2018年04月16日

遺伝子組換えと全農解体との深い関係

韓国の学校給食を狙っていたカーギル

 2010年12月、オバマ大統領と李明博(イ・ミョンバク,1941年〜)大統領との間で署名がなされ、2011年6月に米韓FTAの批准同意案が国会に提出される(1p88)。この米韓FTAで米国のカーギルが狙っていたのは韓国の学校給食であった(1p197)。米国の政府関係者から山田正彦元農業大臣は「カーギルは韓国の学校給食を市場として期待している」と聞いているからである(2p142)

 そこで、山田元大臣は気になって、弁護士でもある朴元淳(パク・ウオンスン,1956年〜)ソウル市長にインタビューしてみると返ってきたのは次のような答えだった(1p96,2p142)

「ソウル市だけで132本の条例を変えなければならなくなった(1p96,2p142)。学校給食の地産地消もできなくなった(2p142)

 すでにソウル市等のいくつかの市では地産地消の学校給食を条例で制度化することが政府の指導によって禁じられている。国内の生産者とカーギル等の米国企業を学校給食で差別すると、米韓FTAでは公平貿易の原則に反するものとしてISD条項で訴えられてしまうからである(2p142)

William-Wallace-Cargill.jpg カーギルは、米国ミネソタ州のミネアポリスに本社をおく世界最大の穀物メジャーである。1865年にウィリアム・ウォレス・カーギル(1844〜1909年)が、アイオワ州で小さな穀物商を営み始めたことから「創業」された。その後、カーギルは穀物倉庫を次々と買収して事業を広げていく。

 カーギルは、全株式をカーギル家とマクミラン家が所有する同族企業であり、非上場企業であるため、経営は秘密主義である。しかし、20世紀に資産を6000倍にするという途方もない成長を遂げる。1970年には世界五大穀物メジャーの一角を占めるに至り、最終的には、カーギル社とADM(アーチャー・ダニエルズ・ミットランド)の2社に統合される(3p204)。カーギルはしたたかである。

 さて、このカーギル社にとって、目障りで仕方がない存在がある(3p205)。全国農業協同組合連合会、すなわち、全農である。厳密には、「全農グレイン」を含めた全農の子会社群である(3p206)

世界最大の穀物輸入施設を持つ全農

20081111_01.jpg 全農グレインは、ロスアンゼルスに本社を置く株式会社である。その株式の100%を全農が所有し(3p206)、ニューオーリンズに世界最大の集荷施設、船積み施設を保有する(2p131,3p206)。全農グレイン一社が輸出する穀物は1200万tに及び、うち730万tを日本に提供している。全農グレイン一社で米国からの穀物輸出の1割を占めることから、そのスケールがどれほど大きなものかがわかる。それだけではない。全農グレインは、米国の個別農家と契約し、遺伝子組み換えやポストハーベスト等をきちんと分別管理している(3p206)。同じく全農の子会社、コンソリデイテッド社は、イリノイ州、インディアナ州、オハイオ州等に70もの拠点をもち、米国全土から1200万tもの、ダイズ、トウモロコシ、小麦等を集荷して、ニューオーリンズに出荷している。そして、全農は、こうした子会社を使い、配合飼料の製造から提供までを一貫して展開している(3p207)

 有色人種国家の企業において、遺伝子組み換え以外の穀物をグローバルに流通させることが可能な組織は、全農グレイン以外にはない(3p206,3p207)。このため、その存在がカーギルにとっては、利益最大化の障壁になっている(3p207)。理由は二つある。

カーギルが全農を解体したいわけ

 第一に、全農グレインの親会社である全農は、米国からの穀物輸入に対してそれほど利益を載せていない。グローバルな穀物市場では競争原理が働く。このため、カーギルの値段が高すぎると感じれば顧客はより安く穀物を提供する全農グレインから買ってしまう。このため、カーギルは阿漕な利益を上乗せできない(3p208)

 第二に、全農グレインは小麦を含め非遺伝子組み換え作物を米国から輸入・出荷することができる(3p208)。モンサントやカーギルは遺伝子組み換え作物の全面化を目指しているが、全農グレインはその流れに抵抗して、遺伝子組換えダイズと非組換えダイズを区別して流通してきた(2p131,4p66)。カーギルがGMしか輸出できないとなれば、非GM作物を輸入したい顧客を全農に奪われてしまう(3p208)。国内では反対が根強い遺伝子組み換え小麦をまず日本に輸出するにあたっても、全農グレインの分別施設が邪魔でしょうがない(2p131)

 カーギルからすれば、得意の「企業買収」によって、おぞましき全農グレインの脅威を取り除きたい。とはいえ、全農グレインは株式会社であっても、親会社の全農は協働組合連合会であるため、全農の株式を買い取って全農グレインごと傘下に収めるという得意技が使えない(3p209)。ではどうするか。全農を株式会社化すればよい。そうすれば、こういう子会社を買収することが出来る。事実、海外に実例がある(4p66)

オーストラリアの小麦庁は株式会社化したことでカーギルに買収

 カーギルは競争相手を資本的に飲み込むことで拡大してきた(3p205)。オーストラリアでは小麦輸出は、オーストラリア小麦庁(AWB=Australian Wheat Board)という農業協同組合的な政府機構が独占的に小麦を輸出してきた(2p131,3p205,4p66)。しかし、米豪FTAの後、各農家が株主になる株式会社に鞍替えさせられ(4p66)、2008年に株式会社となることで独占権をはく奪される(3p205)。買収を防ぐため一株主の保有制限を定款で定める等、買収防止策を講じてきた(3p205,4p66)。しかし、2010年にカナダの肥料会社アグリムからの提案を受けて株主が定款変更を可決。アグリムに買収されてしまう(3p205)。カーギルがその株を買い占めてその傘下においてしまったのは(2p131,4p66)、そのわずか一月後だった。アグリムは肥料販売の子会社を除いて穀物部門をカーギルに売却したのである。オーストラリアの小麦輸出部門を丸ごとカーギルの支配下におくため、AWBの株式会社化の段階からスキームが組まれていたことは確実である(3p205)

農協改革は米国の意向?

 安部首相は改革を正当化するため「岩盤規制に穴をあける」「既得権益を打破する」「抵抗勢力に負けない」と主張する。悪を倒すという論理を使い、農協改革では農協が悪者にされ、解体されようとしている(5p57)。2012年に第二次安部内閣が誕生するやいなや、いきなり「農業改革」が始まる。2014年11月、スイスのダボスで開催された「世界経済フォーラム年次会議」で安部総理は「既得権益の岩盤を打ち破るドリルの刃になる」と宣言した(5p60)。だが、農協の後にやってくるのは、米国と大企業である。何のことはない。農協の「既得権益」を打破して米国と大企業に新たな既得権益を与えるという話だけなのである(5p57)。なぜ、そう断言することができるのか。安倍政権が進めている農協解体、農業分野の規制改革、農業への企業参入の促進は、米国がクリントン政権以降、一貫して日本に要求してきた「年次改革要望書」のメニューと同じだからである(5p59)

「規制改革実施計画」が閣議決定され、農業分野の規制改革の方針が示されたのは2014年6月24日である。これも、在日米国商工会議所が書いた可能性が高い(6p75)。閣議決定の2週間前の5月に「JAグループは日本の農業を強化し、かつ、日本の経済成長に資する形で組織改革を行うべき」と内容が酷使した意見書が在日米国商工会議所出されているからである(5p61,6p75)。さらに、規制改革会議が「農業改革に関する意見」を突き付けた(5p61)。この農協改革は、JA全中の指導・監査の撤廃と一般社団法人化とJA全農の株式会社の二本柱である(4p65)

国会議員でもない民間人が農協のあり方を決めている

 以前の農政は、食料・農業・農村政策審議会であるべき姿が検討され、それを参考に推進されてきた。農政審議会には生産者からはJA全中の会長、財界からは経団連の会長や経済同友会の有識者、消費者からは主婦連や生活協同組合等が入り、様々な意見を交わしていた(7p99)。農政は国家の根幹である以上、審議会で慎重な審議をするのが本来の姿である(5p90)。しかし、現在は、官邸に設置された御用学者が主導する規制改革推進会議や産業競争力会議(現在、未来投資会議)が農政を牛耳っている(5p90,7p99)。選挙を経ない民間人が政策決定にかかわれるようになった。三橋貴明氏のウォール街の知人は「アメリカではわざわざロビイストが時間と金をかけて政治家を動かさなければならないのに、日本ではロビイスト自身が政策決定に関われるなんて、なんと素晴らしい国だ」と絶賛している(8p94)。2017年4月6日の衆議院農林水産委員会では、鈴木宣弘東大教授はこう述べている。

「法的位置づけもない諮問機関に、米国経済界と密接につながっている仲間だけを集め、国の方向性が指摘に決められ、誰も文句が言えないというのは異常事態である。「与党の国会議員になるよりも、規制改革推進会議のメンバーに選んでもらった方が政策が決められる」と与党議員も嘆いていた(4p90)。しかも、規制改革推進会議のメンバーでは農政のプロが皆無である。推進会議内に設けられた「農業ワーキング・グループ」には多少の専門家もいるが、財界よりの主張をするものばかりである(7p98)

 つまり、農業の専門家ではない民間人が、重要な社会的機能を果たしている農協について勝手な意見をまとめて政府を動かしている。その代表が、農業ワーキンググループの座長を務める、フューチャーアーキテクトの金丸恭文氏である。農業ワーキング・グループは、他に浦野光人(ニチレイ)、滝久雄(ぐるなび)、長谷川幸洋(東京新聞)、林いずみ(桜坂法律事務所)を委員、(株)六星の北村歩取締役ら5人が専門委員となっている(6p77)

農協は悪の既得権益組織というイメージを刷り込む

Koizumi.jpg さらに、最も積極的に農協解体を進めてきたのは、小泉進次郎である。進次郎氏は2015年10月から自民党農林部会長を2期にわたって務め、農業改革を推進してきた。

 進次郎氏は2006年にコロンビア大学大学院の政治学修士課程を修了し、戦略国際問題研究所(CSIS)の研究員を務めていた。CSISとはCIAのシンクタンクとされ、リチャード・アーミテージ、ジョセフ・ナイ等、日本を動かす「ジャパンハンドラーズ」と呼ばれる要人が多数在籍している。そして、日本経済新聞とともにCSISが設立した「日本経済・CSISバーチャル・シンクタンク」の政治フォーラムにも名を連ねている(5p103)。キャノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は、農協悪玉論を展開しつつ、小泉進次郎氏の改革に声援を送ってきた。

「農協は、農家が資材を安く購入するためにつくった組織である。それが、農家に高く売りつけることで農協組織の利益を図るようになってしまった。これまでどの政治家もこの矛盾に気付かないか、無視しようとした。農業村の利益を損なうことはタブーだったのである。小泉進次郎氏が挑戦しているのは、農業村に支配された農政アンシャンレジームである」

 この論理は、郵政悪玉論を展開して、郵政民営化を推進した小泉純一郎元総理のロジックとそっくりである(5p104)

全農を経営的に悪化させることで全農グレインを手放させる

 2015年の農協改革においては、全農の株式会社化を5年後から可能とする法律が可決された。2020年以降、カーギルはあらゆる手段を使って全農の株式会社化を試みるはずである(3p209)。例えば、2016年11月11日には、規制改革推進会議の農業ワーキング・グループがいきなり「全農改革案」を提言した。

「全農は農業者のために自らのリスクをとって農産物販売に真剣に取り組むことを明確にするため、1年以内に委託販売を廃止し、全量を買取り販売に転換すべきである」というのが提言の要である(3p213)

 確かに、全農の資材費が他の事業者よりも高いことはある。しかし、それは、そこに「営農指導コスト」が含まれているからである。また、高いからといって、農協にしても農家にしても生産資材(農薬や肥料)を全農から購入する義務はない。肥料に関して言えば、現時点で農協が全農・経済連から購入しているシェア率は59%にすぎない。また、農家が使用する肥料1400万tのうち、農協のシェア率は71%でしかない(3p213)。農薬に関しても、農協での全農・経済連のシェア率は40%、農家が使用する農薬の農協シェア率は60%でしかない。つまり、全農は「独占的事業者」でもなんでもない。にもかかわらず、規制改革推進会議は「資材ビジネス」からの撤退を求めた。かつ、全量買取を強制した(3p214)。しかも、改革が進まなければ「第二全農」を作るという構想までも含まれていた(3p215)

 ここで異様に思えることは、「農協組合員の総会が意志決定機関である全農のビジネスに対して(3p216)、国会議員でもなんでもない規制改革推進会議の「民間議員」が改革を明示、逆らうならば「第二全農を作る」とまで脅しを入れられるのかということである(3p215)

 三橋貴明氏はこう書く。

「商社ビジネスは廃止。農産物について全量買取を強制。全農の経営を窮地に追い込み、全農グレインを売りに出せることが目的だったとしか思えない(3p216)。全量買取を強いられ、商社ビジネスを廃止されれば全農の経営は急激に悪化する。その結果、全農グレインを手放さざるを得なくなる。すると、全農グレインを目の敵にしているカーギルが狂喜してその株式を買い取ることになる。この全農解体構想は国会議員たちの努力によってなんとか「骨抜き」で終わったが、全農グレインがGMO世界戦略を妨害するのをカーギルはいくら金を積んでも辞めさせたいのである」(3p217)

 さらに、全農の株式会社化は義務ではなく任意となっているが、地域農協の理事の過半数を認定農業者や農作販売・経営のプロにすることになっている(4p66)。これによってローソンの新浪剛史社長やパソナの竹中平蔵会長のようなプロの息がかかった人を理事にすることで内側から株式会社化の圧力をかけるであろう(4p67)。そして、農協改革で4年後に株式会社化される全農がカーギルに買収されれば、日本の食料安全保障はカーギルに支配されるであろう(8p93)

編集後記

 如何であろうか。種子法廃止について関心を持っている市民の方も、「農協は既得権益集団ではないのか」と疑心暗鬼の芽で農協を見る人たちが多い。とりわけ、農協とは直接的なつながりがない都会で農的暮らしや有機農業にあこがれる人からすればそうなのではあるまいか。確かに、小泉進次郎氏の颯爽とした改革のイメージから比較すると、農協を運営する農協の理事たちは既得権益のうえにぬくぬくと胡坐をかいてきた解体すべき悪の権化のように見えてくる。けれども、真実は違う。遺伝子組み換え農産物とカーギルという視座を入れることによって、なぜ、ここまで執拗に全農が目の敵にされるのかが見えてくる。そして、これは必然的に次の疑問につながる。「農協も既得権益集団であるとしても、モンサントやカーギルの巨悪から比べればかわいいものだ。だとすれば、なぜ、本気になって種子法や解体に反対しないのか」。実はこれはかなり本質的な質問で、協働組合とは何か。資本主義的な株式会社とはどこが違うのかということにつながってくる。
(2018年4月16日投稿)
(2018年4月17日改正)

【画像】
ウィリアム・ウォレス・カーギル(William Wallace Cargill)氏の画像はこのサイトより
全農グレインの穀物エレベーターの画像はこのサイトより
小泉進次郎氏の画像はこのサイトより

【引用文献】
(1) 山田正彦『TPP秘密交渉の正体』(2013)竹書房新書
(2) 山田正彦『アメリカも批准できないTPP協定の内容はこうだった!』(2016)サイゾー
(3) 三橋貴明『日本を破壊する種子法廃止とグローバリズム』(2018)彩図社
(4) 鈴木宣弘『今だけカネだけ自分だけの農業になってしまいます』「日本のお米が消える」(2018)月刊日本2月号
(5) 編集部『第二章安倍政権は共犯だ』「日本のお米が消える」(2018)月刊日本2月号
(6) 菊池英博『360兆円の農協マネーがアメリカに略奪されます』「日本のお米が消える」(2018)月刊日本2月号
(7) 篠原隆『御用学者や御用経営者が農政を牛耳っています』日本のお米が消える」(2018)月刊日本2月号
(8) 三橋貴明『ロビイストが政策を決定しています』日本のお米が消える」(2018)月刊日本2月号


posted by José Mujica at 23:41| Comment(0) | GMO | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする