2017年12月03日

健康と気候変動と土壌保全と小規模家族農業と遺伝子組換えの深い関係

遺伝子組換えの飼料と抗生物質漬けの工業家畜飼育が抗生物質耐性菌問題を産んでいる

人類最大の脅威は抗生物質耐性菌

Tomoya-Innyaku.jpg 抗生物質が発見されたおかげで、人類は感染症から解放されたかに見えた。以前は出産時の感染で命を落とす母子の割合は多かったが抗生物質の出現以来、その数は劇的に減った(20170815)。けれども、抗生物質耐性菌がいま、世界中で年間70万人の命を奪っている。この傾向が続けば2050年には年間1000万人が耐性菌で命を落とし、ガンを上回り人間の死因の第1位となるという(20170815,20171110)。すでに伊勢志摩G7サミットでもこの問題は討議され、このデータはG7の政府が共有している(20171110)。最悪の抗生物質耐性菌に感染してしまえばそれに効く薬は存在せず(20170815,20171110)、医療は何もできない。生きるか死ぬかはその人の生命力に頼るしかない(20170815)。この問題は世界的な緊急課題になっている。人類にとっての大きな脅威である(20171110)

工業型の詰め込み飼育と太らせるための餌の抗生物質が原因

 けれども、なぜ抗生物質耐性菌がこのような猛威になってしまっているのであろうか。抗生物質は特定の菌の細胞膜を作れないようにする等にして繁殖できないようにしてしまうが、毎日使っていれば、その物質に耐性のある菌が出現する(20170815)。そして、米国では消費される抗生物質の8割が家畜に使われている。それも病気の治療だけではなく健康な家畜を含め、すべての家畜の餌に抗生物質を混ぜている。工場のように運動もできない狭い空間に押し込めて、ひたすら早く太らせるためだ。つまり、感染症予防と成長促進の2つの意図で抗生物質は餌に混ぜて食べさせられている(20170815,20171110)。こうした抗生物質漬けの肉を毎日食べていれば、毎日抗生物質を食べることと同じで次第に抗生物質が効かない体になっていく。したがって、米国で拡大し、世界に広がっているファクトリーファーミング(工場型畜産)がその温床であることはまず間違いない(20170815)

遺伝子組換え飼料が抗生物質耐性菌を生む可能性

MeatrixS.jpg けれども、抗生物質耐性菌が生まれる原因はファクトリーファーミングだけに帰することはできないのではあるまいか。なぜ家畜に下痢等の症状が増えているのであろうか(20170815)。現在、米国ではほとんどの飼料が遺伝子組み換えとなっている。大豆、トウモロコシのほとんど、さらには牧草までが遺伝子組み換えが始まっている(20170815)。そこで、家畜の餌に使われている遺伝子組み換え飼料も原因となっている可能性があるのではあるまいか。事実、遺伝子組み換え作物が消化器に影響を与えることはすでにいくつもの研究が指摘しており、遺伝子組み換え飼料を与えると家畜は下痢を起こす(20171110)

グリホサートは腸内細菌を殺す

 モンサントが農薬として特許を獲得し、商品名ラウンドアップとして世界的に売り出し、モンサントのドル箱となったグリホサートがいかに健康を破壊するかの基本的なメカニズムについてはすでに明らかにされている。

 グリホサートは植物がアミノ酸を生成する上で不可欠なシキミ酸経路をブロックする。アミノ酸が生成できなければタンパク質が形成できず植物は枯れてしまう。モンサントはグリホサートは人体には安全であるという理由として人体にはシキミ酸経路がないことをあげた。確かに人体には植物が持つシキミ酸経路はない。けれども、人の身体は単独で命を維持しているのではない。人体にはその数100兆とも言われる微生物が共存している。その微生物にはこのシキミ酸経路が存在する。腸内細菌のお陰で人間は人体では消化・合成できないアミノ酸、ミネラル等の栄養分を得るだけでなく、病原菌からも守られている。つまり、もし腸内細菌なしには命を維持することはとても困難になる。そして、グリホサートはこの腸内細菌を阻害してしまう。人間の免疫の大部分を占めると言われる腸がおかしくなれば、それがさまざまな慢性疾患の引き金になる。その範囲は免疫系、神経系、循環器系など広範囲に及び、関わることが考えられる疾病を書き出すと1ページをこしてしまうだろう。モンサントは人や動物の命がどう維持されているかについての無知を暴露してしまったことになる(20170826)

Bt毒素も腸内細菌にダメージを与える

 また、遺伝子組み換えトウモロコシやコットン、南米産の大豆にはBt毒素と呼ばれる殺虫成分が入っていることが多い。Bt毒素を作り出す遺伝子組み換え作物では根、葉、実、花粉等、すべての細胞でBt毒素が生成される。モンサントによれば、Bt毒素は虫の腸に穴をあけるレセプターを誘導して、腸に穴を空けるため、特定の害虫だけを殺す。けれども、影響を受けるのは特定種の虫にとどまらず広範な生物が影響を受ける可能性がこれまでも指摘されてきた(20170826)。要するに遺伝子組み換えに含まれるBt毒素やグリホサート等の農薬が家畜の腸を痛めている(20170815)

遺伝子組換えの抗生物質タンパクも抗生物質耐性菌を生む

 さらに、遺伝子組み換えでは抗生物質耐性タンパクが使われるケースが多い。グリホサートの農薬としてのモンサントの特許は2000年に切れているが、モンサントはあらたにグリホサートを抗生物質として特許を取っている。

 モンサントはたとえグリホサートを散布しても、危険な抗生物質耐性菌は生まれないと述べている。けれども、こうした遺伝子組換え飼料に依存していることが抗生物質耐性菌の原因のひとつであることが疑われる。なぜならば、遺伝子組み換えから非遺伝子組み換えへと飼料を変更したところ、薬代が激減した報告があるからである(20170815)

 要するに、遺伝子組み換え飼料も耐性菌が増えてきた理由として考えられるのである(20171110)

抗生物質の投与をなぜか認める日本政府

 EUは成長目的のための抗生物質の家畜への利用を2006年に全面禁止しているが、米国や日本はいまだに許可している(20170815)。そこで、WHOは家畜への抗生物質の投与を中止するように勧告した(20171110)。とても遅い対応となったが、農水省も家畜飼料への抗生物質の一部の使用を規制する上で第一歩を踏み出すことになりそうである(20170815)。農水省は8月10日にパブリックコメントを開始し、この抗生物質のうち、最後の救済薬とされる「コリスチン」の飼料添加物としての指定を取り消すことに踏み出すようである。「コリスチン」の使用は、米国ですら規制され、中国も2016年11月に使用を禁止している。G7で使用しているのは日本だけである。つまり、日本の対応は中国を含む先進国で一番遅い。また、それ以外の抗生物質モネシン等もEUは全面禁止しているが、日本政府は飼料添加物としての使用は可能だということで、まだ成長目的に抗生物質の使用を認めるという(20170815)

土壌微生物が人間や植物を健康に保ち、気候変動や洪水を防いでいる

土壌は後60年後にこの地球から消えてなくなる?

 土は単なる泥ではない(20170908,20170919)。生きた有機物である(20170919)。岩石と水と大気しかなかった惑星に土が生まれるには気が遠くなるほどの年月がかかった。微生物や植物などが岩石と格闘しながら生み出した(20170908)。1cmの土を作るには数百年から1000年もの時がかかると言われている。そこで、再生可能(renewable)な資源ではないとされる。土を作り出すことは不可能ではないが、失う速度に比べてあまりに作られる速度は遅い。そこで、一度失われたら取り返しはほとんど不可能に近いと考えなければならない。けれども、世界で1年に240億tの肥沃な土、面積でいうと1200万haの土が失われている(20170919)

 土壌を守ってきた森林を伐採し、さらにはコンクリートで覆って、土の中の生き物を窒息させ、大型機械で収穫をはぎ取り、化学肥料や農薬によってその土を生かしてきた微生物を痛めつけている(20170919)。このままの状況が続けばあと60年でこの地球から土がなくなってしまうかもしれないといわれている(20170908,20170919)

健全な土壌があれば災害が減らせる

 巨大台風や長雨による災害被害は痛ましいが、それを減らす方法はある。健康な土壌はスポンジのように水を吸収して蓄えることができるが、不健全な土壌は水を吸収できず、河川を氾濫させてしまうだけでなく、土もいっしょに流れてしまう。土壌は微生物や植物、そして小さな虫等の生命が生きることで生きた環境となる。こうした生きた土壌の力が回復させ、健康に保つことができれば洪水も5分の1と大幅に減らせ、洪水の被害や農地の被害を減らせるとの報告がでている(20170908)

健全な土壌は気候変動も緩和する

 植物は光合成によって、大気中の二酸化炭素を大量に吸収し、炭水化物に変える。このため、健全な土壌は地球の二酸化炭素の7割程度を蓄えることができる。健全な土壌を守ることは、食を守るということだけに留まらず、気候変動などのグローバルな問題につながっていく(20170908,20170919)。この危険な領域に入りつつある気候変動を逆転させ、危機から脱することも可能だと研究者は指摘する(20170908)

植物は土壌微生物と協力しあっている

 植物はせっかく作った炭水化物の4割も地中に放っている。効率が悪い、と思われるかもしれないが、さにあらず。植物が作り出した炭水化物を求めて、地中の微生物が群がる。炭水化物を植物から受け取るのと交換に植物に様々なミネラル等の栄養素を与える。実際に植物はこれらの微量栄養素がなければ生きていくことができない(20170919)。土壌細菌土壌や岩石からミネラルを、大気中の空気から窒素を分解し、植物に与えている。植物はその見返りに光合成で作り出した炭水化物を与え、そこに共生関係が存在している。その主に与えている(20170826)。この交換を通じて、土壌は豊かに強くなっていく。しかも、土壌中で行われている植物と微生物の交換は栄養の交換だけに留まらない。土の中に密に張り巡らされた網の目はさまざまな情報をやりとりするネットワークの役割を果たしていると、近年、植物学者が報告している(20170919)

遺伝子組換えで土壌細菌を殺し植物が不健康になるから化学肥料が売れる

化学肥料を施肥すると土壌微生物との共生関係が破壊される

 けれども、化学肥料はこの微生物と植物の共生関係に割り込み、その関係を阻害してしまう。植物はもはや栄養を得る上で微生物が必要なくなる。そこで、微生物の活動が不活性となっていく(201709119)

グリホサートは土壌細菌も殺す

 腸内細菌が人間が生成できない様々な栄養分を与えているように、土壌細菌も腸内細菌ときわめて似た性格を持つ。そこで、グリホサートがダメージを与えるのは腸内細菌だけではなく、土壌細菌もダメージを受ける。さらに、Bt毒素は土壌細菌を損傷するという研究も2016年に発表された。現在、作られている遺伝子組み換えトウモロコシは、大半がグリホサート耐性であると同時に害虫抵抗性、つまり、Bt毒素を生成する。したがって、土壌細菌はグリホサートとBt毒素の両方によってダメージを受ける。結果として、植物は栄養を吸収できなくなり、化学肥料で補わなければ生育しなくなる。化学企業からすれば大儲けである。けれども、傷つく植物やそれを食べる人間や家畜にとってはまるで災難以外の何ものでもない(20170826)

 そして、土壌細菌が損傷を受ければ、植物もまた栄養を土壌細菌から得られなくなる。土壌に蓄えられていた炭素が流出し、気候変動を加速させるだろう(20170826)。土壌がもろくなり、保水力もなくなり、日照りに弱くなり、水害にも弱くなる(20170919)

 では、この土はどうすれば守れるのか。これまで進められた農薬や化学肥料を大量に使う工業型農業から生態系を守るアグロエコロジーへの転換が必要とされていくことになる。2015年は「国際土壌年」ということで国連組織や賛同する市民団体、各国政府はこの問題をなんとか進めようと努力した(20170919)

反アグロエコロジーとTPPが工業型詰め込み飼育と土壌破壊を目指す化学企業を救う

 けれども、土壌微生物を守られては、化学企業にとっては困るのである(20170919)。「国際土壌年」の取り組みに対しても、日本政府は残念ながらほとんどやる気がなかった。FAOがその世界的普及に力を入れるアグロエコロジーについては、賛同の意志を国連では示しているが、主要農作物種子法廃止、農業競争力強化支援法、さらには市場法廃止と実行されるのはその正反対の政策ばかりである(20170919)

 良心的に家畜を育てたのではファクトリー・ファーミングで作られる廉価な肉との競争に負けてしまう(20171110)。けれども、現在、米国でも抗生物質漬けの食肉への懸念は高まっており、抗生物質を使っていないマークがついた肉への人気が高まっている。このため、ファクトリー・ファーミングは斜陽になりかけている(20170815,20171110)。けれども、日本ではこの問題への認知がまだ低い(20170815)

 さらに、その落ち目のファクトリー・ファーミングをTPP等の自由貿易協定が救済する。マスメディアは食品が安くなることばかりをPRするが、抗生物質を使っていないことを食品表示することが禁止になってしまう懸念も高い。そうなれば、ファクトリー・ファーミングは息を吹き返す日本政府は、日米交渉を通じて米国からのファクトリー・ファーミングで作られた食肉の輸入を拡大させつつあるのである(20171110)

編集後記

 遅まきながら、主要農作物種子法の廃止を巡る動きを調べている。この流れの中で印鑰智哉氏のフェイスブックを見つけた。2017年11月30日の拙ブログ「大海を知る蛙-種子を守る三つの条約と宣言」では、情報の海で路頭に迷わないためには、明確な羅針盤、すなわち、上空から自分がどこにいるのかを俯瞰できる鳥瞰図が必要なのだと述べたが、印鑰智哉氏のフェイスブックは本当に役立つ。氏の頭脳は、現場を含めてゲットした膨大な情報をつみあげたうえで、健康と腸内細菌の関係、抗生物質耐性菌の広がりと工業型畜産の問題、土壌保全、気候変動、そして、遺伝子組換えまでをつないでみせる。なんと壮大な図式か。今回も氏の膨大なFacebookをかいつまみながら、私なりに整理したストーリを紹介してみた。

マネー経済で小規模家族農業が衰退したことでローマは滅びた

 余談だが、地元の長野の松代で『食と農』の勉強会があり、私も参加しているのだが、2017年6月22日の夜には、本を紹介してくださった有機農家、W氏に教えてもらった『土と内臓』について話をした。ワシントン大学で地形学を専門とするデイビッド・モントゴメリー教授と奥さんのアン・ビクレーさんの共著、『土と内蔵』(2016)築地書館は、土壌と内臓との関係を深く描いた名著である。生物進化から、土壌と作物、腸内細菌と人間との関係が重なるという壮大な物語である。

風化.jpg そして、10月26日の夜は土壌がテーマの学習会であったため、同じくデイビッド・モントゴメリー教授の『土の文明史』(2010)築地書館の内容を紹介した。『土の文明史』には、ローマ帝国、マヤ文明を滅ぼし、米国、中国を衰退させるとの副題が付いている。そして、古代文明が土壌の喪失によって崩壊した理由をシンプルな図で見事に説明する(p.17より引用)。

 どの文明であれ、その興亡は「いつこの土壌を使い尽くすか」「肥沃度をどのように保たせるか」に依拠する。そして、土壌の生成を上回るペースで浸食を加速させる農業を行い土壌を失ったとき文明は滅ぶ。

 現存する世界最古の農書と言われるのは、大カトこと、マルクス・ポルキウス・カト・ケンソリウス(Marcus Porcius Cato Censorius, 紀元前234~紀元前149年)には、ローマの『農業論』で、そこには、輪作も堆肥づくりもマメ科作物の栽培も登場する。ローマは基本的に農業国家であった。多くのローマ人たちの性は、先祖が栽培で得意だった野菜名に由来し、優れた農民と呼ばれることは賛辞となっていた。「母なる大地」という言葉を創り出したのもローマ人である。つまり、ローマ人たちは富が土壌であることをよく理解していた。にもかかわらず、その後、奇妙なことに周辺部で農場放棄と人口低下で農村が荒廃し土壌浸食が悪化していく。

marcus-porcius-cato.jpg ローマが「無知」であったのならばいたしかたがない。けれども、「知識」があったにもかかわらず、なぜ土壌を失ったのか。この本は見事にそれを解き明かす。理由は、「ラティフンディア」いまで言うプランテーションにある。金融経済が発達し、長期的な土づくりよりも、不在地主が短期的に利潤をあげることを重視する経済システムが誕生し、小規模家族農業が捨てられたためにローマは滅びたというのである。

 あたりまえといえばあたりまえだが、まったく異分野である地形学や土壌学から導き出される警鐘が、農村社会学や農業経済学のテーマである「小規模家族農業」の維持・保全につながるというのは非常に印象的である。こうした予備知識をふまえたうえで印鑰智哉氏の情報を堪能していただけたのであれば幸いである。
(2017年12月3日投稿)
【画像】
印鑰智哉氏の画像はこのサイトより
Meateixの画像はこのサイトより
大カトーの画像はこのサイトより

【引用文献】
2017年8月15日:印鑰智哉氏のFacebook
2017年8月26日:印鑰智哉氏のFacebook
2017年9月8日:印鑰智哉氏のFacebook
2017年9月19日:印鑰智哉氏のFacebook
2017年11月10日:印鑰智哉氏のFacebook


posted by José Mujica at 07:00| Comment(0) | GMO | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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