2018年09月29日

北海道で進む種子基本条例への動き

ジャーナリスト、北海道大学客員教授、久田徳二

食の安全は道民に訴える

Tokuji-Hisada.jpg 北海道で少しだけ進んできた条例づくりについて皆さんにお伝えしたい。条例づくりの全体像をまとめたが、これは初めてのことで、急遽作ったスライドである。北海道から持ってきた生の資料をできるだけ多くお渡ししたい。

 2010年から「反TPP運動」が広がり始める。TPPが北海道農業を直撃することが直感的にわかったため、ジャーナリストや研究者たちが50人でつくる「北海道農業ジャーナリストの会」が、かつてない危機だとして、12人の講師団をつくり学習会を重ねてきた。2011年頃から活発化し、年に30~40回の講演をしてきた。TPPは非常に幅広いために各分野で分析をしてきた。パルクの取り組みも重要な参考としてきた。そして、TPPを許さず、それに負けない北海道をどう作るかとオール北海道の運動を展開してきた。農業団体も消費者団体も、道経蓮、経済者の団体、そして、北海道庁が事務局となり「道民会議」もでき、文字通りオール北海道でやってきた。その中で感じたのは、TPPでは知財の問題、関税撤廃の問題とかたくさんの問題があるが、もし、TPPが発効したら安全ではないかもしれない食料が大量に入ってくると。そう言うと皆さん、ピンとくる。「自分の食卓が変わるのか」と関心を持つ。つまり、食の安全は道民に訴える切り口だと感じてきた。

2016年の種子法廃止でタネに一気に関心が

 それが2016年までだが、突然に「種子法廃止」が起きて、一気に関心の的が移った。これまでは、残留農薬、遺伝子組み換え、成長ホルモンの問題に関心があったが、「タネの話をしてくれ」と変化した。

 2017年に種子法廃止が閣議決定され、それ以降、北海道の農民組織が市町村に呼びかけ、60市町村が意見書をあげる運動が出てきた。そして、2017年5月21日には印鑰智哉氏を呼んでシンポジウムが開かれる。これが大きなステップとなり道内でタネの学習がはじまっていく。7月には「日本のタネを守る会」も結成される。

 2018年、今年になってから、4月1日に種子法が廃止されるため、「いよいよなくなるか」と北海道内外の10人の共著で書物も出した。3月24日の緊急フォーラムに出版が間に合った。実際に、これほど関心が高かったのかと実感した。最初は100人の会場を確保したが、事前に問合せがあり、人数が多そうなことから200人の会場に変えたが、実際には260人もの方々が来た。通路もいっぱいになった。山田正彦さんに来てもらったのだが聴衆の熱気がすごい。120人がこれからも勉強をしたいと名前を書いて残していった。実行委員会からは「すごいことだ。この会場のエネルギーをきちんと受け止めなければならない。北海道にセンターとなるべき組織を作ろう」との声があがった。これは、予想外の展開であった。こうしたことも手伝って各地で学習会が広まった。

道民の関心が高くたねの会を結成

Shinji-Asada.jpg フォーラムの実行委員が手わけをして、道内に呼びかけて行く。そして、設立呼びかけ人を依頼する。見る人が見ればすごい人たちだとわかる。例えば、麻田信二さんは元副知事。農業団体、生協等の名だたる方々38人で呼びかけて、今年の6月15日に「北海道たねの会」を発足させた。

 種子法廃止という問題は、ここで来るのかという驚きがあった。TPP問題は全面的として取り組んで来たつもりであったが、それでも「タネ」の問題が抜け落ちていた。まさかタネを生産する仕組みまでなくすとは想像してはいなかった。北大のイネの専門家にも聞いたのだが「そんなことはあり得ない」と言っていた。それを実行されてしまった。

 さて、たねの会が発足するのだが、設立時に採択した文章が、資料のp8~10までである。活動方針として、当面の目的として、公的種子事業の継続。これをまず提唱した。この段階では、何を対象種子にするかまでは知恵が回っていなかったが、これまで都道府県がやってきた種子の生産は継続させると。

 二点目は、法律上の措置と財政措置。法律や条例がなければ安定的に予算が確実にならない。人や予算をつけてこそ仕事も確実にできるため、それを保証する仕組みを作ろうとした。

 三点目は、知見の民間流出を防止しようとした。ご存知のとおり農業競争力支援法によって民間への知見の提供を求めているわけだけれども、その民間企業には当然、外資、巨大な多国籍企業、種子企業も入ってくる。そうしたところに流出した場合には、北海道で一番売れている「ゆめぴりか」が遺伝子組み換え米に変えられてしまう懸念がお母さんたちに結構あって、それが食い止められないかと議論をしてきた。また、農家さんが思っているのは、安くて安定した種子の供給ができるのか。そして、自分でタネが取れなくなるのか。つまり、農家の種子権が脅かされる懸念がある。

 そこで、四点目として自家採種が引き続き縮小されることなくやっていけるようにした。

 五点目がGM作物の栽培と流通の防止である。色々な面でGMの生産と流通を狙う動きが広がっている。研究段階ではあとちょっと押せばダダダと倒れるところまで来ている。日本はその承認数も世界一である。おそらく技術的にはどの作物でもラウンドアップ耐性にすることができるし、また、アレルギーを低減するとかも入ってくるのだが、それが嫌だという人が多い。道庁が世論調査をすると8割が「GMは嫌だ。食べたくない」と言っている。その声を反映して、五点に絞って、タネの会を作りましょうと。そして、条例を作っていく場合に、より包括的な条例。かつ、生産者と消費者が共に願う姿を追求していこうと議論をしてきた。

鈍い道庁の動きと新たなルールに求めるもの

 その頃、道庁は少しもたもたしていた。他県は国会で廃止を決めた直後から動き出して、今年の3月までには、兵庫県、埼玉県、新潟県が条例を作ったのだが、それでも北海道庁は動かなかった。新たなルールを作るとは言明していたが、それが要綱なのか条例なのかは最後まではっきり明言せずに先送りしてきた。6月15日に「たねの会」が発足し、方針案を発表した。直後の7月4日に知事が条例制定方針を議会で表した。そこで、我々が道に求めたのは、対象種子の拡大、在来種・地域固有種の支援、農家の自家採種権の支援、民間企業への種子知見の提供の資源、遺伝子組み換え作物開発・生産の規制であった。

たねの会としてやることは現地を見て学び食べてみること

 また、ただ条例制定を求めるだけの組織ではなく、北海道のタネそのものをちゃんと理解すること。何が大事なのか。何を絶対に守らなければならないのかと。皆で考えていきましょうということで、組織も広めようと。さらに、自分たちも楽しみましょうよと。まだまだ知らないタネ、マメなんかもものすごく種類がある。北海道はコメだけでも120品種もある。どれがどのように健康にいいのか。どこで作られているのか。ひとつずつタネを食べていこうと。それも企画している。例えば、中央農業試験場、滝川に北海道のシードバンクがある。28000種ものカルテがある。おそらく、都道府県レベルでは日本最大。大病院の倉庫のように、カルテがあり、それとコンピューターが連動している。色々なデータがぎっしり入っている。また、タネそのものも巨大な冷蔵倉庫に入っていて、そういうところを実際に見に行ったら楽しいではないか。そこで、いまバスツアーを企画している。また、道内各地には採種圃もある。農家にわたす採種の生産を、委託した種取り農家の圃場だ。この採種圃を管理するのは大変である。稲作農家たちが種子生産組合をつくり、「ゆめぴりか」や「ななつぼし」と、それぞれ1品種だけを作り、異形株は引っこ抜き、成績がいいものだけを残す。それをコンバインで刈るのだが、分解して一粒も残さないようにしていく。乾燥機も混じらないように徹底して掃除する。発芽率も低下しないようにする。それを皆で見にいく。面白いからである。また、タネを食べると。タネを見て食べて語る会というイベントをやった。貴重な小麦で作ったピザやオニギリを食べる。そして、料理教室や農家の現地見学会もやってきた。

 また、たねの会ができた直後にはたねの会のFBを開設した。

知事の条例制定表明が大きく新聞に掲載される

Harumi-Takahashi.jpg もうひとつやってきたことが、実際に条例策定を求めることだが、6月15日に「タネの会」を発足させ、新聞にも載ったのだが、それまで北海道新聞でも高橋はるみ知事は「消極姿勢」と書かれていたのだが、7月4日に条例制定を表明した。すると、これも大々的に記事になった。すると、道庁の関係者を含め複数の人々から「よくやってくれた」と言われた。そこで、すぐにやったのが、どのような条例を求めるのかの検討を開始した。それが資料11p以降である。条例制定にあたっての要望書ということで、9ポイントを求めた。タネの会の検討チームが条例私案を考えた。

 まず、タネが私企業の私有財産ではなく、人類の共通財産であるとタネの位置付けから始めた。そして、公的機関が生産していくと。これが第一点である。

 目指すことの二番目は、遺伝子組み換えの株式会社等に北海道の大切な遺伝資源が流出しないように求めた。

 目指すことの三番目は対象種子である。コメ、麦、大豆は旧法の責任だが、これ以外でも、馬鈴薯、ビート、そば、雑マメ、野菜、果樹、牧草など。北海道の大事なものばかりだが、これも公的機関が広く普及する体制を作って欲しいと。

 目指すことの五点目は、優良品種である。17pが概念図だが、実際に道が指定する品種は、現在、333品種あり、それを知事が指定している。うち、水稲、小麦、二条大麦と50品種が旧種子法対象である。それ以外の283品種のタネはどうするのか。それを積極的に支えていこうではないかと。

 そして、六点目が、在来種や地域限定種の支援。その中にも優良品種があるので支えて行けるようにしよう。七点目が自家採種等の権利保護。八点目が財政上の措置、九点目が流出防止である。

種子基本条例として抜本的な改革を求める

2018092802.jpg これを要望書として、道知事宛で農政部次長に提案した。道議会も全会派を回った。また、要望を条例とすればこうなるという案をタネの会として作ってみた。ここで、主要農作物種子条例ではなく種子基本条例、より包括的、抜本的な改革をこの際求めるという想いが名称にも込められている。

 まず、タネの位置付けを書き込んである。そして、なぜ作るのか、何を目指すのかの条例の目的を書き込んである。多様な品種、そして、安全・安心がミソである。そして、道庁の責任、生産者の役割、道民の役割をそれぞれ書いてある。

 新しい要素は在来種である。そして、財政上の措置も付け加えている。そして、流出防止もうたっている。

 北海道はとにかく品種が多い。その中で、「特に重要で優良な品種」を設定している。道の責務として開発生産までして欲しい。タマネギ、ジャガイモは民間企業がすでにカバーしているので、それは道がやることではないが、計画策定くらいは道でやれるでしょう。公的コントロールは道がした方がいいと。「はだか麦」は生産がゼロだから外すとか、臨機応変の対応ができるようにビルトインした。

要望書と条例案に大きな反響

News.jpg この要望書と条例私案をあげたところ、けっこう、大きな反響があった。道議会、そして、道農業農村振興審議会の先生からも「ちょっと話を聞きたい」と言われた。そして、それが、議会や審議会に反映され、8月29日に、道庁が農業農村振興審議会に骨子案を出した。フレームワークを出した。そして、9月4日に道が道議会の委員会に出した。この道の骨子案がp18からである。まずスケジュールで、これを見ると、今後、10月、12月と審議会が計3回開かれる。種子部会が審議会の下に作られ、審議を終えて、道は年明けの第1回定例会に条例案として出したいと非公式に私に言ってきた。来年の4月に知事選があるため、その感じを睨みながら、年度内に条例として制定したいと。新年度から施行したいと。

 そんなに急がず、充分な議論が大事であり、道民の納得の行く条例にすることが重要である。問題はどのような中身にするのかである。それがp19から初めて示されたのだが、やはり懸念していたことが最初から見えてきた。

 我々が求めた種子基本条例とは違い、最初から主要農作物、種子生産に関する条例と仕事を狭く限った条例案が出てきた。この中身を見て行くと、イネ、ムギ、ダイズ類を対象に作物を限っていくものである。この間、口頭で県の担当者に聞いたところ「フレキシブルに考えます」と言っていたのだが。実際にはこの「骨子案」にはっきり三作物名が書いてある。

 そして、p25は「たねの会」の意見が少し反映されたのかなと。新たな条例の制定にあたっては農協グループを活用すると。この中でJAグループは信頼できるのだが、「JA等」の表現によって民間活力を最大限活用すると。この「等」に民間企業が入り込む余地があるのかと聞くと「かもしれないね」と。だから気は抜けない。

 また、p27にあるように、優良品種の認定審議会を設置する。これは半歩前進くらいかなと。P28は北海道には8つの農業試験場があるのだけけれども、それと連携すると。それから、p32はお金をつけよとの財政上の資料である。これは期待できる。たねの会の要望が反映されたかたちだ。

 以上が道の出してきた骨子案である。これを「たねの会」はどう評価するのか。これをまとめたのがp33である。それを議論してきて、公開質問状ということで4日前に出して飛行機に乗ってきた。

 要するに、道が主要農作物といっているのは何なのか。それをはっきりしてほしい。そして、コメ、ムギ、ダイズに限るのであればその根拠はなんですかと。また、主要畑作物があるのだが、道として、審査要綱を持っている。畑作物を含めているのか改めて示して欲しいと。こうした作物をどうやって支えて行くのかを改めて聞いている。そして、知財の保護をどのようにしていくのか。在来種はいっさい入っていないため、それをどう位置づけるのかなどだ。要望書や条例私案も同様だが、質問状も、記者会見を開いて公表した。もちろん関係者にも送付した。

 最後に、これまでで見えてきたことを私なりにまとめてみた。飛行機の中で作ったため紙の資料にはないのだが、6つ見えてきた。まず、何よりも強い道民、消費者の強い関心がある。消費者、とりわけ、女性が安全・安心に関心がある。これはタネに直結する。遺伝子組み換えのタネであってはいけない。遺伝子組み換え生物への本能的反応である。そして、安価で安定的な種子を求める農家の声。これが強いことを実感してきた。

 第二に、多国籍企業の戦略の凄さ。着実に欲しい物を取りに向かう姿勢、農業、農産物、農地、水、種子、種苗が狙われていることを強く感じる。そして、その際に邪魔なものは消して行くんだと。農協も農業委員会も協同組合的なものも種子法も邪魔だと。種子法廃止の言い出しっぺは規制改革推進会議である。そこでそれをなくしていくことが課題として見えてきたと。

 第三に、条例と地方自治体の限界。地方自治体、県の条例だけでは限界があることも知った。例えば、自家採種権利。これらは条例上、どう書いたらいいのか色々考えたのだが表現しにくい。農家種子権とか食料主権、種子の共有財産性といった種子の位置づけや基本的権利構成を整理した法体系がいま日本にはないからだろう。それは、旧種子法にも復活法案にもない。そして、食料農業農村基本法にもこうした観点の規定はない。もちろん、法体系がなくても、種子の多様性や安全安心、自家採種の擁護、在来種支援、希少種の支持等は行政レベルでできるのだけれども、中央政府レベルでの課題が多いのではないかとやはり感じる。

 第四は、新自由主義が大きな壁になっていることだ。我々は民間株式会社に北海道の大事なタネを渡してもらっては困ると。多国籍企業に行くのは困るのでブロックして欲しいといっているのだけれども、「等」の中でまぜこぜにされてしまう。民間参入は日本の全体に大きく流れている政治的な流れであって、これに反対するのはダメだと。北海道でも信じられないことに道内の全空港が民営化されようとしている。それを道庁が主導している。これが流れている中で、このタネだけは民間の株式会社に渡してはならないとどう条例に歯止めとして書き込めるのか。

 第五は、知的財産権がもうひとつの壁。すでにタネが1978年に特許化されている時代に、そして、タネのDNAが知財のネタになっている時代に、そこにUPOV等で育成者権が重ねられると、それを取り除くことは非常に困難になっている。そして、6が遺伝子組み換え時代の到来である。今の状況を放置しておくと、遺伝子組み換えがそこら中で作られ食べられるという遺伝子組み換え時代が到来するのではないかと。TPP発効がひとつの画期になると思うのだけれども、雪崩を打つ前に大事なタネをブロックしておかなければならない。そう強く思っている。いずれも簡単ではないが、やらなくてはならない。

種子を守るための市民運動のあり方

 最後に種子を守るための市民運動上の課題を5点あげたい。

 ① おいしいタネを守ろう運動
 ② おいしいタネの自給作戦
 ③ 産直連携で国民運動に
 ④ 基本法の補強または新基本法
 ⑤ TPP脱却は不可欠

 まず、これまでは「TPP反対!」と拳をあげていのだけれども、そうではなく美味しいものを食べようと。拳ではなく指をあげれば人々がもっと集まってくるのではないかと思った。それは、単なる見せかけではなく、やはり食べることは本質で、美味しいものすべてが安全安心な「タネランキン」つまり、タネ、授精卵、菌類が、植物界、動物界、菌界からうまれてくるものが、すべて安全でないとイノチは安全ではないと。こういうことを美味しい物をたべることで知ろうと。

 次に、おいしいタネの自給作戦。遺伝子組み換え農産物があふれるようになったら、安心できるものは自分たちの手で作るしかないのではないかと。そして、最後の手段はタネの完全自給であると。市民の手で安全安心のタネを保存、生産、普及する事業をしていくと。公的事業が崩壊したときに民間企業にまかせたら大変なことになると。国がお手上げになってしまったら、市民の手で国や都道府県がこれまでやってきたことをやらざるをえない。そのために、民間のシードバンク。タネの方舟を作ってみたら如何かと。

 そして、産消連携の力で国民運動にと。考えることから始まる。

 基本法の補強または新基本法を。今の基本法にはそれがないので、国民の生存権、食料主権の視点からそれを規定する法体系を作らなければならない。それがなければ、新たに種子・種苗基本法を作っていく必要がある。

 最後にTPP脱却は不可欠ではないか。UPOVからの脱却これがどうしても欠かせない。ありがとうございました。

意見交換

道議会の与党、自民党の圧力で一度忖度?

会場 (以前に条例を作らないと言っていた)高橋知事の態度が変わったのはなぜか。ホクレンはどのように関わったのか。

久田徳二氏 知事は1年前には条例をすぐにも制定するような勢いがあった。「新たなルールを詰めよう」と言っていた。そして、新たなルールの内容について色々と聞いてみたところ、「条例にする」という。けれども、複数の人から聞くと、どうも道議会の与党である自民党が、すぐに条例を策定することをためらったらしい。または、霞が関からなんらかの圧力がかかった。道庁側にサインが送られ、それを道庁が忖度した、という可能性がある。「法律で一度無くしたものを再度条例というカタチで制定するとは何事か」という声もあったらしい。この道議会与党の動きが最終的に知事を抑制したのではないか。

 ホクレンについては、種子法は、正確にいうと農政マターであるため中央会が扱っているのだが、北海道にはそれとは別に、専門家集団としてホクレンがある。ホクレンも北農中央会も条例制定に後ろ向きでは決してない。しかし、全国中央会が国の改革によって骨抜きにされた可能性はある。

 ただ、たねの会が要望書を出し、それに対して道が骨子案を出したのは今年である。知事がぶれたのは昨年の話であり、たねの会発足前である。

条例原案私案が採択される可能性は?

会場 ここまでの条例原案が策定され、かつ、議会や農政審議会の委員にも根回しが終わっているとすると、条例を策定する担当部局としては非常に楽なはずだが、今後、後退した骨子案が変わり、道条例に在来種の理念が盛り込まれる可能性はあるのだろうか。

久田徳二氏 かなり可能性がある。というのは、新聞の読者の欄がそうしたことを書いており、道民の「たねの会」条例案への理解も広がりつつあるからだ。

農薬の規制が緩い日本のおかしさ

会場 在来種の保全については埼玉県でもふれてクリアーできているが、知的財産の流出防止についてはどうか。

会場 農薬の使用禁止についてはどうか。

久田徳二氏 知的財産の防止はかなり難しい。「民間に出せ」という大きな流れがあり、そこの中に種子法廃止もある。それが最大の山だとして譲らない。道庁は新自由主義の政府にあらがえないでいる。

 また、農薬の規制の問題は、たねの会でも出されたのだが、それにふれていくと、有機農業はどうか、自然栽培はどうか。あるいは、グリホサートはダメでネオニコもダメだが、それ以外はいいのか、とか収拾がつかなくなる。さらに、農薬規制を表に出せば北海道の多くの農家が引いてしまう。そこで、今回はとにかくいいタネを守っていくことに絞りたい、というところに落ち着いた。

印鑰智哉氏 フランス政府も(アグロエコロジーに)本腰を入れ始めたが、政権が変わって動きが鈍くなっている。しかし、法律を作ってしまったため後退はできない。グリホサートは危険である。日本はグリホサートを400倍も規制緩和した。一方、グリホサートを禁止した地方自治体はフィリピンやアルゼンチンでも数多くある。個人向けには売られていない。本当に日本はおかしい。

 また、グリホサート等、農薬を規制するにあたっては、規制した後での転換方法を示すことも大切で、フランスは3年かかるというロードマップを示している。

 個人的には、国会議員等、犠牲になる人を募って被験者になってもらい、グリホサートが検出されるかどうかチェックしてもらったらどうかと。国は農薬取締法の改正にあわせ、2021年に再評価すると言っている。変えられるチャンスはある。

TPPへの歯止めとしての条例

会場 種子法と条例はぶつかる。TPPが批准されれば条例を策定したとしてもダメになっていくのではないか。また、市町村レベルで条例を制定することは効果がないのか。例えば、埼玉県が条例を作ったら県内の市町村はいらないのか。

久田徳二氏 まず、国の責務を条例で決めることはできない。したがって、農家の種子への権利の規定は法律レベルでないと難しいだろう。したがって、法律も必要である。一方、公的種子事業は都道府県においてなされてきたのだが、そのシステムそのものは出来あがっている。それを守ることがまずは大事である。したがって、特殊なタネでない限りは市町村単位での条例はいらないのではないか。

 また、TPPで条例が無効になるかどうかとの質問だが、TPPが発効すれば、すぐにでもISDS条項が使える感じがするのだが、すべてが無効になることではない。都道府県単位での条例は生きていくと思う。ただ、知見の提供が求められてそれに反対した自治体または政府が訴えられる場面もあるかもしれない。それまでは守っていく。そうしているうちにTPPを無くしていくことが大事だ。

内田聖子氏 TPPはまだ発効はしていないが、日本はすでに批准をし、他にもメキシコ、シンガポールが批准をしている。発効条件は「6か国の批准」なので、あと3か国が批准をすれば発効するので、時間の問題である。TPPでは「UPOV1991を批准すること」がすべての加盟国に義務化されているが、それ以外に「種子」について具体的な文言は規定されていない。しかし例えばTPP交渉の中で日本と米国が交わした交換文書には、日本への投資を拡大するための方法の一つとして、「日本国政府は、規制改革会議の提言に従って必要な措置をとる」と明記されている。このような形であらゆる分野において、規制改革会議の提案する規制緩和、すなわち、米国の投資家が求める日本の政策変更が裏で進められていくことには注意を払う必要がある。

印鑰智哉氏 TPPでどのような争いになるのかはわからない。ただし、米国そのものは種子法の制度を持っている。各州で持っている。アメリカ如何であろう。また、参加型育種は県でやる必要はない。そういう制度を作ってしまう。在来種を復活させるために、種子交換会を無料提供するとか、そうした運動は市単位でやっていくべきだ。

アグリビジネスとの戦い

会場 いま農薬のことを言われたが、企業はタネを農薬とセットで売ろうとしている。2カ月前にマレーシアに行ったのだが、毎年、タネを配布しているが農薬会社と一緒に配っていると言っていた。それをまったく悪いことだと思っていない。びっくりした。そういうことが日本でもアジアでも起きている。このことを指摘したい。

 また、日本で「民営化」と口にされるときにはそれは憲法で保証された「民」ではなく企業に主権を渡すことを意味している。国鉄もJRになり組合が潰された。そこで社会党も力を失った。タネを民営化するというのは、国が権利を他国に譲るということだ。どう戦ったらいいのか。ご意見をいただきたい。

印鑰智哉氏 食が支配されれば産直もあり得ない。そうした中で、どうやってタネを守っていくのか。在来種を守る法律はない。そこで、種苗法が拡大解釈されていく。法律家はなんでも法律でやりたいと思うからだ。そうした中で、自家採種をどうやって守るのか。実は「秋田こまち」は登録されていない。全く自由なタネである。この自由を奪われないようにタネを守る運動をする必要がある。

久田徳二氏 消費者がすごく反応している。とりわけ、女性だ。北海道のお母さんたちが変わるチャンスだ。タネの会も38人でスタートしたが、3カ月で会員が150人になった。農家の関心も高まっている。ポイントは安価な種子が安定的に提供されてきたのに民営化されると価格が4〜10倍になると。これはダメだと。さらに、企業が農家の栽培方法から収穫物の販売までを支配する生産契約を求めるという話をすると北海道の農家は怒る。こういう、食の安全や、農家の自由を求める声にはTPPを壊す力がある。

会場 農民の立場から。タネは基本的に自家採種が当たり前だった。しかし、お米の銘柄競争が起こってから、その銘柄の特徴を生かすため自家採取から、毎年種子を買う「種子更新」が推奨された。だがその銘柄の特徴を保つためにはとてつもないコストがかかる。

 それを可能にしていたのが原原種を生産する各県の農業試験場だ。そこでは、「異品種や異系統のイネが混入しないようにするために1株植えで1,000㎡当たり10万株植え、雑穂が0.01%(10株)以下にするため、田植えの直後から収穫まで7~8回「雑穂抜き」をする。これは大変な作業です。

 こうして収穫された原原種を、翌年、種取り農家に配布し、指定された田んぼで種を生産し、翌年栽培農家に販売する、というとてつもないコストがかかっている。

 その種が、1㎏当たり400円から600円で手に入るのは、雑穂取りをやっているのが県の公務員、公共事業としておこなっているからだ。種子法廃止で、この仕組みがなくなることは、この値段で買えないことになる。ちなみに、現在売られている民間の種子「みつひかり」は、1㎏4000円だ。

 アメリカなどで生産されている遺伝子組み換えダイズやトウモロコシの生産コストに占める種代の比率は、約20%。日本のお米の場合は5%以下。それでも種子代は20%。アグリビジネスの狙は、種子を押さえ農薬や肥料をセットで売ることで儲けているということだ。だから、日本のお米などの遺伝子情報が欲しい。

 すでに県条例が成立した背景には、「民間に知見を渡してもいい」と条例に書き込んでいる県もあるが、これは、昨年の11月15日に農水事務次官から出された通知に、「民間が参入するまでは自治体でタネを守ってもいいですよ」という趣旨に沿っているからだと思う。

 だが、「北海道たねの会」の条例案には、「北海道内で育成された優良な種子及び関連情報について……その保護と流出防止対策等を講じる事」と明記している。これは、種子法廃止の根本的な狙いと対決する。すごいことだと思う。

 しかし、道庁から出された「条例案」にはこの部分がない。

 これから、各県で条例つくりの運動をしていく上で、財政的措置も含め、制度の枠組みを守るうえでは、「知見の流出」をどうするかを、「たねを守る」観点から大いに議論をひろめていく事だと思う。

全中を解体されて反対のトーンが低下

久田徳二氏 農業団体はどうしているのかとのお話だが、そこにはメディアの問題もある。北海道はオール北海道で「TPPはダメだ」と言ってきた。その場合に、全中の頭がすげかえられたのが大きい。拳が下がるトーンになってきた。条例制定を言うことも弱まった。さらに、規制改革推進会議への批判はメディアから皆無である。例えば、北海道新聞の一面に「組合員勘定廃止」が大見出しで出る。これは規制改革会議が言っているだけであり、決まったことでもなんでもないのに、そうした雰囲気が作られていく。米国の企業らが日本政府に (自分たちが望む政策を)やらせるための秘密の条約が交わされている。メディアはその潮流に乗っている。ここから脱却することがどうしても必要だ。

印鑰智哉氏 (いまの自由化の論理を)突き詰めていったのが韓国である。サムソンだけあればいいと。そうした政策が露骨に進められた。その結果、自給率が下がった。いま、人口5000万人のうち1000万人が食料主権を求めることに署名している。そして、韓国農業が変わってきている。マレーシアやブラジルでも(伝統的な)農業はなくなっている。そして、糖尿病が増えている。命と食とは一体となっている。そこで、食を取り戻さなければダメだと。ギリギリの段階でそこから(運動が)出てきたのかなと。日本でもそれは可能だと思う。食が危ないと本能的に動いている。それとタネの問題が一致している。食の運動を作り直すべきである。

編集後記

2018092801.jpg 北海道が熱い!。9月22日に東京は万世橋の近くの公民会で開催された「北海道での条例づくり」の取組みを飯田市のSさんとともに聴いてきましたが、これが第一印象だった。その内容は考えていた以上に凄いもので、改めて主権や人権とは何かということを考えさせられた。

 北海道はもともと農業が地域経済に占めるウェイトが大きい。TPPの打撃をもろに受ける。このため、主に2010年から経済的な視点から、北海道農業ジャーナリストの会がTPPの悪影響を憂えて自主的に研究してきたのだが、そこに種子法廃止がふって湧いてきたため、食の安心への不安から、女性を中心に一気に道民の関心が高まる。

「山田正彦元農相を呼んだ緊急集会に100人も集まるかと思っていたら260人も集まった。この市民のエネルギーをどうするか」

 この3月24日の道民のエネルギーの突き上げを受けて、6月15日には「たねの会」が発足する。有機農業界では著名な麻田信二元副知事ら38人が呼びかけ人となる。そして、高橋はるみ知事は7月4日に議会にて条例策定方針を表明する。

 この段階で、完全に遅れていることを実感させられた。

 長野県でも飯田市で3月3日に山田正彦元農相を呼んだ集会には500人以上が集まった。
 3月17日に長野市で開催された山田正彦元農相と印鑰智哉氏を呼んだ集会には320人も集まった。

 ドキュメンタリー映画『種子―みんなのもの?それとも企業の所有物?』もこの会場でRARCの特別の厚意で本邦初で上映されたし、北海道で上映されたのは7月のことだ。なのに、その後の動きは、北海道の方が早かった。

 7月18日は条例検討プロジェクトチームが発足。8月7日には、「要望書」と「条例私案」を提出する。もちろん、北海道の民間団体が種子保全に在来種を入れようとしていたことは知っていた。けれども、実際に条例私案づくりに携わった久田講師の生の声を聞けたことは大きかった。

 種子とは何か。種子は人類共通の財産である。生存権を保障するものである。なんとなれば、それは食料主権と直結するではないか。そこで、条例私案は「基本条例」という崇高な理念をまず掲げてみせる。そのうえで、農民の種子を採種する権利や外国への知的権利の流出防止を「民主主義」の見地から守ろうとしている。

 道庁OB、北海道新聞、ホクレン、消費者等のキーマンが、生命と食のあり方への崇高な理念共有を図りつつ、道農政部のOB、道議員、道の農業審議会の学識経験者にすべて根まわしすみだ。なんというしたたかさであろう。その一方で、具体的な運動論としては、美味しいものを食べようと。在来種の生産現場をみたり、その素材で料理を作ったり楽しむ。ここには、ただ拳をぶるんぶるんと振り回したり、口から唾をはきちらしながら顔を真っ赤にして机ばんばん叩いたりしてみたり、ただひたすら反対だけを唱える旧態依然としたサヨクとは一皮むけたしなやかさが見られる。

 その背景には「グローバル種子企業」が日本を植民地化しようとしており、まさに国家主権が冒されようとしているとの危機感がある。つまり、エセではない、あるべきウヨクとしての「國体護持」の視座もあるのだ。

 世界を股にかけて活動しているのは内田聖子さんや印鑰智哉さんはもちろん、久田徳二北大客員教授も経歴を見るとカリフォルニア大学デーヴィス校で客員研究員として2年間研究をされている。私のように海外事情に縁遠い人間としては、こうした世界的な視点から「郷土」を見ることが是非とも必要だと思っている。

 北の大地からの抵抗運動を見ていて、ふとなぜか沖縄とイメージが重なった。

 北海道では来年度に知事選があることから年度内に条例ができることはほぼ確実だ。早ければ12月と年内にはできる。けれども、「道民の安全で安心できる農産物の安定的な供給を目指すという大切さを考えれば、駆け足で策定すべきではない。策定までに十分な時間を取り、道民の意見を十分に反映させるべきだ」と突き放す。

 日本国中央政府のパブコメが単なるパフォーマンスにすぎないことは誰もが知っている。けれども、ここには、民意を反映することの大切さ。同時に、民が考えることによって民度をあげていくという成熟した世界観がある。

 ご存知のとおり、沖縄知事選も翁長元知事の理念を継承しマネーよりもアイデンティティ、法、民主主義のあり方を問う革新派のデニー氏と基地問題には一切ふれず、所得向上や教育充実という目先の実利を訴える保守派との対立になっている。いくら反対しても基地はできてしまうのだからもらうものは中央からもらっておこうというリアリストたちの組織的な支持を集めている。

 ということで、どうも種子の保全というのは、民主主義、地方自治、そして、何を報じるべきかというマスコミのあり方が全部関係しているように思えてきた。まさに、目から鱗からの勉強会であった。貴重な情報を提供していただくとともに、ろくにアクセス数がない拙ブログのために多忙な時間を割いてわざわざ誤植や表現ミス、誤解に赤字でペンを入れ、推敲いただいた久田徳二氏並びに内田聖子氏、会場から「農民」として意見を出して頂いたS氏にこの場を借りてお礼を申し上げたい。

【画像】
久田徳二北海道大学客員教授の画像はこのサイトより
麻田信二北海道元副知事の画像はこのサイトより
高橋はるみ北海道知事の画像はこのサイトより
8月7日に同農政部に条例私案を提出する久田徳二代表の画像はこのサイトより
要望書の記事の画像はこのサイトより
啓発運動の画像はこのサイトより
(2018年9月28日投稿)


posted by José Mujica at 10:30| Comment(0) | 種子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする