2018年03月15日

ラテンアメリカのアグロエコロジー会議から見えしもの

アグロエコロジーが論じあわれたラウンド・テーブル

 オープニング・セッションに続いては、4つのラウンド・テーブル毎に、食料主権、生物多様性、技術、公共政策が論じられた。それでは、どのようなことが論じられたのか。順次見ていこう。

Maria-emilia-pacheco.jpg ラウンド・テーブル1は、「食料と栄養の安全保障に向けた道」と題して、エクアドルの公共政策コミュニティ委員会のフェルナンド・ロセロ氏の司会進行で、ブラジル全国食料安全会議のマリア・エミリア・パシェコ議長、コロンビアのラテンアメリカ・カリブ海アグロエコロジー運動のハヴィエル・リヴェラ氏、ラテンアメリカ・アグロエコロジー学会、カリフォルニア大学バークレー校のクララ・ニコルス教授、そして、ニカラグアのビア・カペシーナのラテンアメリカアグロエコロジ―校のヨルリス・ルナ氏が参加した。

 ラウンド・テーブル2は「アグロエコロジーと生物多様性、水、土地、遺伝資源と領域」と題して、ブラジルの農業開発省のカロライナ・リッツィ・スター氏の司会進行で、メキシコ農村多面的開発サービスのウィベルト・オルドニェス代表、コロンビアのビア・カンペシーナのヌリ・マルチネス氏、ボリビアのアグロエコロジー生産全国委員会のための技術委員会のコーディネーターのデル・フィン・クエンタス氏、チリの教育・技術センターのカルロス・ヴェネガス氏が参加した。

Eric-Holt-Giménez.jpg ラウンド・テーブル3は、「アグロエコロジーの社会的イノベーションとテクノロジー」と題して、フード・ファーストのエリック・ホルト・ヒメネス氏の司会進行の下、ビア・カンペシーナ・アルゼンチンのMOCASEのマルガリータ・ゴメス氏、グアテマラのラテンアメリカ・カリブ海アグロエコロジー運動のアントニオ・ゴンサレス氏、キューバ農業省のホルヘ・ルイス・ポゾ・メネンデス氏、ピーター・ロゼット博士が参加した。

 Peter-Rosset.jpgラウンド・テーブル4は「アグロエコロジーを推進するための公共政策」と題して、ブラジルの家族農業とアグロエコロジー(AS-PTA)のパウロ・パルテンセン氏の司会進行で、アルゼンチンのラテンアメリカ・カリブ海アグロエコロジー運動のアリシア・アレム、キューバの全国小規模農民協会(ANAP)のレオナルド・チリノ氏、ブラジルの農業開発省のカッシオ・トロヴァット氏、ニカラグアの農業研究部のニカラグア農業技術研究所のエルベネス・デ・ヘスス・ヴェガ・コリア氏、メキシコのピーター・ロゼット博士、そして、ペルーのラ・モリナ全国農科大学のロベルト・ウガス氏が参加した。

問題を認識する~アグロエコロジーの大切さを認めよう

資本主義によってアグロエコロジーが放棄されGMOが使われているのが問題

 ラウンド・テーブル2では、ラ米とカリブ海地域の全諸国が直面している社会経済問題とは、畢竟、資本主義の産物であることが論じられた。その結果、農民たちは持続可能なアグロエコロジー的な生産システムの放棄を余儀なくされ、食の安全保障や栄養面からみて有益とはいえないシステムによって増産することを選択させられているのである。

 となれば、農薬やGMOの使用を徐々に削減していく努力がなされなければならない。これはアグロエコロジー的な実践をさらに進めることで達成できる。そして、世界から飢餓を一掃するという共通目標を達成するには、化学資材を用いて増産するよりも、健全な農業、栄養分を多く含んだ食べ物の方が有益である事実への人々の認識を高めることが必要とされた。

 これとほぼ重なるが、ラウンド・テーブル1でも、より良き暮らしの質や食料への基本的な人権を達成するには、アグロエコロジーが唯一の方法であることを鑑み、ホーリィスティックに物事をみるアグロエコロジーの原則を生活様式として取り入れるべきだとされた。

先住民や農村コミュニティの土地強奪や文化侵略から伝統技術を守ることが必要

 一方、日本とはまったく異なる状況に関しても論じられている。例えば、ラウンド・テーブル2では、文化侵略から先住民コミュニティのテリトリーを保護するために戦うことが必要だと指摘された。文化侵略は先住民たちの生産システムが変わることにつながる。これを防ぐためには、アグロエコロジーや伝統的な農業技術を強化・支援する公共政策を推進することが必要だと論じられた。ラウンド・テーブル3でも、アグロエコロジーが継承されていくためには、先住民や農村コミュニティのテリトリーで進む土地強奪を減らし、彼らがこうした土地を利用できるようにこうした土地を保護する政策が必要だとされた。

科学との連携による伝統技術の再評価や知識の充実が大切

 ラ米では、伝統農法がキーワードとなっている。ラウンド・テーブル1では、伝統的なアグロエコロジー技術を採択するとともに、あわせて新技術を組み合わせることが生産増につながることから、それが政府が行うべき鍵となるタスクとされた。ラウンド・テーブル3でも、先住民たちの古代のアグロエコロジーの知識を回復し、大学との協力によって、この知識体系を強化し、アグエコロジーで大きな利益が得られるようにすることが大切であるとされた。

 ラウンド・テーブル2でも、知識、開発、持続性を模索し、科学的なセクターからの支援によって、そのプロセスを充実し、豊かにし、絶えず変化に適応することが必要とされた。

 アグロエコロジーでの生産をより持続的・効率的にするためには、農村コミュニティと科学的セクターとの対話を進め、エコロジー的な技術をわかちあい比較できるフォーラムを作り出すことが必要である。ラウンド・テーブル1では、絶えず技術を改善していくためには、ラテンアメリカアグロエコロジー科学学会の活発な関与が大切だとされた。

アグロエコロジー校によって若者たちを動機づけている

 伝統技術を復活、推進するため、あらゆるレベルでその教育を促進することが重要である。ラウンド・テーブル1では「農民から農民へ」の方法論による非公式教育で経験を共有するためのスペースを創設することが必要であるとされた。ラウンド・テーブル4でも様々な公共政策の範囲内で、アグロエコロジーに関する教育やトレーニングがなされ、農村との技術的知識の交換や交流が必要であるとされた。

 また、ラウンド・テーブル1では、農村の若者たちがアグロエコロジーを実践し続けるように彼らをエンパワーメントすることが大切とされた。ラウンド・テーブル3でも、若者たちをインスパイアーすることが大切とされた。

 また、農村や先住民コミュニティ内で若者たちに対して参加型で適切なスペースを生み出すことが必要である。それによって若者たちのアイデンティティは強化され、エンパワーされる一助となる。それによって農業活動が継承され、アグロエコロジー的な知識を絶えず増やし、それを将来世代へと渡すことができる動機を与えるとされた。

 なお、若者たちのエンパワーに関しては、アルゼンチンのサンティアゴ・デル・エステロにあるビア・カンペシーナ校の事例がプレゼンされた。同校は国も認め、民主政権化によって公共政策から、その予算の一部も得られている。同校はアグロエコロジーの実践に若者たちが積極的に参加することを奨励し、アグロエコロジーの地域をトレーニングしている。

 グアテマラで実施されているラテンアメリカ・カリブ海アグロエコロジー運動も、先祖のローカルな知識に基づき、参加者たちは食料主権を達成するために、自分たちの働く区域から始まりこの国の脅威や機会が教えられている。

アグロエコロジーを支援するための公共政策のあり方

国がアグロエコロジーを支援したキューバの取り組みが参考となる

 ラウンド・テーブル3と4では、農村のみならず、都市や都市郊外においても土地プログラムを通じてアグロエコロジーを強化したキューバの取り組み事例が紹介された。また、ラウンド・テーブル3では、キューバが大きな成果をあげたキーポイントが種子保全であるとされ、ラウンド・テーブル4では、伝統技術の回復を重視し、これに研究、トレーニング、マーケティングとアグロエコロジー市場の創設を含めた組織的な対応がなされたことがアグロエコロジーのモデルとなるとされた。

 また、ラウンド・テーブル3では、キューバの経験は、グローバルなモデル事例となっており、こうしたポジティブな経験からして、アグロエコロジーを促進するには、各地域での社会経済的ニーズに応じた政治的意志や組織的なフレームワークが必要なことが明らかであるとされた。

本物の公共政策を展開したブラジルの取り組みが参考になる

 ラウンド・テーブル4では、社会運動と様々な政府機関とが連携し、公共政策を大きく展開している事例として、アグロエコロジーの原則を適用することで持続可能な農村発展を目指すブラジルの「全国有機農業アグロエコロジー計画」がプレゼンされた。

 ラウンド・テーブル1では、家族農家やアグロエコロジー農家の生産物の一部を政府が購入するブラジルの大規模な「食料購入プログラム」の事例も紹介された。

チリとボリビアのユニークな事例

 ラウンド・テーブル2では、チリのチロエがユネスコの世界遺産となった以降、コミュニティのポテンシャルや能力が認められ、アグロエコロジー生産者への支援が高まった例があげられた。

 また、ボリビアでのテラスやマルチを利用した生産、種子生産の事例も紹介された。ボリビアではアグロエコロジーを推進するため様々な公共政策や法律を制定しており、例えば、全国土壌利用計画に基づき、アグロエコロジー的なアプローチでの土地法を制定し、同法によって女性生産者の農地利用も可能となっている。

 ボリビアの女性たちも以前には農薬の使用を削減し、アグロエコロジーのトレーニングを受けたり、バイオ投入資材を手にする機会がなかったのである。

アグロエコロジーのためバラバラの政策を横串で突き刺す政策が必要

 要するに、アグロエコロジーを支援するプログラムを創出し、ローカル、全国、地域とあらゆるレベルにおいてアグロエコロジー運動をサポートしていくことが必要である。そして、食料の安全保障や栄養面での安全保障という共通目標に向け、健全に食べられることのメリットを人々に伝えていくことも必要である。それが、ラウンド・テーブル1では論じられた。

 ラウンド・テーブル4でも、アグロエコロジーに関する様々な公共政策を効果的に管理する法律を創出することが必要であるとされた。

 それ以外の法律にもアグロエコロジー的な原則は含まれ、土壌、種子、気候変動、環境問題等はほとんどどの国であっても間接的には対処されている。しかし、食の安全保障や栄養的な安全保障において真の主権の確立を促すべく、ポジティブな経験から学び、アグロエコロジーの推進と直接関連する法律を制定すべきである。同時に、生産能力を高め、社会的、経済的、エコロジー的な脆弱さを減らすべきである。

 そして、ニカラグアの法率第765号「アグロエコロジー有機生産推進法(Law for the Promotion of Agroecological or Organic Production)」やニカラグアの法律第693号「食料主権と栄養安全保障法(Law on Sovereignty and Food and Nutritional Security)」が紹介された。

アグロエコロジーでは全市民が関わり公共政策を論じることが重要

 ラウンド・テーブル1では、アグロエコロジーを推進するための政策を策定するにあたっては、鍵となる主体との対話のスペースを作り出すことが必要であるとされた。

 ラウンド・テーブル2でも、農民、市民社会組織、アカデミー、ローカル政府と全国政府とのパートナーシップ関係を創造し、農村コミュニティ、労働者、FAO、NGO、鍵となる政府とが論じあうスペースを創造することによって、古い政策策定モデルを変えていくことが必要だとされた。同時に、協働でのパースペクティブを持った意思決定によって、誰もが公共政策に対して責任を持つことが大切であるとされた。

 ラウンド・テーブル4でも、アグロエコロジーに対して、市民社会と共に多様なすべてのセクターが関わる包括的な公共政策を実施することが重要で、それを、政府が立ち上げ、実施、管理、モニターリングすべきであるとされた。

 これは、生産者や消費者にとって公的な協議(public consultation)のためのスペースがあることを意味する。そして、それがあれば、アグロエコロジーのニーズやその発展をサポートする方法があることを知ることもできるとされた。

食料安全保障とアグロエコロジーのためには政府の支援が必要

 ラウンド・テーブル1でも、アグロエコロジーを確立するためには、社会的動員と参加が必要条件であるとされた。しかし、ラウンド・テーブル3では、食料安全保障を推進するための公共政策を開発するためには、活発な社会運動の参加だけでは不十分であり、政府や人々からの広範囲なサポートも必要なことが経験から明らかであり、アグロエコロジーを広める上でFAOやCELACのサポートの必要性が改めて重視された。

市場にアクセスし経済的な利益とモチベーションを得ることが大切

 ラウンド・テーブル1では、農民、農村住民、先住民たちが、アグロエコロジー的な原則を選択するためには、アグロエコロジー生産にコミットする市場にアクセスできるようにし、そこで、収入を得て現在の生活状況が改善できることが必要であるとされた。

 ラウンド・テーブル2でも、農村労働者や先住民のコミュニティに対してもサポートが提供され、ローカル市場や全国市場へのアクセスを強化し、各自の利益ではなく、コミュニティの展望から経済発展問題に対処することが必要であるとされた。そして、アグロエコロジー的な実践を続けるための動機を与え、かつ、他の人たちもこの運動に参加するのを奨励するためには、経済的収益を産み出すことで、生活状況を改善するのを援助すべきであるとされた。

 ラウンド・テーブル4でも、アグロエコロジーの生産者たちが、ローカル市場や全国市場で競争力を持ち、その収益を通してより良い暮らしを達成し、そうした農作物を生産するための動機を持てるような経済システムや公共政策や法制度を確立することが避けられないと述べられた。

 そして、アグロエコロジーの原則やテクニックだけでなく、仲介者を排除する目的で、キューバの事例として、市場に直接アクセスでき、より競争力を持て生産物で良い価格が得られるよう農産物のマーケティング情報が必要だとしている。

 また、本物の公共政策を確立するための要素として、ブラジルのアグロエコロジーの推進に重点をおきローカルに運営される安全保障制度(guaranteed security)、「参加型保障制度(PGS=Participatory Guarantee Systems)」の強化があげられた。この制度によって、アグロエコロジーを実践する「認証生産者(certify producers)」は、地元市場や国内市場のみならず国際市場も含めて幅広く市場にアクセスする機会を手にできるのである(2)

ローカルな在来種を公共政策を通じて守るべき

 また、ラウンド・テーブル4では、農村と先住民コミュニティによって、ローカルで、伝統的で、在来種の交換と保護を促進するために、公共政策は創造されなければならないとされた。そして、会議に平行したイベントでは、エマ・シリプランディ女史の著作、「女性とアグロエコロジー(Women and Agroecology)」が披露された(1,2)、また、マルガリータ・アルベス女史による農村でのジェンダー教育(2)、ベト・ノバエス女史による短いドキュメンタリー映画「Seeds」が上映された(1,2)。4人のブラジルの女性たちがアグロエコロジー的なシステムに転換することで、自治が発展し、挑戦や喜びのイノベーションの物語をわかちあったのであった(1)

【人名】
ラウンド・テーブル1
フェルナンド・ロセロ(Fernando Rosero)氏
マリア・エミリア・パシェコ(Maria Emilia Pacheco)委員長の画像はこのサイトより
ハヴィエル・リヴェラ(Javier Rivera)氏
クララ・ニコルス(Clara Nichols)教授
ヨルリス・ルナ(Yorlis Luna)氏
ラウンド・テーブル2
カロライナ・リッツィ・スター(Carolina Rizzi Starr)氏
ウィベルト・オルドニェス(Wilberto Ordoñez)代表
ヌリ・マルチネス(Nuri Martinez)氏
デル・フィン・クエンタス(Delfín Cuentas)氏
カルロス・ヴェネガス(Carlos Venegas)氏
ラウンド・テーブル3
エリック・ホルト・ヒメネス(Eric Holt Giménez)氏の画像はこのサイトより
マルガリータ・ゴメス(Margarita Gómez)氏
アントニオ・ゴンサレス(Antonio Gonzalez)氏
ホルヘ・ルイス・ポゾ・メネンデス(Jorge Luis Pozo Menéndez)氏
ピーター・ロゼット(Peter Rosset)博士
ラウンド・テーブル4
パウロ・パルテンセン(Paulo Pertensen)氏
アリシア・アレム(Alicia Alem)氏
レオナルド・チリノ(Leonardo Chirino)氏
カッシオ・トロヴァット(Cassio Trovatto)氏
エルベネス・デ・ヘスス・ヴェガ・コリア(Elbenes de Jesús Vega Corea)氏
ロベルト・ウガス(Roberto Ugas)氏
その他
エマ・シリプランディ(Emma Siliprandi)女史
マルガリータ・アルベス(Margarita Alves)女史
ベト・ノバエス(Beto Novaes)女史
【用語】
公共政策コミュニティ委員会(community board for public policies)
ブラジル全国食料安全会議(CONSEA=Conselho Nacional de Segurança Alimentar e Nutricional)
ラテンアメリカ・カリブ海アグロエコロジー運動(MAELA=Movimiento Agroecológico de América Latina y el Caribe)
ラテンアメリカ・アグロエコロジー学会(SOCLA=Sociedad Científica Latinoamericana de Agroecología)
ラテンアメリカ・アグロエコロジー校(IALA=Instituto Latinoamericano de Agroecologia)
ブラジル農業開発省(Ministério do Desenvolvimento Agrário)
メキシコ農村多面的開発サービス(CRESES= Agency for Rural Multidisciplinary Development Service)
ボリビアのアグロエコロジー生産全国委員会のための技術委員会(CNAPE= Consejo Nacional de Producción Ecológica)
チリ教育・技術センター(CET= Centro de Educación y Tecnología)
ラ・モリナ全国農科大学(Universidad Nacional Agraria La Molina)
有機生産とアグロエコロジーのための全国計画(PlanApo=The National Plan for Organic Production and Agroecology)
【地名】
チロエ(Chiloé)
サンティアゴ・デル・エステロ(Santiago del Estero)
【文献】
(1) M. Jahi Chappell, Reporting from Brazil: lessons on agroecology , The Institute for Agriculture and Trade Policy, June 25th, 2015.
(2) Final recommendations of the regional seminar on agroecology in Latin America and the Caribbean, 2015.


posted by José Mujica at 01:00| Comment(0) | アグロエコロジー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする