2018年10月29日

長野県、タネを守るため独自の条例制定に向けて動き出す~SBCラジオJポイント

はじめに

 日本の多様なタネを守ってきた「種子法」が2018年4月に廃止され、日本農業は大きな転換点にさしかかっている。SBCラジオ(信越放送)の「Jスポット」というコーナーは「種子法廃止」の問題を連続してとりあげてきた。4月30日の第1弾では山田正彦元農業大臣が登場し、6月4日の第2弾では「日本のタネを守る会」の事務局アドバイザー、印鑰智哉氏が出演した。7月9日の第3弾では、種苗法の改正問題で再び印鑰氏が登場した。

 さらに、8月からは、第4弾、第5弾、第6弾ということで、在来種保全や小森ナスが放送された。8時15~30分まで15分ほどだが、コンパクトになぜ在来種の保全が大切なのかがまとめられており、かつ、それを実践している方の生の声も聞ける。

 そして、第7弾では、いよいよ長野県の動きが紹介された。ということで、この放送の一部をテープ起こししたものを紹介しておこう(1)

長野県は来年6月議会での条例制定を目指すと知事が表明

久保正彰 ラジオJでは4月から種子法の廃止などについて農業にまつわる様々な法律の動きを取材して来ております生田明子アナウンサーのリポートをお伝え来ましたが、今日は県の動きをリポートしてもらいたいと思います。

Masaaki-kubo.jpg生田明子 おはようございます。そうなんです。4月の種子法の廃止をうけて、今日は県が独自の条例を作ろうとしている動きをレポートしたいと思います。

久保正彰 種子法は、稲や麦、大豆の種子の生産・普及を都道府県に義務付けていたんですが、民間企業に広く参入してもらうということで4月に廃止されたんですね。

生田明子 はい。ただ、種子法の廃止によって、「種の値段があがってしまうのではないか」や「品質の低下を招くのではないか」等を懸念する声が全国であがりました。国会でも野党6党が種子法復活の法案を衆議院に共同で提出しました。

 そうした中、自治体では、種子法に代わる独自の条例を作って、種子を守っていく動きが出てきています。新潟県、兵庫県、埼玉県ではすでにそんな条例が制定済。この秋には富山県、山形県もです。これに続きまして、長野県でも、阿部知事が今月2日の県議会代表質問の答弁で来年6月の定例会に条例案を提出する方針を明らかにしました。では、まずは、知事の発言からお聞きください。

2018102901.jpg阿部知事 条例制定にあたりましては、本県らしい条例となりますように農業者、種子生産者、農業団体等様々な立場の皆さんから個別に十分ご意見をお聞きしていきたいというふうに考えております。

 頂いたご意見をふまえて来年の1月までには骨子案を作成していきたいと考えております。幅広くご意見、県民の皆さま方のご意見をお聞きするためにパブリックコメントを行ってまいります。食と農業農村振興審議会におきましてご議論頂いた上で来年2月の定例会に、条例素案を示したうえで6月の定例会には条例案を提出する方向で取り組んでいきたいと考えております。

久保正彰 年明け2月の県議会で条例の素案を示して、6月の県会に条例案を提出しようという、こういうスケジュールなんですね。

生田明子 で、どんな条例になりそうかということで、今日は、長野県農政部長の山本智章(ともあき)さんに詳しく聞いてまいりました。まず、阿部知事の示す「本県らしい、つまり、長野県らしい」とはどういうことなのかをお聞きください。

長野県農政部は条例に、特産のソバの保存、原種センターの位置づけ、伝統野菜も検討

山本部長 これから様々な皆様からご意見をお聞きしながら検討していくわけですけども、今の時点で考えているのは、主要農作物種子法の中の対象は米、麦、大豆でございましたけれども、本県の場合は、特産の蕎麦がありますのでで、それを対象にしていくという方向性があります。

 2018102903.jpgそれから、本県には独自の組織としまして、「長野県原種センター」というのがありまして、これについて条例の中で位置づけていくということも一つの方向性かなと思っております。また、本県は伝統野菜が非常にたくさんありますので、伝統野菜について盛り込んでいくといったようなことを今の時点での長野県らしい、ということかなというふうに思っております。

久保正彰 なるほどね。米、麦、大豆に加えて、長野県らしさ、特産の「蕎麦」を加えようということですね。それから、伝統野菜で地域おこしをやっている人も多いですからこれも守っていこうということなんですね。

生田明子 はい、そうなんです。さらには、これまでどおり、原種センターも守っていこうという方向性なんですね。つまり、そういった様々な植物の種を守る条例を作って長野県の農業を守っていくという条例になりそうです。

JA等農業団体に意見を聞くほか、来年1月にはパブリックコメントも実施

久保正彰 うーん。そして、様々な方に意見を聞いてという知事の発言がありましたけれども、どういったところから聞いていこうと考えているんですか。

生田明子 はい、例えばJAという大きな農業団体があると思いますが、このJAも大きな組織から小さな組織まで実に幅広くありますよね。どんな対象に意見を聞いていくのか、そして、おおまかなスケジュールも農政部長にお聞きしました。

20181029yamamoto.jpg山本部長 農政部としましては、農業関係の団体の皆様や、あるいは市町村の皆様、それから、様々な農業者の皆様ですね。採種農家の皆様ですとか、あるいは中核的な農家の皆様、若手農家の皆様、あるいは、伝統野菜の生産者の皆様、そういった農業者の皆様、さらに、消費者の皆様からもご意見をお伺いしたいというふうに思っております。

 既に農業関係の団体の皆様からは意見をお聞きするということを始めているところでして、これから12月いっぱいかけて様々な皆様からご意見をお伺いをして、そして、1月にそれに基づいて骨子案を作りまして、でそれを、パブリックコメントという形で、またご意見をお聞きしていきたいと思っております。

 1月から、パブリックコメントを致しますので、この条例の素案につきまして、また色々とご意見ございましたら、ぜひまたご意見をお寄せ頂ければと思います。

生田明子 はい、パブリックコメントという言葉で出てきましたが、これは、ホームページで行われる県民に対しての意見公募のことです。農家の方への意見聴取は、全員というわけにはいきませんが、アンケートと団体の代表とは意見交換という形ですでに始まっています。アンケート等が回ってこられましたら、ぜひ返答をお願いいたします。

長野県としてどのような農業振興ビジョンを持っているのか

久保正彰 この条例ですけれども、長野県として、どういうビジョンでを持って作ろうとしているんですかねぇ。

生田明子 はい、山本農政部長は、こんなふうにおっしゃっていました。

山本部長 長野県の農業生産額の算出額は全国10位ということで,農業県であります。長野県の農業農村っていうのは産業としてもそうですけども、地域の暮らしや文化や伝統、それから県土の保全にとりましても、本当に重要な基盤、礎だというふうに思っております。こういったものを次の世代にしっかり残していくということが、次の世代につないでいくということが大事かなというふうに思っています。

 中核的な農家の皆さんが収益性の高い農業経営を展開してもらって、稼げる農業というものが定着している姿が理想だというふうに思ってますし、またその一方では、多様な担い手の皆さんが規模が小さくても元気に農業をされたり、あるいは、中山間地域の農村が生き生きと元気に輝いているという姿も、理想だというふうに思っています。そして加えるならば農と食と観光、この三つがしっかりと結びついて、地域の中で経済が循環していくといったような仕組みができるということが、大事かなと思っております。

生田明子 そのための条例なんですか?

山本部長 ひとつの重要なものだと思っています。

久保正彰 農業を取り巻く環境、大変厳しくなってますけれども、その中でも種子を、タネを守っていくという。こういう条例を考えているというわけなんですね。

Akiko-Ikuta.jpg生田明子 はい、そうなんですね。この条例は農家の方はもちろんですけれども、どんなものを食べるのか、何を食べるのかという「食」の切り口から見れば、消費者、県民全体に関係する事柄なんですよね。

 今、私たちが、様々な品種のごはんや、パンを今の値段で食べられるのは、稲の種、麦の種があるからです。つまり、種は私たちの命の源です。その大切さを、この条例制定の話題を通して、皆さんに知って頂ければと思っています。

 次回は、条例制定に向けた農業関係者の受け止めをまとめます。また、県内で行われる種子の勉強会についてもご紹介します。

編集後記

 主要農産物種子法の廃止を受けて、県民の間でも関心が高まっている。マスコミではまだ大きくは報じられてはいないが、国際ジャーナリスト堤未果さんの新刊『日本が売られる』(2018)幻冬舎新書は、種苗法改正とともに種子法廃止を取りあげています。出版から一週間でたちまち在庫がなくなり増刷される超ベストセラーとなっていて、読者の関心の高さが伺える。

 超弩級のベストセラーということもあって、信濃毎日新聞の2018年10月28日(日)の書評欄では以下のようにとりあげられた。

「水に森、教育や医療。今、ありとあらゆる領域が大企業や富裕層の投資の対象になっている。社会に責任を持つ市民として日本の資源や未来を守るため、強欲な資本主義を疑う重要性を本書は強く訴えかける。

 1980年代以降に新自由主義が大きな潮流となり、世界各国で水道民営化が拡大。だが、貧困地区で水道管が整備されない事態もおき、再公営化を求める声が強まっている。それと逆行するように、日本では近年、運営権を海外企業に売却する自治体が出てきた。

 水だけではない。教育を支える公立学校、高齢化社会に必須の介護事業。短期的利益を追求する企業に委ねれば、不安定さは増していく。

 本書は度々語りかける。「だが、本当にそうだろうか」と。政府の甘言に惑わされ、知らないうちに社会がやせ細る。それを止められるか否かの岐路に、私たちは立たされている」

 この書評には書かれてはいないのだけれども、この新書の中では実は重要な指摘がなされている。

「廃止された種子法を自分たちの地域だけでも元に戻そうと行動を起こしている自治体が少しずつだが増えている。北海道や長野県も自分たちの種子法条例を作成中だ(p239)」と長野県の動きが取りあげられているからだ。そして、長野県の動きがいよいよラジオということではあっても、マスコミで紹介されたのだ。この影響力は本当に大きいと思う。

 ブラジルでの保守派の勝利や年内のTPP11の発効等、世相は暗い方向に向かっているとしか思えないのだけれども、人間の善意を信じ、一人一人ができることをしていくことが大切だと本当に思う。このマイナーなブログもそんな草の根の一人のささやかな抵抗なのだ。

(2018年10月29日投稿)
【画像】
久保正彰アナウンサーの画像はこのサイトより
生田明子アナウンサーの画像はこのサイトより
阿部知事の画像はこのサイトより
山本農政部長の画像はこのサイトより
原種センターの画像はこのサイトより

【引用文献等】
(1) 2018年10月29日、 モーニングワイド ラジオJ
(2) 堤未果「日本が売られる」(2018)幻冬舎新書


posted by José Mujica at 20:51| Comment(0) | 種子法廃止 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする