2018年05月27日

GMを巡る米露の情報戦

米国以上にGMOの危険性を発信するロシア・メディア

Shawn-Dorius.jpg いま、ロシアは反GMOのニュースをネット上で拡散している(3)。ロシアが資金提供するニュース・メディア、ロシア・トゥディとスプートニクは米国内でいずれも人気があるが、遺伝子組換え食品に対してネガティブな記事を発信している(1)。農業経済学が専門のアイオワ州立大学のショーン・ドリウス准教授は、そこには、遺伝子組換え食品に対する米国民の見解に影響を及ぼそうとする作為が見られると警鐘する(3)

 米国には、ハフィントン・ポスト、CNN、FOXニュース、MSNBC、ブライトバートと五大メディアがある。最も左寄りのハフィントン・ポストが最も多くの『反対』記事を書き、これにCNNが続く。FOXニュースは、GMOに関してはニュートラルである(3)。ところが、ドリウス准教授が、遺伝子工学やバイテクに関しての米国メディアの報道内容を調べてみると「GMO」という単語を含むニュース記事が、この五大ニュースすべてをあわせたよりも、ロシア・トゥディとスプートニクにあることがわかったのだ(1,2,3)

「スクラップした記事のうち、ロシア・トゥディが34%、スプートニクが19%(1,3,4)、ハフィントン・ポストが18%、FOXニュースが15%、CNNが8%、ブライトバート・ニュースが6%、そして、MSNBCは1%以下だったのです。このGMOに関するロシアと米国の報道差はランダムではないことをエビデンスは示唆します」

 量だけではない。記事の内容も分析してみると、ロシア・トゥディもスプートニクもいずれも遺伝子組換えに関してネガティブな情報を発信していた(1,4)

「ロシア・トゥディもスプートニクも、遺伝子組換えについて圧倒的なまでに否定的に描写しています」とドリウス准教授は言う(1,3,4)

 ロシアの記事は、環境に対する懸念、健康上のリスク、栄養面での不足、政治的な汚職、開発途上国にとってのネガティブな社会経済的な結果等、多岐にわたり、反GMO感情を見事にカバーしている。こうした内容に加え、ロシアの記事は遺伝子組換えに対する否定的な論文がリンクで張られていることも准教授は見出す(1,3)

 例えば、ディズニーやフェイスブックに関するロシア・トゥディの記事には「反GMO、TPP批判」へのリンクが張ってあり、ジカ・ウイルスに関するロシア・トゥディには「GMO蚊がジカ発生の原因と批判家語る」という記事にリンクが張られている(1)

バイクテクで遅れをとったロシアは有機で巻き返し?

 GMOが安全であるとすれば、なぜ、ロシアはわざわざGMOが危険だという情報を発信しているのであろうか。それは、ロシアの反GMOキャンペーンには経済戦略が伴っているからだ(4)

「私たちが引用したリポートのいくつかは、ロシアの二大産業が石油と農業だと記述されています。プーチンがクリーンな食べ物について語っていることを見れば、それが彼らにメリットがあることはかなり明白なのです」(4)

lCarolyn-Lawrence-Dill.jpg ロシアでは、いま、石油や天然ガスに次いで、農業が二番目に大きな産業へと成長してきている(3)。共に研究した、アイオワ州立大学の生物学部のキャロリン・ローレンス・ディル教授は、米国農業は信頼おけず、GMOフリーのロシアの作物が「よりエコロジー的にクリーンなオルタナティブ」として描写するための努力なのだと指摘する(1)

 ロシアは、2016年にGMOを禁じ、その後、有機農産物の輸出を目指している(3)。「クリーンな食べ物」「GMOフリー」、「有機」としてロシアの農業商品を再ブランド化しようとしている(4)

 2014年には「もし、米国人がGMO農産物を食べたいのであれば、どうぞお食べください。我々は、そうする必要はない。我々には有機農産物を生産するための十分なスペースや機会がある」とドミトリー・メドベージェフ首相は語った(1,4)

 最も「GMOフリー」は「有機」と同じではない。世界の大半の非GMO農産物は、化学肥料が施肥され、化学合成農薬も散布されている。メドベージェフ首相はあえてぼやかしたのであろう(4)

 とはいえ、ロシアの農産物を神からの賜わり物のように描写することを越えて、ロシアでの反GMOキャンペーンは広がっている(4)

Iryna-Viktorivna-Kobuta.jpg「有機農産物市場は、ロシア国内でも着実に伸びています。2010年代に1億1600万ドルであったものが、2015年には1億7800万ドルとなっています」

ヨーロッパと中央アジアのFAOの地域オフィスの経済学者、イリ―ナ・ヴィクトリーニャ・コブタ博士は言う(3)

 これと等しく重要な目標は、グローバルな農業市場において、米国のバイテク優位を叩くことだ。バイテクはコンピュータ技術とともに、21世紀の経済の柱とされているが、ロシアは大きく遅れを取っている(4)。メドヴェージェフ首相は誠実で、ロシアのGMO科学が米国他よりも遅れている事実を知っている(3)

米国世論を動揺させるための情報発信

 「ですから、それが、第一の利益です。ですが、複数の利益があります。その一つは、米国内での亀裂を産み出すことなのです」

 ディル教授はそうも指摘する(3)

 もちろん、GMOが議論あるテーマであることは間違いない(1)。まったくGMOを気にかけないのは米国の成人の46%で(3)、少なくとも半分の米国人は安全性を懸念しているという(1)。GMOに対して博識だと感じている消費者は20%以下でしかなく(3)、「ほぼすべての科学者がGMO食品を消費しても安全であることに同意していること」を知っているのは14%にすぎないという(1)

 いま、GMOは、ロシアを含めて30カ国以上で禁じられているが、栄養分を加えたり、収量を改善したり、旱魃耐性や除草剤、害虫耐性といった多くの潜在的利点がある。2016年には、100人以上のノーベル賞受賞者がGMOの支持を表明する公開状にサインしている(1)。それだけに、GMOの推進団体「GMO Answers」のスポークスマン、マイケル・ステビンスはこう語る。

「この誤報の広がりは、新たな現象ではありません。GMOに関しては誤報が多いことがわかっています。それがまさにGMO Answersが設立された理由なのです」 (3)

「反GMO情報発信は、米国のみならず、ヨーロッパにおける米国の同盟諸国にとっても問題です。ヨーロッパの多くはGMOに対してひどく懐疑的だからです。反GMO感情をかき立てることは、ロシアの政治・経済・軍事目的のかなり多くにかなっているのです」とドリウス准教授は言う(1,3,4)

 こうした報道は、最近の軍事リポートに記述されるロシアの情報戦略とフィットする。つまり、ロシア人たちが、GMOを米国の政治や米国社会を分裂させるのに、使える「くさび問題」として見ているということだ(4)

「ロシアの情報戦やコンピュータプロパガンダに関する先行研究は、ロシアの主な動機が米国の有権者を分裂させ、西側社会の基礎的な制度に対する信用を侵食することだと主張しています。そして、我々がデータから見出した結果は、こうした解釈を否定するものはありません。それどころか、科学、バイテク産業、国際貿易協定、米国の自治と規制機関の否定的な描写を含めて、同じパターンが見られるのです」とドリウス准教授は言う(1,4)

 もちろん、ドリウス准教授はロシアの真の動機を知ることが難しいことは認める。研究からは、ロシア・トゥディやスプートニクの反GMO記事の背後にロシア政府がいることは証明できないし、この内容によって米国世論が動かされているかどうかもわからない。とはいえ、状況は生臭いと見る(1)

 米国や世界に対してGMOに対してネガティブな印象を抱かせるこのロシアの試みに対して、ドリウス准教授は「ロシアに利することはあっても、米国の産業に明らかに悪影響を及ぼしている」と語る(2,3)

 クリミア半島を併合し、東部ウクライナの反乱軍を支援した後、ロシアは米国から経済制裁を受けている。この国がGMOに関して、ある方向に米国世論を動かそうとしていることは警戒しなければならないと主張する(1)

米国の反ロシア感情を利用した情報操作

 この研究に対して、反GMO団体、持続可能なマメ(Sustainable Pulse)は、「GMO側の研究者は、GMOに対するロシア・メディアの報道を叩くため、米国民の反ロシア感情を使おうと試みている」と述べる(1,2)

Henry-Rowlands.jpg 同団体のヘンリー・ローランズ代表は、ロシアのニュース・メディアが片寄ったやり方でGMOを扱っていることが問題なのではなく、米国側がその話題をほとんどカバーしていないことの方に問題はあると指摘する(1)

「このテクノロジーに対する消費者側の関心や反発が高まっているにもかかわらず、なぜ米国メディアが定期的にこの問題をカバーしないのかの問題をアイオア州立大学の研究者は問いかけていません。それはいくらか普通ではないように思えます(2)

 そして、この研究はGMO推進側の「全国トウモロコシ生産者協会」によって一部は資金供給されており、「Food and Water Watch」によって暴露されたように、アイオア州立大学の研究者は「悲しいことに、GMO産業やその支持者から大金をずっと受領してきた経歴がある」と述べる(1,2)

「つまり、この話題に関してはロシアのメディアには米国メディアより多くの自由があるのです」とローランズ代表は話る(1,2)

 さらに、この研究がなぜわざわざこの時期に発表されたのかも問いかける。実は、この研究は、モンサントとバイエルの合併時期にあわせるように慎重に調節されていたようにすら思える。この2月頭にはバイエル-モンサント合併について独占禁止に当たるとクレームをつけたロシアを叩いておく必要性があったのだ(2)

ロシアは、反GMOか?

Arkady-Dvorkovich.jpg 確かに科学研究目的を除いて、ロシア連邦議会は、2016年に、遺伝子が組換えを禁止した。とはいえ、これは反GMOではなく、それ以外の世界中の30カ国以上の国とともに予防主義の原則を厳守しているにすぎない。さらに、米国バイオ企業からの高まる圧力に屈することなく、ロシアはGMO推進側のまぎらわしい主張を「似非科学」と見抜いている。2015年に京都で開催された第12回科学技術と人類の未来に関する国際フォーラムでは、アルカジー・ドヴォルコーヴィチ(1972年〜)副首相は「世界を養うために遺伝子組換えを使う必要はない」と述べた。

「もし、あなたがGMOに関して、ロシア政府の消費者や健康を大切にするスタンスになにか間違ったものを見るとすれば、あなたはロシアがすることはすべてが反米だと考えるという罠にはまってしまっているのです」

 そうローランズ代表は述べた(2)
(2018年5月27日投稿)
【用語】
スプートニク(Sputnik)
アイオワ州立大学(Iowa State University)
ハフィントン・ポスト(Huffington Post)
ブライトバート(Breitbart)
ジカ・ウィルス(Zika virus)
全国トウモロコシ栽培協会(NCGA= National Corn Growers Association)
科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム(STS =International ‘Science and Technology in Society)

【人名】
ショーン・ドリウス(Shawn Dorius)准教授の画像はこのサイトより
キャロリン・ローレンス・ディル(Carolyn Lawrence-Dill)教授の画像はこのサイトより
マイケル・ステビンス(Michael Stebbins)
イリ―ナ・ヴィクトリーニャ・コブタ(Iryna Kobuta)博士の画像はこのサイトより
ヘンリー・ローランズ(Henry Rowlands)氏の画像はこのサイトより
アルカジー・ドヴォルコーヴィチ(Arkady Dvorkovich)副首相の画像はこのサイトより

【引用文献】
(1) George Dvorsky, Iowa Researchers Accuse Russia of Injecting Anti-GMO Propaganda Into U.S. Media, Feb27, 2018.
(2) Sustainable Pulse, Pro-GMO Researchers Attempt to Use Anti-Russian Sentiment to Attack Media, Sustainable Pulse, Feb 27 2018.
(3) Wyatt Bechtel, Russia may have hacked people's thoughts on GMOs in addition to their political views, Farm Journal, February 28, 2018.
(4) Paul Danish, Russia’s war on GMOs, OpinionDanish Plan, March 15, 2018.


posted by José Mujica at 23:35| Comment(0) | GMO | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする