2019年01月06日

注文が多い料理店〜公共の給食から始めて農業全体を変える

有機レストランの数を3倍に

Torben-BlokS.jpg「個人の料理店や大規模な公共食堂での調理に使われている有機食材の割当はかなり増えています。すでにその多くが『オーガニック・キュイジーヌ(有機食材)』が求める水準を満たしています。そして、このラベルは多くの料理店が有機食材を購入するインセンティブとなっています。ですから、その数を2020年には3倍の6000にすることを狙っているのです」

 こう語るのは、デンマーク有機農業協会のマーケティング・ディレクター、トブ・ブローク(Torben Blok)氏である(2)

Chistian-puglisiS.jpg デンマークでは、1999年から、国がゴールド、シルバー、ブロンズからなる「オーガニック・キュイジーヌ」のラベルを設けてきた。プロの料理店のためのもので、購入された食材のうちどれだけが有機かであるかの割合を示すものだ。例えば、ミシュラン-レストラン『Relæ』は、ゴールド(90~100%が有機)のラベルがあるレストランで、スターシェフ、クリスチャン・プリージ氏(Christian Puglisi)が抱えているのがその証明ボードである(2)

 2016年現在、デンマークでは約1800のレストランがこの「オーガニック・キュイジーヌ」のラベルを持ち、うち、6分の1の約300がゴールド、3分の1の約600がシルバー、残りの約900はブロンズとなっている(2)

料理店に注文する消費者たち

 もし、あなたがデンマーク人なら、きっと有機農産物を買っているはずだ。というのも、デンマーク人の実に80%が有機農産物を購入しているからだ。市場における有機農産物のシェアにおいて、デンマークは世界1位で13%も占める(4)

 世界有数の有機農業大国だけあって、有機食材への関心の高まりから、多くのレストランがちゃんと有機食材を使っていることをアピールしようと、2016年だけでラベルを設けたレストランの数は50%も増えた。そして、動きは加速化している。

 もちろん、多くの大規模なカフェや食堂はまだブロンズのラベルだが、シルバーを獲得しようと懸命に努力しており、シルバーの料理店はゴールドをゲットしようと努めている。「ですから、このラベルは、デンマーク農業を転換させる推進力にもなっているのです」とブローク氏は指摘する。事実、多くの農家が、いま有機農業に転換してきている(2)

 大規模な食堂での有機食材の販売量はこの5年で3倍以上にも増えている。これは、デンマーク最大手のHørkram フードサービスにとっても重要な動きだ。

vivi-kjaersgaardzS.jpg「多くのレストランが「オーガニック・キュイジーヌ」のラベルを得ているのは、各店舗がどれだけ有機食材を使っているのかを顧客が求めているからです」と同フードサービスの生産マネージャー、Vivi Kjersgaard氏は言う。 

「有機農産物の販売量は、慣行農産物よりも増えていますし、我が社の売上高の18%にも及びます。この7年では2桁の成長率でしたが、これは続くように思えます。どの食材部門でも有機を求める大きな声がありますし、以前には有機では販売が難しかったカテゴリー、例えば、生鮮肉類でもそうなのです」(2)

まずは需要を増やす学校給食の6割を有機に

 けれども、意外なことがある。デンマークにある約1800のオーガニック・キュイジーヌ・ラベルのうち、トップの1300以上は公共機関が占めている。これに、個人の料理店約350が続き、レストランやカフェがほぼ100、ホテル、仕出しセンター(catering centers)、民俗学校(folk schools)、フードマーケットが残りを占めている(2)

 一番遅れがちなお役所がトップを走っているというのは意外に思えるのではあるまいか。けれども、それにも理由がある。2011年。デンマーク政府は、2020年までに公的キッチンの60%を有機農産物にするとの国家目標を立てる(3,4)。そして、公共調達において有機農産物を増やすというかなりの努力が中央政府によってなされてきたからだ(3)

 学校や病院といった公共食堂において有機農産物の需要を増やす政策を展開(4)。2012年には、食材を有機農産物に変えることを望む公共機関に対して、有機農産物を優先した公共調達入札を各自治体ができるようアドバイザー・チームをもうけた。そして、3年間で230万ユーロ以上(2億8000万円)の資金を投じた(3)。こうした国家目標によって各自治体は動機づけられている(4) 。さらに、学校給食以外でも有機食材を購入するため300万ユーロ(3億7000万円)が組まれている。保健省は病院で有機農産物を公共調達しているし、国防省にも有機農産物を購入するパイロット・プロジェクトがある(3)

 また、個人消費を伸ばすための意識啓発キャンペーン、レストランのリーダーや従業員の教育、サプライチェーンやメニューの改革も展開した。このプランの背後にある思想は、国産であれ海外産であれ、有機農産物そのものに対する消費者需要を増やすことによって、慣行農業から有機農業への転換の動機づけにしようというものだ。そして、この政策は見事に機能し、2007年のベースラインと比較して有機農業面積を倍増するとの当初目標を達成する(4)

コーペンハーゲン学校給食の9割以上を有機に

 首都コペンハーゲンでは、2007年にデイケアセンター、学校、老人ケアセンターで提供される食材の90%を有機農産物にするとの目標が定められる(1)

 目標設定時の有機農産物の調達率は51%にすぎず、調理済みのパック食材に大きく依存していたのだから、実に野心的な計画だ(1)。とはいえ、2015年には価格をあげることなく、学校給食では90%目標を達成する(4)。そして、2016年に市が発表した数値によれば在宅患者ケア(home care patients)向けの素材は60%にとどまったが、デイケアセンターや学校では94%と目標を凌いだ。トータルでは、市内の公的調達の実に88%が有機となったのだ。いかなデンマークといえどもそれ以外のどの市もこの数値にはたどり着いてはいない。コペンハーゲンの割合は世界最高と考えられ(1)、ヨーロッパでも最も野心的な公共調達プログラムのひとつとなっている(4)

 おまけに、有機農産物は高い。にもかかわらず、有機食材への転換は、以前の予算を増額することなく達成された。なぜか。ゼロから料理し、旬の素材を購入し、食品廃棄物を削減し、使用する肉量を減らしたことでなされたと市側は説明する(1)

frank-jensenS.jpg「有機的な暮らしへの転換は、私どもコペンハーゲン市の緑のプロフィールのラインにまったく沿ったものです。コペンハーゲン市は食の分野で巨大なプレーヤーです。有機農業をスタンダードに設定することによって、環境を保護し、農薬を含まないクリーンな飲料水を確保することにもつながるのです。同じく重要なことは、高水準の目標を設定することが、とりわけ、日々、私どもの市からの食材提供に依存している全市民の皆様のより高い生活水準につながることです。我が市の学校、診療所、避難所、デイケアセンターにおいて、健康的で、かつ、おいしい食事が提供できることは、私にとっては、福祉のベーシックなコアでもあるのです」

 フランク・セン(Frank Jensen)市長はこう言う(1)

大欧州の転換~公共調達という秘密兵器

 はたして「公共財」とは何なのか。そして、「公共財」のためには公的資金はどのように使うべきなのだろうか。こうしたことを日々耳にする機会が増えている。公的資金は地球や人類のためになるよう、なんとなれば、環境や人々の健康に利するよう費やされなければならないからだ。

 そして、これも当然のことのように思えるが、いくつかの国においては、かなりの額の公的資金が、学校や病院、ケアホーム、大学、公官庁(government buildings)での公共調達に費やされている。そして、注目すべきは、有機農産物を公共調達しようという動きだ。

 この動きを政策化されれば、有機農業のメリットに対する消費者の意識が高まるし、地元で生産された有機農産物への需要が増えれば、持続可能に生産され、かつ、栄養価が高い食材を地元住民が手にするチャンスも増す。つまり、「公共調達」は持続可能な有機フードシステムを達成するための大きなステップと考えられているのだ(3)

 これは机上の空論ではない。例えば、スコットランドのイースト・エアシャーでは地場の有機農産物を含め、持続可能な給食に対して投資しているのだが、その社会的な見返りを試算してみると、1ユーロの投資に対して環境や社会経済的益で7ユーロもの価値を産みだしていることがわかったのだ(3)

 2008年。EU委員会は、公的機関においてグリーンな購買を促進するための措置として、グリーン公共調達を促進し始める(3)

 このこともあいまって、この10年で「有機アクション・プラン」は、ヨーロッパ諸国においてはすっかり馴染みある政策計画ツールとなってきている。とはいえ、同じプランであってもその効果は国によって温度差がある。2015年にアップデートされたデンマークの「有機アクション・プラン2011~2020年」は、最も先駆的な取組み事例とされ、他国のインスピレーションの源となっているのである(4)

新たな需要を作る

 では、なぜ、デンマークが大きく転換できたわけは、これまでみてきたように、かなりの資金で支えられ、需要創出に大きく重点がおかれていたことだった(4)

 なるほど、有機農業部門の強化だけに重点をおくのみならず、農業農村の発展や子どもたちの栄養の改善といった様々な政策目標と連携することも必要である。とはいえ、それはある程度、有機農業セクターが発展した場合に最も効果を発揮する。まだ発展の初期段階にある場合には、有機農産物を目標とした地元での学校給食用の有機食材調達プログラムが重要であろう(3)

 さらに、需要創出も必要である。例えば、商務・成長省は、高付加価値製品やマーケティング戦略を創出するため、移動製品開発チーム(mobile product development teams)に対して投資をしている。こうしたチームは、農民や中小企業とミーティングを重ねる中、5年間で、400以上もの新たな有機製品が開発された(4)

供給への万全のサポート体制

 もちろん、デンマークの計画は、需要を増やす「プル」と生産を刺激する「プッシュ」との組み合せによって成功している。例えば、有機農業には高い生産コストがかかることを政府は認め、農地支払いへの支援(support for land area payments)が維持されている。ヨーロッパ共通農業政策の財政措置を介して1億4300万ユーロ(176億8550万円)が転換とメンテナンスのために確保されている(4)

 そして、有機農業への転換は、研究やイノベーションに対する投資並びに農民たちに対するかなりのキャパシティ・ビルディングによって支えられている。

 オーダーメイドでのコンサルティング・サービスには、農場における「転換チェック」が含まれる。有機農業に転換したことでどのような成果が得られたのか。それを農民と議論するため農業改良普及員は、終日を農場で過ごすのである(4)

有機農業団体の支援と研究の支援

 公共調達プログラムを立ち上げるにあたっては、デンマーク有機農業協会は、大きな役割を演じた。そして、政府は同協会をサポートしている。協会は相談サービスを農民や会社に提供しているが、有機食材の供給量を担保・拡充するため、農民、食品会社、食品サービス会社をまとめあげた。同時に環境・食品省や「有機フードシステムの革新基金と研究のための国際センター」を介して、有機農業の研究に資金提供をしている(3,4)

デンマークが変わると他国にも影響

 デンマークにおける有機農業生産の高まりは、他国においても市場を形成している。有機酪農製品、豚肉、穀物、家畜飼料を輸出しているからだ。輸入国を見てみると、圧倒的にドイツが多く、これに、スウェーデン、中国、フランスが続く。同時に、デンマーク国内における需要の高さから、有機農産物の輸入量は輸出量を上回っている。デンマークは、有機果物や有機野菜、穀物、家畜飼料を他のEU諸国、とりわけ、ドイツ、オランダ、イタリアから輸入しているのだ(4)

市民意識が変われば政権交代があってもぶれない

 アグロエコロジーに対するサポートが直面する難題は、政策や支援資金が変わらずに続くかどうかである。実は、デンマークにおいては、2015年の政権交代がその危機的となる時期だった。とはいえ、新政権も有機農業の支援では変わらなかった(4)。2015年の「有機アクションプラン」では、有機食材の供給量を増やすため、2015~ 2018年にかけ800万ユーロを割り当てられた(3)。デンマークの事例は幅広い政治的な支持が市民社会やステークホルダーからあれば、たとえ政権が交代したとしても政策が変わらないと言う好事例でもあるのである(4)

 確かに、農家の転換プロセスを支援するための支援資金は巨額である。けれども、給食を含めて、公共の食堂で日々出される健康的な有機食から80万人以上が、パブリックな恩恵を得ていると政府は見積もっている(4)

【地名】
イースト・エアシャー(East Ayrshire)

【用語】
デンマーク有機農業協会(The association Organic Denmark)
オーガニック・キュイジーヌ(Organic Cuisine =有機食材)
EU委員会(EU Commission)
グリーン公共調達(Green Public Procurement)
有機アクション・プラン(Organic Action Plans= OAPs)
有機アクション・プラン2011~2020年(Denmark Organic Action Plan: Working together for more organics)
商務・成長省(Ministry for Industry, Business and Financial Affairs)
環境・食品省(Ministry of Environment and Food)
有機フードシステムの革新基金と研究のための国際センター(Innovation Fund and the International Centre for Research in Organic Food Systems)

【画像】
トブ・ブローク氏の画像はこのサイトより
クリスチャン・プリージ氏の画像はこのサイトより
Vivi Kjersgaard氏の画像はこのサイトより
フランク・イェンセン市長の画像はこのサイトより

【引用文献】
(1) Copenhagen touts ‘organic food revolution’, the local Denmark, 24 May 2016.
(2) Boom in organically certified eateries in Denmark, Organic Denmark,15 Nov 2016.
(3) Joelle Katto Andrighetto, Organic Public Procurement is a Win-Win Scenario for Farmers, Consumers & Public Goods, September 5, 2018.
(4) Future Policy Award 2018 crowns best policies on agroecology and sustainable food systems

編集後記

 みなさん、明けましておめでとうございます。遅らばせながら、今年の第一弾のブログです。

 TPPの発動といい、ゲノム編集の解禁といい、確かに、日本だけを見ていると暗澹たる気分になってくる。けれども、これだけ地球が破滅的であるとその反動も大きい。まずは明るい話題から。デンマークの首都コーペンハーゲンは公共調達の9割を有機にすると目標をたて、デイケアセンターと学校給食では94%を達成したものの、老人ホーム足を引っぱり、トータルでは88%と目標達成が達成できなかった。だが、はたしてこれを失敗と言えるであろうか。「ナヌ。88%が有機だと」思わず口をあんぐりとあけたくなるに違いない。

 フランスのみならず、デンマークでも公共調達で6割を有機農産物を義務づけし、消費者の8割も有機を買っている。なぜ有機でやれないのか、圃場で1日農家と語り合うのが普及員のお仕事。もはや、かの国においては慣行農業をやることの方が難しいのではあるまいか。日本で騒がれているスマート農業だIOTだという前に、まさに話題にもならないアグロエコロジーが着実に市民権を得て大欧州が転換しつつあるという事実に衝撃を受けた方がいい。

 「コペンハーゲンの学校給食では9割が有機食材である」。この驚くべき話を知ったのはこのブログでも何度も登場している印鑰智哉氏のフェイスブックである。同氏の長野県池田町での講演は昨年の12月1日に聴講することができた。「驚くべきことではないか」と口にすると「他国からの輸入ですから」と印鑰氏はさりげなく受け流した。とはいえ、他国からの輸入食材とはいえ、9割もの有機給食を達成しているというのはやはり凄まじい。大欧州が転換しつつあることがまざまざと知られてくる。

 新年早々、デンマークをとりあげてみたくなったのは、この池田町の講演を企画された臼井健二夫妻が村上真平(1959年~)氏とのバングラディシュでの出会いから、タネに覚醒されたことを知ったことだった。2018年9月5日付の姉妹ブログ「いいかげんなタネ採り作法」でも書いたのだが、1996年にコペンハーゲンで開催されたIFOAMオーガニック世界会議で、ずっと一緒だったのが、この真平氏の父上で、エゴマ油づくりにも力を入れていた村上周平(1923~2004年)氏であった。周平氏は内村鑑三(1861〜1930年)の『後世への最大遺物・デンマルク国の話』(1976年) 岩波文庫を愛読され、胸に期待を膨らませて憧れの地に降り立った。けれども、2haもある施設農業を案内され、1ha以下の露地農家は「農家や園芸家」ではなく家庭菜園だと言われて落胆していた様を思い出す。けれども、故周平氏がこの記事を読めば「やはり有機の時代が来た。デンマルクを評価した鑑三は正しかった」と納得されるに違いない。

 ということで、今年もこうした明るい話題を提供していきたいと思っています。よろしくお願いします。 

 (2019年1月5日)



posted by José Mujica at 00:37| Comment(0) | アグロエコロジー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする