ・マルチネス氏、ボリビアのアグロエコロジー生産全国委員会のための技術委員会のコーディネーターのデル・フィン・クエンタス氏、チリの教育・技術センターのカルロス・ヴェネガス氏が参加した。

Eric-Holt-Giménez.jpg  ラウンド・テーブル3は、「アグロエコロジーの社会的イノベーションとテクノロジー」と題して、フード・ファーストのエリック・ホルト・ヒメネス氏の司会進行の下、ビア・カンペシーナ・アルゼンチンのMOCASEのマルガリータ・ゴメス氏、グアテマラのラテンアメリカ・カリブ海アグロエコロジー運動のアントニオ・ゴンサレス氏、キューバ農業省のホルヘ・ルイス・ポゾ・メネンデス氏、ピーター・ロゼット博士が参加した。

 ラウンド・テーブル4は「アグロエコロジーを推進するための公共政策」と題して、ブラジルの家族農業とアグロエコロジー(AS-PTA)のパウロ・パルテン セン氏の司会進行で、アルゼンチンのラテンアメリカ・カリブ海アグロエコロジー運動のアリシア・アレム、キューバの全国小規模農民協会(ANAP)のレオナルド・チリノ氏、ブラジルの農業開発省のカッシオ・トロヴァット氏、ニカラグアの農業研究部のニカラグア農業技術研究所のエルベネス・デ・ヘスス・ヴェ ガ・コリア氏、メキシコのピーター・ロゼット博士、そして、ペルーのラ・モリナ全国農科大学のロベルト・ウガス氏が参加した(5)

問題を認識する~アグロエコロジーの大切さを認めよう

資本主義によってアグロエコロジーが放棄されGMOが使われているのが問題

 ラウンド・テーブル2では、ラ米とカリブ海地域の全諸国が直面している社会経済問題とは、畢竟、資本主義の産物であることが論じられた。その結果、農民たちは持続可能なアグロエコロジー的な生産システムの放棄を余儀なくされ、食の安全保障や栄養面からみて有益とはいえないシステムによって増産することを選択させられているのである。

 となれば、農薬やGMOの使用を徐々に削減していく努力がなされなければならない。これはアグロエコロジー的な実践をさらに進めることで達成できる。そして、世界から飢餓を一掃するという共通目標を達成するには、化学資材を用いて増産するよりも、健全な農業、栄養分を多く含んだ食べ物の方が有益である事実への人々の認識を高めることが必要とされた。

 これとほぼ重なるが、ラウンド・テーブル1でも、より良き暮らしの質や食料への基本的な人権を達成するには、アグロエコロジーが唯一の方法であることを鑑み、ホーリィスティックに物事をみるアグロエコロジーの原則を生活様式として取り入れるべきだとされた(5)

先住民や農村コミュニティの土地強奪や文化侵略から伝統技術を守ることが必要

  一方、日本とはまったく異なる状況に関しても論じられている。例えば、ラウンド・テーブル2では、文化侵略から先住民コミュニティのテリトリーを保護するために戦うことが必要だと指摘された。文化侵略は先住民たちの生産システムが変わることにつながる。これを防ぐためには、アグロエコロジーや伝統的な農業技術を強化・支援する公共政策を推進することが必要だと論じられた。ラウンド・テーブル3でも、アグロエコロジーが継承されていくためには、先住民や農村コミュニティのテリトリーで進む土地強奪を減らし、彼らがこうした土地を利用できるようにこうした土地を保護する政策が必要だとされた(5)

科学との連携による伝統技術の再評価や知識の充実が大切
 また先住民が多いラテンアメリカでは「伝統農法」がキーワードとなっている。ラウンド・テーブル1では、伝統的なアグロエコロジー技術を採択するとともに、あわせて新技術を組み合わせることが生産増につながることから、それが政府が行うべき鍵となるタスクとされた(5)。先住民や百姓たちの知識が伝統的な農業生態系を維持し、それは何世紀も生き残ってきた。それが、アグロエコロジー建設の戦略的 な出発点なのだとクララ・ニコルズ教授が言及した(6)。ラウンド・テーブル2でも、知識、開発、持続性を模索し、科学的なセクターからの支援によって、そのプロセスを充実し、豊かにし、絶えず変化に適応することが必要とされた。ラウンド・テーブル3でも、先住民たちの古代のアグロエコロジーの知識を回復し、大学との協力によって、この知識体系を強化し、アグエコロジーで大きな利益が得られるようにすることが大切であるとされた(5)

 チャッペル博士は、科学者であると同時にNGOのスタッフ・メンバーでもある。そこで、チャッペル博士は「知の対話」の役割を論じあった。確 かに「知」は 学術研究から生まれる。けれども、同時に、農民たちの経験から生じる伝統知も同じく尊重されなければならない。科学者は、アカデミックと社会運動との間に橋を架けるというニーズに対応しなければならない。アグロエコロジーを伸ばすには、研究者も社会運動と別個にはありえないのである(2)

 グアテマラのラテンアメリカ・カリブ海・アグロエコロジー運動のアントニオ・ゴンザレス代表は、アグロエコロジーは還元主義的でも決定論的なものでもなく、農業の多様性を考慮した創造的な科学として発展しなければならないと指 摘した。アグロエコロジ―は、実際には、小規模農民や先住民のコミュニティによって、「現場」で創られている。米国のNGO、 Food Firstのエリック・ホルト-ヒメネス氏は、非産業型の農業が、文化的で環境に対する祖先たちの高水準の技術に基づいていた歴史を語った。ヒメネス氏の 見解によれば、千年以上も過去にまでさかのぼる「知の銀行」を「知の対話」に基づく方法論的なアプローチを通じて、科学者たちやっと評価し、理解し始めたのは、ごく最近になってからなのである(6)

アグロエコロジーは技術的なイノベーションではなく社会制度の改革だ

Peter-Rosset.jpg  チャペル博士が参加したラウンド・テーブル3では、パネリストであるピーター・ロゼット博士が、「革新」という言葉が何を意味するのかを論じていた。ロゼット博士は、とかく、「革新」というと機械や技術にだけ目がいきがちで、政策や社会的な革新を見落しがちになると指摘する。そして、現実的により重要なのは、技術的な革新よりも社会的な革新なのだ。例えば、ロゼット博士は「地元学校プログラム制度」によって地元住民たち自身が立ちあげた「組織」を指摘し、こうした「革新」がアグロエコロジーをサポートしているが、外からの目ではとかく見過ごされることが多いと指摘する。「カンペシーノ・ア・カンペシーノ(百姓から百姓へ)」のネットワークや農村学校、運動のたちあげや関連組織が連携するための新たな方法等、すべてが重要な革新である事実を見落してはならないと指摘する(3)

 また、組織づくりにあっても、外部からの「眼」は、新たな機関やネットワーク、アイデアに関心が向きがちで、時には外からそれを強要したりもする。それは、コミュニティそのものによって築かれる政治的組織に基づいていなかったり、コミュニティ組織そのものを認めようとはしないことすらある。政府や公的機関によるアグロエコロジー研究は、農民自身による革新が存在することを否定し、ときにはアグロエコロジーのベースにある有効性すらも疑問視することがあるとの危険性をロゼット博士は指摘したのだった(3)

カンペシーノ運動によって社会は変わる

 こうした線に沿ったいくつかの成功した経験は、研究所、トレーニング、普及サービスと生産者組織間に統合化された アクションの豊かな機会をもたらす。地域会議では「カンペシーノ・ア・カンペシーノ」運動が何度も口にされた。例えば、ロゼット博士によれば、ある農家がアグロエコロジ―へと農法を変えたとしても、その農家がより大きな社会運動の一部でなければ、ただ一軒の家族が変わるだけで終わる。けれども、これとは対照的に、その農家が「カンペシーノ・ア・カンペシーノ」運動のような社会運動の一部であれば、ある農家の成功を他の農家が模倣して、社会的な変化を成し遂げることができるのである(7)
 「カンペシーノ・ア・カンペシーノ」運動が成功しているのは、アグロエコロジーの知識が集団的として産み出され、かつ、移転されていることにある。ホルト-ヒメネス氏の見解では、カンペシーナ運動はイノベーションと連帯という2本柱の上に築きあげられ、食料の生産と環境の保護という二つの成果を生み出している。

 こうしたことから、アグロエコロジーの基礎を伝統的な祖先の知識やローカルな知識、文化的なアイデンティティにおきながらも、研究と学びのプロセスをつなげ、アグロエコロジーの学際的なコアを創造・強化することで、社会的な革新やテクノロジーの領土の力が発揮できると述べる(7)

アグロエコロジ―で気候変動に対応する

 地域会議の参加者たちは緑の革命型の農業による環境への非常に有害な影響を認めた。同時に、アグロエコロジ―は自然循環に基づき、生産に必要な資源も再生可能資源であることから、環境保全に大きく寄与することも強調した。さらに、ラテンアメリカ・アグロエコロジー学会の会長である、カリフォルニア大学バークレー校のクララ・ニコルス教授は、気候変動の影響を受けても、慣行農業比べて、アグロエコロジーの方がレジリアンスがあることを示す証拠をプレゼンした。このことから、気候変動に直面する中、食料主権を確実にする政策の一貫として、アグロエコロジ―を支援し、小規模なアグロエコロジーの生産者を増やすため、モノカルチャー、化学農薬の使用、土地集中を規制するのに必要な制度的な条件も呼びかけた(6)
 
アグロエコロジーは科学である〜重要なアグロエコロジ―学会

  アグロエコロジーでの生産をより持続的・効率的にするためには、農村コミュニティと科学的セクターとの対話を進め、エコロジー的な技術をわかちあい比較できるフォーラムを作り出すことが必要である。ラウンド・テーブル1では、絶えず技術を改善していくためには、ラテンアメリカ・アグロエコロジー学会の活発な関与が大切だとされた(5)。 そして、 この地域会議を組織するにあたっては、FAO、ブラジル土地開発省、ラテンアメリカ・カリブ海アグロエコロジー運動、ラテンアメリカ・カリブ海人民食料主 権同盟、メルコスール家族農業委員会等の中核組織をコーディネートするうえで、ラテンアメリカ・アグロエコロジー学会が果たした役割の大切さが繰り返し強調された(2,3)。アグロエコロジー学会とは、地域の研究者やトレーナーたちが、アグロエコジーに関する科学的な知識をわかちあい、分析や議論を行うために設立 された団体である。それはネットワーク組織としても働き、それ以外のアグロエコロジーを支援する機関や学術団体とも交流している。学会の戦略的な研究話題 には、GMO作物とバイオ燃料の環境へのインパクト、家族農業に対するグローバリゼーションの影響、産業型農業モデルのオルタナティブの理論と実践の開発 等で、専門トレーニング・コースや博士課程を支えるだけでなく、2年に一度地域会議も開いている。また、地域農業に影響を及ぼす戦略的な課題をたえずウォッチしているワーキンググループもある(6)。学会の代表は前述したクララ・ニコルス教授だが(2)、学会のメンバーも、科学者とカンペシーノとが協働するには、ただ学術的に協働するだけではなく、先住民や農民たちの知識を尊重して、活発に支えていく必要性を再度強調した(4)。ラウンド・テーブル2でも、ビア・カンペシーナ・コロンビアのヌリ・マルティネス代表は、ラテンアメリカ農村組織コーディネーションを代表して、草の根運動だけでは大きな課題を克服できないとして、都市や政府、学術研究者とのコーディネーションの重要性を強調した(7)

アグロエコロジー校によって若者たちを動機づけている

  伝統技術を復活、推進するため、あらゆるレベルでその教育を促進することが重要である。ラウンド・テーブル1では「農民から農民へ」の方法論による非公式 教育で経験を共有するためのスペースを創設することが必要であるとされた。ラウンド・テーブル4でも様々な公共政策の範囲内で、アグロエコロジーに関する 教育やトレーニングがなされ、農村との技術的知識の交換や交流が必要であるとされた。

 また、ラウンド・テーブル1では、農村の若者たちがアグロエコロジーを実践し続けるように彼らをエンパワーメントすることが大切とされた。ラウンド・テーブル3でも、若者たちをインスパイアーすることが大切とされた。

  また、農村や先住民コミュニティ内で若者たちに対して参加型で適切なスペースを生み出すことが必要である。それによって若者たちのアイデンティティは強化 され、エンパワーされる一助となる。それによって農業活動が継承され、アグロエコロジー的な知識を絶えず増やし、それを将来世代へと渡すことができる動機 を与えるとされた。

 なお、若者たちのエンパワーに関しては、アルゼンチンのサンティアゴ・デル・ エステロにあるビア・カンペシーナ校の事例がプレゼンされた。同校は国も認め、民主政権化によって公共政策から、その予算の一部も得られている。同校はアグロエコロジーの実践に若者たちが積極的に参加することを奨励し、アグロエコロジーの地域をトレーニングしている。

 グアテマラで実施されているラテンアメリカ・カリブ海アグロエコロジー運動も、先祖のローカルな知識に基づき、参加者たちは食料主権を達成するために、自分たちの働く区域から始まりこの国の脅威や機会が教えられている(5)

アグロエコロジーを支援するための公共政策のあり方

国がアグロエコロジーを支援したキューバの取り組みが参考となる

 ラウンド・テーブル3と4では、農村のみならず、都市や都市郊外においても土地プログラムを通じてアグロエコロジーを強化したキューバの取り組み事例が紹介された。また、ラウンド・テーブル3では、キューバが大きな成果をあげたキーポイントが種子保全であるとされ、ラウンド・テーブル4では、伝統技術の回復を重視し、これに研究、トレーニング、マーケティングとアグロエコロジー市場の創設を含めた組織的な対応がなされたことがアグロエコロジーのモデルとなるとされた。

 また、ラウンド・テーブル3では、キューバの経験は、グローバルなモデル事例となっており、こうしたポジティブな経験からして、アグロエコロジーを促進するには、各地域での社会経済的ニーズに応じた政治的意志や組織的なフレームワークが必要なことが明らかであるとされた(5)

本物の公共政策を展開したブラジルの取り組みが参考になる

 ラウンド・テーブル4では、社会運動と様々な政府機関とが連携し、公共政策を大きく展開している事例として、アグロエコロジーの原則を適用することで持続可能な農村発展を目指すブラジルの「全国有機農業アグロエコロジー計画」がプレゼンされた。

 ラウンド・テーブル1では、家族農家やアグロエコロジー農家の生産物の一部を政府が購入するブラジルの大規模な「食料購入プログラム」の事例も紹介された(5)

チリは地元学で世界遺産を

 ラウンド・テーブル2では、チリのチロエ群島がユネスコの世界遺産となった以降、コミュニティのポテンシャルや能力が認められ、アグロエコロジー生産者への支援が高まった例があげられた(5)。しかも、2012年にはFAOによってチロエは「世界農業遺産」にもなる。チロエ群島は、40以上の島々からなっているが、厳しい環境の中でも数千もの小規模自作農家の暮らしを支えて来た。
 チロエ教育技術センターのカルロス・ヴェネガスは、「地元学」という概念を核として、小規模小自作農組織、地元コミュニティ、政府、大学、中小企業、消費者がかかわっていく事例をプレゼンした。その活動は、伝統農業の改善、旱魃耐性のある地元のジャガイモ品種の開発が中心だが、特殊性が強い地域のアイデンティティのうえに、幅広いグループのネットワークが築きあげられている。開発プロジェクトを推進するために地元住民を動員するうえでも役立つ。農民が管理し、農民が稼ぐことができる群島でのツーリズムも開発されている。チロエでの経験は、農村開発は、地元組織や地元の革新力を強化するように、まず、ローカルな文化的アイデンティティの上に築きあげられなければならないことが明らかである(6)

ボリビアのユニークな事例

 ボリビアでのテラスやマルチを利用した生産、種子生産の事例も紹介された。ボリビアではアグロエコロジーを推進するため様々な公共政策や法律を制定 しており、例えば、全国土壌利用計画に基づき、アグロエコロジー的なアプローチでの土地法を制定し、同法によって女性生産者の農地利用も可能となっている。ボリビアの女性たちも以前には農薬の使用を削減し、アグロエコロジーのトレーニングを受けたり、バイオ投入資材を手にする機会がなかったのである(5)

アグロエコロジーのためバラバラの政策を横串で突き刺す政策が必要

  要するに、アグロエコロジーを支援するプログラムを創出し、ローカル、全国、地域とあらゆるレベルにおいてアグロエコロジー運動をサポートしていくことが 必要である。そして、食料の安全保障や栄養面での安全保障という共通目標に向け、健全に食べられることのメリットを人々に伝えていくことも必要である。それが、ラウンド・テーブル1では論じられた。

 ラウンド・テーブル4でも、アグロエコロジーに関する様々な公共政策を効果的に管理する法律を創出することが必要であるとされた。

 それ以外の法律にもアグロエコロジー的な原則は含まれ、土壌、種子、気候変動、環境問題等はほとんどどの国であっても間接的には対処されている。しかし、 食の安全保障や栄養的な安全保障において真の主権の確立を促すべく、ポジティブな経験から学び、アグロエコロジーの推進と直接関連する法律を制定すべきである。同時に、生産能力を高め、社会的、経済的、エコロジー的な脆弱さを減らすべきである。

 そし て、ニカラグアの法率第765号「アグロエコロジー有機生産推進法(Law for the Promotion of Agroecological or Organic Production)」やニカラグアの法律第693号「食料主権と栄養安全保障法(Law on Sovereignty and Food and Nutritional Security)」が紹介された(5)

アグロエコロジーでは全市民が関わり公共政策を論じることが重要

 ラウンド・テーブル1では、アグロエコロジーを推進するための政策を策定するにあたっては、鍵となる主体との対話のスペースを作り出すことが必要であるとされた。

  ラウンド・テーブル2でも、農民、市民社会組織、アカデミー、ローカル政府と全国政府とのパートナーシップ関係を創造し、農村コミュニティ、労働者、 FAO、NGO、鍵となる政府とが論じあうスペースを創造することによって、古い政策策定モデルを変えていくことが必要だとされた。同時に、協働でのパースペクティブを持った意思決定によって、誰もが公共政策に対して責任を持つことが大切であるとされた。

 ラウンド・テーブル4でも、アグロエコロジーに対して、市民社会と共に多様なすべてのセクターが関わる包括的な公共政策を実施することが重要で、それを、政府が立ち上げ、実施、管理、モニターリングすべきであるとされた(5,6)
 また、アルゼンチンのラテンアメリカ・カリブ海アグロエコロジー運動のアリシア・アレム氏は、アグロエコロジーのための公的政策はその主体として社会運動を含まなければならないと主張した(6)。これは、生産者や消費者にとって公的な協議(public consultation)のためのスペースがあることを意味する。そして、それがあれば、アグロエコロジーのニーズやその発展をサポートする方法があることを知ることもできるとされた(5)

食料安全保障とアグロエコロジーのためには政府の支援が必要

  ラウンド・テーブル1でも、アグロエコロジーを確立するためには、社会的動員と参加が必要条件であるとされた。しかし、ラウンド・テーブル3では、食料安 全保障を推進するための公共政策を開発するためには、活発な社会運動の参加だけでは不十分であり、政府や人々からの広範囲なサポートも必要なことが経験から明らかであり、アグロエコロジーを広める上でFAOやCELACのサポートの必要性が改めて重視された(5)

市場にアクセスし経済的な利益とモチベーションを得ることが大切

 ラウンド・テーブル1では、農民、農村住民、先住民たちが、アグロエコロジー的な原則を選択するためには、アグロエコロジー生産にコミットする市場にアクセスできるようにし、そこで、収入を得て現在の生活状況が改善できることが必要であるとされた。

  ラウンド・テーブル2でも、農村労働者や先住民のコミュニティに対してもサポートが提供され、ローカル市場や全国市場へのアクセスを強化し、各自の利益で はなく、コミュニティの展望から経済発展問題に対処することが必要であるとされた。そして、アグロエコロジー的な実践を続けるための動機を与え、かつ、他 の人たちもこの運動に参加するのを奨励するためには、経済的収益を産み出すことで、生活状況を改善するのを援助すべきであるとされた。

  ラウンド・テーブル4でも、アグロエコロジーの生産者たちが、ローカル市場や全国市場で競争力を持ち、その収益を通してより良い暮らしを達成し、そうした 農作物を生産するための動機を持てるような経済システムや公共政策や法制度を確立することが避けられないと述べられた。

 そして、アグロエコロジーの原則やテクニックだけでなく、仲介者を排除する目的で、キューバの事例として、市場に直接アクセスでき、より競争力を持て生産物で良い価格が得られるよう農産物のマーケティング情報が必要だとしている。

  また、本物の公共政策を確立するための要素として、ブラジルのアグロエコロジーの推進に重点をおきローカルに運営される安全保障制度 (guaranteed security)、「参加型保障制度(PGS=Participatory Guarantee Systems)」の強化があげられた。この制度によって、アグロエコロジーを実践する「認証生産者(certify producers)」は、地元市場や国内市場のみならず国際市場も含めて幅広く市場にアクセスする機会を手にできるのである(5)

ローカルな在来種を公共政策を通じて守るべき

  また、ラウンド・テーブル4では、農村と先住民コミュニティによって、ローカルで、伝統的で、在来種の交換と保護を促進するために、公共政策は創造されな ければならないとされた。そして、会議に平行したイベントでは、エマ・シリプランディ女史の著作、「女性とアグロエコロジー(Women and Agroecology)」が披露された(2,5)、また、マルガリータ・アルベス女史による農村でのジェンダー教育(5)、ベト・ノバエス女史による短いドキュメンタリー映画「Seeds」が上映された(2,5)。4人のブラジルの女性たちがアグロエコロジー的なシステムに転換することで、自治が発展し、挑戦や喜びのイノベーションの物語をわかちあったのであった(2)

アグロエコロジ―が到達できる未来は明るい

 チャッペル博士は、社会運動のメンバー、農民、科学者たちから、アグロエコロジーの研究、実施、可能性について、さらに耳にした。コロンビア、ニカラグア、エクアドル、キューバ、ボリビア、チリ、アルゼンチン、グアテマラとメキシコからの先住民やカンペシーノたちは、それぞれが実践しているアグロエコロジーの組織やイノベーションについて語り、アグロエコロジーによって到達できるポジティブな物語がわかちあわれた(3)

 スペイン語のカンペシーノ(campesino)、英語のペザント(Peasant)は「大地の人」が語源となっている。それは、ラテンアメリカの運動の多くがこの言葉から呼び起こされるのは、勤勉なる土地の守り手というこのイメージである。英語からイメージされるネガティブな意味合いがあるわけではない(3)

アグリビジネスにとっては怖いから価値なきレッテルを張られている

 確かに、アグロエコロジーを拡大することは、畑のうえでの働き方を学ぶのと同じように、いかにして協働するのかを学ぶことである。おそらく、ここにアグロエコロジーのジレンマがある。

 パトラス・アナニヤ・デ・ソウザ大臣のニューウェーブの土地改革ビジョンのように、いま問われているのは、望ましい結果にたどりつくための社会的・政治的な闘いなのである。この大臣のプランも、ロゼット博士が提唱する「社会的革新」も権力関係を変えることを意味している。

Rob-Wallace.jpg ブラジルにおいては、土地所有改革は、大きな格差問題に取り組むことを意味する。そして、富裕階層は貧しい人々がエンパワーされることを目にしたくはない。例えば、農業と貿易政策研究所で、最近、ロバート・ウォレス博士はこんなプレゼンを行っている。

「大規模なアグリビジネスは自分で家畜を飼育することにリスクを覚えている。そして、憲法上の権利を行使する基本的な権力さえ手にした契約農民を明らかに怖れている」(3)

 正義なきアグロエコロジー、エンパワーなきアグロエコロジー、そして、力関係を変えないアグロエコロジーは、アグロエコロジーではない。これまでアグリビジネスは、百姓たちにリスクを押し付け自分たちで利潤をあげてきた。けれども、女性農民、先住民、百姓たちをエンパワーすることは、もはやこうした酷い処遇に幕を引くことを意味する。これを達成することは、巨大な多国籍企業を除いて、誰にとっても、農民にとっても、消費者にとっても、そして、環境にとっても良いことなのだ。そして、これが、世界中の多くの人々が「非科学的」であり、かつ、「不必要でさえある」とのレッテルを張ることを望んでいるアグロエコロジーが意味することなのである(3)
(2018年3月14日投稿)
(2018年3月19日改正)

【地名】
チロエ(Chiloé)
サンティアゴ・デル・エステロ(Santiago del Estero)
【用語】
ニエレミ宣言(Nyeleni Declaration)
ブラジル全国食料安全会議(CONSEA=Conselho Nacional de Segurança Alimentar e Nutricional)
ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC= Comunidad de Estados Latinoamericanos y Caribeños)
メルコスール家族農業委員会(REAF=Reunión Especializada sobre Agricultura Familiar en el MERCOSUR)
ラテンアメリカ・カリブ海人民食料主権同盟(Alianza por la Soberanía Alimentaria de los Pueblos de América Latina y el Caribe)
ラテンアメリカ・カリブ海アグロエコロジー運動(MAELA=Movimiento Agroecológico de América Latina y el Caribe)
ラテンアメリカ・アグロエコロジー学会(SOCLA=Sociedad Científica Latinoamericana de Agroecología)
ラテンアメリカ農村組織コーディネーション(CLOC=La Coordinadora Latinoamericana de Organizaciones del Campo)
公共政策コミュニティ委員会(community board for public policies)
ブラジル全国食料安全会議(CONSEA=Conselho Nacional de Segurança Alimentar e Nutricional)
ラテンアメリカ・アグロエコロジー校(IALA=Instituto Latinoamericano de Agroecologia)
ブラジル農業開発省(Ministério do Desenvolvimento Agrário)
メキシコ農村多面的開発サービス(CRESES= Agency for Rural Multidisciplinary Development Service)
ボリビアのアグロエコロジー生産全国委員会のための技術委員会(CNAPE= Consejo Nacional de Producción Ecológica)
世界農業遺産(GIAHS=Globally Important Agricultural Heritage System)
チリ教育・技術センター(CET= Centro de Educación y Tecnología)
ラ・モリナ全国農科大学(Universidad Nacional Agraria La Molina)
有機生産とアグロエコロジーのための全国計画(PlanApo=The National Plan for Organic Production and Agroecology)
【人名】
ジャヒ・チャッペル(Jahi Chappell)博士の画像はこのサイトより
ラウンド・テーブル1
フェルナンド・ロセロ(Fernando Rosero)氏
マリア・エミリア・パシェコ(Maria Emilia Pacheco)長の画像はこのサイトより
ハヴィエル・リヴェラ(Javier Rivera)氏
クララ・ニコルス(Clara Nichols)教授
ヨルリス・ルナ(Yorlis Luna)氏
ラウンド・テーブル2
カロライナ・リッツィ・スター(Carolina Rizzi Starr)氏
ウィベルト・オルドニェス(Wilberto Ordoñez)代表
ヌリ・マルチネス(Nuri Martinez)氏
デル・フィン・クエンタス(Delfín Cuentas)氏
カルロス・ヴェネガス(Carlos Venegas)氏
ラウンド・テーブル3
エリック・ホルト・ヒメネス(Eric Holt Giménez)氏の画像はこのサイトより
マルガリータ・ゴメス(Margarita Gómez)氏
アントニオ・ゴンサレス(Antonio Gonzalez)氏
ホルヘ・ルイス・ポゾ・メネンデス(Jorge Luis Pozo Menéndez)氏
ピーター・ロゼット(Peter Rosset)博士の画像はこのサイトより
ラウンド・テーブル4
パウロ・パルテンセン(Paulo Pertensen)氏
アリシア・アレム(Alicia Alem)氏
レオナルド・チリノ(Leonardo Chirino)氏
カッシオ・トロヴァット(Cassio Trovatto)氏
エルベネス・デ・ヘスス・ヴェガ・コリア(Elbenes de Jesús Vega Corea)氏
ロベルト・ウガス(Roberto Ugas)氏
その他
エマ・シリプランディ(Emma Siliprandi)女史
マルガリータ・アルベス(Margarita Alves)女史
ベト・ノバエス(Beto Novaes)女史
パトラス・アナニヤ・デ・ソウザ(Patrus Ananias de Souza)大臣の画像はこのサイトより
ロバート・ウォレス博士(Rob Wallace) の画像はこのサイトより

【引用文献】
(1) Dr. M. Jahi Chappell Senior Staff Scientist, The Institute for Agriculture and Trade Policy.
(2) M. Jahi Chappell, Reporting from Brazil: lessons on agroecology, The Institute for Agriculture and Trade Policy, June 25th, 2015.
(3) M. Jahi Chappell, Day two at the Latin America & Caribbean Regional Agroecology Seminar: innovation and power in agroecology, The Institute for Agriculture and Trade Policy, June 25th, 2015.
(4) M. Jahi Chappell,Final Day at the FAO Regional Agroecology Seminar in Brazil – The Struggle Ahead, The Institute for Agriculture and Trade Policy, June 29th, 2015.
(5) Final recommendations of the regional seminar on agroecology in Latin America and the Caribbean, 2015.
(6) Paulo Petersen and Flavia Londres, The Regional Seminar on Agroecology in Latin America and the Caribbean A summary of outcomes, ILEIA,2016.


posted by José Mujica at 00:52| Comment(0) | アグロエコロジー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする