2018年11月11日

有機野菜と腸内細菌で日本を変えよう〜①なぜ健康に野菜が大切なのか

人間とは微生物が詰まった管である

 単細胞微生物は35億年前に出現し、地球上で最も古い生命体といえる。これに比べれば人間はわずか20万年前に産声をあげた存在でしかない。地球の歴史を1日で表せば、微生物は午前4時には出現するが、人間はその日の最後の数秒前にやっと姿を見せるだけでしかない。原始的な形態をしているようにみえても、微生物は数十億年をかけた進化の産物なのである(p26)

 そして、この微生物たちは食料と住処を求めて人間の体内に侵入したのだが、共進化を経て、人間にとってなくてはならない存在になっている(p27)

 煎じ詰めれば、人間とは細菌が詰まった一本の管である。そして、この管の内側が「腸」である。その意味では、人間はミミズと大差がない。とはいえ、ヒドラのような初期の管では一端しか空いてはおらず、食べ物の取り入れ口と排泄物の出し口とは同じ穴を共有していたのだからたいした進歩なのである(p27)

繊維を食べることで腸内細菌たちは生きている

 人間の腸内には100兆個を越す細菌が生息している(p17)。とはいえ、腸内にも細菌の多い場所と少ない場所とがある。小腸では小さじいっぱいにわずか5000万個しかいないが、大腸にはその1万倍もの細菌が生息している(p29)。数百種類を越す細菌が100兆個以上も生息し、小さじあたり5000億個もの密度でひしめいている(p18)

 ここで、腸内細菌たちがどのように生きているのかを説明しておこう。腸内での競争は過酷で腸内細菌たちは峻烈な栄養源の獲得競争を繰り広げている(p153)。そして、細菌たちの餌になるのは炭水化物なのだが、一口に炭水化物といっても莫大な種類がある(p162)。例えば、コーンシロップに含まれる果糖の単糖分子は細菌も発酵させることができるが 人間が小腸で吸収してしまうため大腸にまでは届かない(p138,p162)。けれども、単糖分子が鎖状につながった多糖類、一方、3~9個の単糖が結合したオリゴ糖、10~数百の単糖が結合しているリンゴに含まれるペクチンも小腸では吸収されず大腸に達し、大腸内で急速に発酵する(p162)。例マネギやキクイモに含まれるイヌリンは最大60もの果糖分子がつながっているが(p137)、ヒトゲノムにはイヌリンの化学結合を切断する能力をコード化していない(p138)。このため、人間に吸収代謝されることなく大腸内で細菌の餌になる(p137)。一方、細胞壁を形成するセルロースは、ウシの胃やシロアリの腸内に生息する微生物は消化できるが、人間の腸内細菌も分解できないため、そのまま体外に排出される(p162)

 このように、微生物の食べ物となる炭水化物を「マック(MAC=Microbiota accessible Carbohydrates)」と呼ぼう(p150,p168)。腸内細菌の食べ物となるマックは数千種類もある(p162)。小麦のブランにもアラビノキシラン、キノコにもマンノースを主成分とするマンナンが含まれている(p168)。さて、これらは腸内生微生物は発酵させることで、短鎖脂肪酸へと転換していく(p138,p154,p162,p168)。つまり、細菌は人が消化できない繊維質を短鎖脂肪酸にまで分解してくれる(p154)。この短鎖脂肪酸は一日に食べる総熱量の6~10%に相当する(p155)。高カロリーの食べ物が少なかった祖先にとってこのエネルギーは重要であった(p38)

 それでは、なぜ、腸内細菌は人間のためにエネルギー源を残してくれているのであろうか。それは、腸内には酸素がなく、このため、細菌は好気性代謝をすることができず、嫌気性代謝、発酵に頼らざるを得ないことである。第二は、料源は早く移動していくため、マックを急速に発酵させることができる菌が有利となり繁殖することである(p153,p154)

食生活の変化で食料危機に陥っている大腸内の腸内細菌たち

 けれども、この腸内細菌が絶滅リストに載っている。ベネズエラのアマソナス州の先住民の腸内には約1600種類もいるのに、平均的な米国人には約1200種類しかいないのである(p18)。その理由は腸内細菌が食料危機に陥っているためである。

 人類は1万2000年前まで狩猟採集で食料を得ていた(p32)。アフリカの狩猟採集民、ハッザ族の日当り100〜150gの繊維質を食べている(p34)。小麦も1万年以上も前から食されてきたが、以前の小麦は、固い繊維質の外皮も含んでいたつまり、本来、人間は古代からマックを食べてきた(p174)。けれども、現在の食品は精製された小麦粉や大量の砂糖から作られている。このため、腸内細菌の餌がほとんど含まれていない(p166)。FDAは成人男子では38g、女子では15gを推奨しているのだが(p167)、平均的な米国人は10〜15gしか摂取していない(p32,p167)

野菜食の重要性を指摘した先駆者たち

 Thomas-Cleave.jpg食物繊維をもっと食べるべきだと最初に提唱した医師の一人にトーマス・クリーヴ(Thomas Latimer Cleave,1906〜1983年)博士がいる。博士は、生活習慣病の多くは精製された穀類を食べ、食物繊維を食べないことが原因だと主張した。博士はイギリスの海軍医であった。水平は野菜や果物を食べることが少なく便秘に悩まされることが多かった。博士はブランを摂取することを推奨したのだが、多くの人は変人扱いしていた(p158)

 アフリカの病院の外科医、デニス・バーキット(Denis Parsons Burkitt,1911〜1993年)博士も、クリーヴ博士の研究を知り、自分の経験からも食物繊維が果たす役割に強い興味を抱いた。欧米人が20gの食物繊維しか食べないのに比べて、辺境のアフリカ人は60~140gもたべ、腸の通過時間も2倍速く、排泄物の嵩も3~5倍もあった。バーキット博士は、アフリカ人に糖尿病、心臓病、大腸がん、便秘等にかからないのはそのためだと考えた。その後も食物繊維の重要性を研究し「国民の排泄物が小さければ病院を大きくしなければならない」と述べた(p159)

Denis-burkittS.jpg バーキット博士が食物繊維と健康との関係について講演した町ではブラン製品がたちまち売り切れた。バーキット博士らの研究に基づいて、1977年にはFDAも、国民に対して、もっと食物繊維を摂取するように推奨した(p159)。けれども、いまとは違ってなぜ食物繊維を多くとれば生活習慣病のリスクが減るかはわかっていなかった。一方で、同時期に脂肪が心臓病他の生活習慣病のリスクを高めるとの説が広まり始めた。このため、食物繊維の重要性は忘れられてしまったのである(p160)

野菜を食べないと腸の内壁が破壊され病気にかかる

Emmanuelle-Le-Chatelier.jpg フランス国立農学研究所(INRA)のエマヌエル・ル・シャトリエ(Emmanuelle Le Chatelier)博士ら国際研究チームが、2013年に発表した292人のデンマーク人の腸内細菌叢に含まれる遺伝子の調査結果がある。この研究によれば被験者は、2グループにわかれる。腸内細菌叢が豊かで、腸内に抗炎症性の細菌が棲息して単鎖脂肪酸が作られ痩せているグループと、炎症性細菌が多く肥満になりがちで、インスリン抵抗性も高く、2型糖尿病、心臓病、肝臓病へのリスクを抱えているグループである。同年、フランス国立保健医学研究所(INSERM)のオーレリー・コティヤード(Aurélie Cotillard)博士らが行った研究でも同様の結果が得られている(p171)

 ではなぜ、こうしたことが起こるのであろうか。いまでは理由が判明している。内細菌が鉱物とするマックには2種類がある。食物繊維に含まれているマックと腸の内壁を防御している粘液層だ。

 BreadeggS.jpg朝は、卵、ベーコン、白パンのトーストを食べ、オレンジジュースを飲む。昼にはポテトチップ、ソフトドリンク、白パンのサンドイッチを食べる。そして、夜には、肉、マッシュポテトを食べる。こんな食生活をしていたらどうなるだろうか。腸内細菌はまったくマックが得られない(p280)。大腸の内表面は粘液層に覆われているのだが、食料が枯渇して飢餓状態に陥れば飢えた細菌は小腸の細胞が絶えず分泌する粘液の炭水化物を食べて生きるしかない。粘液層は細胞が直接的に腸内細菌と接触しないための防護壁なのだが、どんどんと薄くなり、防御機能が低下し炎症が起きることになる(p167,p281)

Malin-JohanssonS.jpg 実際、2014年のスウェーデンのヨーテボリ大学のマーリン・ユーワンソン(Malin E V Johansson)准教授の研究によれば、粘液層が失われると、大腸炎になるリスクが高まることが判明している(p167)

 逆に野菜、穀類、果物を多く含む食事でマックを与えれば、多様な腸内細菌が繁殖できる。そして、腸内細菌叢の生態系も安定し、病原菌から身体を守ってくれるだけでなく、健康により短鎖脂肪酸を作り出す。

Suzanne-DevkotaS.jpg 2012年にシカゴ大学のスザン・デブコタ(Suzanne Devkota)准教授が、太り過ぎの人に低カロリー、多繊維食の食事(水溶性の食物繊維が130倍)を与える実験を行ってみると、体重が減り腸内細菌の多様性が高まった(p282)

老化も腸内細菌が健康ならば予防できる

 そして、腸内細菌が若さを保つうえでも重要なことがわかってきている(p244)。中心的な細菌種は3分の1~2を占め、何十年もその人の腸内にとどまり続ける。つまり、腸内細菌は驚くほど変化しない(p245)。細菌の中にはひとたび腸内に陣取ると、他の細菌を寄せ付けないものすらいる(p246)。けれども、加齢とともに腸内細菌は変化していく(p246)。赤ん坊の腸内細菌は混沌としているが、その後、安定する。そして、歳を取るとともに再び混沌としてくるのである。砂時計をイメージしてもらえばいい(p248)

Marcus-Claesson.jpg 2007年、アイルランドのユニヴァーシティ・カレッジ・コークでは、マーカス・クラーソン(Marcus J Claesson)博士らがプロジェクト「エルダーメット」を発足させた。その結果、高齢者の腸内細菌叢はかなりばらつきがあることがわかってきた(p248)。しかも、そのばらつきはランダムではなく、三つのクラスターからなっていることがわかってきた。

 第一は長期療養施設で暮らす人と類似して多様性が低いものだ(p250)。歳を取ると腸内細菌は変化する理由のひとつは、食生活だ。咀嚼力の衰えとともに柔らかいものしか食べなくなっていく。必然的に繊維質に富む植物や固い肉は減る(p247)。施設に入ると、あまり噛まなくても良いようにとの高齢者への配慮から、食物繊維が少ない食事に変わる(p249)。実際、エルダーメットの研究では、入所後1カ月でそこに長くいる人と類似し始め、最長で1年もすればずっと施設で暮らしてきた人の細菌叢と類似してくる(p250)。そして、腸内細菌叢の変化に対応して身体が衰えることもわかってきた(p251)

 一方、第一は、若者層と類似したもの。第二は、ディケアと類似したもので(p249)、第一や第二では、腸内細菌叢の多様性が高く、短鎖脂肪酸も多く産生され、炎症マ―カーが低く、筋肉量が多く、認知機能も低下せず、健康状態も良好だった(p250,p252)

 KanematsuS.jpgアイルランドで実施された高齢者の研究から、食物繊維が多い食事によって、腸内細菌叢が老化関連の病気を防ぐことがわかってきた。2013年にオビエド大学のアドリアナ・クエルヴォ(Adriana Cuervo)らの研究からも76〜95歳の人が多くの食物繊維を摂取したところ、単鎖脂肪酸が増えた。加齢に伴い、摂取カロリーは減っていく。一方、必要となるのは、栄養素である。米国のタフツ大学が米国の食事私信を高齢者の低カロリー向けにあわせ、食物繊維が多い野菜、果物、全粒穀物、豆類を重視したのは正しい(p267)

食べ物の通過スピードも大切

 Purna-kashyapS.jpgメイヨークリニックのプルナ・カシャップ(Purna Cashyap)医師は腸内での食べ物の流れが腸内細菌叢にどのように影響するのかに着目する(p232)

 下痢患者では食べ物が早く通過しすぎてしまうため、微生物が食物を分解する時間が足りない。一方、便秘患者では食べ物の速度が遅すぎる。いずれの場合も速度に適応した微生物だけが勢力を伸ばし、腸内細菌叢の多様性が減少する。これが腸内細菌の生態系を不安定にし、侵入する病原菌に資源を横取りさせることにつながる。つまり、下痢と便秘も悪循環につながる(p233)。野菜はこれほど重要だったのである(続)。

【画像】
トーマス・クリーヴ博士の画像はこのサイトより
デニス・バーキット博士の画像はこのサイトより
エマヌエル・ル・シャトリエ博士の画像はこのサイトより
マーリン・ユーワンソン准教授の画像はこのサイトより
スザーン・デブコタ准教授の画像はこのサイトより
マーカス・クラーソン博士の画像はこのサイトより
プルナ・カシャップ医師の画像はこのサイトより
ベーコンと目玉焼きの画像はこのサイトより
野菜中心食の画像はこのサイトより

【引用文献】
(1) ジャスティン・ソネンバーグ、エリカ・ソネンバーグ『腸科学-健康・長生き・ダイエットのための食事法』早川書房、2018年


posted by José Mujica at 16:41| Comment(0) | 腸内細菌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする