2018年11月12日

有機野菜と腸内細菌で日本を変えよう〜②野菜を食べれば免疫力が高まる?

発酵食品は有用菌の宝の山

 有史以前には冷蔵庫はなかった。そこで、熱帯や温帯に住む人々は腐敗を防ぐのではなく、腐っても食べられるように「腐敗」を調整した。これが発酵だ(p118)

Jeffrey-gordonS.jpg 最も有名な発酵食品はヨーグルトであろう。細菌は牛乳に含まれる乳糖(ラクトース)を乳酸に変えてくれる。細菌が食べた分だけエネルギー量はもとあった牛乳よりも減る。けれども、腐らずに長期保存ができるし、乳糖不耐性の人も食べられる(p120)。

 発酵食品としては、最大100種もの細菌と酵母が発酵させたケフィアもある(p127)。他にもザワークラウト、ピクルス、紅茶キノコ等がある(p128)。こうした善玉菌の効果を実証したものに2013年にワシントン大が苦のジェフリー・ゴードン(Jeffrey I. Gordon)教授の研究がある。痩せたマウスの腸内細菌を太ったマウスに移植してマウスを痩せさせることに成功した(p172)。けれども、腸内細菌叢の多様性を増やすためにはただその微生物を口から取り入れるだけでは足りない。そうした微生物が腸内で繁殖できるための餌となる食事をしなければならない(p173)

 こうした善玉菌を大腸内で増やすことを目的としているのがプレバイオティックスだ(p137)。新たな微生物を入れなくても、善玉菌の成長を促すうえで最も有効なのはマック、繊維を多く含んだ食事なのだ(p243)

有用菌、プロバイオティックスは腸内の観光客

 WHOによれば、プロバイオティックスの定義はこうだ。「適切な量を服用すれば健康に良い生きた微生物」(p116)。いわゆる「有用菌」だ。よくある誤解は、プロバイオティックスが腸内にずっと棲息するというものだ(p123)。けれども、腸内細菌叢を形成する常在菌とは違って「有用菌」は長くは腸内にとどまらない(p117)。なぜか。これにも理由がある。有用菌は腸内では生きることはできる。けれども、腸管の内面を覆う粘膜層等を食料とはしていないからだ。

 例えば、乳酸菌(ラクトバチルス菌)は、乳糖がある環境を好む。けれども、母乳に含まれている乳糖は赤ちゃんが吸収してしまう。だから大腸に棲む微生物にまではまわらない。

 ある意味では、有用菌とはヨーグルトのように自分が育つ発酵食品の国から、人間の腸という異国を訪れている観光客のようなものと言える。だから、常在菌に比べて圧倒的にその数は少ない(p123)

観光客こと有用菌が免疫系を刺激して防衛力を高める

 けれども、食べる意味はある。なぜか。消化管を通る際に、常在菌や腸内細胞と情報交換をすることで免疫系が情報を得て(p117)、危険な微生物に対する免疫系の防御力を高めるからだ(p123)

Daniel-merenstein.jpg ジョージタウン大学医学センターのダニエル・メレンシュテイン(Daniel Merenstein)准教授は 2010年に、3〜6歳の幼児、638人の半数にはランダムに有用菌を含む発酵乳製品を飲ませ、残りはプラセボを飲ませるという実験をやってみた(p124)。その結果、飲んだ子どもは胃腸感染症の罹患率が24%も低かった(p125)。さらに、気道感染の罹患率も日低いことが判明する。

 Qiukui-Hao.jpg数千人を対象に行った2011年に四川大学(Sichuan University)のチュウクウェ・ハオ(Qiukui Hao)医師の治癒でも、やはり上気道感染が低いことがわかっている(p126)

 腸とは無関係な風邪にまで効果があるのは不思議に思える。けれども、ここで腸の仕組みを改めてみてこう。人間の腸壁の細胞はタイルのようにきれいに並んでいる。そして、このタイル、すなわち、細胞の間はタンパク質でできた「漆喰」で固められているのだが、有用菌は腸細胞に働きかけることで、漆喰をさらに多く作らせ、腸壁を丈夫に保つ。そのうえ、壁の内壁にある粘液の分泌も促す。

2018111101.jpg それだけではない。腸細胞に「デフェンシン」として知られる分子を作らせる。これは、体外から侵入してくる細菌、ウィルス、真菌等から人体を守る化学兵器である。となれば、有用菌は、観光客というよりも、警備する傭兵といえるかもしれない(p124)。このため、風邪、インフルエンザ、下痢にかかりにくくなるのだ(p117)

 そもそも腸は絶えず体内に入ってくる細菌に対処するように進化してきた。このため、たえず細菌と出会う方が自然なのである(p117)

腸内細菌が暴走を調整し免疫系を鍛え上げている

 サルモネラ菌やクロストリジウム・ディフィシル菌等、侵入性病原菌に対して、腸内細菌叢は「生体防御機能」を働かせる(p216)

 第一に、細菌の一部は病原体を死滅させる化学物質を放出する。

 第二に、物理的な空間や餌を与えず、病原体が増殖できなくする(p216)。善玉菌はマックや粘液を食べ物としているが、サルモネラ菌はこれらを切り刻むハサミのような酵素を持たない。善玉菌は食べ物を分解するがその代謝産物は別の細菌にすぐに食べられてしまい、侵入細菌が食べられるものはほとんど残されていない(p229)

 第三に、免疫系に働きかけて感染に対処するよう仕向けている(p216)。侵入者がいるときに免疫系の働きが生ぬるければ病原体が有利になる(p103)。逆に免疫反応が激しすぎるて暴走すると過剰な炎症や無用な組織のダメージを引き起こし、自己免疫疾患や炎症性腸疾患につながっていく(p103,p106)。けれども、腸内細菌は絶えず腸と対話をしており、免疫系に働きかけ、自己免疫疾患や過剰なダメージを引き起こすほど激しくはないものの、脅威に抵抗できるほどちょうどよい反応を起こす(p230)。腸の内表面は粘膜に保護されているが、腸は餌を提供することで腸内細菌を養ってもいる(p102)。そして、腸内細菌が免疫反応の強度や持続時間も調整している(p103)

Honda.jpg カリフォルニア工科大学のサーキス・マズマニアン(Sarkis K. Mazmanian)教授は、腸内細菌によって自己への神経系への攻撃性が変わることをマウスの実験で2011年に証明した(p91)。つまり、この対話によって、免疫系は鍛えられ、無害な異物と有害な病原菌を区別できるようになっていく(p89)。また、慶応大学医学部(当時、理化学研究所)の本田賢也教授は、2013年にフィルミクテス門の腸内細菌にTレグ細胞を増やす働きがあることを発見する(p106)。それによって炎症反応が抑制され、自己免疫疾患、アレルギーを起こしにくくなっていたのである(p107)

 人間の腸は腸内細菌のトイレだとも言えるのだが、の排泄物である短鎖脂肪酸がTレグ細胞を増やすことをサポートしている(p107)。このことから、免疫系の名称を「微生物相互作用系」に改めるべきだと主張する人もいる(p93)

乳幼児の免疫力と老化の免疫力低下も腸内細菌が決める

 そして、幼児へと成長する生後の数年間が免疫系の発達が最も著しい(p103)。ハーバード大学のトレステン・オルスザック(Torsten Olszak )博士によれば、このときを逃すと免疫系は一生未発達のままに終わってしまう(p104)

2018111102.jpg また、腸内細菌の多様性は、炎症の少なさとも関係している。人間は歳をとるにつれてあらゆる機能が低下していく。けれども最も顕著な衰えが見られるのは免疫系である。免疫系は何度も侵入者との戦い、小競り合いの度にダメージを受けている。このダメージは完全には修復されない。そして、加齢とともに蓄積して免疫系全体の機能を低下させていく。これを「免疫老化」と呼ぶ(p253)

 免疫老化の仕組みは複雑だが、免疫系で炎症誘発傾向が高まる そして、軽度の炎症を引き起こした腸を好む腸内細菌はその炎症を慢性化する能力を持つ。その結果、悪循環が始まる。病原性細菌は体内にいても悪さはしない。というよりも問題を引き起こすにはその数が少なすぎる。けれども、腸に炎症があると増殖して炎症を悪化させる。こうしてアルツハイマー病、関節炎、認知症等、老化と関連した疾患が起きていく(p253)

抗生物質という焦土作戦がもたらすもの

 腸内細菌は百戦錬磨の軍隊のようなものだ。侵略を受けても老練な自国軍が遅れをとることはまずありえない。腸内には100兆個もの善玉菌がいる。少数のサルモネラ菌を摂取したところでどうということもない(p227)

 けれども、抗生物質を服用するとどうなるか。微生物の生態系に火を放つようなものだ(p217)。抗生物質は悪玉菌だけでなく善玉菌も殺してしまう(p223)

David-A.Relman.jpg スタンフォード大学のスタンフォード医学大学院のデビッド・レルマン(David Relman)教授は強力な抗生物質、シプロフロキサシンを用いて、腸内細菌が以前の10分の1~100分の1に減ることを示した(p225)。しかも、数週間後に3人のうちの被験者のうち1人は完全に元に戻ったが、残りの二人は違った。二カ月後も元の細菌叢は戻っていなかった。さらに、レルマンが2度目の投与を行うと、3人全員が2カ月後もダメージを受けて回復していなかった(p226)

 クロストリジウム・ディフィシルは抗生物質に対して耐性が強い胞子という休眠状態で火をやり過ごせる(p218)。きれいに片付いた腸内には膨大な空間や未利用資源が残されている。それまで無害であった菌は大繁殖を引き起こす(p218)

 また、生体防御の機能に加えて、抗生物質にはもうひとつの危険性がある。抗生物質の耐性菌が出現するリスクである。細菌は遺伝子の水平伝播によって遺伝子を共有することに長けている。抗生物質に死なない細菌が出現すると、抗生物質に弱い細菌も薬剤耐性遺伝子のコピーをもらいうけ、抗生物質耐性という有利な性質を獲得できるのである(p231)

糞便効果という威力

 これまでの治療では、最初の抗生物質の投与が失敗すると別の抗生物質を投与して、善玉菌が戻ってくるように神頼みするしかなかった(p219)。抗生物質の治療では治癒率は31%にすぎない。けれども、一度の治療で81%、残りの19%も二度目の治癒を受ければ、94%がという驚異的な治癒率を見せる療法がある(p221)。2013年、アムステルダム大学の科学者が実施した糞便微生物移植治療である(p220)

2018111103.jpg 実は、1958年に米国のデンバー総合病院のベンジャミン・アイスマン外科部長は、偽膜性腸炎を「便浣腸」で治癒できるとする論文を発表している。クロストリジウム・ディフィシルが偽膜性腸炎の原因であることが判明する20年も前のことだ(p221)。中国にはさらに古い記録がある。4世紀に重い下痢を「黄色いお茶」と呼ばれる糞便液で治癒していたのである(p222)(続)。

【画像】
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【引用文献】
(1) ジャスティン・ソネンバーグ、エリカ・ソネンバーグ『腸科学-健康・長生き・ダイエットのための食事法』早川書房、2018年


posted by José Mujica at 06:00| Comment(0) | 腸内細菌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする