2018年08月21日

在来種を保全しよう〜SBCラジオJポイント

日本のタネが危ない~TPP11による国際化はタネの多様性を喪失させる

 日本の多様なタネを守ってきた「種子法」が2018年4月に廃止され、日本農業は大きな転換点にさしかかっている。SBCラジオ(信越放送)の「Jスポット」というコーナーは「種子法廃止」の問題を連続してとりあげている。4月30日の第1弾では山田正彦元農業大臣が登場し、6月4日の第2弾では「日本のタネを守る会」の事務局アドバイザー、印鑰智哉氏が出演した。7月9日の第3弾では、種苗法の改正問題で再び印鑰氏が登場した。

 さる、8月20日、第4弾ということで、在来種保全が放送された。8時15〜30分まで15分ほどだが、コンパクトになぜ在来種の保全が大切なのかがまとめられており、かつ、それを実践している方の生の声も聞ける。ということで、この放送の一部をテープ起こししたものを紹介しておこう(1)

 まず、なぜタネの問題が重要なのか。その背景を久保正彰アナウンサーがコンパクトにこう紹介する。

「TPP11で日本の農業は国際化にむけて大きく変わろうとしています。ラジオJでは、4月からこの農業にまつわる法律の様々な改正にむけた動きをお伝えしてきました。4回目の今日も、取材を進めている 生田アナウンサーです」(1)
Masaaki-kubo.jpg 「前回は、いま声をあげなければ自家採種、自分が育てた野菜から種を取ってまた植えることが、禁止されてしまうかもしれないという話題をご紹介しました。今回は、在来種、地域で育てられてきた種を守る取り組みを6年も前からされている池田町のご夫婦を紹介します」

 前述したとおり、種子法廃止が廃止されたのは今年の4月。廃止が決まったのも昨年だ。「最近かと思ったのですが、ずいぶんと前ですね。6年も前ですか。なぜ、ご夫妻は在来種に着目されたんですか」と久保アナウンサーが率直な疑問の声をあげる(1)

いま、野菜の9割は海外産

 そこで、生田アナウンサーが野菜のタネのほとんどが国内産でなくなってしまっていることを指摘する(1)。

「家庭菜園用に販売されている野菜の種、袋の裏には生産国が書いてありますが、約9割が外国産となっているのですが、ご存じでしたか?」

「確かに、夏野菜を植えようと生田さんに言われて種苗店に行ってみるとブラジルとかが書いてあって驚きました」

Akiko-Ikuta.jpg 「そうなんです。インゲン、ホウレンソウと身近な野菜も外国産なんです。そして、農林水産省のホームページを見てみると『国内で売られている多くの野菜の種は、日本の種会社が開発した種。種を生産するための条件がよい場所が外国だったので、外国に親種をもっていって交さ配させて種をとり、日本へもってかえってきていると記載されています。

 それに対して臼井健二さんと朋子さんご夫婦は、農薬も肥料も使わない自然農法をされているのですが、こういった意見をお持ちなんです」(1)

 生田アナウンサーが指摘するとおり、いまホームセンターや種苗店で販売されている野菜の種は、9割が外国で生産されたものだ。それも「一代交配種」=F1種が多く、その種は翌年撒いても実がならない。農水省は「知的財産権の保護」の観点から、今後新たに企業が開発した種の自家採種を禁止していく方針だともいわれる(2)

 そこで、臼井夫婦のインタビューが入る。裏にアブラゼミの鳴き声が入る。夏の現場で取材したばかりだというリアリティ感がある。

朋子さん 今の種はほとんど外国産で。その土地でとっていると、そこの土地にあった種ができていくんだけれども毎回買っていると、よその土地の基準にあっているのがあるし、本来は、自分たちの種は、自分たちの場所でとるということをしていったら、その土地に根差した種で強い種がどんどんできていくっていうふうに思います。

健二氏 種がなければとにかく作物は実りません。種があって大地があって地水火空風すべてに支えられて僕らはきっと生きていると思うんですね。その根源が一つの種だと思うんですね。そして、みんなを幸せにするのが種だと思うんですね」(1)

タネバンクを作り480種もの野菜を保存する

2018082101.jpg 生田アナウンサーはさらにこう続ける。

「お二人は、昔は地域の種をとることがあたりまえだったのに、いまは種を毎回、それも外国産のタネを買うことがなんだか変だなぁと感じられ、種バンク=種の銀行というのを作られたんです」

「種の銀行?!あまり聞かないですね」と久保アナウンサーが首をかしげる。そこで、「初めて聞くという方も多いと思います。6年前に作られたという種バンク。ご主人の健二さんに案内して頂きました」と生田アナウンサーの現場取材が始まる。ギーという扉の音が鳴る。とんがり屋根の小屋の扉を開くと壁際の棚に様々な形の種が入った瓶が並んでいる。

「中には無数の瓶が、そして種が」

臼井氏が瓶を振る音をバックに説明がされる。

2018082104.jpg「これはオクラですね。ここにヘチマもありますね。これはズッキーニ。そういえば少しずつ音が違いますね。これはかぼちゃですね。へへへ。480ぐらいある」

500近くもある。こんなに多くの種を集めてどうするつもりなのか。久保アナウンサーが首をかしげる。それに対して、「では続けてこちらをお聞きください」と生田アナウンサーが次の現場取材音声を披露する。このあたりのやりとりがいい(1)

タネは無料で贈与する

「この種は販売しているんですか」

 生田アナウンサーの問いかけに対して臼井氏は驚くべき返事をする。

2018082102.jpg「いいえ、すべて無料なんです。無料で貸し出して、そしてできたら2倍にして返してもらおうと。種の銀行、種バンクですね。2倍って高利貸しですよね。でも、種って一粒が何千倍。お米の場合は300倍になるわけです。そのうちの2粒を返してもらえればいいわけですから。それほど自然界では高利貸しではないんですね。そういう意味で自然ってたくさんの恩恵を僕らに与えてくれているような気がします」

「種銭(証券投資等、お金を殖やそうとする時、もととする金銭)という言葉もありましたけれども、2倍にして変えてしてもらうんですね」と久保アナウンサー。

「たった2倍でいいんですね。無料というのも大らかですが、さらに気前がいいのは、もし万が一失敗して種が、とれない時は、とれないでもいいんだと。借りたほかの誰かがまた2倍にして返してくれるから…と。銀行という言葉を使っていますが、利子や返済に追われるお金とはずいぶん違いますね」(1)

 臼井夫妻はなぜ、これほど気前がいいのであろうか。「お二人の思いをお聞きください」との生田アナウンサーの促しとともに朋子さんの地声が流れる。
2018082103.jpg「種についてはとったら何倍にもなって増えるじゃないですか。だから喜びなんですよ、種をとることは。そしてそれをたくさんとれても全部撒くことができないから、みんなとわかちあうことができる。ただであげても「惜しい」と思わないでしょ。みんながまたそれを育ててくれることで、もし自分のところで種がとれなくても、だれかが育ててくれているから、またもらうこともできるし。そうやって種をみんなで保存していったら、いい種がどんどん残っていくし、私たちも種を買わなくてもみんなが持ってきてくれた種で種をまくことができる。それが一番かもしれない。

健二氏「いつも種があるから」

朋子さん「すごい豊かですよ」

健二氏「ふつうタネは買いにいかないといけないからね」

朋子さん「全国各地から興味をもってきてくれる。いろいろな珍しいものも集まってくるし」

健二氏「たくさんの人が集まると、たくさんの情報がありますね。そんな情報が集まるのも、種バンクのよさかもしれませんね」(1)

 健二氏はさらにこうも言う。

「種は一人でずっと抱えていると劣化します。みんなで分かち合うと、後で何千倍にもなって帰ってくるんです。年に5回ほど開く『種カフェ』での種の交換会では、東京からも人がやってきます。種を通じて、人的ネットワークも広がりました」(2)

バクグラデシュでの種子バンクとの出会いから在来種確保を始める

 健二氏、朋子さん夫妻がシードバンクをはじめたのは2012年のことだが、臼井氏がシードバンクの存在を知ったのは、訪れたバングラデシュでのことだったという。臼井氏は言う。

「バングラデシュは有機農業が盛んで、国内だけでシードバンクが50カ所、米の品種は3000種も保存されていました。種を集めて預かり、それを倍にして返していた。そうしてできた農産物の方が土地に合っていておいしかったのです」

 バングラデシュでは1960年代に「緑の革命」と呼ばれる農薬・化学肥料を用いた近代農業が始まり、作物収量は2倍になった。

「ですが、機械化で仕事がなくなったり、環境悪化で魚もいなくなったり、農薬の影響か皮膚病が発生したりと、マイナス面もたくさんありました。農産物の種も自家採種していたものが、だんだんと毎年買わなければならなくなってしまったのです」

 その体験をもとに夫妻は「種センター」を始める。帰国後に種の交換会も始めた。種を倍にして返す仕組みもバングラデシュから取り入れられたのだ(2)

贈与的世界から見た種子法廃止と種苗法改正の異様さ

「なるほどね。タネを無料で使って頂くとまた無料でもどってくるんですねと。長野県ではおすそわけがありますよね。自然に与えられたものということで、実だけでなくタネもわかちあっていくと。自分で全部独占しないで、みんなでわけあう。わかちあう。これって本当に素晴らしい文化だと思うんです」

と久保アナウンサーが賛同するのだが、生田アナウンサーのわかりやすい補足説明がとても重要なので、改めて全文をきちんとテープ起こしして書き留めておこう。

「種には、もともとそれぞれの土地に根差した「固有種」、「在来種」があったのですが、現在は大企業によって「大量生産しやすく、流通する時に運びやすい等、改良された「F1(エフワン)と呼ばれる品種」が多く出回っています。このF1の種は、一度しか実らせることができず、そこから種をとることはできないので、毎年種を買う必要があるのです。また9割が外国産ということは、もし万が一、種子の輸入が途絶えれば、日本ではほとんど野菜が作られなくなってしまうということもありうるわけなのです。ですから、ここに種子バンクがある大きな意義のひとつに「大企業の種」に頼らない農業を行うためというのがあります。夫妻は実はバングラデシュで種子バンクに出会ったことからこうしたことを始められたのですが、インドやバングラデシュだけでなく、ヨーロッパですとかラテンアメリカをはじめ世界中で盛んになっているんですよね。私たちの食はすべて種によってできています。言い換えれば種は私たちの命です。臼井さんの活動は、私たちの食の自由を守ること。地域に支えられた農業をまもること、種と食の多様性を増やす活動。そこに着実につながっていくものではないかのかなと取材をしていて感じました」(1)

 臼井氏は、種子法の廃止や種苗法の自家採種禁止に向けた動きについては、こう語る。

「本来「種(たね)」に特許はあってはいけないような気がします。というより自然界ってすべてがあたえられている。その中でぼくら人間は生かされているわけで、自然のそんな法則にのっとってこんな種が皆なでわかちあえるっていうような形でいるのが一番自然の本来の姿のような気がするんですね」(1)

「自然界は、種が落ちれば芽が出て実がなるもの。新しく開発した品種の保護はあってもいいと思いますが、企業はその自然界の法則まで開発したわけではありません。本来、農産物の著作権は自然界にあるのですから」(2)

編集後記

 このブログの内容に関心を持たれた方はタネの画像を引用させていただいた「5分でわかる種子法廃止の問題点。日本人の食を揺るがしかねない事態って知ってた?」を訪れることをなによりも薦めたい。明解な文章で種子法の問題を見事にさばいて見せている。短い文章ながら、山田正彦元農相、印鑰智哉氏、そして、今回登場された臼井氏と三人が揃って登場しており、いずれも「タネ」のキーパーソンであることを教えてくれる。

 米国でラウンドアップで「癌」になったと訴えていた末期患者の訴えが受け入れられ、320億円の賠償が命じられたという衝撃的なニュースをほとんどの日本の大手メディアが報道しないこと一点を取ってみても「マスゴミ」という、どちらかといえば、わたくし的には使いたくないフレーズも喉元にまででかかってしまうのだが、こうした素敵な情報発信を見るとある種の清涼感を覚える。著者の宗像充氏は存じあげないし面識もないのだが、ネットで検索してみると、長野県大鹿村在住のジャーナリストらしい。なんと、過疎地ではないか。情報の構造も東京から地方へとシフトしているのだろうか。そんな副産物的な感想もいだいた。

 さて、余談はさておき、ということで、宗像充氏の痛快な文章を読まれたうえで、以下の私のたわいもない床屋談義におつきあいいただきたい。

 「本来の著作権は自然界にある。みんなを幸せにするのが種だと思うんですね」という臼井氏の言葉。「地域に支えられた農業をまもること、種と食の多様性を増やす活動」という生田アナウンサーの発言。ラジオから流れる音声を聞き流すだけだと「ふーん。まぁ、そうだよなぁ」程度でスルーしてしまうのだが、活字として書き留めておくと、実は、ここには、最先端の保全生態学(アグロエコロジ―)と腸内細菌叢と生理学、脳神経科学の知見がすべて詰め込まれていると思うのだ。

 7月9日の第3弾で、生田アナウンサーは、「科学技術や医療技術が進歩する中で、今世界では食をめぐって2つの考え方がせめぎあっている。食材も種も苗も医療もセットでビジネスにして「知的財産」にしていこうという考え方。種苗法改正や遺伝子組み換えの作物の動き。もうひとつは、人間も地球上の、ひとつの生き物である以上は、気候や風土を無視して生きられないという考え方。パーマカルチャーやアグロエコロジーのように種子も「ある企業」の知的財産ではなく、みんなのもので特許化できないという考え方がある」と指摘されている。Steven-McGreevy2.jpg

 ロンドン大学のティム・ラング教授は著作『フード・ウォーズ』(2009)コモンズでまさにこうした対立軸を描いてみせる。総合地球環境学研究所のスティーブン・マックグリービ准教授もこの図式に共感して、印鑰智哉氏と同じように、GMO農業VSアグロエコロジ―という対立構造から世界のフードの見取り図をわかりやすく語ってくれたのだが、米国出身だけに実に面白いエピソードを披露してくれた。

Ayn-Rand.jpg 米国人に最も影響力を与え、米国で一番売れている書物といえば、いわずとしれた『聖書』なのだが、二番目がアイン・ランドの『肩をすくめるアトラス』なのだと言う。アイン・ランド女史は、日本ではほとんど知られていないが、グリーン・スパンや元レーガン大統領を含め、彼女の著作に影響された人々は数知れず、米国のリバータリアニズム、いわゆる新自由主義の理論的ベースとなっているという。そして、私が調べた限りでは、アイン・ランドは、慈悲心を一切欠いた「サイコパス」だったのだ。

 ここから、非常に興味深いことが見えてくる。米国最大のベストセラーは『聖書』だ。そして、その事実上の著者、イエス・キリスト氏は、アガペー(慈悲心)にあふれた人物だった。死後にも再生できる程の超能力を備えた「グル」でありながら、人類の苦悩を一身に背負って磔にまでなったのだから、その利他心は正真正銘であって並大抵のものではない。一方の米国の第二のベストセラー作家、アイン・ランド女史は、これとは正反対の利他心を一切欠いた人物だ。つまり、イエス氏にも通じるであろうパーマカルチャー・在来種保全・「贈与」というワンセットの思想群と、ランド女史にも通じるであろうGMO農業・種子法廃止・種苗法改正・「知的財産化」というやはり一群の思想グループとの対立構造は、ベストセラー第1位の不動の人気作家、イエス氏VS第二位のベストセラー作家、ランド女史というマインド構造、なぜか、人類が持つ二つの思想的なアトラクター(落としどころ)、善か悪か、光か闇か、腹白いか、はたまた腹黒いかへと読み換えることができるのだ。

 さらに、面白ことがある。この6月末にカリフォルニア大学ロサンゼルス校のエムラン・メイヤー教授の『腸と脳』紀伊国屋書店が翻訳出版されたのだが、その中には、実に興味深いことが書いてある。

Buzz-HollingS.jpg アグロエコロジーや生態学では、外的撹乱を受けても、どれだけ生態系が安定性を維持できるのか。同時に破壊された生態系がどうすれば復活できるのかが重要な役割をはたすのだが、この復元力、レジリアンスをベースに生態系の安定性にフロリダ州立大学のバズ・ホリング名誉教授が、斬新な理論を提唱したのは1970年代のことだった。同時に、バズ・ホリング名誉教授の凄みは、生態系には二つの安定状態があることを指摘したことだ。

 簡単にイメージできよう。ひとつは、多くの生物が繁殖し多くの食物連鎖がある魚豊かなすんだ湖だ。そして、もうひとつは、数少ない生物種、例えば、アオコや赤潮だけが繁殖した富栄養化した湖だ。イメージ的に後者は悪とされているし、米国の近代農業のツケを一手に背負わせれたメキシコ湾もデットゾーンが出現しているのだが、生態学システム的に見れば安定している。

 そして、ある生態系が別の生態系へとシフトするには、レジリアンスが重要なのだが、この復元力はシステムを構成する生物種の多様性で決まるのだ。ここまではいい。エコロジー、保全生態学の常識だからだ。

David-A.Relman.jpg けれども、スタンフォード大学のデヴィッド・レルマン教授によれば、腸内細菌もヒトの腸内で生態系を形成しており、これには二つの安定状態があることがわかってきたのだ。善玉菌がいる健全な状態と悪玉菌がいる病的状態だ。まさに、ホリング名誉教授の指摘どおりではないか。というか、レルマン教授はホリング名誉教授が見出した原則を腸内細菌にも適用することで研究を進めたのだ。

 それだけではない。私が参加した野口法蔵師の坐禅断食会では「皆さん、腹黒い生き方は止めて腹白くなりましょう」と言われた。これは、言葉遊びではない。坐禅断食によって真っ黒な宿便、悪玉菌が排出されると、それ以降、善玉菌に腸内生態系が占拠されたのか便の色は白くなり、それとともに身も心も清々しくなってきたのだ。

 健全な腸内細菌は健全な心身を維持する。禅の悟りも慈悲心も腸内細菌が作り出す神経伝達物質、セロトニンに大きく左右されているとの説もあるのだが、腸内細菌が乱れると慈悲心を失って利己的になる一方で、腸内細菌が健全化すれば慈悲心がほとばしりでて利他的になるとすればどうであろう。人間が持つ二つの思想的なアトラクター(落としどころ)、善か悪か、光か闇か、腹白いか、はたまた腹黒いかは、腸内細菌が決めており、腸内細菌は幸せと直結することになる。

 さらに、さすがは米国。グリホサート(抗生物質)によって砂漠化し悪玉菌だけが繁殖するようになってしまった生態系を、健康な食べ物のインプット(食物繊維豊かなマメや野菜中心の食生活)とデトックスによって回復させる実験もなされている。予想どおり、腸内細菌は健全化した。善玉菌がいる健全な生態系へとシフトした。けれども、成功しないケースがあった。なぜか。繊維は難分解性の物質である。いかな腸内細菌といえども誰しもが処理できるわけではない。ある菌が先陣を切って厄介な繊維を分解するための突破口をまず開き、それが出来れば、他の微生物がその副産物をさらに別の化合物へと次々と分解していく。けれども、元に戻らない被験者の腸内では、細菌の多様性が失われ、食物繊維を分解するための橋頭堡を築く切り込み隊長、いわばキーストーン種がいなくなってしまっていたのだ。自然生態系と同じだ。レジリアンスがなくなっていたのだ。

 Landscape.jpgさらに、驚くべきことがある。米国型食生活をしている人たちの腸内細菌叢を伝統的な狩猟採集民のそれと比較すると30%も多様性が少なかった。これは1970年代から失われた地球上の生物多様性の喪失率30%と奇しくも一致する。いま、人類のカロリーの80%は12種類、90%はたった15種類だけの植物から得られている。その内実も寂しい。1903年から1983年にかけ、キャベツの品種は544から28へ、ニンジンは208から21へ、カリフラワーは158から9へと減少している。食の単純化は農業の画一化も進める。そして、近代農業が食の画一化とタネの画一化を進める。

 けれども、ここに大きな矛盾がある。誕生以来、ずっと細菌と緊密な共生関係を育んで来た多細胞生物の腸と脳は、人間を含めて、まだ細菌なしに生きられるよう進化していない。人間の腸も脳も、多様な種類の食べ物を消化・分解しているようにできている。ホモ・サピエンスは誕生以来、野草から木の実から果実から虫からキノコからありとあらゆるものを食べてきたし、その腸内細菌もその食べ物とずっと一緒だった。多様性に富んだ腸内細菌叢と共生した健全な内臓があってこそ、健全な心身は維持される。多様性に富んだ腸内細菌は多様性に富んだ食によってのみ維持できる。多様性に富んだ食は多様性に富んだ農業によってのみ維持できる。そして、多様性に富んだ農業は多様性に富んだタネによってのみ維持できる。

 おわかりだろうか。種と食の多様性を増やす活動。タネがみんなを幸せにするという今回の発言は、まさに正鵠を射ていたのである。

(2018年8月21日投稿)
(「編集後記」を2018年8月21日に改正)
【画像】
久保正彰アナウンサーの画像はこのサイトより
生田明子アナウンサーの画像はこのサイトより
三角屋根の画像はこのサイトより
タネの画像はこのサイト、「5分でわかる種子法廃止の問題点。日本人の食を揺るがしかねない事態って知ってた?」より
臼井夫妻の画像はこのサイトより
アイン・ランド(Ayn Rand)女史の画像はこのサイトよりバズ・ホリング(Buzz Holling)名誉教授の画像はこのサイトより
デヴィッド・レルマン(David Relman)教授の画像はこのサイトより
腸内細菌の生態系の3次元画像はこのサイトより
【引用文献等】
(1) 2018年8月20日、 モーニングワイド ラジオJ
(2) 2018年6月26日宗像充「日本の農業が危ない。種を保存する「シードバンク」に取り組む人たち」週間SPA


posted by José Mujica at 06:00| Comment(0) | 講演・学習会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年08月16日

グリホサートをデトックスする

グリホサートの腸内細菌ジェノサイドがボツリヌス菌中毒を産む

 細菌類が産生する抗菌活性を持つタンパク質やペプチドのことを「バクテリオシン」と呼ぶ。腸内細菌は、ボツリヌス菌やクロストリジウム菌他の悪玉菌に対するバクテリオシンを産み出している。けれども、グリホサートはこうした腸内細菌を殺してしまう。腸内での細菌のバランスが崩れればボツリヌス菌が増殖する。これでおわかりだろう。ボツリヌス菌中毒に病む牛が増えているのは、グリホサートの残留物が含まれた飼料を食べさせられていることが原因なのだ。

 人間とて変わらない。日々、どれだけ、グリホサートを取り入り込まないように心がけるかが、病気にならないための鍵となる。とはいえ、霞を食って生きられる仙人ではない以上、どうしても汚染から逃れることはできない。ではどうするか。

ザワークラウト・ジュースを飲めばグリホサートをデトックスできる

monika-krugerS.jpg ここに朗報がある(1)。ライプチヒ大学のモニカ・クルーガー(1947)教授が2014年12月号に発表した研究によれば、フミン酸、フルボ酸、活性炭、ベントナイト粘土、ザワークラウト・ジュースを組合せることによって解毒できるのだ(1,2)

 教授はこうした成分を様々に組み合せてみたのだが、フミン酸を混ぜた500mLのザワークラウト・ジュースに200gの活性炭を混ぜたサプリメントを与えたケースが最も効果が大きかった。遺伝子組み換え飼料を食べさせられてボツリヌス菌中毒にかかった牛の尿から検出されるグリホサートがかなり減り、免疫力も高まって健康を回復できたのだ(1,2)

 パデュー大学のダン・ヒューバー名誉教授も、四面体のシート構造を持つベントナイト粘土や活性炭は毒物の吸着力が高く、ザワークラウト・ジュースと合わせて飲めばグリホサートが解毒できると語る。

「ザワークラウト・ジュースには、キャベツを発酵させるラクトバチルス(乳酸菌)菌が含まれています。ジュースだけでも有益な効果がありますが、活性炭やフミン酸を組合せればさらに効果が高まります。7~8ヵ月はかかりますが、乳牛の生殖能力が確実に再生するのです。活性炭でも7~8ヵ月で、精子数がかなりよくなります」

 ヒューバー名誉教授は人間でもデトックスには違いはないと指摘する(3)。ちなみに、ザワークラウト・ジュースとは、キャベツを乳酸発酵させた際ににじみ出てくる黄白色のエキスのことだ。

プロバイオティック食品・ザワークラウト

Sandor-KatzS.jpg それではザワークラウトにはなぜ効果があるのだろうか。キャベツが健康によい食べ物であることに異義を唱える人はまずいない。血圧を正常に保つカリウム、骨を健康にするカルシウムやマグネシウムが含まれ、免疫力を保つうえで欠くことができない酸化防止剤ビタミンCも豊富だ。けれども、発酵させれば、その健康効果はさらに指数的にアップする。『発酵術(The Art of Fermentation)』の著者、フード・ライターのサンダー・カッツ(1962年~)氏は、自ら「発酵復興論者」と名乗っているがこう語る。

「発酵食品は健康でいることを手助けしてくれます。腸内細菌のおかげで私たちは生きているのであって、細菌なくしては生きることができません…。食物が消化でき、食べ物の養分が同化できるようしているのは細菌なのです…」(4)

 要するにもともと栄養価があるキャベツとその効用を増す発酵という二大要素を組み合わせたことにザワークラウトの価値がある(5)

善玉菌を増やす発酵

 冷蔵庫や缶詰めの技術がない時代から、生鮮食料品を保存するために人類は発酵という技術を用いていた。発酵とは、グルコース(牛乳や野菜)を含む炭水化物が酵母菌や細菌によってアルコールや二酸化炭素、有機酸へと分解される代謝プロセスのことだが、そこで、原材料は善玉菌を豊富に含む「プロバイオティック」へと変わっていく。ポイントはこの微生物発酵は嫌気状態のときに生じることだ。発酵現象を発見した初期のフランスの微生物学者たちはこれを「空気なしでの呼吸」と呼んだ。

 ビール、ワイン、サワードー・パン(イーストが砂糖を二酸化炭素に変える)等、発酵食品は様々な種類がある。日本では、ダイズを発酵させた味噌や納豆が作られたし、韓国ではキムチが作られた。

 そして、キャベツが栽培される東ヨーロッパ、ドイツ、ポーランド、ロシアでは、キャベツを発酵させたザワークラウトが何百年も食されてきた(5)。ザワークラウトとはドイツ語で「すっぱいキャベツ」を意味するのだが、ドイツのウィッテン大学の統合医療研究所によれば、キャベツを保存するための最古のスキルのひとつとして紀元前4世紀にまでさかのぼるという(6)

 また、古代中国人が2000年以上も前にキャベツをピクルス(発酵)させていた記録も残されている(5)。長い航海で壊血病を防ぐために、水兵たちはザワークラウトを食べた(4)。米国には1700年代に最初にもたらされた。キャベツとその養分を保存できることから、船に乗って新大陸にやってきた移民たちもザワークラウトを持参していた(5)

 Ostermann-Thomas.jpgウィッテン大学のトーマス・オステルマン教授らは、計量書誌学によってザワークラウトの健康効果を調べてみた。1921~2012年までの90年の139の文献はヨーロッパ、アメリカ、アジアの順で、かつ、研究の半分(56.8%)以上が成分分析だったが、23.7%は健康への効果も扱っていた。そして、ザワークラウトには健康効果があり、かつ、がん予防の効果を示すものもあったのだ(6)

ザワークラウトのプロバイオティクス効果

1. プロバイオティクスで消化改善をサポート

 腸内細菌叢は考えられる以上に健康に影響を及ぼす(4)。まず、着目したいのが発酵食品を食べることによるプロバイオティクス効果だ(4,5)。インドのMedical Microbiology誌(The Indian Journal of Medical Microbiology)で発表された2009年のリポートはこう述べる。

「抗生物質、免疫抑制療法、照射(irradiation)の使用は、処置の他の手段の間に、腸内の構成で変更を引き起こし、腸内細菌叢に影響を及ぼす。したがって、消化器への有益な細菌種の導入は、微生物のバランスを再確立して、病気を防ぐための非常に魅力的なオプションであろう」(4)

Kefir.jpg プロバイオティックといえばヨーグルトやケフィアが有名だ。数千年前も前に東ヨーロッパで最初に作られた発酵乳製品が「ケフィア」だが、ザワークラウトの発酵プロセスでも同様の有益なプロバイオティクスが生じる(5)。善玉菌が豊富に存在する発酵のタイプは、乳酸発酵と呼ばれているが(6)、ザワークラウトの発酵プロセスで生じるのもラクトバチルス目の乳酸菌、ラクトコッカス属菌、エンテロコッカス属菌等だ(5,6)。乳酸は悪玉菌の増殖を防ぐ天然防腐剤で、腸内で善玉菌を増やし悪玉菌を減らす(5)。言い換えれば、悪玉菌を排出し、善玉菌を取り込むことになる(4)

 腸内に棲息する「善玉菌」は、それ自身が「器官」とみなした方がよい(5)。脳の認知力、心臓、肺、肝臓、消化力、免疫力、内分泌系と身体全体で健康に有益な効果をもたらすことがわかっている(5,6)

 その結果、リーキーガット症候群、過敏性大腸症候群、便秘、嚢炎、下痢、腸のはり、クロストリジウム・ディフィシール大腸炎、炎症性腸疾患、食物過敏症、消化障害といった徴候も減る(5)。ホルモンに対する効果から、食欲の管理、消化や養分吸収力のアップ(4,5)、さらには、定期的な排泄の促進と便秘の予防までサポートしてくれる(5)

2. 免疫機能を高める

 リーキーガットはその言葉の響きから消化器系にだけ影響すると思われがちだが実際は違う。腸が健康になることはそれ以外の臓器にも大きく影響する。その大きな理由が免疫系だ(5)。免疫のほとんどを占める器官は腸だし、その働きは腸内細菌叢内で生きる善玉菌の影響も受ける。つまり、腸の健康を維持するうえでプロバイオティクスが大きな役割を演じている。言い換えれば、病気を防ぐには腸の健康が欠かせない(4,5)。体内に侵入しようとする有害なバクテリアや毒素に対する最初の防御ラインとしても働くのもの腸の善玉菌だし、免疫系を教育し、活性化し、応援するのもの善玉菌だ。乳酸桿菌属は腸の免疫系に有益なことが証明されているし、腸管粘膜でIgA他の免疫グロブリンの数を増やす。ザワークラウトは感染症に反応する「ナチュラルキラー細胞(NK細胞)」も増やし管理する助けとなる(5)

3. 炎症とアレルギーを減らす

 外部からの「侵入者」の攻撃を受けている。こう勘違いして自分自身の組織を攻撃してしまう炎症が自己免疫疾患だ。けれども、ザワークラウトに見出される善玉菌はそれ以外の菌とは異なり抗炎症作用を持つ。そこで、心臓病からガンまで実質的にあらゆる慢性疾患になるリスクを減らす(5)。いま、心臓病や糖尿病と腸とがつながることも研究されているのはそのためだ(4)

4. 気分を改善し認識力を高める

 神経質で腹が下るように、脳と腸とが結びついていることをイメージすることは難しくはない。けれども、気分によって腸が影響されるだけでなく、腸の健康も、神経系や脳機能、さらには気分にすら影響することがわかってきている。腸の神経系の神経細胞と脳の中枢神経系とは迷走神経を介して情報をやりとりしているからだ。

 そして、ザワークラウトのようなプロバイオティクス食品を食べると、善玉菌は腸壁内に定住して迷走神経を介して脳とコミュニケーションを始める。どのような種類の腸内細菌がどの程度の量で腸内に存在しているのかによって、そこから引き起こされる化学的なメッセージも異なり、それが学習力や記憶力、さらには、情報処理力にすら影響する。

 このことから、プロバイオティクスは、鬱病のような気分の落ち込みを癒す自然の治療薬であることがわかっている。腸と脳とのこの魅力的な関係についてはまだ研究途上だが、多くの臨床試験から、ザワークラウトのようなプロバイオティック食品によって鬱病がおさまり気分が改善されることが判明している。そして、人間だけでなく、動物においても不安の兆候を減らし自閉症の目印を改善することが見いだされている(5)

ミネラル効果とガンと戦う酸化防止効果

 要するに、ザワークラウトは、腸を健康にするだけでなく、免疫系や心の健康まで後押しする。そのうえ、がんの予防にすらつながる(5)。がん研究には数10億ドルが投じられているのだが、ザワークラウトを毎日食べる予防の方が効果が高い(4)

 ザワークラウトは低カロリー食品だが(5,6)、強力な抗炎症効果を持つ(5)。最近の研究から、低塩分状態で発酵させたザワークラウトには非常に有益な酸化防止剤、抗発癌性の化合物が含まれることが示されている(4)。まず、キャベツそのものが強力な抗がん食品だ。食物繊維を豊富に含み、酸化防止力が高い。キャベツにはイソチオシアン酸塩とインドールが含まれるが、これらにはがん細胞の形成を防ぎ炎症を抑える効果がある。イソチオシアン酸塩の中でもとりわけ、有名なのだがスルフォラファンで、体内でのフリーラジカルのダメージと戦うPhase II酵素の産生量を増やす。スルフォラファンは、ブロッコリーやブロッコリーのスプラウントで一般的だが、キャベツでも見出されている(5)

 ザワークラウトのほとんどは白キャベツや緑キャベツから作られるが、紫キャベツを使うこともある。紫キャベツには、酸化防止剤、アントシアニンが含まれる。こうしたフラボノイドの植物栄養分はブルーベリーやワインに色を付けるのだが、心血管疾患、がん、認知障害と防ぐ強力な酸化防止剤だ(5)

 そして、大量の乳酸やチラミン、ビタミンとミネラルを含む(6)。大さじ数さじと少量であっても毎日食べれば、ビタミンK、ビタミンC、カルシウム、カリウム、リン等の養分がとれる。さらに、発酵して微生物が増えていることから、消化力や養分の吸収力を高めてくれる(5)

ザワークラウト半カップ、約75gには以下が含まれている。
•14Cal
•脂肪0g
•繊維4
•炭水化物3
•糖質1
•タンパク質1
•ナトリウム496㎎
•11ミリグラムのビタミンC(1日摂取量の17%)
•ビタミンK 10㎍の(日摂取量の8%)
•鉄1mg(日摂取量の6%)
•マンガン1mg(日摂取量の6%)
•ビタミンB6、1mg(日摂取量の6%)
•葉酸17㎍(日摂取量の5%)


買うよりも自分で作ろう

homemade-sauerkrautS.jpg 発酵は複雑なプロセスだが、数千年の間も地球でほとんどすべての古代人がもう一つの1つの形で実践してきた。食品を発酵させることは彼らが速く悪くなるのを止める。世界中で数千年の間も利用できる野菜、果物、穀物と豆類を試験する本当の方法だった。ザワークラウトは健康食品店だけでなく、比較的大きなスーパーでも見つかる。けれども、商業的な大量生産ではなるべく短時間で大量に生産するために発酵プロセスを標準化しようとたえず試みている。ザワークラウトだけでなく、ピクルスやオリーブを含めて、大量生産される発酵食品は、ナトリウム他の化学薬品で加工処理されてから缶詰でパッケージされている。こうした加工製品は「ザワークラウト」との商品ラベルがついていたとしても、善玉菌が増殖するための適当なプロセスを経ていないし、発酵食品であっても、潜在的な悪玉菌を殺すために低温殺菌されている。それは、求められるプロバイオティクスが殺されてしまう。乳酸菌のように効果のあるプロバイオティックの酵素をもたらすのは、低温殺菌もしない本当の発酵だけだ。

 発酵の専門家によれば、乳酸菌発酵する野菜は時間がたつほど味が増す。伝統的なザワークラウトの作り方では完全に熟して高い効果を持つために少なくとも半年は寝かせることを求めることもある。けれども、普通は1~2週間の発酵で十分であろう。生鮮野菜は1週で痛んでしまうが、乳酸発酵させた野菜は冷蔵庫で保管すれば数ヶ月は元気で「生きた」ままでいる(5)

 カッツ氏によれば、おそらく最も作りやすい簡単な発酵食品はザワークラウトだ。キャベツと他の好みの野菜を切り刻み、それを塩漬けにし、最高5日間、密閉容器に入れておけば簡単に作れる(4)。自分が気に入ったタイプを見出すためにいろいろなキャベツでのザワークラウトづくりを試していただきたい(5)

【用語】
バクテリオシン(bacteriocines)
クロストリジウム属菌(Clostridium spp.)
フミン酸(Humic acid)
ベントナイト粘土(Bentonite clay)
ザワークラウト(Sauerkraut)の画像はこのサイトより
ウィッテン大学(University of Witten)
統合医療研究所(Institute for Integrative Medicine)
壊血病(scurvy)
計量書誌学(bibliometric analysis)
ケフィア(kefir)の画像はこのサイトより
乳酸発酵(lactic acid fermentation)
ラクトバチルス目(Lactic acid producing bacteria=LAB)
乳酸菌(Lactobacilli)
ラクト球菌(Lactococci)
エンテロコッカス属菌(Enterococcus spp.)
潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis)
便秘(constipation)
嚢炎(pouchitis)
過敏性大腸症候群(irritable bowel syndrome=IBS)
クロストリジウム・ディフィシール大腸炎(Clostridium difficile colitis)
炎症性腸疾患(inflammatory bowel diseases)
食物過敏症(food sensitives)
抗炎症性効果(anti-inflammatory effects)
自閉症のマーカー(autism markers)
腸壁(intestinal walls)
迷走神経(vagus nerve)
イソチオシアン酸塩(isothiocyanates)
インドール(indoles)
スルフォラファン(Sulforaphane)
ブロッコリー・スプラウト(broccoli sprouts)
発酵食品(cultured foods)
自己免疫(Autoimmunity)
乳酸菌(Lactobacillus plantarum)

【人名】
モニカ・クルーガー(Monika Kruger)教授の画像はこのサイトより
サンダー・カッツ(Sandor Katz)氏の画像はこのサイトより
トーマス・オステルマン(Thomas Ostermann)教授の画像はこのサイトより

【引用文献】
(1) Jennifer Lilley, Sauerkraut-charcoal supplement reverses glyphosate poisoning in cattle, NaturalNews, February 01, 2015.
(2) How to Detoxify Your Body from Glyphosate Exposure, BioFoundations,Dec22, 2016.
(3) Dave Asprey, Why We Need to KO the GMO with Don Huber – #318, 2016.
(4) Rick Blair, The Power of Fermentation: What Sauerkraut Can Do for You, Natural Solutions Newsletters, July 13, 2016.
(5) Dr. Axe, 5 Health Benefits of Sauerkraut, Plus How to Make Your Own!
(6) Christa Raak, Regular Consumption of Sauerkraut and Its Effect on Human Health: A Bibliometric Analysis, Global Advances in Health and Medicine, Nov 2014.
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腸内細菌と直感力

動かないホヤは脳を捨てている

 進化には良く知られた神話がある。進化とは進歩であって、より複雑により賢くなる方向にだけ進むというものだ。けれども、そうではないケースもある(1p109)

Daniel-Wolpert.jpg 神経学者、ケンブリッジ大学のダニエル・ウォルパート(1963年~)教授は、「なぜ脳があるのか」との根源的な問いかけを投げかけている。「考えるためだ」というのが、大多数の人の答えだが、ウォルパート教授は、こう言う。

「いや、それは完全に間違っている。私たちが脳を持つ理由はただ一つ、状況に応じた複雑な動きをするためだ」(1p111,2p144)

Rodolfo-Llinás.jpg 神経学者、ニューヨーク大学のロドルフォ・リナス(1934年~)教授はこう語る。

「わたしたちが思考と呼ぶものは、進化の過程で動作が内在化したものである」(1p111)

 その生物学的な証拠として提出されるのが、原始的な海生生物ホヤだ(1p112)。ホヤはなぜ人間に脳が必要なのかを教えてくれる(2p143)。誕生したばかりのホヤは他の脊索動物と良く似た神経管・脊索などの構造をもち、海の中をしきりに泳ぐ(1p112)

海鞘.jpg 人間の目が道路標識を認識するようにホヤの目も近くを泳いでいる魚の映像を情報として脳に届ける。人間の皮膚が気温を感じるようにホヤの皮膚も深海の水温を感知する(2p143)。ただし、ホヤの目的はただ一つ、食料が豊富な場所を見つけて根づくことだ(1p112)。若いホヤは水温が適度で安全で食べ物にも困らない岩場を探す。しかし、この目的を達成すると、ホヤは驚くべき行動に出る(2p144)。自分の脳を食べてしまうのだ(1p112,2p144)。後に残るのはとても単純な構造を持った神経節だけだ。もう動かなくていいのだから脳はいらない(1p112)

脳の「意識」がなくても腸は「無意識」に身体を調整している

 哲学や物理学的な思考をするのは確かに脳だ。けれども、「自我」は必ずしも脳内にあるだけではない(2p145)。哲学者ルネ・デカルトの名言「我思う、ゆえに我あり」は必ずしも正しくない(2p164)。自我と脳とはイコールではない(2p145)。腸の研究が進むにつれてそのことがわかってきた(2p145,2p164)

Michael-Gershon.jpg 消化器官はただ食べ物を処理する機械という以上に複雑だ(3p18)。特に問題がない限りは、脳の助けを一切借りずに腸は複雑な消化プロセスを自律的に調整している(3p45,3p46,3p65)。これを司るのは5000万~1億個の神経細胞からなるネットワーク、腸管神経系だ(3p18,3p45)。いわば、腸は他のいかなる組織も凌駕して脳に匹敵する能力すら持つ(3p18)。細胞生物学者、コロンビア大学のマイケル・ガーション(1938年~)教授はこれを『第二の脳』と呼ぶ(3p18,3p46)

 それだけではない。24時間、365日、本人が寝ていようが目覚めていようが、腸管神経系はミリ秒毎に食べ物や環境に関する情報を収集し、これを脳に送っている(3p32,3p65,3p73)。もちろん、腸管神経系は意識にのぼる感覚を産み出さない(3p65)。実際、消化管から集められた感覚情報の90%異常は意識されない。けれども、腸管神経系は注意深くモニタリングしている(3p64)

 身体のシステムやバランスを円滑に保つために脳が用いる情報を「内受容性情報」と呼ぶ。そして、脳にはあらゆる細胞からこの情報が送信されてくる。とはいえ、消化管からのメッセージは量、多様性、複雑性で抜きん出ている(3p73)。巨大な神経システムと広大な表面積を使って情報を収集し体内の世界全体を感じながら無意識のうちに調整しているのは腸だ。人体内の最大の感覚器は腸であり、目や耳や鼻や皮膚は腸の足下にも及ばない。目や耳から集められた情報は外界の出来事に反応するために「意識」として利用されるが、腸は総指揮官として体内の世界全体を感じながら「無意識」で働いている(2p151)

 脳は頭蓋骨内の厚い髄膜に包まれ他の臓器から隔離・保護されている。血液の一滴までフィルターにかけられチェックされている。この何もわからない脳に対して、最速で腸からの情報を提供しているのが「迷走神経」である(2p150)。迷走神経を介して伝達されているシグナルの90%は消化管から脳へと流れるものだ。逆方向は10%にすぎない。つまり、消化管から送られてくる必須情報に脳は大きく依存している。それは、重要な情報が多いからだ(3p65)。消化管の総面積は皮膚の200倍、バスケットのボールのコートと同じほどある(3p20,3p73)。そこは、食物に含まれる大量の情報をシグナル分子の形でコード化する無数のセンサーが覆われている(3p20)。人間の消化管には25種類の苦みレセプターが備わっている(3p67,3p69)。バラの香りを楽しみ、腐敗した牛乳をかぎわけ、バーベキューの旨そうな匂いを嗅ぎ分ける。鼻の嗅覚レセプターと同じものが消化管全体にも備わっている(3p69)

 とはいえ、腸はあまり重要ではない情報はわざわざ脳には送信せず、腸内にある神経系だけで処理している。また、腸から発信される情報のすべてが意識に到達するわけではない。腸が重要だとみなした情報は頭に送られるが、この情報もすべて意識されるわけではない。情報が発信されても「視床」がこれを不必要だと遮断してしまえばその情報はとどかない(2p152)。また、腸からの情報は、島皮質、大脳辺縁系、前頭前皮質、扁桃体、海馬、前帯状皮質には届けられるが、後頭部の視覚野には送られない(2p147)。つまり、脳の影響力はこれまで信じられて来たほど大きくはない(2p164)

内臓感覚が核戦争を回避させた

Stanislav-Petrov.jpg 1983年9月26日。ソ連防衛空軍の若き将校、スタニスラフ・ペトロフ(1939〜2017年)空軍中佐は、ソ連の衛生から米国が放った5発の弾道ミサイルが飛来中との警報を受け取った。警告音が鳴り響いていたが、ペトロフ中佐はこれが誤報であって事実ではないとの判断を下す。もし、ペトロフ中佐が合理的な手続きに従っていれば、報復攻撃がさらなる報復を呼び、まちがいなく数百万人の死者が出ていたはずだった(3p173)

 ペトロフ中佐は「本当に米国が総攻撃をしてきたとすれば数百発のミサイルが発射されたはずだ」「地上レーダーは米国からの攻撃を確認していない」と合理的な説明をしていたが、本音を告白してもさほど差し障りがなくなった2013年になされたインタビューでは「警報が誤りだという確信がないまま、奇妙な内臓感覚に導かれ判断した」と述べている(3p174)

「世界は線形的で予測可能だ」「世界に関する情報を十分に手にしさえすれば最善の判断を下せる」。これが現代社会の信条となっている。論理的思考の重要性が強調され、合理的な意思決定が重視されるのもそのためだ(3p198)。

 けれども、プリンストン大学のダニエル・カーネマン(1934年〜) 名誉教授は『ファスト&スロー~あなたの意思はどのように決まるか?』で「多くの選択や判断の背後には直感的な判断がある」と述べている。理性的な思考ではなく、直感、すなわち、内臓感覚に基づいて、何が最善なのかを判断できるというのだ(3p171)

感情の寄せ集めから島皮質が映画を作り出している

Carl-Lange.jpg 1880年代、米国の哲学者、ハーバード大学のウィリアム・ジェイムズ(1842〜1910年)教授とデンマークの医師、カール・ランゲ(1834〜1900年)は「情動は身体刺激の認知的な評価を通じて生じる」という情動理論を提唱した。動機、呼吸等、身体器官の激しい活動に由来する「内受容情報」、身体刺激によって情動が生じると考えたのだ(3p165)。1927年、ハーバード大学のウォルター・キャノン(1871〜1945年)教授は豊富な実験データから、扁桃体や海馬等の特定の脳領域が環境からの刺激に対して反応することで、情動経験が産み出されるとの脳理論を提唱し、ジェイムズ=ランゲ説を否定する(3p166)


Antonio Damasio.jpg キャノン教授の時代には脳画像技術もなく、迷走神経を介した脳へのフィードバックも内受容システムで果たす腸や腸内微生物の役割も知られていなかった。このため、この古い理論はずっと信じられてきた(3p166)。けれども、南カリフォルニア大学のアントニオ・ダマシオ(1944年〜)教授のソマティック・マーカー仮説によって、情動や情動的感情の理解は根本的に変わる(3p167)

Bud-Craig.jpg バロー神経学研究所のバド・クレイグ(1951年~)博士は、消化管をはじめとする様々な身体器官から送られる神経シグナルに基づいて「島皮質内」で「内受容性」の身体イメージが形成され(3p167,3p176)。この「島皮質こそが自我が発生する場所だ」と主張する(2p164)。「島皮質」と呼ばれているのは、それが、側頭皮質の下に「隠れた島」として存在しているからだ(3p176)。クレイグ博士は島皮質研究の第一人者として、20年以上もかけて各神経が脳内のどこを走っているのかを調べて来た。そして、腸からは様々な情報が脳に送られてくるが、とりわけ、興味深いのが「島皮質」だと語る(2p164)。身体から集められた情報は「島皮質」に集められ、「島皮質」はこの情報から「感情地図」を作り上げている。例えば、坐布に座っているとすればそれを感じながら「座っている自分」を作りあげる。つまり、自分とは様々な感情の寄木細工でしかない(2p165)。「島皮質」がダマシオ教授の言うソマティックマーカー情報を回収しているのである(3p168)

 感情情報から、島皮質は自我の小さなイメージを作り上げるが、これを脳内の別な場所がさらに精密な画像へと練り上げる。クレイグ博士によれば、こうした複雑なイメージ画像は40秒に一度ずつ作成されている。その画像がつながることで映画が作り上げられる。それが、自我、人生の映画なのである(2p166)

 クレイグ博士によれば、身体イメージは脳の基底部に位置する「脳幹」でコード化され、後部島皮質に送られるが、この時点ではまだ粗雑なモノクロ画像にすぎない。次に島皮質がこれを編集し色づける。過去の経験が蓄積された記憶データベースも用いてイメージの質や解像度を高める(3p178)。この情報が前部島皮質に到達すると、身体イメージは自己の感覚と結びついて、情動的感情の特徴をすべてまとうようになる。これが「内臓感覚」である(3p179)

フォン・エコノモ・ニューロンと直感力

 次に、何かの行動をすることを求められたときに(3p187)、すべての予想される結果を意識して評価するといった時間がかかるプロセスをしていては間に合わない(3p189)。迅速な判断を行うために、過去に類似した状況が起きた際に形成された情動的な記憶を頼りに、不安、悲しみ等がもたらされる結果を避け、心地よさ、幸せ感等と結びついた結果が得られるように探す(3p187)。すなわち、実際の感覚刺激を受け取らなくても、過去の情動ビデオが格納されている書庫にアクセスするだけで感情を生成できる(3p167)

John-Allman.jpg カリフォルニア工科大学のジョン・オールマンによれば、記憶として保管されているビデオクリップを用いて、内臓感覚に基づいて直感的に即断するときには、前部島皮質や前帯状回が活性化しているという。何かがおかしいと思った時には、フォン・エコノモ・ニューロンが発火して、直感的な判断を再調整している(3p186, 3p189)。フォン・エコノモ・ニューロンは、1925年に発見されたニューロンで、クジラ、イルカ、ゾウ、大型類人猿以外にはみつかっていない。類人猿では7000個程度だが、人間では誕生の数週間前に脳内に少数出現し、誕生には2万8000個、4歳になる頃には18万4000個、成人後には19万3000個になる。さらに、右前部の島皮質は左島皮質よりも30%多く存在する。この島皮質にあるニューロンが迅速な直感的判断を可能としているとされている(3p185)

 フォン・エコノモ・ニューロンは、社会的行動、直感、共感が関係するが、複雑な社会組織で暮らすようになった哺乳類に、内臓感覚に基づく判断を行う能力を付与したのだ(3p186)。脳には社会との連帯感や道徳感等を司る領域があるが、島皮質は自画像を描くために過去の体験も利用している(2p166)

内臓感覚を含めてあらゆる情動は、感覚系コンポーネント(内受容性の身体イメージ)」と内臓反応を含む実行系コンポーネントという二つの要素からなる。そして、身体イメージが帯状皮質から身体に送り返される運動反応と結びつくことで、身体と脳とのあいだを循環するループが形成されているのである(3p166)

 このように考えれば、デカルトの言葉はこうアレンジできるはずである。

「我感じて思う、ゆえに我あり」(2p167)

夢の判断

 エムラン・メイヤー教授は、若い頃、人生に悩み、カール・グスタフ・ユングのセラピストから精神分析を受けていた。ユングの夢分析の著作にも魅了された。最初は夢の内容をほとんど覚えていなかったが、毎週セラピーを受けるうちに、数カ月後には、毎晩見る「内面の映画」の美しさ、ストーリーの巧みさ、複雑さに驚かされるようになった(3p196)

 さらに、強い感情と結びついた精緻な夢が深い意味がある夢であることもわかってきた(3p196)。そして、重要な判断を下すときには夢に反映されている「内面の知」を信頼するようになった(3p197)

 レム催眠中には目が様々な方向に動き、脳が活性化し、夢として情動に満ちたカラー映画が上映される(3p194)。夢は、内臓感覚というカタチで日中に蓄積された情動的な記憶を統合・強化する役割を果たす(3p195)。睡眠中の被験者を対象に行われた脳画像研究によれば、レム睡眠中には島皮質や帯状皮質、扁桃体、海馬や眼窩前頭皮質(記憶領域)、イメージ形成に欠かせない視覚領域が活性化している一方、前頭前皮質や頭頂皮質等、認知や気づきに関与する領域や随意運動をコントロールする領域は非活性化し麻痺した状態となっている(3p194)。さらに、身体機能がオフになっている間は、脳・腸・マイクロバイオータ相関が活性化している。睡眠中に蠕動はフル稼働して、90分毎の蠕動による収縮波では、腸内微生物からのシグナル分子の大量放出が夢に情動的な色合いを付けるのに一役買っているのかもしれない(3p195)。情動によって内臓反応が引き起こされるが、これは内臓刺激を引き起こす。内臓刺激は脳に送り返されるが、内臓反応と内臓刺激の総合作用に腸内微生物が重要な役割を果たしていることがわかってきた(3p96)

 内臓に対する気づきが高いほど情動に対する感受性も高い(3p181)。そして、内臓感覚にふれるための方法は夢分析以外にもある。催眠は外部に注意を向けるモードから内省モードへと脳を切り替えトランス状態を起こすのに有効である。催眠療法家、ミルトン・エリクソン(1901〜1980年)のセッションを何度も受けると、被験者は、トランス状態に置かれていなくても、無意識的な右脳を信頼し、合理的で線形的な思考メカニズムで物事をコントロールしようとする試みを止めるようになったという(3p197)。内臓感覚に基づく判断の重要性を考えれば、この並外れた能力を鍛錬する方法がないのは奇妙に思える(3p198)

【画像】
ダニエル・ウォルパート(Daniel Mark Wolpert)教授の画像はこのサイトより
ロドルフォ・リナス(Rodolfo R. Llinás)教授の画像はこのサイトより
ホヤの画像はこのサイトより
マイケル・ガーション(Michael D. Gershon)教授の画像はこのサイトより
スタニスラフ・ペトロフ(Stanislav Petrov)中佐の画像はこのサイトより
ダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)名誉教授の画像はこのサイトより
カール・ランゲ(Carl Georg Lange)の画像はこのサイトより
ウォルター・キャノン(Walter Bradford Cannon)教授
アントニオ・ダマシオ(Antonio Damasio)教授の画像はこのサイトより
バド・クレイグ(Bud Craig)博士の画像はこのサイトより
ジョン・オールマン(John M. Allman)教授の画像はこのサイトより
ミルトン・エリクソン(Milton Erickson)の画像はこのサイトより

【引用文献】
(1) ジョン・レイティ他『GO WILD野生の体を取り戻せ!』(2014)NHK出版
(2) ジュリア・エンダース『おしゃべりな腸』(2015)サンマーク出版
(3) エムランメイヤー『腸と脳』(2018)紀伊国屋書店
posted by José Mujica at 00:08| Comment(0) | 腸内細菌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする