2018年06月18日

韓国の在来種保存運動〜本の紹介

在来種子の逆襲〜韓国農業の多様性のために

金石基(キム・ソッキ) 著

l9791159252549.jpgはじめに
農業生物多様性の橋頭堡、在来種子...006

第1章 在来種とは何か...012
種子の旅...018
何を在来種とするのか...023

第2章 在来種はどこにあるのか...028
自給のための仕事であった農業...030
韓国の水田が商品性のある米の生産基地となる...034
多様性の喪失の危険...039
産業化の最大功臣者、統一稲...044
農業と農村の発展か、それとも衰退か...049
最初の在来種子の収集...052
それでも生き残った在来種子...058
在来種子を守るおばあちゃんたち...064
売買される種子...069
韓国での野菜種子の販売史...071
種子業界の長老の遺稿を読む...076
穀物の種子も売買する時代が来るのだろうか...081
在来種を守る人々の消滅...089
育種技術の発展と別の新品種の登場...094
韓国でも遺伝子組み換え作物が栽培されるのか...102

第3章 在来種子はなぜ重要なのか...130
在来種子は食料主権の実現の根幹...134
様々な味と栄養の供給源...148
スーパーフードは別にない...155
在来種子で伝統食を生かす...162
種子を購入しない農業...168
伝統農業にふさわしい在来種子...181
作物の多様性が文化の多様性を生む...189
代替食べ物運動に有用な在来種子...199
農業生物多様性の第一歩も在来種子から...208
在来種子は万能ではない...212
気候変動への対応や新品種の育成にも在来種子から...216

第4章在来種子を守る...220
種子を守るための農民の権利...225
現地外保存か、現地保存か...230

おわりに
 在来種子から始まるエコロジカルな社会を夢見て...236

 著作の中で在来種子が重要な理由をひとつだけあげよと言われれば、私は「農業生物多様性の橋頭堡」であるといいたい。在来種子と関連して犯される間違いのひとつは、在来種子さえあればあたかもすべてが解決されるといった誤解である。在来種子さえあれば、無農薬や無化学肥料で有機農業が可能で、在来種子は新品種よりもはるかに優れていて、その農産物を食べれば病気も癒せるといったアプローチは危険である。それはある種の宗教のような姿である。 「在来種子教」は危険である。信仰の領域にはまらないためには、何が在来種子であるのかを理解しなければならない。なぜ我々の農業において在来種子が消えるようになり、在来種子にはどのような特性があり、こうした在来種子の保全をなぜ進めなければならないのかに関して悩まなければならない。悩みなき盲目的な信仰はそれがいかなる形であれ危険である。そこに陥れば自分だけが正しく他者は悪いという態度を取りやすくなる。こうした態度は、相手を殺さなくてもなくそうと思うのがオチである。そして、今までのそうした態度によって数多の地元種子が消えてきたのではなかったか。私たちは、別の生け贄を探すことを止め、互いが共存しうる方策を模索しなければならない。在来種子が持つ価値は「多様性の共存」にある(同著7p)

 このように、人間の場合では、社会文化にいかに「適応」したか、あるいはしないかがその人が地元の人間であるかどうかを定義する基準となるが、作物の場合には、その作物が栽培されている地域の自然環境にどのように「適応」したかが在来種かどうかを分ける基準となる。文化や自然環境は、絶対的に不変のものではなく、時間の経過とともに変化していく。このため、在来種子を固定不変のものと考えることには無理がある。

 在来種は、時間の経過に応じて、新たな自然環境に適応し、農家とともに自分の遺伝子も変化させることで生きてきた。この部分を見落とした場合には、在来種子を永遠不滅の真理で韓民族の唯一無二の貴重な資源だとして崇拝の対象とするという過ちに陥ることになる。愛が変わるように在来種も変わる。 変わらなければ、変化する環境の中で生き残るのは難しい(同著25p)

 食料主権と関連して、とりわけ、女性の権利を強調する部分に注目しなければならない。前章でも述べたように、東西を問わず、伝統的に種子を管理する主体は主に女性たちであった(同著65p)。韓国においてもおばあちゃんたちによって在来種子が保全されていることを確認した。しかしながら、世界各地において農業従事人口の半分以上が女性であるにもかかわらず、男性に比べて土地や財産等の権利がはるかに及ばないことを確認できる。韓国では、2012年末、全農業者のうち、女性が51.1%(148万8000人)を占めている。とりわけ、女性農民の労働の割合をみてみると、1970年の31.6%が2010年に60.5%と2倍増している。女性がいなければ、農作業がまともに動かないと言っても過言ではない。

 しかしながら、韓国においては、女性農業者の地位はいまだに低い。女性農民に対して求められることがますます多くなっているにもかかわらずである。女性農業者は家事や育児はもちろんのこと、農産物加工や都市と農村の交流、直売等、ますますすべきことが増えている。にもかかわらず、農家の重要な資産である農地や住宅等の不動産は80%以上が男性の名義となっており、農地の売買や営農資金の融資等の意思決定に女性が関与する割合も60%程度なのである(同著p141)

 ある作物の在来種子をどこにどのよう播種すればよいのか, その時期は地域の気候を見ていつがよいのか、育てる過程で肥料はいつ施肥した方がよいのか、どのような草の種類がよく育ち、それをいずれも取り除いた方がよいのか。あるいは、別の作物と共生することができるのか、育つプロセスで葉を取ったり実を収穫したとき、それをどのような料理にして食べたらよいのか。どのような虫がよく発生し、その時にはどのように対処をすればよいのか。種子を保存するときにはどのような方法でしなければならないのか。収穫後の保管はどこでどのようにしたらよいのか。このように数多くの種類の知識が種子には含まれている。地元の種子を自給を目的に栽培してきた農民たちはそれを習慣のように意識せず、まるで服を着るかのように自然に行ってきた。ある種の総合芸術といってもよい(中略)。この仕事は一、二回経験したからといって習得できるものではない。口から口へ、行動から行動へ、親から子へと、そして、近隣の人々の間でと誰かの肩越しにつながっていく性格の知識である。そこで、こうした性質の知識では、経験が豊富な伝承者の役割が非常に重要なのである(同著p144)

出版社書評

 アグロエコロジーにおいて重視されるように、法律や制度において、小農や農業に携わる数多くの市民たちが自分たちの種子を利用して交換して育種もできる集団的な権利を保障せよとしたならばどうなるのであろうか。結果はおそらくわからないが、関連業界や学界から反発はされよう。そうした反対を押し切ってでも在来種子が農地の一角を占め育ち、韓国の食料主権を強化する。そんな日が来ることを願っている(p146)

「在来種子宗教がわかるだろうか?」

・在来種子さえあればすべてのものが解決されるとの考え。
・在来のものを私たちの遺産のように守らなければならないとの我執や「血統主義」
・私たちは在来種子を宗教のように信じてはいないだろうか。

 私たちの生活条件や環境に合わせて変化して来た在来種子の「真実」の姿

 この時代に要求される在来種子の真骨頂とは何であろうか。

 私たちの生活とは無関係ではない在来種子の再発見!

 様々な持続可能な農業、主体的な私たちの生活と文化

 在来種子によってその「可能性」を撒いて見よう!

農業はその時代の社会像を反映する

 1998年.モンサントカナダ支社は遺伝子組み換え菜種を「不法に」使用したとしてある農民に 40万ドルに達する巨額のお金を要求した。要求に応じないと巨大企業はついに訴訟に踏み来った。その農民に対して巨大企業の執拗な「権利闘争」が始まった。そして、高齢の農民が手にすることができたのは敗訴だけであった。農民は言った。「その種子は数千年の間も全世界の農民たちが良いとして選抜・保存してきた結果として得られたものであり、農民は自らの畑で得られた種子を再び播種できる権利を奪われてはいけない」と(韓国農民新聞)。

 元々種子は売買する品物ではなく互いにわかちあうものであった。「誰の家のカボチャ、豆が良いよ」と互いに良い種子を分けて播種し、いずれかの家の農業が不作であれば、自分がもらった種子を再度わけた。種子はある種の「共有財産」として誰かが独占的な所有権を発揮することができるものではなかった。しかし、現在では、こうした行為は盗みに他ならない。

 種子の権利がそれを播種して栽培する人ではなく、販売する人のわけ前となってしまった今の現実。 多国籍企業と国家が種子産業の知識と情報、 市場を独占し、農民は最小限の意味しかもたない農産物の生産業者に変わってしまった。生活を支える食べ物を一つの商品として遺伝子を「開発」し「編集」するプロセスにおいて、私たちの食べ物や生態系、農村景観は姿を失っていった。村ごとに家ごとに育てられていた種子が異なり、娘を嫁がせる時には、その家の種子も一緒に送った過去の姿が消えて久しい。

金石基.jpg 長年、アグロエコロジーと伝統農業を研究しつつ農業も行ってきた著者、金石基(キム・ソッキ)は 「種子を播種し育て収穫し保全し、翌年再び種子を蒔くまでのすべての過程には人間の農業技術及び生活文化に対する知識が結合されていて、農地を取り囲む周辺の自然生態系と作物を中心にした数多くの動植物に対する理解が土台になっている」と説明する。彼は 『在来種子の逆襲』を介して、こうした在来種子の価値を見直し、在来種子をめぐる時代的な文脈の変化、政治的力学関係を興味深く展開して見せる。また、今、私たちの時代に必要な在来種子の意味や価値、保存方式に関する深い悩みを投げかけ、それが農民だけの問題ではなく、私たちの課題であることを力説する。彼は単純に在来種子の大切さを強調するだけにはとどまらない。在来種子であればすべてが解決できるとの人々の固定観念を果敢に壊し、在来種子に対する盲目的な信仰に対しては距離を置く。そのかわりに在来種と新品種とが共存できる方策と作物の多様性を構築できる社会的な理解とシステムの変化等、真の意味での「生態系」に対する想像力を求める。

私たちは、なぜ在来種子を保全すべきなのか

 在来種子に対する出発点は、しっかりとした問いかけから

Nikolai-Vavilov.jpg 事実上、在来種子は「私たちのもの」ではない。在来種子と関連してよくなされる誤解は、はるか昔の古代朝鮮時代から伝承されてきた種子がまさに在来種子だということである。しかし、著者はそうした作物は、この世の中には存在しないと断言する。韓国が原産地と称される作物はただ一つ、まさに大豆である。在来種子は、時間が経つにつれて、新しい自然環境に適応し、農民とともに自分の遺伝子を変化させ生きてきた。この部分を見落とせば在来種子を韓民族の唯一無二の貴重な資源におきかえて崇拝の対象とみなす危険に陥ることになる。変化に適応し、生き残った、変異、フレーバー、突然変異がまさに地元種の性質である。ロシア育種学者ニコライ・バビロフ(1887〜1943年)は「農民たちが作物の特定の遺伝的変異に傾ける関心は偶然に生じたのではなく、数千年に渡って発展して続いてきたその文化的伝統の中で生じたことだと強調」した。したがって「農民がなぜ、どのような種子をどのように選抜するのか。そしてそのような多様な地元作物の遺伝子から何を得ようとするのか。また、地域ごとに異なる農業の姿にどのような意味があるのかを理解することが重要である」と見ていた。

 在来種子も「人間の目的によって選抜され続けて育種されてきた」のである。したがって著者は在来種子について、現実に合わせて、より柔軟なアプローチが必要だと指摘する。「在来であればどうなのか、あるいは在来種でなければどうなのか。生きている種子の権利を独占して利潤を産み出すためだけに集中する流れに対抗して、在来種子を栽培する人々が、自分たちの暮らしや文化を守りながら生きていこうとすることに意味がある」 「いかなる種子を栽培して農産物を生産しようが、まずそこで暮らそうとする人々を支え支持することが優先されなければならない」という著者の洞察やバランス感覚が、今、私たちに必要な美徳ではないだろうか。

我々すべての権利、農民の権利

 それは、もはや農家だけの問題ではない。それでもまだ在来種子を守る人がいる。2008年から在来種子を収集し始めた著者は、江華郡(Ganghwa-County・강화)、鬱陵(Ulleung-County・울릉)・済州島(Jeju Island・제주)で460点、槐山(Goesan-County・괴산)で310点、谷城(Gokseong-County・곡성)で348点、驪州郡(Yeoju-Country・여주)で163点の在来種子と出会うことができた。こうした在来種子は、主に女性たちの手によって保全されてきた。しかし、いまだに女性農民の地位は低い水準である。女性農民の地位向上は「食料主権」と関連して重要だと言及されている部分である。

 食料主権は「1996年当時、世界食糧サミットに対抗して開催されたNGO世界フォーラムでビア・カンペシーナ(Via Campesina)という国際農民団体が新たに作成し唱えた用語である。 彼らは現在、世界の食糧システムを支配している多国籍農業関連企業と農産物の自由貿易を支援するよりも、食べ物を生産、分配、消費する主体が食料の生産や分配構造、そして、その政策をコントロールしなければならない」と強調した。最近では、「共有材としての種子の慣習的な権利を保障し、小規模農民や先住民が自分たちの種子を使用し、交換、育種、選抜、販売できる集団的な権利を保証する種子政策を確保しなければならない」という方向で、その議題を変えている。

 事実、在来種子に関連して続いてきた私たちのすべての言語や行動様式が文化であると言える。したがって、農業は明らかに自分を取り巻く環境や条件に対する知識でもあった。しかしながら、現在、食用作物の種子は国家が、野菜や花卉の種子は、種苗会社が掌握している。したがって、農民権(Farmer's Right)は、種子保全に関連する重要な概念の一つである。 これは「農民と農民が属する地域共同体が動植物の遺伝資源を持続的に保存して改良し、これを利用することを保障する権利」を言う。これは単に農民だけの問題ではない。消費者の意識や嗜好、生活条件が変化し、地元種子を保全する小規模農業を国家的な次元において支援する必要がある。

 このように、社会の構成要素が互いに悩みをわかちあうとき「生態系の原理を活用した農業生産方式が拡大」することができ、在来種子も私たちの大地にしっかりと一角を占めて根付くことができる。これによって、生産量で偏った農業方式や傾いた経済所得を改善することができ、日増しに深刻化する自然環境や絶滅危惧種を保護することができ、さらには安定した持続可能な農業も可能になるであろう。私たちの健康的な暮らしもこうした環境の中で、夢を見ることができる(1)

編集後記

 2018年1月08日付の記事「TPP先進国:韓国を見よ」では、韓国がFTAを結んだことにより、首都ソウルにおいても地産地消条例を廃止せざるをえなくなったと書いた。

 アジア通貨危機当時、韓国では多くの種苗会社が資金難に陥り、上位5社のうち4社が外国企業に譲渡された。このため1996年の種苗市場に占める外国企業のシェアは14%にすぎなかったのだが、今では50%を超えている。韓国の輸出農産物として有名なパブリカもすべて外国品種をロイヤルティーを支払って栽培している。

 韓国と言えばキムチ。トウガラシは韓国の食文化にはなくてはならない存在である。そのひとつ、青陽唐辛子は1983年に「中央種苗」が開発した新品種である。けれども、中央種苗も1998年に、メキシコの種苗会社に吸収合併され、2005年には米国の種苗会社モンサントに譲渡されたため、韓国人はモンサントにロイヤルティーを支払わなければ青陽唐辛子の辛い味を堪能できないのである(2)。韓国が外来種子や種苗購入に支払うロイヤルティだけで年間 200億ウォン(20億5千万円)を超すという。

South-Gyeongsang.jpg こうした中、韓国では在来種を守る運動が盛んになっている。慶尚南道(キョンサンナムド:경상남도)が2008年に「慶尙南道の在来種農産物保存·育成に関する条例」を制定したのを皮切りに、数多くの地方自治体が条例を制定し、在来種の復活を支援している。伝統農業やアグロエコロジーに造詣が深い金石基氏は昨年『在来種子の逆襲〜韓国農業の多様性のために』を上梓した。印鑰智哉氏は、こうした韓国の動きは貴重だと指摘する。そこで、金石基氏に同氏の著作が紹介されているページを邦訳していただいたのでここで紹介する。

 なお、この場を借りて多忙な時間を割いて拙ブログのために邦訳の労をとっていただいた金石基氏にお礼を申し述べたい。
(2018年6月18日投稿)

【画像】
ニコライ・バビロフ(Nikolai Vavilov)の画像はこのサイトより
金石基(キム・ソッキ)の画像はこのサイトより
慶尚南道の画像はこのサイトより

【引用文献】
(1)本の紹介ページ
(2)青唐辛子の国籍


posted by José Mujica at 06:00| Comment(0) | 種子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする