2017年11月22日

ビジネスから生業へ~変わる農業の世界的パラダイム

マスコミが報じなかった国際家族農業年

 愛知学院大学の関根佳恵准教授は、こう語る。

「印鑰先生は遺伝子組換え農産物の生産面での問題をあげられた。そして、世界と日本とではいかにギャップがあるかについて語られた。このギャップは、小規模農業を巡っても同じである。2015年から私はラブ・ファーマーズ・カンファレンスに参加している。そして、2015年には「なぜ今、家族農業か?―国際家族農業年から学ぶ」と題して話をさせていただいた。2014年は「国際家族農業年(IYFF=International Year of Family Farming)」であったのだが、そのことをほとんどのマスコミが報じなかったからである。

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 私は農学部出身なのだが学生時代の農業実習の中で有機農業に関心を持った。そして、自然農法の本を読んだりした。今、名古屋の愛知学院大学に移籍して4年になるが、それ以前には東京の立教大学で教えていた。印鑰先生とはその頃から一緒に仕事をさせてもらっている。

 さて、国連の国際家族農業年をさらに10年間延長する国際キャンペーンも行われている。そこで、日本でもこれに対応しようと今年の6月に有志の仲間とともに「小規模・家族農業ネットワーク・ジャパン」を立ち上げた。

家族農業のイメージは

 まず、小規模農業、家族農業と聞いて皆さんはどのようなイメージを脳裏に浮かべられるだろうか。

 関根准教授の問いかけを受け、会場からは次のような声があがる。

 夫婦やおじいいちゃん、おばあちゃん、多くても親戚からなる農業。細々とした農業。環境に優しい農業。農協には出荷しない自給的農業。化学資材を使わない農業。味にこだわっている。多品種の種子を保存する。コミュニティ活動に参加する農家。

 さらに、マイナスのイメージについても次のような意見が出される。

 農業機械ではなく鍬を使う等、生産性が低い。保守的で、よそ者に対しては閉鎖的。生産が不安定。

 会場からの声を受けて関根准教授は続ける。

 そう。「昔ながらで時代遅れの農業」といったイメージ、そして、「地域に応じて、多様性を維持している」、また「生産性が悪い面もある」、「保守的で封建的(ジェンダーに配慮しない)な面もある」などのイメージを持たれていると思う。私は農水省の官僚と国際家族農業年の話をしたとき、「それは発展途上国のための話」と言われて驚いたことがある。

 その一方で、「コミュニティに根ざし地域と連帯している」「環境に優しく持続可能である」「飢餓や地球温暖化等の危機に直面する中、レジリエンスもある」との評価もある。

資本ではなく人々の連帯・絆からなるのが家族農業

 まず、小規模・家族農業とは何かから定義しておきたい。FAOの2014年の定義によれば、それは、農業労働力の半分以上を家族労働力が占めている農業のことである。

 家族農業とは、人々の絆によって結合した社会集団による農業であって、資本のつながりによって結合した社会集団による農業の対置概念である。とはいえ、現在の家族農業は多様化しており、事実婚や独身、養子縁組等もある。

 また、封建的で家父長的、男尊女卑といったジェンダーの問題があることも確かである。小規模家族農家の半数以上は女性である。女性の社会的地位の向上が課題となっている。とはいえ、家族農業は常に進化している。そして、より民主的な関係性を目指している。

経営的に儲からないと批判されるが環境的には持続可能

 家族農業は非効率であって経営的に儲からないのではないかという批判がある。とはいえ、いまは近代農業のネガティブ面の方が問題になってきている。例えば、戦後進んできた緑の革命は移動性が高い。水の使い方でも問題がある。社会的な不平等が広がり、食料主権が脆弱化し、食料危機等の社会的コストを伴う。その一方、小規模・家族農業は、持続可能な農業という視点から見れば最も効率的である。

小規模家族農業は多様な価値を果たしている

 ざっくりとFAOの2012年のデータを見てみると、日本農業の平均規模は約2haだが、世界的にはそれよりも小さい1ha以下が72.6%を占めている。農業の規模は、国によって大きく違い、中国、インド、アジア、アフリカが小さい一方で、北米やオセアニアの農業は世界平均から大きく外れて大規模である。

 日本農業は2015年の農業センサスによれば53.9%が1ha以下で、78.0%が2ha以下である。98%が家族経営体で、それ以外は法人等となっている。

 さて、小規模家族農業は、各地域コミュニティで社会的ネットワークを形成し、政策決定においても重要な役割を果たしている。世界の農家の9割は小規模・家族農業であり、それが食料の8割を生産している。まさに、食料安全保障、食料主権を支える基盤であり、貧困や飢餓撲滅にも貢献している。

 そして、小規模家族農業は、農業以外の経済活動も行っている。地域経済の活性化、農村部の雇用創出にも寄与している。

家族農業が危機に直面する中、家族農業を守る運動が世界的に展開

 このように家族農業は重要だが、多くの課題にも直面している。市場がグローバル化し、国際価格競争が高まっている。高齢化、過疎化、離農も進んでいる。気候変動もあり、開発途上国では大規模企業や国家による大規模な土地収奪や多国籍企業による種子の囲い込みも問題である。

 ピコ太郎.jpg家族農業が打撃を受ければ、社会全体にも影響がある。社会が不安定化する。国際家族農業年ができたのもこうしたことを背景にしているのだが、国連が加盟国に対して熱心に啓発活動をやっている。例えば、国連開発計画(UNDP)の持続可能な開発目標(SDGs=Sustainable Development Goals)は「ピコ太郎がダンスをするビデオを作っている。

 また、2014年11月15日には「ブラジリア・マニフェスト(Manifest of Brasilia)」が制定された。
これは各国が家族農業を発展させる権利を持つとの主張で、これを国連総会に求めていく動きがある。ワールド・ルーラル・フォーラムがそれを求めている。その先頭に立っているのはコスタ・リカであり、このキャンペーンを支援する国は45カ国に及んでいる。

家族農業と連動して推進されるアグロエコロジー

 Olivier-De-Schutter.jpg家族農業に関する国際会議は世界中で開催されている。米国は企業的農業のイメージが強いのだが、全国で委員会が開かれている。そして、これと連動するようにアグロエコロジーも提唱されている。2010年の食料への権利に関する国連特別報告官オリヴィエ・ドゥ・シュッテル(Olivier De Schutter,1968年~)博士が2011年に提唱したことが契機となって、2013年には国連貿易開発会議、アンクタッド(UNCTAD= United Nations Conference on Trade and Development)がアグロエコロジーへの転換を提唱し、2014年9月にはFAOもローマでアグロエコロジー国際シンポジウムを開催している。

 それでは、こうした農業をいかにして実現していくのか。実際の家族農業はどのようなものなのかを描いた「種子をまく人々 (Those Who Sow)」(邦題:「未来を耕す人びと」)というドキュメンタリービデオがある。実は、昨日まで夏休み返上で仲間たちとその字幕の和訳作業をしていた。

家族農業年で大きくシフトしたパラダイム

José-Graziano-da-Silva.jpg 2014年は国連の家族農業年であったが、FAOのジョゼ・グラチアノ・ダ・シルバ(José Graziano da Silva,1949年~)事務局長は2014年に「家族農業以外に持続可能な食料生産のパラダイムに近いものは存在しない。国や地域開発において家族農業を中心とした計画を実施する必要がある」と述べている。これは大変に大きなパラダイム・シフトである。さらに、国際家族農業年プラス10(IYFF+10)がいま動いている。

世界の潮流とズレていく日本

 EUでは地域政策、国土管理政策としても自給的な小規模農業を重視する政策に転換している。EUに中欧諸国が入ったためにそれがホットな話題となっている。

 日本では「家族農業は、農業として自立していない」とネガティブに見られがちなのだが、外的ショックに対するレジリエンス、リスク分散としても大事である。

 日本は景気がいいと言われているが世界的には失業率が高い。農村の雇用をいかに創出するかが大事である。日本では、農業法人だけだが、自営も幅広い面での雇用なのである。

 また、現状がわからなければ政策も展開できない。その意味で、統計は非常に重要である。けれども、日本を含め世界ではいま国が統計にかける予算が減っている。人員がカットされているし、調査項目も減っている。そこで、家族農業の分析がますます難しくなってきているのだが、私は研究仲間となんとかこの分析をしようとしている。

 さらに、日本では大きなパラダイム・シフトが起きたことがまったく伝えられていない。世界の潮流に日本は乗っていない。

 例えば、2009年にはヴィア・カンペシーナ(La Via Campesina)が農民の権利宣言を行っている。現在、これをもとに国連人権委員会で「小農民と農村で働く人々の権利宣言」について審議している。2016年の会合では31カ国が賛成したのだが、これに反対したのが米国である。そして、日本と韓国が棄権した。

 2017年の汚染されていない環境への権利に反対したのも日本である。日本の政策は、今でも新自由主義的である。今の農政のキーワードは、農業改革の名の下での農業解体である。指定生乳生産者団体制度の見直しも農協に大打撃につながる。

日本において何ができるのか

 さて、有機農業、自然農法。もったいないの精神、里山保全等、日本にはもともと豊かな経験がある。

 生産者は、世界の運動と連帯していくべきであろう。

 そして、消費者は食べることを通じて持続可能な食と農のあり方を追求するべきである。アグロエコロジーの研究と支援が研究者や政府には必要であろう。

 いま、食べることが環境にどれだけの影響を与えているのか。それをどれだけ理解できているのか。今、大きな分岐点に立っていると思う。

会場質問 私は農業をしたことがないのだが、どうした面から効率的といえるのだろうか。

関根准教授 いまの効率性を図る主な指標は労働生産性である。それが高まることで効率的になったと言ってきた。評価されるのは単位労働時間当たりの収穫(重量ベースと金額ベース)である。けれども、土地生産性では小規模生産の方が生産性が高いことは誰もが認めている。実は、現代において一番重要なのは、資源の有効利用やエネルギー効率性である。世界的に小規模・家族農業が着目されているのは石油への依存度が低いからである。

会場質問 日本は米国のイヌ、属国である。その米国すらも転換しつつあるのが、米国を差しおいてまで世界の潮流とずれているのはなぜなのか。国政を牛耳っているのが農水ではなく経産省だからなのか。

関根准教授 今の日本政府の農業政策は、経営規模の拡大と企業参入の促進であり、小規模・家族農業の振興とは相いれない。また、ODAのモザンビークのプロサバンナ計画の様に、海外でも大規模な農業開発を行っている。したがって、米国追従というだけでなく独自の論理として大規模・企業的農業を支持している。

会場質問 小規模農業のエネルギー効率性が高いことはわかるが、価格競争力の面ではどうか。そもそも家族農業には儲かるという思想があるのか。ほどほどに儲けることが合理的なのではないか。

関根准教授 小規模農業には競争力はあるし、高付加価値化も可能である。とはいえ、家族農業は稼ぐことの目的が違う。子どもを学校に通わせたり、着るものを買うといった生活に根差した目的のために稼ぐ生業であり、利潤をあげようとするビジネスとはそもそも動機が違う。

 そして、歴史を見ても、数多くの人たちが利益のためだけでなく農的な生き方を好み、「儲けすぎてはいけない」と語ってきた。それは、社会全体のことを皮膚感覚で考えてきたからではないだろうか。

編集後記

 2017年9月2日。静岡県浜松市の「春野山の村」で開催された第3回ラブファーマーズ・カンファレンスに参加した。そこで、印鑰智哉氏に続いて、「アグロエコロジー、家族農業的観点から考える『種は誰のもの?』」と題して、愛知学院大学の関根佳恵准教授によって「小規模・家族農業をめぐる世界の動向と日本」についての講演がなされた。まさに、種子問題や遺伝子組換え問題は、小規模家族農業とも重なってくるのである。なお、このテーマにご関心がある方は、関根准教授らが立ち上げた「小規模・家族農業ネットワーク・ジャパン」という団体もある。このサイトを訪れればさらに深い情報をゲットすることができる。
(2017年11月22日投稿)

【画像】
関根佳恵准教授の画像はこのサイトより
ピコ太郎の画像はこのサイトより
オリヴィエ・ドゥ・シュッテル博士の画像はこのサイトより
ジョゼ・グラチアノ・ダ・シルバ事務局長の画像はこのサイトより


posted by José Mujica at 07:00| Comment(0) | 講演・学習会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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