2017年12月02日

アグロエコロジーか遺伝子組換えか?世界は二極化する二つの図式から理解できる

環境を破壊する多国籍農業VS環境を守るアグロエコロジー

環境を破壊する工業型モデル

Tomoya-Innyaku.jpg 今後、増大する人口に対して、いかにして食を確保していくのか。多国籍企業は自分たちが開発した種子や肥料を使えと迫る。小規模家族農家を追い出し、農地をさらに集中し、格差を拡大し、さらなる人口増加の圧力、環境破壊に健康破壊をもたらしている。問題を解決するどころか、逆にさらに問題を作り出し、自らの利益だけを増やすのが多国籍企業の持ち込む工業型農業である(20171115)

 工業化モデルでは農業生物多様性はさらに激減し、土壌の崩壊により生態系はさらに危機に陥るばかりでなく、化石燃料に依存するために持続することに限界がある。この危険なモデルを推進すればするほど、世界は危機に陥っていく(20170731)

 工業型農業を転換しなければならない必然性はいくつも語れるが、その一つが窒素の問題である。工業型農業は作物を育てる必須の栄養を窒素肥料として供給する。しかし、その窒素は硝酸塩となり、環境を犯してしまう。その汚染はもはや「時限爆弾」だと言われる(20171115-2)

気候変動の原因となっている工業型モデル

 また、その窒素肥料を作るには大量の化石燃料を燃やさなければならない。空気中の窒素を大量の化石燃料を使って取り出す。元は爆弾を作る技術である。化石燃料の大量使用は気候変動を引き起こす(20171115-2)。気候変動も食のセクターが最大の排出源になってしまっている根本的な原因には多国籍企業による農業の工業化がある(20171012)

 そして、石油は、またいつか尽き果ててしまう。このモデルは転換せざるをえない。EUは必死にその使用を規制しようと必死である(20171115-2)。そこで、世界各地でこうした動きへの抵抗は強くなるばかりである(20170731)

世界の動きは二極化している

 そして、それに対する対案はある。世界の科学者、農民運動、社会運動、環境運動が声を合わせてアグロエコロジーへの転換を要求している。工業型農業が作り出した問題をアグロエコロジーによって解決していくことが可能だと指摘されている(20171115)。今、進められている農業の工業化が気候変動や環境破壊を作り出しているのであり、それを止めることはそうしたグローバルな危機への有効な対応策となる(20170731)。化学肥料を使わないアグロエコロジーの発展がまさに合致する。流れは変わらざるをえないだろう(20171115-2)

 つまり、多国籍企業が作り出す危機に対して、どう向かい合えるか、工業型農業に代わるアグロエコロジー的な食のシステムをどう作り出せるかが問われている。工業的食は農民を周縁化させるだけでなく、低賃金労働を可能にし、資本による利潤最大化と労働者搾取を可能にするベースとなっている。だから食から変えることが社会のトータルな変革に不可欠となる。世界最大の農民運動団体ラ・ビア・カンペシーナ(La Via Campesina)は10月16日を多国籍企業に対して「食料主権」を打ち立てる国際デーと規定した(20171012)

 かなり単純化してざっくりと言えば、二つの対立する動きがいまの世界を動かしている。食・農をめぐる二つの対立する動き。そのひとつ工業化モデルであり、もうひとつはそれとは正反対のアグロエコロジーモデルである。そして、アグロエコロジーが世界の底流として確実に世界を動かしていると言っていい(20170731)

世界で最も広まっているのはアグロエコロジー

アグロエコロジーとは科学・実践・社会運動

 多国籍企業のための農業に変えることを世銀に代表される世界の1%が推し進めている。けれども、これは世界の主流にはなっていない。世界の99%が求める農業・食ではないからである(20170731)。そんな動きを作りだそうとしているのは世界の本当の1%に過ぎない。世界の大部分を動かしている底流は、今はまだ表面化してはいないが、その流れは1%が作り出している破壊の方向とは真逆の方向に流れている(20170826)。つまり、今、世界でもっとも急速に拡大している農業・食は何か。それはアグロエコロジーであり、有機農業だということができる(20170731)。アグロエコロジーとは生態学の原則に基づく農業のあり方に関する学問であり、生態学の原則を用いた農業を行う科学であると同時に、実践であり、社会運動でもある(20170731,20170912, 20171115)。工業的な農業、産業的な食のシステムへのオルタナティブとしてラテンアメリカ中心に大きく発展し、世界的な広がりを見せている(20170912)

先進国で急増を続ける有機農業市場

 世界の有機食品市場の伸びがすごいことになっている。欧米での急拡大についてはすでに情報も多く出ている(20170731)。米国では毎年10%にも届くほどのスピードで有機農業が拡大している。フランス、ドイツ、スコットランドも毎年、拡大している。オーストリアの有機農業は2割に達した(20170926)

 フランス政府は若い農業参入希望者が農薬も化学肥料も使わずに生態系の力を活用するアグロエコロジーに基づく農業ができるように農業未来法を制定し(20170731,20171115)、さらに1000分の4イニシアティブをパリ会議で打ち出す。これは土壌の力を取り戻すことで現在、激化している気候変動を止めることが可能であるとして、世界にそうした農業の実践を拡大することを求めるものである(20170731)。英国でもアグロエコロジー議員連盟が活動を重ねている。EUでは共通農業政策(CAP)にアグロエコロジー的政策を導入させるための市民組織の活動が活発化している(20171115)

ブラジルでも広まる有機農業

 所詮、先進国だけだろう、という印象を持られるかもしれないが、さにあらず(20170731)。データを確かめられないのだけど、キューバは7割が有機であるとか、有機が過半数だとか、いずれにしても有機がベースになっている(20170731,20170926)

 ブラジルでもクーデタにも関わらず、底辺の民衆が参加するアグロエコロジーの拡大は止まるところを知らない(20170731)。世界第2位の遺伝子組み換え作物生産国で農薬使用は世界第1位なのだが、一方で、そうした大規模工業型農業に反対する大衆的なアグロエコロジーが大きく前進しつつある(20170731)

 ブラジルの労働者党政権は、遺伝子組み換え企業やそれに連動した国内地主勢力と妥協を図ったが、その一方で、アグロエコロジー運動を政策に取り入れた。このため、ブラジルでのアグロエコロジーは大きな進展を見せた。

 最も2016年のクーデタによって、アグロエコロジー政策は次々に攻撃を受け、予算も半分以下に削られている。試練の時で開会直後にも「テメル(大統領)出てけ」の合唱となる。とはいえ、その勢いはまったく衰えるところがない。ブラジルやラテンアメリカでは農地改革を求める運動のリーダーが次々に殺害されたり、状況はとても厳しい。けれども、人々の存在をみるにつけ、その底力にあらためて驚く(20170912)

 例えば、2017年9月12日から15日まで、ブラジリアでアグロエコロジーの国際会議『ラテンアメリカにおける農業・食のシステムの転換におけるアグロエコロジー:記憶、知恵、「よく生きる(Bem Viver)」ためへの道』が開催されている(20170912)

 この会議は、第6回アグロエコロジー・ラテンアメリカ会議、第10回ブラジルアグロエコロジー会議、第5回ブラジリア連邦地区アグロエコロジー会議を兼ねている。から、現在の世界の状況の分析の共有、さまざまな知恵や知識の共有、そして、種子の交換会とさまざまな会議がもたれる。若い農民から市民運動、社会運動、女性運動、学者や政治家まで広汎な人々が参加しており、一度、こうした会議に参加したことがあるが、その大きさには圧倒された。参加者は4000人を想定しているという(20170912)

 一部のスーパーにも有機のコーナーがあるようだが、その価格はとても高いと聞く。一方、ブラジルでは日本のような生協は存在していないので、有機食品が売られるのはフェイラ(朝市)であることが多い。フェイラはブラジルでは都市の日常生活の中の一部となっており、曜日ごとに、異なる地域の通りが車両通行止めとなってフェイラに開放される。さまざまな生鮮野菜や果物などと売る屋台が建ち並ぶその様は壮観である。そして、最近、有機のフェイラの増え方がすごく、ブラジル全土に広がりつつある。つまり、貧しい農業労働者たちが農地改革で土地を得て、農薬や化学肥料を使わない農業を実践し、金持ちのための有機とは異なる底辺からの食のシステムの変革が進みつつある(20170926)

先祖伝来のインド原産のコメを守り続けるインドの農民たち

 半世紀前にはインドには10万種類のコメの品種があった。その圧倒的部分は失われてしまった。現在はF1種や改良種が8割をインドのコメを占める。けれども、今なお、インドの多くの農民たちが在来種のコメを守り続けている。インドの農民たちが改良種ではなく、自分たちが守ってきた在来種のコメを選ぶのは、改良種が買わなければならないのに対して、在来種は買わなくてもいい、というだけの理由ではない。

 ハイブリッド種は農薬、化学肥料、水を大量に必要とする。虫の被害も受けやすい。それはさらなる経済的な負荷になるし、土壌や生態系に影響を与えてしまう。そしてサイクロンや干ばつに弱い。一方、従来種のわらは家畜の餌、土壌を守るマルチ、建材などとして、副産物としての利用価値が高い。何より、うまい。改良米はおかずがないと食べられないが在来種はコメだけで十分食べられる、とインドの農民は語る。農民の種子を復活させることで、食、風味、祭、栄養、そして持続性を復活させることができる。

 種子を自分たちで維持できなければ社会は維持できない。水が激減し、土壌が肥沃さを失い、気候変動による被害が大きくなり、債務の負担によって農民が自殺に追いやられているインドでは、種子の本質は社会の持続性にある。単純に収穫物の生産量の多さだけでなく、そうした全体の意味を追求した時には在来種が勝っていることが明確なのである(20171001)

GMOを禁じて有機で平和を守るフィリピン

 フィリピンでも多国籍企業のプランテーションが多く展開されているミンダナオ島のダバオで有機食品市場は飛躍的に拡大しているという(20170731)。フィリピンでは100もの地方自治体・市町村の首長が遺伝子組み換え耕作とその農薬使用禁止を実行する連盟を結成している。フィリピンでは以前からネグロス島は遺伝子組み換え禁止を宣言していたが、ここまで禁止する自治体の数がこれほどまでに大きくなっているとは思わなかった。

 宣言だけではない。武力紛争が続く地域で、武器をやめさせる代わりに、種子を与えて有機農業ができるようにさせる「武器から農園へ」平和イニシアティブが始まり、紛争は収まり、人々は生きる糧を得ている。有機農業が平和をもたらす(20171109)

偏った日本の情報発信

 フィリピンでは、遺伝子組み換えや農薬が引き起こす問題を首長が滔々と語る。農薬使用には罰則を課すという。こうした自治体が日本でどれだけあるだろうか。EUや中米だけでなく、アジアでも進むこうした動きに対して、日本は相当遅れてしまっている(20171109)

 けれども、日本のマスコミを通じて知ることができるのはその一方しかない。そして、その流れに乗ることがあたかもよりよい方向であって、その流れに反対するものは抵抗勢力だと表現をされてしまう。その典型な動きが農業分野の自由貿易協定であろう。農家は潤うだろうか。潤うのは貿易で利益を上げる大企業だけである。商業的な大規模経営が拡大し、小規模家族農家も苦しくなる(20170731)

 各国の食に関わる運動は連携を始めている。この動きをはね除けるだけの力を獲得するのはそんなに遠くない。とはいえ、それが可能になるためには、根源的な基本的人権である食の権利を求める地域的、国際的な連帯を強めていく必要がある(2017825)

編集後記

 遅まきながら、主要農作物種子法の廃止を巡る動きを調べている。この流れの中で印鑰智哉氏のフェイスブックを見つけた。このブログのタイトルはもともと「アグエコ堂」となっていて、アグロエコロジーで面白いネタを拾ってみようと思って始めた。けれども、ネット上の情報は膨大でともすれば自分がどこにいるのかがわからなくなってしまう。日本では「アグロエコロジー」はほとんどヒットしない。けれども、英語であれば、例えば、英語を学ぶための入門講座「VOA English」というのがあるのだが、ここですらアグロエコロジーがヒットする。どれほど人口に膾炙されているのかがわかる。

 つまり、情報の海で路頭に迷わないためには、明確な羅針盤がいる。そこで、印鑰智哉氏のフェイスブックが役立つ。氏は現場を含めてゲットした膨大な情報をつみあげたうえで、「かなり単純化してざっくりと言えば、二つの対立する動きがいまの世界を動かしている。そのひとつ工業化モデルであり、もうひとつはそれとは正反対のアグロエコロジーモデルである。そして、アグロエコロジーが世界の底流として確実に世界を動かしている。けれども、日本のマスコミを通じて知ることができるのはその一方しかない。だから、その流れに乗ることがあたかもよりよい方向であると思われている」と切ってみせる。

 なんたるシンプルでわかりやすい図式か。そして、この図式はなぜ、日本では「アグロエコロジー」のキーワードがほとんどヒットしないのかがわかる。

agroecology.jpg 余談だが、この7月、コモンズからアグロエコロジーが書名に入るピエール・ラビ(Pierre Rabhi, 1938年~)氏の『希望を蒔く人ーアグロエコロジーへの誘い』のフランス語の翻訳書が刊行されたが、日本語のこのフェイスブックの情報だけを読むとまるで宮沢賢治のような優しいラビというおじさんが愛を持ってスローなライフスタイルをしようと呼びかけている、と読めてしまう。それはある面では正しい。けれども、それだけではあまりに惜しい。なぜなら、印鑰智哉氏のフェイスブックを読めば、この印象はガラリと変わるからだ。

 フランス政府は若い農業参入希望者がアグロエコロジーに基づく農業ができるように「農業未来法」を制定し、EUでは共通農業政策(CAP)にアグロエコロジー的政策を導入させるための市民組織の活動が活発化しているというのだ。

Sicco-Mansholt.jpg 余計なことだが、戦後の農業基本法に始まる日本の農政は、東畑精一(1899~1983年)博士や小倉武一(1910~2002年)がシナリオを書いたと言ってよい。そして、モデルとしたのは、オランダ出身の政治家、シッコ・レーンデルト・マンスホルト(Sicco Leendert Mansholt, 1908~1995年)のマンスホルトプランだった。共通農業政策(CAP)を創設したのは、マンスホルトである。この情報を知っていれば、いまEUでどれほど劇的な大激震が起きているのかがわかる。日本では、欧州をモデルに創られた戦後農政が「農政新時代」のスローガンによって官邸主導によって、米国型多国籍企業モデルに向けた改革が進められている一方、本家の欧州でも「アグロエコロジー」に向けた戦後農政の改革が進められていると読めるからだ。こうした大きな構図の中に位置づけてみてこそ、なぜ、種子法が改正されアグロエコロジーが日本で報道されないのかが見えてくる。氏の膨大なFacebookをかいつまみながら、私なりに、ストーリを整理してみた。
(2017年12月2日投稿)
【画像】
印鑰智哉氏の画像はこのサイトより
アグロエコロジーの本の画像はこのサイトより
マンストホルト氏の画像はこのサイトより

【引用文献】
2017年7月31日:印鑰智哉氏のFacebook
2017年8月25日:印鑰智哉氏のFacebook
2017年8月26日:印鑰智哉氏のFacebook
2017年9月12日:印鑰智哉氏のFacebook
2017年9月26日:印鑰智哉氏のFacebook
2017年10月1日:印鑰智哉氏のFacebook
2017年10月12日:印鑰智哉氏のFacebook
2017年10月23日:印鑰智哉氏のFacebook
2017年11月9日 :印鑰智哉氏のFacebook
2017年11月15日:印鑰智哉氏のFacebook
2017年11月15日の2:印鑰智哉氏のFacebook


posted by José Mujica at 07:00| Comment(0) | GMO | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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