2019年01月08日

続・注文の多い料理店

有機農業が大切な5つの理由

 いきなりだが、有機農業がなぜ、いま大切なのかを改めて確認しておこう。

 第一に、有機農業は世界を養う上で欠かせない。もちろん、世界を養うには、GMO、化学集約型農業、モノカルチャーが必要だという指摘がある。けれども、2013年の国連リポート「Wake Up Before It’s Too Late」は、小規模な有機農業だけが持続可能に世界を養える唯一の方法だと結論づけている。土壌、水、大気に取り返しがつかないダメージをもたらすことなく、地球を養うには、ローカルな小規模な農業からなるフードシステムへとシフトすることが唯一の方法だと述べている。

 第二に、有機農業では農薬被曝を避けられる。ほとんどの農薬は大変に有毒で、その多くが癌や先天性欠損症を引き起こす。もちろん、農薬使用を推奨する人たちは、食品中の残留農薬濃度はリスクをもたらさないほど低いと主張する。残留基準値は、米国の食料品質保護法で規制されている。けれども、それ以下の濃度であっても潜在的な健康リスクがあることは注意したい。安全だと主張する研究は、農薬販売によって利潤を得る会社によってなされている。そして、子どもたちは、臓器がまだ発育途上にあるため、有毒な化学物質をデトックスできないことから、とりわけ、リスクにさらされている。したがって、農薬被曝を減らすことは、とりわけ、農場労動者やその家族に大切だし、有機農産物を食べる消費者も、子どもたちや妊婦のための理数を減らせる。この残留農薬を避ける唯一の方法は有機農業しかない。

 第三に有機農産物ではGMOも避けられる。どの生産過程においても有機農業ではGMOは認められていない。したがって、GMOを避けたければ、有機農産物を選択することが最高の選択肢なのである。

 第四に、有機農産物は美味しいだけでなく栄養価もより高い。健康や環境に望ましいのみならず、栄養価が高いこともわかってきている。例えば、オーガニックセンターが公表する研究から、有機食品は抗酸化成分を多く含み、抗炎症性であり、慣行の食品以上に健康上重要なことが明らかになっている。他の研究から、有機農産物には硝酸塩が少ないことも実証されている。また、別の研究者から、有機のベリーが一貫してより味わいがあり甘いことも見出されている。

 第五に有機農業は、生物多様性を保全し土壌を肥沃にする助けとなる。有機農場を訪れてみれば、益虫、土着の動物、在来の植物が繁栄して、多様な生息地が目にできる。有機農業で土壌の肥沃度が高まれば、気候変動に伴う旱魃や洪水にもより耐性がある。

 一方で、モノカルチャーや化学肥料への依存は土壌に被害をもたらす。農薬も環境を破壊する。農薬の飛散は農村以外にも影響を及ぼす。化学肥料は下流で海洋環境も破壊する。例えば、メキシコ湾のデッドゾーンはニュージャージー州よりも広い。

 要するに、有機農業は、あなた自身や子どもたちにとっても、農場で働く農家にとっても健康を維持する上で欠かせない。そして、地球の未来にとっても重要である。有機農産物のこうしたメリットをすべて考慮すれば、次にスーパーにでかけるときには有機農産物に対してもっと多くを支払う気がでてくるのではあるまいか(1)

国を有機農業へと転換することは可能だ~デンマークの有機革命

 次に、国をあげて有機農業に取り組む国のことをイメージしてみてほしい。米国においては、有機認証された農地は全体のわずか1%にすぎないから、夢物語のように思える。けれども、デンマークにおいては、このビジョンは非常に現実に近い。有機農業への転換は可能だし、それが現実的に思えてくる(1)

高い国民の消費者意識

Danish-organic01S.jpg デンマークは、有機農産物の市場占有率でヨーロッパ内でもダントツで他国よりも進んでいる。デンマークの消費者は、有機食品を好んで購入している(1,2)。どれほど有機農産物の人気が高いのかを明らかにしたのがスイスにある有機農業研究所の研究である。このリポートはドイツでのビオファッハ(Biofach)での有機食品フェアで公表され、そこには、54ものデンマークの有機食品会社が参加したのだが(3)、このリポートによれば有機農産物の市場占有率はデンマークが世界最高で、全食品市場の8.4%を占めている(2,3)。このリポートが調査したのは178カ国だがデンマークに続くのは、スイス7.7%、ルクセンブルク7.5%となっている(3)

Per-Koelster.jpg「これは、私どもが信じられないほど誇りに思えるポジションです。何よりも、このことは、かなりの程度でデンマーク人たちは信頼のおける食品を買い、家畜の福祉を担保しつつ、自然や環境に違いを産み出したいと願っていることを示しています」、有機農業協会のPer Kølster会長は言う。有機農業研究所のリポートによれば、デンマーク人たちは一人当たりで有機食材に対して191ユーロ(2万3800円)を支出している。これは世界で二番目に高い。一位はスイスで262ユーロ(3万2000円)だ。一方、有機農産物の世界最大の市場を持つ国は圧倒的なまでに米国である(3)

 エスベン・ヨーネ・ラーセン(Esben Lunde Larsen,1978年~)食料環境大臣も、デンマークでは有機農産物への需要が高いと語る。

「デンマークの消費者の有機農産物への要求感は高いのです。実際、国内市場での有機食品のシェア率は10%以上で、世界最大の国内市場があるのです」(4)。つまり、デンマーク人たちは有機農産物をなにより好んでいる(1)

有機農産物の輸出でも世界に存在感

Danish-organic02S.jpg けれども、デンマークの有機農産物に対する需要は、国内だけに限られない(4)。デンマークの有機革命が感じられているは国内だけではない(3)。というのは、デンマークからの有機農産物の輸出量も2007年以降200%以上増えているからだ(1,2)。有機農業協会によれば、デンマークの有機食品の輸出は過去10年で新記録を出し、2015年の輸出額は、前年に対して15%も増えて約20億クローネ(334億円)となった(3)

「我々の有機農業一位というポジションは、全世界の市場に対して、我が国の有機企業が消費者に人気のあるエキサイティングな質の食品を生産しているとのクリアーなシグナルなのです」と協会会長は言う(3)。実際、デンマークの有機ブランドはすでにビジネス化されて25年も経ち、世界でも最も古い有機ブランドのひとつとなっている(1)

「輸出に関して、私どもは中流階級の成長で需要が大きくなっているところを見据えています。とりわけ、中国にそれが見られます」と、ラーセン食料環境大臣も言う(4)

有機農業革命ができたわけ

有機農業面積倍増計画

 実は、デンマーク政府は、国内農業を持続可能な有機農業へと転換し、有機農産物の供給量を増やすためにあの手この手を尽くしてきた(1,2)。例えば、2015年に、食料農漁業省は、2020年までに2007年比で有機農業の生産面積を倍増するとの野心的な計画を発表する(1,2,3)。このアクションプランのため、政府は、計4億クローネ(6080万ドル=67億円)を投じた(2)

学校給食を介して有機農産物の需要を増大

 まず計画が目標とするのは、有機農産物の需要を増やすことである(1)。そこで、国の公共機関においてさらに多くの有機食品を提供するとの野心的な新計画も発表される(1,3)。ターゲットとされたのは、保育園、学校、デイケアセンター、病院、非民営でのカフェテリア等、公共機関から市民へと提供される食事の60%を有機食材にするとの目標であった。全国にある公共機関は日々約80万食を提供している。その影響は計り知れない(1,2)

 Dan-Jørgensen.JPG当時のダン・ヨエンセン(Dan Jørgensen,1975年~)食料農漁業大臣は、デンマークを有機農業国へと転換する有機プランを「西側において最も野心的である」と評した(1,2,3)。しかし、こうも続ける。

「とはいえ、これを達成するためには、公共セクターが先導する必要があります。デンマーク有機農業協会と協力し、私どもは新たなイニシアティブの下、自治体、地方、省庁間の連携を強化しております。私ども自身もコミットしている。とりわけ、食堂、病院、デイケアーセンターでのメニューに有機の項目をさらに設けているのです」(2)

 この公共機関での有機農産物使用を援助するため、食料農漁業省は2015~2018年にかけ800万ユーロ(10億円)の予算投じ、国内市場での販売促進のため330万ユーロ以上(4億円)を投じている(1)

 また、国の有機農産物基準を簡素化し(1)、プランの一部として、公有地においては有機農業とバイオダイナミックの方法だけを用いて耕作されることとした(1,2)。政府は、新技術や考えを発展させるため、このセクターで働く人々を支援し、有機農業への転換を望む農業者に対する助成金も支給している(1)

国防省は基地で有機料理を、文部省は学校で有機教育を

 取り組んでいるのは食料農漁業省だけではない。国防総省も、基地他の関連するカフェテリアでは多くの有機食を提供しているし、環境省も多くのエリアを有機農場で管理するための転換を約束している。

 また、文部省が演じる役割も重要で、子どもたちやティーンエイジの若者たちに有機農業の重要性や栄養上のメリットを教えるカリキュラムを増やしている(1,2)

保守政権に交代しても止められないデンマークの有機暴走

 この結果、2016年には、都市の公共機関で出されるすべての食物の印象的な88%が有機だとコペンハーゲン市は発表した。それは世界のどこよりも最も高い比率とされている(3)

 さらに、デンマークでは2015年6月に行われた総選挙で右派の自由党が政権を獲得する。この総選挙の結果、2011年から政権を担っていた社会民主党・急進自由党連立政権(左派)が議席数を減らし、第3党となった自由党の単独政権へと4年ぶりの政権交代が行われた(5)。けれども、保守になっても政策は変わらない。2018年4月13日にはデンマーク政府は、有機農業の発展を支援するための新たな予算計画を発表した。計画が狙うのは、有機農業の実践を選択する農業者の数を増やすことにある。このため、農業者の有機農業への転換を支援するため2018年と2019年にかけて、11億クローネ(1億4700万ユーロ=184億円)が投入される(4)

Esben-Lunde-LarsenS.jpg ラーセン農業大臣は、有機農業では農業者が高いコストや時間を要することから、転換に対する国からの資金援助が必要だと言う。その一方で、大臣は、伝統的な農民たちのための場も残っており、彼らのニーズも考慮され続けるとも言う。こうした発表に対して、デンマーク有機農業協会のマーケティング・ディレクター、Henrik Hindborg氏は感謝するとともにこう答えている。

「国内市場と多くの輸出市場のいずれにおいても売上高が増加しています。広大なエリアを有機操業に転換するための必要性が多くあるのです」(4)

我々がデンマークから学べる教訓

 多くの国では食品廃棄物が問題となっているが、デンマーク政府は「Stop Spild Af Mad(廃棄食品を止める)」といった組織と連携し、2008年からこの事業に着手し、5年間で食品廃棄物を25%削減している。また、NPO「We Food」は、コペンハーゲンの低収入地区に店舗を設け、スーパーよりも廉価で食品を販売している。米国では、ファーストフードの労働者は、低賃金に苦しめられているが、デンマークにおいてはファストフード業界は労働者に1時間につき少なくとも20ドルは支払っている(1)

 デンマークでは、畜産業でも抗生物質の使用を少なくしており、食用家畜もより人道的に育てている。例えば、バリー・エスタブロック(Barry Estabrook)が著作『Pig Tails』で論じているように、デンマークの農家は、楽しみと刺激のために豚には藁を提供することが求められている。それは米国式の工場型農場とは大きく異なる(1)

 要するに、デンマークでは、食料生産は、効率性のために労働者や家畜の幸せ、環境が犠牲にされることはない。これは米国やそれ以外の国にとっても真実でありえる。ジャーナリスト、Lindsay Oberstさんはこう述べている。

 デンマークが食料生産において達成したことに対して、多くの人々や組織が関心を払い、そして、変化を受け入れるならば、有機農産物の供給量は増えるであろう。そして、国連のリポートが指摘するように、世界が小規模な有機農場が必要とされているのであれば、さらに多くの資源が有機農業のために投じられる必要がある。それは、デンマークがすでにしていることなのだ。もし、あなたが自分自身や生きとし生けるすべてのものたちのために、より毒が少ない環境を望むのであれば、できる限り有機農産物を購入するように心がけ、かつ、農業生産者や農産物の販売業者に対して有機農産物を求めてほしい(1)

編集後記

 2019年1月7日、つまり、昨夜だが、生活クラブ生協小布施支部のTさん宅で、小布施町の有機農家、K氏と「OBUSE食と農の未来会議」の活動について話をした。同会議は第2回を開いたのだが、そこでは埼玉県小川町の有機農家金子美登氏が都幾川村にある豆腐屋「豆腐工房わたなべ」と連携してダイズを高付加価値化していることが話題に出たという。なぜ、小川町の金子美登氏を話題にしたのかというと、 1996年にコペンハーゲンでIFOAMの有機農業国際会議が開かれた際、金子夫妻とそこを訪れているからだ。インターネットで「デンマークの有機農業」を検索すると、デンマークの有機農業というサイトがヒットする。実は、これはこの時に書いた私の視察記録だ。23年も前のことだ。書いた本人すらもすっかり忘れていたのだ。それはともかく、デンマーク、そして、コペンハーゲンの躍進ぶりはどうであろう。そのことを話題にすると、上記Tさんは「料理関係の仕事に従事している息子がデンマークはすごい。世界一のデンマークのレストラン「ノーマ」が東京に進出したのですが、やはり、そうなんですね」と直ちに反応した。

 デンマークの人口は560万人にすぎない(2)。日本の人口、1億2680万人の23分の1である。184億円という予算を単純計算すると4232億円となる。やはり世界は資本主義オンリーではなく、贈与と協同組合化に向けて動いているのではないかと思ったりもした。もちろん、デンマークも有機農産物の輸出で外貨を獲得しようとしている。ブランド化は否定できない。とはいえ、この論理も突き詰めれば、欧州が毛嫌いするゲノム編集を解禁するという日本国中央政府の方針はどうなのであろうか。

 印鑰智哉氏は今年1月3日のフェイスブックで、すでにゲノム編集を検出する技術が開発されているという(6)。日本国中央政府の方針である以上、国民は粛々と従い安全と信じるしかないのだが、もし、ゲノム編集が危険だと判明したときには、世界から絶賛されるデンマークの農産物とはまさに真逆で「汚染物」として日本国産の農産物はどこも引き取り手がないであろう。そのとき、日本国中央政府は原発と同じように、膨大な補助金を付けてまで「世界に冠たる我が国の農産物を輸出してやるのだ。ありがたく買うがいい」と言うに違いない。けれども、世界の人々の意識が変わったとき、こうした努力も無為になるであろう。それどころか「ゲノム編集で汚染された国から変なものが拡散しないように経済封鎖せよ」と言われてしまうかもしれない。DVD「地球少女アルジュナ」のエピローグでは、遺伝子み組換え技術の失敗で汚染国土と化した日本が米国の判断で経済封鎖されてしまうのだが、まさにアルジュナの世界そのものである。
(2019年1月8日投稿)
【画像】
Per Kølster会長の画像はこのサイトより
エスベン・ラーセン大臣の画像はこのサイトより
ダン・ヨエンセン元大臣の画像はこのサイトより
デンマークの有機農産物と農場の画像は文献より

【用語】
食料品質保護法(Food Quality Protection Act)で基準値
抗酸化成分(Antioxidants)
抵炎症性(anti-inflammatory)
有機農業研究所(FIBL Research Institute of Organic Agriculture)
デンマーク有機農業協会(Organic Denmark= Økologisk Landsforening)

【引用文献】
(1) Lindsay Oberst, Denmark is on its way to becoming an organic country, Food Revolution Network, Jan27, 2016.
(2) Cole Mellino, Will Denmark Become the World's First 100% Organic Country?, EcoWatch, Jan.30, 2016.
(3) Taboola,No one buys more organic food than the Danes, , The Local Denmark,9 Feb,2017.
(4) Ritzau,Denmark’s government to spend a billion on organic farming, The Local Denmark,13 April 2018.
(5) 2015年11月12日「デンマークの民主主義を考える」北欧研究所
(6) 印鑰智哉氏2019年1月3日フェイスブック


posted by José Mujica at 07:00| Comment(0) | 腸内細菌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする