2018年07月29日

ミネラルとビタミンが大切〜内山葉子医師の講演会

 7月29日、長野県千曲市戸倉創造館で「子どもたちの笑顔のためにドクターから見た医食住同源」と題して、内山葉子医師の講演会があるというので、Nagano農と食の会のメンバーらともに聴講した。以下は、その要旨である。

野菜食と人とのつながりが長寿の理由

 空港を降りてからも山が見えて自然の香りが聞こえる。長野は蕎麦が有名で、うどん屋がほとんどない。ガスト、吉野家などはあるが、ファーストフード店も少ない。小麦製品がメインの香川は糖尿病が多い。なぜ、長野が長寿になったのか。よく言われるのは塩分制限だが、日本でも野菜の消費量が一番多い。それが理由ではないか。そして、隣とのコミュニティも大事である。皆さんのネットワーク、そして、野菜を食べることが長野の長寿の理由ではないか。

考えなければ薬害、食事の質、環境毒の人災で病気にかかる

Yoko-Uchiyama.jpg 今日は、どのような考え方で私が医療をやっているのかを話してみたい。関東圏では話題にならないが、西日本では連日、痛ましい報道がなされている。けれども、これは天災ではなく人災ではないかと思う。土砂崩れ、そして、杉や檜のように根が浅い人工林、そして、多くのダムを作ったためだ。そして、二次災害が多く起こっている。ニュースは天災として扱っているが、今、様々な人災が起きている。グローバルに考えないと病気になってしまう。

 それでは何が病気を作るのか。よく言われるのは、遺伝、変異、食べすぎ、生活習慣だが、薬の害、食事の質、そして、環境毒はほとんど議論されていない。

 毒の9割は外から入ってくる。環境の毒についてはみなさん、気づいていない。そこで、知ることが大事である。知ることによって予防できる。それが大事である。デトックス。スムージーをとることがおしゃれでブームとされているが、正しいデトックスを伝えたくてこの本を書いた。知ることで毒を取り入れないことは可能だ。ゼロは難しいが、悲観的になる必要はない。そして、できれば、私の病院に来るのではなく、病気にならない身体になってほしい。病気にならずに自分で身を守ることが大事である。

 まず、プラスチックの製品が体に悪い。それはホルモンのバランスを崩す。世の中は、ペットボトルだらけだが、ステンレスのボトルにお茶を入れればいい。おもちゃも安全なものがいい。安かろう悪かろうである。木でできたものがいい。お値段に対する価値観を見直すべきである。

 そして、有害な金属も溢れている。築地の移転先が話題になったが、東京ガスが1980年代に止めているのに未だに有害物質、ヒ素が出ている。PCBも50年経過しても消えない。こうした土地を流れた水や魚を経由して多くの病気が起こっている。

 缶詰や歯の詰め物でも昔は水銀が使われていた。中国から水銀も来るし、飛行機からは鉛が入ったガソリンが落ちてくる。そして、薬剤も危険である。ほとんどの人が農薬を散布しているときにもガスマスクをつけていない。このため、田舎の方が病気が多い。けれども、誰も農薬が原因だとは思っていない。関節が痛いのは年のためだと思っている。

 そして、食べ物も危険である。化学調味料、遺伝子組み換え、そして、種子法も廃止された。女性のナプキンもそうだが、匂いが強い洗剤が出ている。「香害」である。そして、電磁波、ブルーライト。ブルーライトも脳のバランスが崩れて寝られなくなる。

 正しいデトックスやキエーションではなく、きちんとしたことをすることが大切である。

 さて、怖い研究がある。15年前の研究だが、赤ちゃんの臍の緒をチェックしたところ、413種の化学物質を検査して見たところ287種もの化学物質がでた。うち、212種類はすでに30年前以上から禁止されていた物質である。そして、180種類は発がん性。208種類がホルモンバランスを崩すものが入っている。それは、ごく普通に身の周りで使われている物質なのである。

住宅が変わった〜密閉した部屋ではカビ毒にやられる

 以前の家は自然の素材で、呼吸する畳、湿気を通す空間もあり、部屋の間にも空気を通す隙間があり、湿気を吸う土壁や木であった。寒いという欠点はあったが、囲炉裏を使っても窒息することはなかった。これが機密性を追求することで多くの薬害とともに生きなければならなくなった。

 空気穴を塞いで24時間換気にしても、空気は循環できはしない。そして、多くの有害物質に晒されるようになった。ホルムアルデヒドやブルーライトも多くなり、電磁波も発生している。こうした物質を知らず知らずに摂取している。

 ちなみに、不思議なことなのだが、伝統的な家屋に住んでいる人には化学物質過敏症の人はいない。なぜか。伝統的な家屋はカビとともに生きていたから問題がないのである。そして、カビが腸内にいる人が病気が発生している。

腸内細菌が話題になっていても腸内細菌を殺す生活をしている

 また、酵素も大切なのだが、これを阻害する。さらに、内分泌撹乱物質は、ホルモンとよく似た働きをするためにホルモンの働きをぐちゃぐちゃにして、腸内細菌にダメージを与える。除草剤、抗生物質、農薬はいずれも似ている。そして、腸内細菌が大事なのである。

 最近、よく腸内細菌がブームになっている。だから、頑張ってヨーグルトを取っている。私たちは一人では生きていない。けれども、腸内細菌を殺してしまう農薬の方は気にしていない。水道水をそのままシャワーで使う。このため、ミトコンドリア異常、自己免疫異常が起きる。

 多くの環境毒は、女性ホルモン、エストロゲンとカタチが似ている。以前には「環境ホルモン」と言われていたが、これがいわゆる女性ホルモンと似た物質である。コレステロールは大切である。そして、ここから、ビタミンD、Bile Acid、Pregnenoloneができる。女性ホルモンを受け取っているのは、膵臓、心臓、血管、脳、甲状腺、骨、腎臓であったりする。けれども、それは、血管がプルプルしている。癌にならないといった女性ホルモンと同じ働きをしてはくれない。このため、働かなくなってしまう。このため多くの病気にかかるのだが、その原因は外から摂取している有害物質だったのである。長期的な効果がなくても、短期的に効果があれば、例えば、食品防腐剤のように簡単に目先の損得のために使われてしまう。結果として、次の世代にしわ寄せがいく。

野菜を取らず腸内細菌が減るとカビが腸内で繁殖する

 さて、この3月に「お腹のカビが病気の原因であった」という本を出した。前にも述べたように日本人はカビとともに生きてきた。そして、カビによって多くの発酵食品が作られてきた。けれども、これが過剰に増えたため「腸内真菌症」が出ている。

 腸内細菌の餌となるのは、繊維質、ビタミン、ミネラル、らっきょう、梅干しだが、これらを食べていない人は、腸にカビがいる可能性がある。抗生物質は細菌を殺すといわれているが、カビは真菌であって細菌とは違う。細胞壁があり、細胞膜は主にエルゴステロールでできている。この真菌は抗生物質では死なない。そして、普通は1%くらいしかいないのだが、抗生物質で他の細菌が殺されてしまえば、空隙を埋めてどんどん増えてしまう。しかも、その成長の仕方によって、蔦状に生えていくために、リーキガットを引き起こす。このリーキーガットで様々な有害物質を腸が通してしまうようになるため悪循環を引き起こす。カビの餌は甘いものなので血糖を下げさせる。そこで、多くの糖質がまた食べたくなるという悪循環を起こす。

パンと牛乳がカビを増やす

 カビの代謝物としては、アルコール、アラビノース、シュウ酸、酒石酸、トリカバル酸、グリオトキシン、マンナン等が発生するが、それをもっとも増やすのが、パンと牛乳、輸入果物である。自閉症の子どもに対して、パンと牛乳をなくして見ると良くなるという治療経験をした。とはいえ、全員が牛乳やパンが悪いわけではない。だいたい3週間止めてみれば反応がでる。反応が出なければ、その人は牛乳とパンをやめる必要はない。

 また、身体に良いといわれている発酵食品、ビール酵母、甘酒は良いと思われているが、これもカビの危険性がある。そういう人が密室に住んでいると悪循環を起こす。トウモロコシ、コーヒー、小麦、大麦、砂糖、ピーナッツ、アルコール、ソルガム、コットンシード、チーズ、鰹節、抗生物資がカビの原因である。そして、コーヒーも危険である。

 加熱しているからと言ってもカビ毒はマイコトキシンは消えない。100℃以上に熱しても消えない。そして、オーガニックも防腐剤を使っていないために逆にカビが増えている可能性がある。

 カビ毒は、DNAやRNAと結合して細胞の再生や分裂を障害し、ミトコンドリアに障害を与える。このため、気分が変動し、集中力がなくなり、皮膚炎があり、お腹が張る。多くの病気がカビと関連している。

 これ以外にも、カビを発生させやすいものとしては、遺伝子組換え食品、ピル、ステロイド、不妊治療に使われるホルモン、エストロゲン様作用する環境物質。さらに、ネオニコチドがある。ネオニコチノイドは神経毒である。このため、トンボやハエも減っている。

浄化能力には土壌細菌が作っているミネラルが不可欠

 さて、人間には毒を出す能力がある。それが酵素である。この酵素を発生させるにはミネラルやビタミンが必要である。補因子だが、これが不足している。では、それはどこに由来するのか。土である。土から出てくる植物、それを食べた動植物。そこからミネラルをもらっていたのだが、今、土の匂いが変わってきている。昔の土はいい香りがしていた。それが今の土は匂いがない。先週、京都で講演をして、ある無農薬をしている人のところに行った。そこには、昔の景色が残っていた。無農薬ではサワガニもいた。土が痩せるとミネラルが減ってくる。今、稲が痩せていてレンゲも咲かない。桃色のジャンボタニシの卵もやたらに多い。

 では、ミネラルはどこから来るのか。それを作っているのは土の中の微生物である。このミネラルが化学物質を解毒していたのである。お腹の中も土と同じだと思ってほしい。土を大事にできなければお腹も大事にできない。そして、解毒を阻害するためにさらに毒まみれになるという悪循環に陥る。

遺伝子治療よりも酵素のトラブル、ミネラル不足が原因

 さて、今、遺伝子検査が進んでいる。ファンケルもやっている。そこで、このビタミンを飲もう。このサプリメントで防げるということになるのだが、それは大嘘である。ほとんどの遺伝子のトラブルは酵素のトラブルである。たとえ遺伝子のトラブルがある人だったとしても数パーセントは働いている。100%働かない人は生きて産まれることはできない。そして、酵素を働かせているのはミネラルである。例えば、ALPという酵素はタンパクだけでは働かない。この構造を見れば亜鉛やマグネシウムが作っていることがわかるだろう。

 そして、99%は一緒にいる常在菌のDNA、1%が私たちのDNAである。私たちの体でミネラルを合成してくれているのは菌である。それが内側から解毒しやすくしている。となれば、日常で食生活に気をつけたほうがよほど正しい予防となる。

 さて、ミネラルを測定するには、血清、赤血球、毛髪、尿等の方法があるが、これは排泄能力を見ている。水銀が出ないとすれば逆に大変である。また、今、手のひらで測定する検査もある。菜食主義でヨガ教師でもミネラルバランスが悪い人がいる。

 今、新しく出た本が私の集大成である。もともと私は腎臓内科医である。それには治療がない。薬をやめることから始めていた。そこで、栄養とか酵素の阻害に関心を持った。そして、栄養素に着目するようになったのは、自閉症スペクトラム、発達障害の子どもを見る機会が増えたためである。そして、毒を出すことがこうした子どもたちは苦手であるため、毒だらけの本を出した。そして、腸の検査をしてきてカビの本を書いた。そして、腎臓内科医として一貫した考え方で本筋は同じことを書いている。

 私たちは私たちでは生きていけない。誰かに何かをしてもらうのではなく、自分で考えることが大事である。よく質問がくるのが、「このヨーグルトはダメですか」というものだ。自分で判断してもらいたい。自然がいい。バランスを取ってほしい。正しいものがわかる目や心を持ってほしい。本当のことを言っている人のところにいってほしい。

編集後記

 ミネラルが重要であることは知っていた。けれども、アルカリホスファターゼ(Alkaline Phosphatase、略号:ALP)の構造を実際に見せられるとその重要性がわかる。そこで、懇親会場で「食べ物からミネラルが減っていることは深刻な問題なのではないか。それは、ラウンドアップの主成分、グリホサートが一番問題なのではないか」と聞いてみた。すると、直ちに「グリホサートは強力なキレート剤なのですからそのとおりです」との明瞭な回答がストレートに返ってきた。実にいい。そこで、さらに突っ込んだ質問をしてみた。それは、講演のなかでも少しだけ言及されたホメオパシーだ。

 野口法蔵師の坐禅断食会でも、ホメオパシーは話題にでた。もともとホメオパシーを実践されている方が断食会に参加していたこともあるが、法蔵師本人が「インドというとアーユルヴェーダが有名ですが、あれは都会の裕福な人たちの医術であって、農村で一番浸透しているのはホメオパシーです。マハトマ・ガンディーがホメオパシーの考え方にインスパイアされ、農村でもできるとして普及させたからです」と法話で話をされていたからである。

 そこで、その話題を口にしてみると、内山医師は野口法蔵師はしらなかったが、その師匠にあたる甲田光雄医師の名前は知っており「ほとんどお金がかからないから普及性があります」と述べられた。そこで、本当にホメオパシーには医学的エビデンスがあると信じているのかとさらに嫌な質問をしてみると想定外の言葉が返ってきた。

「あなたはご存知ないと思いますが、ホメオパシーを世界で最も普及させ、実証試験をしたのはキューバです。コンセプシオン・カンパ博士がマラリアを防ぐために250万人単位のオーダーでのホメオパシーを実施し成果をあげているのです」

「なに。キューバだと」

 この情報そのものはたまたま私は知っていたし、法蔵師の坐禅断食会でもその話題を話したばかりであったのだが、いったい内山医師は、どこからこのようなマイナーな情報をゲットしたのであろうか。するとキューバと日本とで代替え医療の協定が結ばれ、それを記念したシンポジウムに参加したからだという。

「失礼ですが、それは2017年の7月に東大医学部と京大の『こころの未来の研究センター』で広井良典教授が開催されたシンポジウムでしょうか」と聞くと「そうです。私は東大医学部の方に参加しました」との答え。「実は私もその会場にいたのです」と言うと「会場で質問した女性がいたでしょう。それが私だったのです」と内山医師は答えた。

 誰か質問していたのは記憶にあるが、老化が進んだ脳ではわずか1年前のことすらよく思い出せない。そして、その時、私の隣の席で、キューバの医師がホメオパシーについて説明するのを興奮しながら聞いて「バッチのフラワーエッセンスすら研究している。これは凄いことなの」との感想とともにホメオパシーについての私の理解を深めるサポートをしてくださったのは、当時東大で贈与経済の学位論文を書きあげられたばかりのO博士であった。O博士は東大に在籍しているだけあり、医学部にも美味しいレストランがあることを教えてくれ、そこで昼食をとりながらシンポジウムの会場に向かったのであった。

 通常であれば、こうしたエピソードがあったとのメールを出せば、頭脳明晰なO博士のことである。「瞬時に、ああ、昨年のちょうど7月に会場の中程で質問していた○○という人でしょう」という正確な情報が補足感想とともに返ってきて、私の老化して低下した脳の記憶機能を補完してくれるはずである。けれども、残念ながら、そのO博士はこの春に天に召されてしまってもういない。Nagano農と食の会にも良く参加される坂城の有機農家、大内英憲氏とも懇意にされていたのだが、最初の訃報はNagano農と食の会の場で大内氏から聞いたのだった。思えば、フランスのレンヌ第一大学のマルク・アンベール教授が来日。上田で講演され、教授夫妻を上田駅に送迎した後、大内氏とO博士とともにフランスから東大大学院で研究中のペネロープ女史とともに入った温泉はまさに今日の会場の対岸の上山田温泉の瑞祥だった。そして、3月末に出版されたアンベール教授と西川潤教授の『共生主義宣言』コモンズを拙宅におくってくれたのがO博士からの最後の手紙となった。どうも、ホメオパシーの質問を今日という日に内山葉子医師に対して私の口から出させたのも、私のホメオパシーへの理解を深めるためにあの世からの故O博士の支援であるような気がした。

内山葉子医師の画像はこのサイトより


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2018年07月12日

種苗法改正問題〜SBCラジオJポイント

力強い大規模農業を推進するために種苗法は改正される

 姉妹ブログ、アグエコ堂の2008年6月4日付の「タネとラジオ」では、真実を伝えることの重要性について書いてみた。そして、SBCラジオ(信越放送)の「Jスポット」というコーナーが「種子法廃止」の問題を連続してとりあげていることについてもふれた。

 4月30日に第一弾ということで山田正彦元農業大臣がインタビューに登場したのだが、6月4日には第二弾ということで種苗法の改正問題が放送され、「日本の種を守る会」の事務局アドバイザー、印鑰智哉氏が出演した。そして、7月9日(月)も第三弾ということで、種苗法の改正問題が放送されている。8時15〜30分まで15分ほどだが、コンパクトに種苗法改正の問題がまとめられており、かつ、農家の生の声も聞ける。ということで、この放送の一部をテープ起こししたものを紹介しておこう。

Masaaki-kubo.jpg まず、なぜ種苗法が改正されていくのか。その背景を久保正彰アナウンサーがコンパクトに紹介している。

 それによれば、TPP=環太平洋パートナーシップ協定の関連法が参議院本会議で可決成立し、そこに、大規模農業を推進していく考え方があるからだという。5月15日の日本農業新聞は1面で「海外に日本の種子が流出するのを防ぐために『種苗の自家増殖原則禁止へ転換・法改正を視野に』と伝えた。ちなみに自家増殖とは自分で育てた苗から種を取ったり、接ぎ木をしたりして増やしていくことだ。これが禁止されるとなると大変なことだ。という前段をふまえたうえで、取材を進めている生田明子アナウンサーが登場する。

農家が自家採種できなくなることは消費者に直結する大問題

 生田アナウンサーによれば、前回の6月4日の放送後も多くの農家からメッセージが寄せられたという。そして、一人、南信地域の60代の農家の声が以下のように紹介される。

「私は、野菜を作り直売所等で販売をしている農家です。農家の経費の中でも種代はかなりのウエイトを占めています。「F1」という一世代しか作れない種は毎年購入していますが、それ以外は自家採種をして農業を続けています。自家採種が出来なくなると、メーカーとお店が潤うだけで、益々農家は大変になってしまいます。確かに海外や地域外へ持ち出され日本の農家を脅かす事例も聞いてはおりますが、それは国が農家を守りながら、種を守ることを考えて頂きたいと思います。大変奥が深く私にはなかなか理解が出来ない問題ですが、農家のおいさんの一言を書かせて頂きました」

 確かに、イチゴであれば、赤くて美味な新品種を開発するには、専門知識や技術も必要だし、長期にわたる労力や資本が投下されている。開発者がその権利を主張したくなる気持ちもわかるし、当然のことだ。けれども、農家の立場からすれば、それは困るということだ。そこで、生田アナウンサーはこのメッセージをよせてくれた農家の方を訪ねてきたという。仮に自家採種が禁止になったとしたら、どれほどの費用がかかるようになるのかの現場の生の声を伝える背景に計算機で計算する音が入るだけに実にリアルだ。

「私の場合は落花生をちょっと作っておりまして、昨年も3000本作っておりますので、苗の場合は一本300円程で販売されているのでこれで90万円になってしまいます。種だと20万円弱に。ゆきづまっていて今でもやっとこやっとこやっているのに、やらんほうがよくなる。いまでもやっとこやっとこやっているので、私も野菜好きで土にこだわってやってきたんで、野菜を買ってくれるファンの人にも申しわけない。農家の立場にたって法律もきめていただきたいと思います」

 まあ、農家が困るのはわからないでもない。とはいえ、それは、種子を買っている農家の問題であって、例えば、このブログをいまお読みになられているあなたが農家でなければ、それは他人ごとではないかとも思いたくなる。けれども、久保アナウンサーがここで鋭い突っ込みを入れる。

「自家採種ができなくなると経費がとてつもなくあがり、ひいては、消費者にしわ寄せがくる。ということですか」

 そして、生田アナウンサーがこう答える。

「自家採種ができなくなれば、十分に考えられます。そして、あまりに収入と支出があわないとなれば、農業に携わる人も少なくなっていくでしょうし、そうすると私達の食糧はどうなってしまうのだと心配がつきません」

 なるほど。さすがに鋭い。そう。自家採種ができるかできないかは消費者の暮らしにも直結してくる大問題なのである。

声をあげなければ種子の権利が奪われるかもしれない時代

Tomoya-Innyaku.jpg そして、この種苗法の改正に向けた動きについて、日本の種を守る会事務局アドバイザーの印鑰智哉氏が再び登場する。氏はこう語る。

「農水省はすぐにこれを法案にするつもりはないということを話していて、今すぐそういった動きになっていくに関してはまだわかりません。農水省はアンケートを出して自家採種している人があまりにも多い時には、それは混乱を引き起こしますので、農家の現場を混乱させないようにしながらやっていくという姿勢を取っています。これは逆に言えば、農家の人たちがこれでは困ると声をあげなければどんどん自家採種が禁止される可能性は僕はありうると思うんです。ですから県が開発した品種は、ちゃんと使わせてください。自家採種させて下さいということは、声としてあげていくことはこれからも必要になっていくと思います」

 生田アナウンサーがさらに補足する。

「付け加えてお伝えしたいのは、改正の動きがある「種苗法」について、全ての種を自家採種禁止ということではありません。種を取ることが禁止の対象となるのは、主に「登録品種についてのみ」です。登録品種とは品種登録という制度があり、「種苗法」に基づいて新しい品種を農水省に登録したもののことをいいます。開発した育成者の権利を保護する制度です。そして、地域にある伝統野菜は対象外となっています。農家が対象で、販売しない家庭菜園レベルであれば問題はないということです。そしてこれは国内法であるということ。海外への流出はまた別の条約で決められているということです。さらに、品種登録は企業が行ったものもありますし、それから我々の税金が使われた「県」などの公共機関が登録したもの」と両方があるということです」

 なるほど。実にわかりやすいし、安心もできる。素晴らしい補足解説だ。どこか残っていた隔靴掻痒感もすっきりした。とはいえ、このくだりを聞いていて、同時になんとも言えない不快感が残ったのは、ナチス勃興期の マルティン・ニーメラー(1892〜1984年)牧師の以下の有名なフレーズを思い出したからだ。

Martin-Niemöller.jpg「ナチが共産主義者を襲ったとき自分はやや不安になった。けれども、結局自分は共産主義者でなかったので何もしなかった。それからナチは社会主義者を攻撃した。自分の不安はやや増大した。けれども自分は依然として社会主義者ではなかつた。そこでやはり何もしなかった(略)。それからナチは教会を攻撃した。そうして自分はまさに教会の人間であつた。そこで自分は何事かをした。しかし、そのときにはすでに手遅れであった」
丸山眞男訳、「現代における人間と政治」(1961年より)

 私なりにコピペをしてみよう。

「自家採種が禁じられると農業新聞に記事がでたとき自分はやや不安になった。けれども、自分は何もしなかった。それから、農家が声をあげなかったため自家採種の権利が奪われると聞いた。自分の不安はやや増大した。けれども自分は農家ではないし、『家庭菜園では大丈夫』と聞いていたのでやはり何もしなかった(略)。それから自家採種したタネの種苗交換会を開いていた友人が投獄された。自分の家庭菜園のタネはこの交換会からもらっていた。そこでやっとこれが他人事ではないとわかった。けれども、そのときにはすでに手遅れであった」

いのちを特許化するのか贈与するのかという思想戦の時代

 久保アナウンサーはまた別の50代の男性からのメッセージを伝える。

「植物が種を残すことは自然の摂理であり、それを利用して農業をすることは農民、農家の基本的人権だと思っていました。さらにどんな影響が出ようとしているのか、私たちの生活は心配ないのか。世界の動きはどうなのか。続けて番組で取り上げて欲しい」

 生田アナウンサーは「こちらのご意見に対しても、再び印鑰さんの考えをお聞きしました」ということで、印鑰智哉氏が再登場する。

「種を開発した企業の権利がどんどん主張されていく中で、一方で農家の権利。これもそれにあわせて認めていくことをやっていかないとおかしいと思うんです。EUでは有機農業がもう爆発的に増えていまして、有機農業をさらに発展させようと。ドイツでは3倍にしようという意欲的な施策を取っています。その有機農業を伸ばすためには農家の種を生かさなければだめだということになりまして、今年の4月にEUはその施策を2021年から農家に種の売買を認めさせるという決定をしています。その意味でも制限するということだけでなく農家の種の権利を守ろうということも世界で動いていますので、日本も本当はそちらのほうもしっかりやっていくべきだと僕は思います。例えば、在来種保護法とかね。そういったものを作って自家採種の権利、種苗法が扱わない種をとる、農家が持っている権利をそういったものを保障するような法律が僕は作っていくべきではないかなと思っています」

 この印鑰氏の発言はやや難しい。けれども、生田アナウンサーがわかりやすくこう続けて解説をしてくれていた。

Akiko-Ikuta.jpg「科学技術や医療技術が進歩する中で、今世界では食をめぐって2つの考え方がせめぎあっていると言われています。ひとつ目は、食材も種も苗も医療もセットでビジネスにして「知的財産」にしていこうという考え方です。今日、ご紹介した種苗法のお話、そして、遺伝子組み換えの作物はこちらにあたると言われています。

 もうひとつは、人間も地球上の、ひとつの生き物である以上は、気候や風土を無視して生きられないという考え方です。有機農業ですとかアグロエコロジーという環境に配慮した農業はこちらの考え方になります。種子も「ある企業」の知的財産ではなく、みんなのもので特許化できないという考え方なんですね。種子を知的財産権としてとらえるか、それとも農家や、もしくは人類の共有財産として育んでいくか、両方のバランスが必要なのではないかと思います」

編集後記

 生田アナウンサーのバランス感覚には共感できるものがあるし、「アグロエコロジ―」という言葉は海外ではメジャーだが、日本のラジオで登場するのは初めでではあるまいか。なお、この放送はすでに終わっているが、7月15日(日)まではこのサイトで聞くことができる。なお、パソコンのブラウザCookie を有効にしないと聞けないことがあるのでご注意を。

 ちなみに、姉妹ブログ、アグエコ堂の2008年7月1日付の「三つの幸せ~情報発信とタネと贈与経済」でも書いたが、まさに声をあげなければならなければ大変なことになるし、逆に口コミでこうした情報を伝えることが、庶民が唯一できるレジスタンスだ。日本国中央政府の「パブリックコメント」は有名無実化していると印鑰智哉氏は憂えるが、SBCのような民間企業であれば、リスナーからの反響があればあるほど、こうした番組が続いていくことにつながるだろう。良い番組であれば誉める。碌でもない番組であれば叩く。さらに、報じるべき情報を報じなければ「何をしておる。しっかりせいっ。社会の木鐸としての矜持を忘れたか」と気合いを入れる。こうしたことが本当に必要な時代だと思う。

 なお、Nagano農と食の会の吉田百助氏が種子法廃止や種苗法改正の問題点についてわかりやすくまとめている。ご関心ある方は以下のリンク先からPDFファイルでダウンロードしていただきたい。
(2018年7月12日投稿)

【画像】
久保正彰アナウンサーの画像はこのサイトより
生田明子アナウンサーの画像はこのサイトより
印鑰智哉氏の画像はこのサイトより
フリードリヒ・グスタフ・マルティン・ニーメラー(Friedrich Gustav Emil Martin Niemöller)牧師の画像なこのサイトより
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2018年07月01日

続・韓国の在来種子復興運動

近代農業の問題点〜工業化による暮らしの破壊をジェンダーから見る

飢餓は配分の問題であるため食料増産は不要

 GMOや改良品種は高収量とみなされている。けれども、それ以前に、食料増産が必要だとされてきたパラダイムそのものが崩れている。人々が飢饉で苦しんでいるのは、食料が不足しているという「量」に問題があるのではなく「配分」が原因であることがわかっている。事実、1960年代から世界の穀物生産量は3倍に増えたが世界人口は2倍しか増えていない(GRAIN, 2008)。

 おまけに、産業型農業は、水を過剰使用し、化学肥料や農薬によって土壌を劣化させ、生物多様性を減少させる。さらに、産業型農場だけを見れば生産性はあがっているかもしれないが、農業の産業化によって離農した農家の社会経済的な損失はその計算には加味されない(3p16)

自然や暮らしと一体となった農業から工業的農業へ

 過去の伝統的な自給的農業は自然環境から切り離されてはいなかった。女性百姓も自然と有機的な関係を持ち、土壌や作物をケアしてきた。例えば、彼女たちは特定の予定を建てず、気候や作物に応じて農業をしていた。夏は忙しいものの冬は休んだ(3p10)。気候や収穫条件によって別の仕事をしてきた(3p6)。しかし、産業型農業では収益をあげる資源と自然をみなす。施設化を進め、通年で生産を行うようになった(3p9)

 また、伝統社会では、栄養や文化的なニーズによって様々な作物や家畜が飼育されてきた(3p8)。また、過去の自給的農業では、食べ物は、衣類、住宅、家事労働と複雑に関連していた。醤油、豆腐と餅を作るために様々なマメが栽培された。また、あるモロコシは食用だったが別のモロコシはほうきの製造用だった。そして、労働は複数の仕事が組み合わさり別々に切り離せなかった。例えば、食事の支度で野菜畑に行けば除草と同時に家畜に餌もやった(3p6)。また、苧麻(ラミー=hansanmosi)で服を作るため、4月に麻の実を播種し、7月に葉を収穫し、自分たちのスキルと知で布を織っていた。しかし、近代化のプロセスで農業社会から都会化された産業社会へ移行するなかで人々はこうしたスキルを失っていく。衣食住が一体となっていた複雑な家事労働は農業から切り離される(3p7)

 近代農業が目標とするのは、利益を確保するための農業生産である(3p6)。農業労働は、金銭的な付加価値を作るための換金作物の生産となり、暮らしと農業労働が切り離されることで、在来種子を含めた伝統的な在来知は、その価値を低下させ役に立たないものとなった。Harry Bravermanは『Labor and Monopoly』(1974)で、近代化テクノロジー発展に伴い在来のスキルを喪失した結果、労働者たちはますますルーチン化し断片化した仕事をするようになったと指摘するが、脱スキル化は農業においても進んでいたのである(3p7)

公共財として共有されてきた種子の商品化

 かつて、農民にとって種子は極めて貴重だった。種子は農業の起源そのものであり、翌年に農業を始めるための貴重な資源なのである。一人の年老いた韓国人は言う。「百姓は死ぬほど飢えたとしても種を決して食べたりはしない」(3p10)

 在来種子での農業に失敗すれば翌年には農業ができない。また、種子の収集に成功しても翌年までそれを保存することが重要だった(3p8)。そこで、最高の種子を選び、次の植え付けシーズンまで保存することが大切で(3p10)、百姓たちは、種子・労働・知識をともにわかちあうことで、地元コミュニティとともに自分たちの農業を維持してきた。良い種子や役立つスキルは、コミュニティ内での長年の経験から生まれてきたことから、公有財産の性格を帯びていた。このため、種子はコミュニティ住民の全員の中でわかちあわれ、次世代へと継承されてきた(3p8)。けれども、現在の工業化された農業は、マニュアルとパンフレットによってなされ、農業機械、ハイブリッド種子、化学肥料といった農業資材はグローバルな企業から購入されている(3p7,3p8)。このこともあって、自分自身で種子を管理することに対するインセンティブは失われている(3p7)

 また、韓国でも伝統的な農村は、自然環境に基づく村落共同体によって維持されてきた。協働グループ「ドゥレ(dure)」での労働交換を通じて協働してきた。しかし、今ではコミュニティとの協力がなく、個々に政府やグローバルな企業と関係を持っている。したがって、在来種子で農業をするためには地元コミュニティと有機的な人間関係があることが本質的なのである(3p8)

女性という視点~種子を守ってきたのは女性

 種子と関係した労働でのジェンダー的な役割分担は世界各地の数多くの国に見出せる(3p11)。工業型農業が始まる以前の社会では伝統的に種子を保全・管理してきたのは女性たちであった(3p5,3p12)。それどころか、Sheila Lewenhakの『Women and Work』(1980)によれば、女性たちは紀元前から種子の守り手だったことがわかる(3p12)。種子の保全や育種と関連した知識やスキルは女性たちが持つ専門知識であった。種子の経済は、女性の経済であった。女性たちは、穀物の格納や種子の保存によって、文化遺産も管理してきた。Vandana Shivaによれば、ネパールの農村では、60.4%のケースで女性だけがどの種子を使うかを決めており、男性が決めているのはわずか20.7%にすぎない。種子選抜は女性の責任なのである(3p5)

 韓国でなされた女性百姓に関する研究でも、種子を収集・育種・保存をしてきたのは女性たちであった(Joosook Kim, 1981: 54-55)(3p12)。韓国も近代化する以前は農業社会であって、女性たちのほとんどは百姓で、コミュニティや家族とともにエコロジー的な自然循環の下で暮らしていた。コミュニティの文化や自然環境に応じて、衣食住を満たすための様々な知やスキルが求められ、その知を育んで来た。そのうえ、父権的な儒教文化のため、食料を確保する農業を含め、あらゆる家事労働を引き受けてきた(3p6)

 種子と関連する作業のほとんどは、女性たちが働く場、菜園、裏庭、台所等でなされ、かつ、それらは料理、衣服、住宅とも関連する複雑な労働である(3p11)

 横城郡の女性百姓活動家、Han Young Meeさん(43歳)は、種子はとても小さく、男性にはとてもそれをきちんと管理したり保全できないと主張する。女性は、それらを選抜する際により慎重である。ある種子は台所に置かれ、昆虫駆除剤として燃やされた。これは、自然に女性の仕事になっていた。そこで、女性が種子を保全するようになったのは、女性が家事労働を担ってきたことと関連していると言う(3p11)

 種子は女性百姓が選び管理してきた。播種から収穫、保全までの各プロセスで必要とされる知識の多くはジェンダー化され、母や義母から娘、そして息子の妻へと世代間を伝承されてきた(3p8)。すなわち、種子について在来の知識は、女性百姓の経験に体現化され継承されてきた(3p11)

女性農民協会が在来種子を重視するわけ

なぜ女性農民協会は在来種子に着目したのか

 韓国における食料主権運動をリードする韓国女性農民協会は1989年に創立された。各地域で何百人もの女性農民グループを抱え、その活動は着実に広がっている(7)。全国各地の15以上の都市と8道で活動し(3p4,7)。在来種子を集め、高齢女性の在来の知識を記録し(3p4)、種子フェスティバルを組織し、百姓たちの種子の権利に関する情報を出版して配信している(3p4,7)。うち、傑出した活動が二つある。コミュニティにおける種子農場と農民たちが所有する協同組合「お姉さん菜園」である(7)

201209150114.jpg 在来種子保全運動そのものは、帰農運動全国本部、ハクサリムといった様々なグループが展開している。全国的に在来種子の保全と交換を行うため(3p3)、2007年には全国的に推進され「種子ネットワーク」が確立され(2)、6000人以上の個人がネットワークに参加し(3p3)、集められた在来種は「1-家庭-1在来種」を通して配布されている(2)。うち、とりわけ韓国女性農民協会が、在来種子の保全を食料主権運動の柱として重点をおいて担っていると言える(3p2,3p3)

Hyo-Jeong-Kim.jpg Hyo Jeong Kimは、梨花女子大で働く、フェミニストの研究者で、多国籍活動(transnational)、ソーシャルエコノミー、食料主権、アジアのアグロエコロジーを研究しているが、「食料主権:決定的な対話」「種子の経済は女性の経済だった」において、女性農民協会の柱となるイニシアティブが、在来種子の維持を通して女性農民たちをエンパワーすることだと指摘する(6)

 それでは、なぜ、女性農民協会は在来種子にこだわるのだろうか。それは、メンバーで産業型農業を学んできた何人かの若い女性百姓が、種子や肥料等、投入資材を絶えず購入しなければならないことを疑問視したことから種子保全に着目したからだった(7)

種子消失とGMOの危険性

 韓国では2012年以降、新品種保護のための国際連盟規則(UPOV)が効力を有するようになっている。種子に知的所有権が科せられれば、多国籍種子企業は利するものの自分自身で種子をコントロールする農民たちの能力は脅かされる(5)。UPOVの施行で脅かされる百姓の種子の権利を守るため、女性農民協会は本も出版している(3p4)

 また、韓国は、食用遺伝子組み換え作物の世界最大の輸入国のひとつでもあるのだが、現在の政府は、韓国人にとって最も大切な主食の米を含めて、遺伝子組み換え作物を生産・販売しようとしている(7)。女性農民協会のメンバーで、米、プラム、緑豆、ニンニクを栽培するJung-mee Hanさんはこう嘆く。

「私たちの多くの在来種がシンジェンタやモンサントによって買い取られたり奪われています。韓国にはもう全国的な種苗会社は残されていないのです」(4)

 食べ物は人間の権利ではなくなり、むしろ商品とみなされている(6)。女性農民協会のメンバー、Jeong-Yeol Kimさんは、こう語る。

「いま、資本主義で売られている食べ物は、私たちを支える食べ物ではなく、商品として売られているものなのです」(4)

マメからスタートした在来種子復興運動

201209150102.jpg 在来種子の保全は、反GMOネットワークの環境活動家が江原道横城郡にある女性農民協会の活動家と2004年に在来種子を栽培しようとしたことに端を発する(3p3,7)。在来種子を用いた伝統農業は、産業型農業とは異なり、地元の自然環境を考慮する。つまり、在来種子の保全運動は反GMO運動として始まった(3p5,3p16)。彼女たちが最初に栽培しようと決めたのはマメだった。韓国の歴史を通して重要な役割を果たしてきた作目だからである(7)。にもかかわらず在来のマメを見つけ出すことは困難だった。最終的に彼女たちは、反GMO韓国ネットワークの活動家から種子を入手する。その知人が国立農業協同組合財団の種子バンクにアクセスしたのだった(3p3,7)

 こうして各メンバーは栽培用に3粒のマメを受け取る。けれども、ただ一人を除いて全員が栽培に失敗した(3p3,7)。女性農民協会のメンバーたちは都市から新規就農したのだが、産業型農業の知識しか持っておらず、播種、栽培、収集のスキルを欠いていた(3p3,3p16)。有機農業を行う農家でさえ、種子から肥料まであらゆる資材を購入していたため、在来種子で栽培するノウハウを知らなかった(3p4)

 ただ一人成功したのは60歳を越す横城郡の女性百姓だった。彼女は3粒の在来マメから600gの収量を得た(3p3)。彼女はマメを育てるのに必要な知識やスキルを手にしたオンリーワンだった。協会の活動家にとって、これは決定的な瞬間となった(7)。女性農民協会の若い活動家は、高齢世代と知識やスキルをわかちあうことが在来種子運動を構築する鍵であることを理解したのだ(3p3,3p13,7)。産業型農業しかなじみがない若い世代には高齢世代の女性百姓から知識が伝承されることが必要だったのだ(6)

在来種子と知の再評価

高齢女性と知識をわかちあうことの大切さ

 かくして、若き女性活動家たちは、運動を通して産まれて初めて在来種子での農業を経験することになった。それはキャリアを積んだベテラン農家にとっても容易なことではなかった。例えば、江原道横城郡の活動家、Han Young Meeさんは、20年以上もの農業経験があるが、慣れ親しんで来た工業型農業とはまったく違うと語る。彼女は高齢の女性百姓と同じように種子を保存しようとしてみたが動物の食害を受け失敗した。種子管理ひとつとってもそこには知識やノウハウが必要だった(3p12)

 慶尚南道咸安郡のKim Mee Kyoung(36歳)さんも、在来種子での農業は栽培の方法も種子の選抜のやり方も保全の仕方もまったく違い、習得することは難しいと語る。

「私たちは養豚やレタス栽培といったモノカルチャー農業では専門家でした。ですが、在来種子では初心者だったのです」(3p12)

 それ以来、協会の活動家は、在来種子運動を構築していく(7)。そして、協会が在来種子を見つけ出すための探索活動を始めた結果、在来種子の実に90%が女性たちによって維持されていることが判明する(5)。こうした女性たちのほとんどは、現在60才以上であるため、おばあさん(ハルモニ=hal-mo-ni)として知られているのだが(7)、ハルモニたちはただ種子を保全しているだけでなく、その種子をどのように播種し、栽培し、収穫し、保全するのかの知識やスキルも持っていた(5,7)。衣服や家の作り方は、もちろん、食品を加工し保存するやり方も知っていた(7)

弱さの強さ~マージナライズされたからこそ残された知

 韓国女性農民協会は女性たちの在来知識を食料主権運動の柱として再評価しているのだが、それは自給するためには彼女たちの知識が不可欠だからである。ここに奇妙な皮肉がある。農業社会から産業社会へと急速に転換したことから、女性百姓の知識や自給農業はずっと低く評価されてきた(3p2,3p3)

 在来の知識やスキルは40年もの近代化の中で失われてきた。けれども、小規模で60歳以上の高齢女性、ハルモニは、資本不足や伝統的なジェンダー的な差別、男尊女卑によって政府が推進する近代化のプログラムから排除されてきた(3p5,3p6,3p16)。例えば、農村地帯の女性住民は51.4%を占め、43.9%が60歳以上だが、女性農民の78.7%は土地を持たない(3p6)。資本や土地といった経済的な権利がほとんど手にできないうえ、資本主義的な市場では在来農産物は評価されない。このため、ハルモニたちは自分たちの農産物を売ることができず、自給農業生産者のままにとどまっていた(3p6,3p16)。近代農業は在来種子を抹消しようとしてきたにもかかわらず(6)、多くの女性たちが在来農業での自給の実践にしがみついてきたために(6,7)、結果として、伝統農業と在来種が保全されることになったのだった(3p5,3p16)

普遍的に教育される近代知からローカルに伝承されてきた知の再評価へ

 近代社会においては、スキルや知識は教育を通して学ばれている(3p8)。とりわけ、緑の革命に基づく高収量のための産業型農業では、標準化された科学的な専門知識やスキルが提供される(3p11)。こうした知は、主に男性の権威者が実施する西洋科学の客観性と中立性という価値文脈を持つ(3p8,3p11)

 これに対して、ハルモニたちは自然環境に基づく在来の経験知とスキルで農業をしてきた(3p11)。彼女たちのほとんどは教育を受けておらず文盲だが、自然環境の言語を知っていた(3p2,3p11)。慶尚北道星州郡の活動家、Yoon Keum Soonさんはこう言う(7)

「女性百姓には種子の育種では学位は授与されていません。ですが、彼女たちは専門家なのです」(3p11,7)

 50~80代の高齢世代のハルモニたちは日本の統治下や朝鮮戦争の中を生き抜き、50~70年以上も在来種子を用いてずっと小規模な農業をしてきた(3p2)。ハルモニたちは、科学的なツールや機械によって、作付けにふさわしい時期、天候、土壌を知るのではなく、視力と本能で気候や土壌に応じて、様々な作物を播種し、管理し収穫してきた。たとえそれが記録されず出版されず科学的な客観性によって裏付けられていないとしても、それは専門的でスキルのある知であった。ハルモニたちの知識は科学的なバックグラウンドに基づいていた(3p11)。良い種子を選び、最も適切な播種期を見極め、異種交配を妨ぎ、雑草管理や他の作物との混作についても、深い知識やスキルを兼ね備えていた(3p12)。こうした伝統知は、コミュニティや料理と一体となっていた。記録されたり印刷されてはいない経験知やスキルというカタチで地元コミュニティの小規模な農地や生活の中に埋め込まれ、コミュニティ文化や家族を介してわかちあわれ前世代から伝承されてきた(3p8,3p12)。すなわち、知識と種子は、ローカルな気候、土壌と自然環境とともにローカル化されていた(3p8)。そして、その実践は生物多様性に根ざしていた。在来農業の実践を続けることで、アグロエコシステムを管理し、複雑な複合文化も守ってきた(7)。在来種子を栽培するハルモニたちは環境活動家ではなかったが、彼女たちの暮らしぶりはエコロジー的な循環と生物多様性に根ざしていた(3p11)

 選抜された種子もローカルな気候や土壌に適応しており、数多の世代のハルモニたちの知、スキル、ノウハウが含まれていた(3p11)。ハルモニたちの種子は、文化的なヘリテージであるとともに、伝統的な知識、安全な食べ物、そして、遺伝資源の安全な保管を象徴的に意味していた(7)

Pilwha-Chang.jpg ローカルな文化や自然のエコロジー的な循環に基づく女性百姓の在来の知識は、金銭の価値と生産性の面で価値を下げられていた。金銭を稼ぐために大量生産を狙う現在の慣行農業環境下においては、女性百姓の在来知は、経済意味を持たない(3p14)。また、梨花女性大のPilwha Chang教授は、女性百姓が生物多様性や種子を保全してきたとしても、父権的な社会では部外者でならざるを得ず、女性の知や労働は非知識と非労働者として扱われてきたと指摘する(3p11)

種子企業から女性へとパワーを移す

 女性農民協会はハルモニたちから、在来種子とその知恵を見出すためフィールド調査を行うが、これは、新規就農して協会に加わり、2009年から在来種子を使った農業を始めた30~50代の若き女性百姓の活動家たちが、高齢の女性百姓と出会い、互いに学ぶ機会となった(3p2,3p4)。それだけではない。若い世代と高齢世代とが交流することによって、高齢世代は自分たちの人生経験や知識を若者とわかちあうことができた。一緒になれば、農民たちは農業や料理についての知識をわかちあう。そして、それによって互いから学ぶ(7)

 活動家たちは、韓国社会において女性農民たちの貴重な役割を「より見える化」する必要を認めた。彼女たちは、在来種子を集めて増やすことを通して、伝統的な作物種を復活させるため、種子と育種についての女性たちの知識を使うことにその仕事を集中させることを決めた(7)。農業において、再び種子の維持にプライオリティーをおくことは、女性の知識や本能にプライオリティーをおくことを意味し、それは、パワーを種子企業から女性へと移すことを意味する(6)。女性農民協会のこの取り組みは、「種子を供給することは企業の仕事でなく、すべての農民の権利だ」との原則に基づく(5)

 若い世代との交流によって、これまで過小評価され、近代化のプロセスで資本化された市場経済システムから除外されてきた女性百姓の役割や価値を再考することが可能となったのである(3p5)

生物多様性を守ってきたのも女性

 農業生物多様性の保全でも女性が重要で欠かせないことが世界各地で指摘されている。インドでもスリランカでも在来種子を復活しコミュニティ種子バンクを設立しているのは女性である(3p9)。生物多様性についての知は女性の知識であったが、その生物多様性が失われることは、女性の知やその知と関連したパワーが失われることと表裏一体であった。モノカルチャー農業が推進されることによって、フードシステムでの女性の仕事や力も衰えたのであった(Shiva, Vandana, 2010)(3p11)

「構成主義(constructionism)」は、社会制度の中でジェンダー的な役割が作られたと考える。一方、「本質主義(essentialism)」は、母性を持つ女性は生物的にもともと種子保全に適していると考える。両者の見解は対立する(3p11)

 しかし、韓国においては、若い女性百姓の活動家たちは、前者の「本質主義」を重視することによって、種子の守り手としての自分たちの役割を力づけていった。「菜園や農地は女性の職場である」と主張し、ジェンダー的な労働の分割ではなく、子育てに優れた女性のエコロジー的な感受性から、女性の方が種子保全に向いていると主張した(3p11)。こうしたことは、家族をケアし子ども産むのが女性であることから容易に理解できる(3p12)

 例えば、全羅南道星州郡のYoon Keum Soonさん(50歳)は、女性の母性はエコロジー的な感受性と関係し、これが女性たちが在来種子の保存運動に参加している理由だと説明する(3p11)

 ほとんどの若い女性の百姓は種子を保全し選抜するノウハウを知らなかったし、それに興味を持っていなかった。しかし、彼女たちが種子を選抜しようと試みたとき、いかにして、それをどのようにするのかを知ることになる。こうした女性のケア労働や母性は、運動における女性百姓のポジティブなアイデンティティになることができたのだった。フードシステムにおける女性たちの仕事は、彼女たちの知とスキルに基づき、それは、彼女たちの食料主権の行使なのである(Shiva, Vandana, 2010)(3p11)。このことは、女性の在来の知識が持続可能な農業や食料主権にとってどれほど重要な要素であるのかの好事例である(7)

父権社会と女性たちのエンパワー

 同時に、若い世代の女性百姓たちは、伝統農業において女性のためだとされてきた役割に対して疑問を呈していく。種子の主権は、食料主権の重要な要素だが、女性協会はジェンダーの公正のため、ネオリベラリズムだけでなく家長制度の有害な力とも挑戦している(5)

 韓国が父権社会である。このため、女性たちの多くは、資本や土地資源にアクセスできない。女性たちは、フォーマルな経済的社会的政策を形づくる際でもマージナライズされている。そこで、政府による韓国農業の近代化の影響を、とりわけ、被ったのは女性たちであった(7)

 在来種子の維持は、農場労働の伝統的な分担の結果、女性たちの責任だった。したがって、在来種子やその作物は、女性百姓の知識やスキルを表してもいた。その知識を無視することは農場における女性の役割を消去することにある。

 農業近代化によって、女性の在来種子に対するスキルや知識が失われることは、ただ専門知識が失われるだけでなく、女性たちの尊厳が失われることでもあった(6)。すなわち、農業の『近代化』は、農業から女性たちを排除することにつながった(7)

 食料主権に関する既存研究は、小規模農民や種子には着目しながらジェンダーの視点を欠いていた。とはいえ、食料主権では、食料生産での女性の役割がますます重視されている。女性の視点での食料生産や消費モデルが求められるのだ。ビア・カンペシーナによる2007年の「百姓、男女の権利宣言」でも食料主権がグローバルなアグリフードシステムでの男女平等に大きな変化をもたらすことを強調した(3p3)

在来種子の知識を記録・保全する

 協会は、種子を収集し、コミュニティでハルモニたちから土着の知識を記録することから始めた。とはいえ、多くの理由から在来種子農業を実践に移すことは容易ではなかった。長年の農業経験があってさえも、まだ学ぶべきことが多くあった。それぞれの作物毎に異なる栽培、選抜、保存法が必要だからだ(7)

 知識や経験がなければ、在来種子での農業はできない。鬱陵島の知人から桃色のジャガイモの在来種を得た横城郡の百姓、Han Young Meeさん(43歳)は、20年以上もの近代農業での経験があるジャガイモ栽培の専門家だったが、土着のジャガイモの栽培方法を知らなかったために失敗した(3p13,7)

「横城郡の地元のコミュニティと共有したのですが、ジャガイモの芽がとても弱く失敗しました。何がよくないのかわかりませんでした」(3p13)

 在来種子で栽培するには、ローカルな気候や土壌を理解する複雑な専門的なスキルが必要なのである(3p13,7)

 こうした問題を解決するために、協会はハルモニとともに指導者プログラムを作成する。ほとんどの村にはかなりの数で若い女性農民と高齢の女性農民がいることからこのことは容易であった。協会の支援によって、多くの農民が在来種子での農業が実践できるように、彼女たちは自分たちの教訓を文書化した。例えば、鬱陵島の女性農民協会は、ハルモニの農法や様々な在来種子の保全方法についての本を出版している(7)

在来種子の復活

2008年種子農場の誕生

201209150123.jpg 在来種を手にして、韓国女性農民協会は、南北朝鮮の農民たちの間で、保護し分配する様々な計画を確立していく。2008年以降、いくつかの種子農場が確立された(5)

 例えば、慶尚北道の中部にある義城郡の小さな村で協会のメンバーたちは在来種子を企業の乗っ取りから守る在来種保護プログラムを立ち上げる。

「私たち全員は別の作物を耕作しています」と義城郡での運動のJeong-mi Kim代表は言う。

「自分で全部の種子を引き受けることができなかったので、各メンバーがいくつかの作物を保存して、栽培する役割を果たしているのです」(4)

種を手にする余裕がない低収入の農民に種子は配布されている。

「私たちは種を保存してはいません」

「我々は種を農民の間で追跡していて、モニターしていて、分配しています。そして、全国的に、我々は在来農業の消費を増やすために売ります。」とJeong-mi Kim代表は説明する(4)

 それは現場保全(in-situ conservation)の目的にかなっている。そこでは、種子バンクで凍らせたものとは対照的に、種子は生きた環境で保存される。ここから、種子は農民に配布される(5)

 協会は、「他の農民から学び、自分自身で種子を複製することによってのみ種子を保全することができる」と断言する(5)

201209150124.jpg 2009年以来、韓国女性農民協会は、全国各地で20以上の在来種子生産農場を運営している。このうち地方政府の開発機関から支援を受けているのはわずか3つである。そして、ほとんどは女性グループによって協同管理され、彼女たちは集団としてその仕事をわかちあっている(3p13,7)

 例えば、横城郡は山村であるため、農地が矮小である。そこで女性百姓はトウモロコシとダイズとゴマを間作してきた(3p8)

「ですから、私たちは狭い土地を効果的に使おうとします。どれだけ土地が狭くても問題はありません。私たちはいつも様々な作物を植えようとします。菜園ではトウモロコシの間にダイズとゴマの苗を植えます。7~8月にトウモロコシが収穫されると穂軸は牛の餌となり(3p9)、9~10月にはその土地は徐々にダイズとゴマ畑に変わります。水田の周囲にもダイズとゴマを植え、その間作が地元のレタスと唐辛子なのです」(3p9,3p10,7)

 実はこうした農法の方がモノカルチャーよりも地力が強化される(3p10)。もともと在来種子は遺伝的な多様性が大きく低投入型農業に適応していた。このため、有機農業にとっても重要である(3p15)。在来種子は改良品種よりも病害虫耐性があり、かつ、さらに、気候変動にも強い。結果として、在来種子の方がレジリアンスがある。かつ、収量も遜色がない(3p16)。韓国の女性百姓の活動家によれば、在来農産物でも収量はさほど低下しないという(3p15)

労働負担の問題を結の精神の復興で克服する

201209150133.jpg このように韓国女性農民協会は、在来種子の保全運動を通して、種子の守り手としての女性農民の役割や価値を回復しようとしているが、伝統農業が抱えるもうひとつの課題は、女性の側の過剰労働を必要とすることである。韓国における女性百姓の労働率は2007年で50%以上(168万人)で(Statistic Korea, 2008)、現状でも女性に多くの負担がかかっていることを意味する。この状況で、彼女たちは、さらに在来種子農業について学びそれを栽培するためさらに多くの時間を費やさなければならない(3p13)。しかも、有機農業と同じく在来種子農業は慣行農業に比べて多くの労働力を必要とする(3p14)

 慶尚南道咸安郡では、女性百姓たちのグループが、わずか0.2㏊の土地で30もの様々な作物を共有で管理している(3p13,7)。しかし、彼女たちが直面したひとつの現実的な問題は、種子農場の管理のために割ける時間がないということであった(7)。彼女たちは同じ郡内でも別々の地区に住んでいるため、何人かは家から圃場まで車で40分もかかる。家族の世話や農繁期の自分畑仕事を考えればこれはかなりの負担であれう(3p13)

 咸安郡で無農薬トマトを施設栽培しているHan Seung Ah(41歳)さんは、家族と対立したと語る。施設農業の性質上、夫と交代で温度管理をし、3人の子どもの面倒もみなければならない。毎朝、デイケアや学校に子どもを降ろし、夕方には迎えに行く。自分の農場管理がおろそかとなり夫と喧嘩した(3p14)。育児や農場の仕事を抱えたまま、コミュニティ農場で働くことが現実的に難しいと語る(7)。コミュニティ農場の近くに住む別の活動家は、家が近いために他のメンバーよりも多くの負担がかかっていた(3p14)

 全羅南道星州郡のYoon Keum Soon(50 歳)さんもこう語る。

「ですから、コミュニティ農場で働くことで夫と何度も喧嘩をしました。私が自分たちの家族農場を無視することを夫は憎むのです」(3p13,7)

 しかも、在来種子農業は金を稼ぐことが目的にはなっていない。このため、女性の活動家たちは、コミュニティ圃場の維持をめぐって家族といさかいになることが多かった(3p14)。つまり、在来種子農業は、主に女性の労働力によって達成され、すでに重い女性の作業負担にさらに負担をかけている(3p16)

 だが、Yoon Keum Soonさんはこうも続ける。

201209150112.jpg「実際には、それは重荷というよりも注意深い仕事です。種子の作業はとても変化に富み複雑であるので、それは労働力や時間を増やしていません。在来種子を栽培することは大規模農業ではなく小規模農業を選ぶことを意味します(3p14)

 コミュニティ農場が貴重で価値あることは、現実の経験から明白である。そして、コミュニティのサポートがなければ、翌年の植える種子を得ることはほとんど不可能だ。かつて、百姓たちは、種子、労働、知識、スキルをわかちあうことで、地元コミュニティとして農業を維持してきた。種子はコミュニティ・メンバー全員が手にし、公有財産の性格をもっていた。コミュニティ種子農場は、このタイプのわかちあいを復活させているのである(7)

都市と農村の交流

消費者意識が変わらなければ販売が困難

 横城郡の女性百姓活動家、Jung Eun Jinさんは、2006年から在来のマメや雑穀を栽培してきた。在来種子で育てた有機農産物は美味しかったが、小さく高収量農産物と比べて消費者にもなじみがなく、販売が困難だった。韓国人は小さな農産物を好まず、大きくてカラフルな穀物や野菜を好む。

 市場では規格化された農産物や経済効率性が求められる。おまけに、既存の市場は需要中心である。消費者たちが画一化された味を求めるため、旬も考慮されない。これは消費者の嗜好を変えなければ、在来農産物を流通させることが難しいことを意味する。そこで、在来種子で栽培された農産品のほとんどは、ファーマーズ・マーケットやCSA等を通じて直販されている(3p15)

2009年農民たちの協同組合~お姉さん農場誕生

 農民協会のメンバーは、百姓たちの間だけでなく、百姓と消費者との間でも連帯を構築することの重要性を理解する。このため、立ち上げられたのが『おねえさん庭園CSA』である。それは、2009年からスタートしたが、2012年には雇用労働省からも支援を受け社会的企業として2人のスタッフに対して賃金を支払われている(3p5,4,7)。お姉さん菜園が目指す目標は、持続可能な有機農業、生物多様性の保護、在来種子の保存、農民の権利と多岐にわたるが(3p5)、狙いとしているのは女性百姓と消費者とをつなげることだ(6)

 有機農産物や他の自家製の製品を集団で生産し、消費者のドアへ、毎週、隔週、毎月にパッケージで届けるシステムである(4,6)。協会のウェブサイトでは、有機胡麻油や醤油も売られている(6)

 CSAは成功し、そして、毎週ボックスを1つのコミュニティに提供していたものから、15のコミュニティで100以上の家族に送り、韓国全域で2000世帯以上の家族に及び、200人の女性百姓が参加する協同組合へと組織は発展した(7)。例えば、以下、展開されている。江原道横城郡及び洪川郡、京畿道烏山市、全羅北道金堤市及び高敞郡、全羅南道順天市及び羅州市、慶尚北道尚州市及び安東市、慶尚南道咸安郡及び固城郡、済州特別自治道済州市及び西帰浦市である(3p16)。多くのCSAsは、他の成功に応じて急に伸びている(6)

 米国のNGOフード・ファーストが組織した視察に参加した米国のグループはこう体験を語る。

「我々はBongangの小さな村のお姉さん菜園を訪問した。それはCSAと同様のボックスで、ピクルスのラディッシュや西洋ナシ・ジュースをパックしていた(4)。女性協会は、現在、全国で26ものこうした生産者コミュニティを運営している(4,6)。我々が訪問した日には、ブルーバード・子どもセンターに141のボックスを梱包して送っていた(4)

 菜園は、コミュニティ農業や消費者とのミーティングを介して、消費者と生産者との連帯を構築しようと試みている(2)。例えば、産業型のフードシステムとは対照的に、そこでは、生産者と消費者とが直接コミュニケーションをし、作付けの決定や季節的な限界について学ぶ。消費者は季節の産物にアクセスできる他、在来種子農場でのボランティア活動やソウルで毎月開催される在来の農産物を活かした食材の調理コースに加わることで、韓国女性農協会の仕事にかかわっている(7)

お姉さん菜園のようなプロジェクトによって、百姓女性が自分たちの生産物の生産や販売のすべての面を決められることは、平等の権利や機会が欠如している農村女性をエンパワーする場を作り出している(4)。女性協会のウェブサイトからは「努力の結果、こうしたコミュニティの女性農民たちは、女性農民としての誇りをもち、より大きな社会的な認知を家庭や村で成し遂げた」とある(6)

消費者と連携し生産者の所得を確保する

 自由貿易とネオリベラリズムによって生計が破綻した農民たちのために、人間としての威厳ある収入を確保できるように、運動は消費者と生産者との失われた関係の修復を再優先させた(6)。とはいえ、利益を最適化することが目標となっているわけではない。むしろ、消費者と生産者とがわかちあうことがこのプロジェクトの哲学の中心にある。農村コミュニティの衰退を逆転させるため、経済的に実現可能で社会的に正当なシステムにできるだけ多くの人々を巻き込もうとしている。

 お姉さん菜園のJeong-Yeol Kimによれば、「私の姉さん菜園プロジェクト」は、農業貿易自由化の農村経済への破壊的な影響に応じて始まった。彼女はこう説明する(4)

「この危機の解決策は、小規模農民に重点をおいて、生き残ることができるように各々の農民たちに対してしっかりした基盤を与えることだと私たちは考えます。農民が成功するのを応援することが、食べものの危機を修復する唯一の方法だと信じています。そして、そのためには、消費者、あらゆる市民がこれを実現させるプロセスで私たちに加わることを確実にすることなのです」(7)

 お姉さん菜園は3500世帯に季節野菜、有機卵、豆腐等の伝統食を提供している。ボックス・スキームは家庭用約25ドル、1人用20ドルの二つがある。慣行の流通システムと異なり、消費者が生産者の決定にしたがうこと、季節的な限界を考慮し、旬の産物を受けとる(3p5)

 菜園には、約150人の女性農家が参加しているが、その3分の2が 60才以上である。韓国の平均月収は1700ドルだが(Statistics Korea, 2008)、女性農民の83.6%は月に400ドル以下の収入しか稼げていない (3p5)。けれども、メンバーとなった農民は、15の消費者家庭を得て、月に150万ウォン、約1400ドルを得られる。希望する消費者が増えれば、さらに多くの女性百姓が威厳ある収入を稼げるように新たな菜園が作られる(4)

 協同組合は女性百姓の経済的なエンパワーメントの成功ともみなされる。多くの女性たちは、インフォーマル経済で小規模生産者のままにとどまっているが、これがなければ、自分たちの農産物を売るための市場がなかった。生産者と消費者とをつなぐアプローチは、女性百姓の仕事に対して公平な保障を担保することにも役立っている(7)

消費者の意識をインスパイアし子どもたちに農業体験をさせる

201209140064.jpg 女性農民協会は種子フェスティバルも主催している。それは経験を共有し互いから学ぶ機会を農民だけでなく消費者にも与える。それは、種子や食料主権に関連した問題について消費者を教育する方法でもある(5)

 Jeong-Yeolはさらにこう語る。「いまの子どもたちには、農村とのつながりがありません。前世代とは違って、どのような形であれ農業とつながっていた農村に住む祖父母や親類が今日はもういないのです。ですから、このパートナーシップの取り組みの一部は、子どもたちに農業体験をさせることなのです」(4)

 都市住民もこうした農場を管理することを支援し、その見返りとして、子どもたちや大人が在来種子の大切さについて学べる場となっている(7)

 そして、食育を通じて在来種子の価値の回復や差別化も図られている(3p15)。ネットワークを通して都市消費者と協働しているサイトもあるが、こうした菜園では、子どもたち、若者、都市消費者に対して、在来種子の重要性を教育するための展示も組織化している(3p13)。また、例えば、「1万ウオン」の幸せは、市民の寄付が在来種子を栽培するために使われるプログラムだが、在来種が収穫と同時に市民に返され、消費者が在来種子運動に参加するのを奨励している。女性協会は消費者と情報交換をし続け、教育プログラムと実際の活動を通して参加型の運動を促進しているのである(2)

海外との交流でアグロエコロジー校の設立を目指す

20180701.jpg 在来種子保全運動を協同組合とつなぐ試みは、女性百姓の世代間交流を促進するだけでなく、志を同じくする東アジアの他国の組織との交流も進めることになる。その第一歩は、農民協会の女性百姓たちが、2015~2016年にかけて、タイランドのスリンのコミュニティ・アグロエコロジー財団やインドネシアのサリカット・ペタニのビア・カンペシーナのメンバー組織、アグロエコロジー校のメンバーと知識をわかちあうために訪れたときから始まった。女性協会の長期的な目標は、お姉さん菜園協同組合を通して、在来種子をさらに生産・販売し、世代間の交流をさらにサポートするためアグロエコロジー学校を立ち上げることである(7)

食料主権を軸に運動の拡大

 いま、韓国では、食べ物を題材として、農民運動と市民運動とがかなり恊働し、食料主権運動を広げるうえで良好な条件が創り出されている。韓国女性農民協会や韓国百姓連盟等、オルタナティブなアグリフード運動グループは、「食料主権」に基づき、食べ物に対する基本的な人権を認めさせようとしている。

 一見すれば、「食料安全保障」は望ましいことのように思える。しかし、食料供給をただ保障するだけであれば、それは、市場を介して世界を養うというネオリベラリズムの思想につながってしまう。事実、食料安全保障は農産物の自由貿易を推進するために利用されてきた。

 このため、ただ食料を確保するのみならず、食べ物に対する権利や人権を含めた「食料主権」の概念が提起された。FAOの食べ物に対する権利に関するリポート、食べ物の権利のための法律制定へのガイド(FAO2009)によれば、ベネズエラ、マリ、ボリビア、エクアドル、ニカラグアと5カ国の食料に関する法律において、この複雑な食料主権の概念が見出せるという。韓国における運動は、「食料安全保障概念」の限界を認識したうえでの国際的なトレンドと類似している。事実、ビア・カンペシーナに加わった後に、韓国女性協会は食料主権運動を促進することができている。食料主権に関して韓国人に対して行われたアンケート調査によれば、実に回答者の19.3%が食料主権を意識したり理解していたという。

 韓国での食料主権を認識する目標で、フードシステムのシフトを法制化するためのオルタナティブなアグリフード運動のために、農民と消費者が参加する大衆運動へとそれを変えるために、食料主権の概念に関して相互同意がなければならない。

 もちろん、現在のフードシステムを転換する必要性が認められた後も、食料主権を現実化するための社会的合意に達するにはかなりの努力が必要とされよう。

 また、包括的な食料主権の展望から、現実に韓国社会に適用できるアグリフードシステムのためのガイドラインや実施プランを確立することも必要である。 とはいえ、本物の食べ物のニーズを満たすという見地から、現在のアグリフードシステムを上回る様々なサクセス・ストーリーを韓国女性農民協会は実現している。食料主権賞を獲得したことはその努力の証である(2)

世界をインスパイアする抵抗

 韓国の農村の将来は見られないままである。自由貿易協定によって、輸出指向の韓国経済のコアを構成するハイテク商品に対するグローバルな需要を喚起すると主張されている。競争の激化は避けられない。

 とはいえ、歴史からは、韓国の農民たちが耐え忍び抵抗してきたことがわかる。中国、日本、ロシア、米国といった海外からの侵略者に対して韓国の産業の力を発達させ君主制の権力を強めるため重税を課した朝鮮王に対して1894年に百姓たちは竹槍で立ちあがった。伝説的な東学党の乱である。反乱は日本の助力で鎮圧されたが、農民たちは誰しもが平等という封建主義時代にはラディカルな哲学に影響されていた。そして、その思想は、すべての生きとし生けるものが守られるべきだとの哲学として今日の社会運動をインスパイアし続けている。

 ハンサリムや女性協会は、輸出市場を拡大するために農業を犠牲にした政策への反応である。韓国ではいま100万以上の世帯が今ハンサリムのような協同組合のメンバーである。それは、オルタナティブなフードシステムに対する人々の関心が高まっていることを意味する。

そして、それは競争だけが唯一の道でないことを実証している。「消費者と生産者はひとつである」との概念を強調することによって、こうした協同組合は別の経済が実現可能であることを示している(4)

 農民女性協会のプロジェクトは、ラディカルに韓国のフードシステムの構造を変え、消費者と生産者とのつながりを脱消費化(de-commodify)しようとしている(4)

 食料主権がある国へと韓国を再建することは、決して不可能ではない。ハンサリムのような協同組合や女性協会のような組織は本当の意味での食料主権を体現している。そこでは、地元市場のための地元生産にプライオリティーが与えられる。生産者、卸売業者、消費者のニーズと生計を優先させることが自分たちのフードシステムの中心となる(6)

 ローカルな知識と資源に基づきながら、マージナライズされた人々を支援し、環境を破壊する大規模な産業型農業に対抗し、グローバル化されたフード生産システムに起因する危機を解決し、自分たちのフードシステムを取り戻す世界的なリーダーとなっている。韓国の百姓は、愛とケアをもって持続可能に作物を育て、これは私のものだと本当に言うことができる食物システムを取り戻している(6)

 韓国の民間伝承では、緑豆(nokdu)は、農民のレジリアンスの精神的なシンボルである。最も厳しい条件でも緑豆は芽を出して育ち、飢えた者を養う。農村を衰退させ、百姓たちの暮らしを組織的に蝕む国内外の企業貿易体制(corporate trade regimes)の厳しい政策に直面する中でも、韓国の農民や百姓たちは、もう一つの経済、フードシステムが可能であることを示すことで、韓国人のみならず、全世界の市民をインスパイアしているのである(4)

【用語】
ハルモニ(hal-mo-ni)
儒教(Confucian culture)
百姓の権利宣言(The Declaration of Rights of Peasants)
帰農運動本部(National Office Return to the Farm Movement)
身土不二(Shintoburi Movement)
全国農業協同組合連盟(National Agricultural Cooperative Federation)
UPOV (International Union for the Protection of New Varieties of Plants)
在来種子運動(Native Seed Movement)
お姉さん菜園(Unnine Tutbat=SGP= My Sister’s Garden Plot)」
CSA(community supported agriculture)
ブルーバード・子どもセンター(Bluebird Children’s Center)
コミュニティ・アグロエコロジー財団(CAEF=Community Agroecology Fund)
東学党の乱、甲午農民戦争(Donghak rebellion)
ハンサリム(Hansalim)
緑豆(mung bean)

【地名】
江原道横城郡(フェンソン郡、Hoengseong County、횡성군)
江原道洪川郡(ホンチョン郡、Hongcheon County、홍천군)
京畿道烏山市(オサン市、Osan City、오산시)
全羅北道金堤市(キムジェ市、Kimje City、 김제시)
全羅北道高敞郡(コチャン郡、Gochang County、고창군)
全羅南道順天市(スンチョン市、Sooncheon City、순천시)
全羅南道羅州市(ナジュ市、Naju City、나주시)
慶尚北道尚州市(サンジュ市、Sangju City、상주시)
慶尚北道安東市(アンドン市、Geumso City、안동시)
慶尚南道咸安郡(ハマン郡、Haman country、함안군)
慶尚南道固城郡(コソン郡、Gosung County, 고성군)
済州特別自治道済州市(チェジュ市、Jeju City, 제주시)
済州特別自治道西帰浦市(ソギポ市、Seogwipo City, 서귀포시)

光陽郡(クァンヤン郡、Bonggang County,광양군)
全羅南道星州郡(ソンジュ郡、Seongju County、성주군)
慶尚北道義城郡(ウィソン郡、Uiseong County、의성군)
スリン(Surin)
サリカット・ペタニ(Serikat Petani)

【画像】
Hyo Jeong Kim女史の画像は文献(7)より
간략보기 (Pilwha Chang)教授の画像はこのサイトより
ビア・カンペシーナの画像はこのサイトより
その他の写真は2012年9月に筆者撮影。種子はHeuksalim Native Seed Institute
【引用文献】
(1) Becky Bergdahl, Groups Rewarded in Their Fight for Fair Food, Inter Press Service, Oct 11 2012.
(2) Byeong-Seon Yoon, Won-Kyu Song and Hae-jin Lee, The Struggle for Food Sovereignty in South Korea, monthlyreview, May 01, 2013.
(3) Hyo Jeong Kim, Women’s Indigenous Knowledge and Food Sovereignty: Experiences from KWPA’s Movement in South Korea Conference paper for discussion at: Food Sovereignty: A Cri cal Dialogue Interna onal Conference September 14-15, 2013.
(4) Christine Ahn and Anders Riel Muller,South Korea: Ground Zero for Food Sovereignty and Community Resilience, November 14, 2013.
(5) Rhaydu,Korean Women’s Peasant Association: Saving and sharing native seeds, November 21, 2013.
(6) Taryn Assaf, Korean Peasants Sow the Seeds of Nation’s Food Sovereignty, Koreabridge,11/13/2014.
(7) Hyo Jeong Kim, Food sovereignty: taking root in women’s knowledge, 18 April 2017.
posted by José Mujica at 06:00| Comment(0) | 種子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする