2018年11月13日

有機野菜と腸内細菌で日本を変えよう〜③腸内細菌は心や行動も左右する

腸内細菌は脳や行動にも影響を及ぼす

Gareau-Melanie.jpg 腸内細菌は脳や行動にも影響を及ぼしている。この衝撃的な事実は2011年に無菌マウスの観察から最初に発見された。カナダのマクマスター大学のカレン・アニー・ノイフェード(Karen Anne McVey Neufeld Neufeld)博士の研究から無菌マウスは正常な腸内細菌を持つマウスと違ってリスクをおそれず無謀な行動をすることがわかったのだ(p186)。しかも、この無菌マウスは無謀なだけでなく記憶障害があることもわかってきた。2011年にカリフォルニア大学デーヴィス校のメラニー・ガリー(Melanie Gareau)准教授の実験によって20分前に見たものも覚えられていないことが判明する(p187)

Premysl-BercikS.jpg 2011年、カナダのマクマスター大学のプレミシル・ベルチック(Premysl Bercik)准教授は、冒険好きで活発なマウスの腸内細菌を臆病なマウスに移植することでマウスの性格が変わりマウスの行動すら変えられることを実証する(p189)。そして、腸内細菌の移植によって、海馬内の脳由来神経栄養因子(BDNF)のレベルが変化していることを見出す。BDNFは統合失調症、強迫性障害、鬱病等が関係するタンパク質だ。海馬内でBDNFが乏しければ不安感や鬱病が生じる。そして、腸内細菌はBDNFを変えることで宿主の気分を変えていることがわかってきた(p190)

腸内細菌は人に影響する物質を作り出す化学工場

 腸内細菌は医薬品工場であり、作り出した医薬品を腸を介して脳に送っているともいえる(p191)。なぜ、細菌がこのようなことをしているのかはわからない。細菌には意識もない。けれども、柑橘類等に含まれる多糖類のペクチンを好む細菌がいるとしよう。この細菌が偶然、宿主が柑橘類を食べたいと思うようになる化学分子を作り出したとしたらそれは細菌にとって有利となる(p192)

赤肉を食べると心臓疾患につながる化学物質が作られる

Zeneng-Wang.jpg 腸内細菌が作り出す化学物質は人間にメリットがあるだけではない。有害な老廃物のひとつにトリメチルアミン-N-オキシドがある(p194)。2011年にクリーブランド・クリニックのZeneng Wang准教授は、この化学物質が血液中に多いと心臓発作や脳卒中、動脈閉塞につながることを見いだす。そして、赤肉や脂肪分が多い食事がこの物質を増やすことがわかってきた。赤肉にはこの物質が合成されるのに必要なL−カルニチンが含まれる。これを原材料に腸内細菌はトリメチルアミンを合成し、これが酸化してトリメチルアミン-N-オキシドできるようになるからだ(p195,p282)。ヴィーガンにはこの物質が少なく、かつ、5年間もヴィーガンを続けてきた人が被験者となり肉を食べたところ、トリメチルアミン-N-オキシドの濃度は低かった。すなわち、この物質を作るのに適した腸内細菌をもっていなかったのである。

 マウスで同様の実験を行ってみると、トリメチルアミン-N-オキシドを合成しない腸内細菌を持つマウスにカルニチンを含む食事を与え続けると腸内細菌はトリメチルアミン-N-オキシドを大量に合成できるように変化した(p196)

自閉症も腸内細菌の乱れが原因だった

 米国質病管理予防センター(CDC)によれば68人に一人が自閉症スペクトラム障害にかかっている。かつ、過去10年で着実に増えている(p201)。なぜなのか。2013年にカリフォルニア工科大学のカリフォルニア工科大学のサーキス・マズマニアン(Sarkis K. Mazmanian,1972年~)教授は、自閉症スペクトラム障害と腸内細菌とに関係がある大きな発見を見いだす。過去に感染症にかかっていて免疫系が活性化され、強い免疫反応を引き起こす母マウスから生まれた子マウスは不安感が強く、反復行動を行い、正常なマウスと違って他のマウスと仲間づきあいをしない等、自閉症と類似した行動をしていたのである(p203)

 さらに、バクテロイデス・フラジリスを与えたところ、腸内細菌叢の構成が正常なマウスのそれに近づき、仲間づきあいの問題は残されていたものの、不安感や反復行動が減った。細菌による自閉症スペクトラム障害の治療効果には驚くべきものがあったのだ(p204)

 では、なぜこうしたことが可能になるのであろうか。自閉症障害を持つマウスでは腸細胞の「タイル」をつなぐ「漆喰」が不完全で、腸内細菌が作り出した物質が腸から体内に漏れだしてしまっている(p203)。例えば、自閉症スペクトラム障害に似た症状を呈するマウスでは、菌体外多糖(EPS)が正常なマウスに比べて40倍も多かった(p205)。けれども、バクテロイデス・フラジリスは、大腸の上皮細胞に「スパックル」を分泌させ、この腸内壁の漏れを直す(p204)。同時にEPSの濃度を正常なレベルにまで引き下げていた(p205)。そして、バクテロイデス・シータイオタオミクロンにも同様の効果があることがわかってきた(p204)

腸内細菌によって気分も変わるが心も腸内細菌を変えている

 2013年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校のキルステン・ティリッシュ(Kristen Tillisch)准教授は、ヨーグルトを1日に2回、1月にわたって食べ続けてもらう実験を行ってみた。そして、何百種類もいる腸内細菌にわずか4種類の乳酸菌を加えるだけで、前頭葉、前頭前野、側頭野、中脳水道周囲灰白質が変化することを明らかにした(p208)

Siobhain O' Mahony.jpg 腸内細菌と脳とは相互に作用し合っている(p198)。細菌の側は宿主の気分、記憶、行動までを調整しているが(p184,p198)、脳も腸内細菌に影響している。ユニバーシティ・カレッジ・コークのシオボン・オマホニー(Siobhain O' Mahony)講師が母マウスから子どもを引き離してストレスを与える実験をしてみると、腸内細菌の構成が変化したのである(p198)

 生態系の生物種が生態系がおかれた環境で決まるのと同じように、腸内細菌も腸内の環境によってどの細菌が繁栄するのかが決まる。粘液を餌とする細菌は腸の粘液層が穴だらけで薄くなれば生きられない。逆に粘液が増えればそれを餌とする微生物が増える。腸の神経系は食物がどれだけのスピードで通過していくのか。そして、粘液がどれだけ分泌されるのかによって腸内で繁栄する腸内細菌を決めているとも言える(p184)

Mark-Lyte.jpg 腸の神経系は第二の脳だとよく言われる。この第2の脳はヒトの内部にある「管」の働きを制御している(p183)。例えば、ストレスを感じて闘争逃走反応がはじまれば脅威に対応するため胃腸の運動は止まる。この腸内環境の変化を腸内細菌も感じ取る。母親から引き離されたアカゲザルも以前とは異なる腸内細菌叢を持つようになり、日和見感染にかかりやすくなる。テキサス工科大学健康科学センターのマーク・ライト(Mark Lyte)教授は、2006年に早くも腸が病原菌に感染したマウスは不安感が強いことを明らかにしている(p199)。この不安感が腸内細菌叢の変化につながり、それが腸の炎症を悪化させ、さらに悪循環につながっていく(p200)。顕在意識にはなっていないものの、腸内細菌の運命は宿主の「知性」によって決められている(p184)

おわりに

 Thomas-InselS.jpg米国立精神衛生研究所(NIMH)のインセル・トーマス(Insel Thomas,1951年〜)所長は「微生物相の違いが脳の発達や行動に与える影響は、今後10年、臨床神経科学の最前線となるだろう」と語っている(p213)

 人体は複雑系である。すべての部分が相互につながっている。腸内細菌がダメージを受けただけでその影響は全身に及ぶ。けれども、同じことは逆にポジティブにも考えることができる。ある部分が強化、健全化すれば、全身の健康にも良い結果が与えられることになる(p213)

 腸内細菌を養うために繊維が多い食事を食べ、抗生物質を控え、母乳保育を促進し、微生物にさらされる機会を増やすことは大きな意味を持つ(p212)(終わり)

【画像】
メラニー・ガリー准教授の画像はこのサイトより
プレミシル・ベルチック(Premysl Bercik)准教授の画像はこのサイトより
Zeneng Wang准教授の画像はこのサイトより
サーキス・マズマニアン教授の画像はこのサイトより
シオボン・オマホニー講師の画像はこのサイトより
マーク・ライト教授の画像はこのサイトより
インセル・トーマス所長の画像はこのサイトより

【引用文献】
(1) ジャスティン・ソネンバーグ、エリカ・ソネンバーグ『腸科学-健康・長生き・ダイエットのための食事法』早川書房、2018年


posted by José Mujica at 23:55| Comment(0) | 腸内細菌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする