2017年11月20日

種子法廃止の背後にあるモンサントの影

いきなりの種子法の廃止

 農林水産省は農業競争力強化支援法案という法案を2017年3月の国会で提出した(1)。この法案と同時に主要農作物種子法を廃止する法律案も提出され(1,2)、3月23日に衆議院農林水産委員会での自民、公明等の賛成多数で可決された(2,3)。さらに、4月14日には、民間の参入を阻害しているとして(6)、主要農作物種子法の廃止法が与党の賛成多数で参議院においても成立し(4,6)、来年4月1日に同種子法が廃止されることになった(6)

農業振興に多大な貢献をしてきた種子法

食料難の中で食料増産のために制定

 主要農作物種子法は「戦後の食糧増産という国家的要請を背景に、国・都道府県が主導して、優良な種子の生産・普及を進める必要があるとの観点」から制定され、1952年(昭和27年)に5月1日に公布・施行された法律である(2,4,6)。戦後日本が独立を回復したサンフランシスコ平和条約が発効したのは4月28日だが、その3日後のことであった(6)

 1952年当時は食料難が続き、同2月末は農林省が年間500億円以上を投入し、合計2000万石の食糧増産を行うという食糧増産5カ年計画を発表した年であった(1,6)。主要農作物種子法制定はその一環で、この法律の他にも、農地法、耕土培養法、飼料需給安定法、急傾斜地帯農業振興特別措置法等が制定されていたのである(1)

「主要農作物の優良な種子の生産及び普及を促進するため、種子の生産についてほ場審査その他の措置を行うことを目的」として(第一条)、主要農作物としては、稲、大麦、はだか麦、小麦及び大豆を指定している(第二条)。そして、都道府県に「指定種子生産者......に対して、主要農作物の優良な種子の生産及び普及のために必要な勧告、助言及び指導を行うこと(第六条)」や「主要農作物の原種ほ及び原原種ほの設置により......主要農作物の原種及び原原種の生産を行うこと(第七条)」を義務づけている(1)

「主要農作物種子制度運用基本要綱」「農林水産事務次官依命通達」昭和61年12月18日「第1 制度の趣旨及び運用の基本方針」がわかりやすい。

「主要農作物種子制度は、我が国の基本的な食糧であり、かつ、基幹的な作物である主要農作物(稲、大麦、はだか麦、小麦及び大豆をいう)の優良な種子の生産及び普及を促進し、もって主要農作物の生産性の向上及び品質の改善を図ることを目的としている」

 さらに、こう説明する。この種子制度を運用するには、主要農作物の優良種子の生産・普及が、その基礎の品種選定から最終的に種子が農業者に引き渡されるまで専門的な知識・技術と周到な管理が必要である。そのために品種の優良性の判別方法や、優良種子の適正・円滑な生産流通の方法などについて、周知させる必要がある。そこで種子法では、都道府県に対して以下について義務付けていたのである。

(1)主要農作物の種子生産者のほ場(田畑)の「指定種子生産ほ場指定」
(2)「生産物審査」(種子の発芽良否、不良種子・異物混入状況などの審査)
(3)主要農作物の原種・原原種の生産。原種は品種本来の遺伝的特性を維持している種子。原原種はその元になる親
(4)種子計画の策定
(5)優良種子生産・普及のための勧告・助言・指導
(6)別名・奨励品種と呼ばれる優良品種の決定(種子法第八条=優良品種を決定するための試験)

「都道府県は、当該都道府県に普及すべき主要農作物の優良な品種(以下「奨励品種」という)を決定するに当たっては、当該都道府県における気象、土壌、農業者の経営内容及び技術水準、主要農作物の需要動向等を十分考慮する」とされている(6)

各県の農業試験場で産み出されて来た多様なコメ品種

「ゆめぴりか」「ななつぼし」「青天の霹靂」「つや姫」「はえぬき」――。これらは今、美味しいコメと評判の品種名である。「ゆめぴりか」「ななつぼし」は、北海道産、「青天の霹靂」は青森産、「つや姫」「はえぬき」は山形産である。これまで、北海道のコメは「やっかいどう米」ともいわれていたが、「ゆめぴりか」や「ななつぼし」は今や全国ナンバー1の食味ともいわれ、CMも流され評判となっている。

 こうしたコメの開発を担ってきたのが、各都道府県の農業試験場である。食味の良い評判のいい米づくりは、県内のコメ生産にとって命綱であるだけに農業試験場は総力を上げて優良な米の種子開発に取り組んでいる(5)

 そして、こうした米の種子開発を支えてきたのが、主要農作物種子法である。同法に基づいて各都道府県は、県内に普及すべき優良品種を指定し、また種子生産の圃場の指定や種子の審査を行ってきた(5)。すなわち、各地域の条件に適合した米や麦の品種育成、奨励品種普及に国や各県の農業試験機関は極めて重要な役割を果たし、農業振興に大きく寄与してきたのである(1)。麦と大豆に関しては、日本はとっくの昔に自給を放棄して米国など海外からの輸入に明け渡してしまったが、稲に関しては聖域として、消費量の95%を自給し、その種子は100%国産で賄ってきた。その牙城となってきたのが農業試験場であり、それを制度的に保証してきたのが種子法であったのだが、それをわざわざ解体・廃止しようというのが今回の法案なのである(4)

反対する日本の種子を守る会

 種子法が果たしてきた役割を議論せず、廃止ありきの政府の姿勢は問題だとして2017年3月27日に有志が呼びかけて開いた「日本の種子(たね)を守る会」には全国から250人を超える人々が集まり、「種子の自給は農民の自立、国民の自立の問題」などの声があがった(2)

Shuji-kuno.jpg 集会では京都大学大学院経済学研究科の久野秀二教授が「大義なき主要農産物種子法の廃止―公的種子事業の役割を改めて考える」と題して講演をした。久野教授は種子の位置づけについて「もっとも基礎的な農業資材。種子のあり方が農と食のあり方を左右し、農と食のあり方が種子のあり方(品種改良)を規定する」と強調した(2)

 廃止法案成立前の2017年4月10日、東京・永田町の国会前での種子法廃止反対のデモに続き、全国有機農業推進協議会、日本の種子<たね>を守る有志の会によって、衆議院第一議員会館で「主要農作物種子法廃止で日本はどう変わるか」と題して、講演会・意見交換会が開かれ、200人ほどが参加した。呼びかけ人の一人、山田正彦(1942年~)元農林水産大臣は、次のように危機感を露わにした。

「政府は廃止法案をいきなり出してきた。種子法が廃止されれば、モンサント等外資系の参入や遺伝子組み換え稲などの問題で、大変なことになりかねない」

yoshiaki-Nishikawa.jpg 講師の龍谷大学経済学部の西川芳昭(1960年~)教授は「種子が消えれば、食べ物も消える。そして君も」との研究者、元国際コムギ・トウモロコシ改良センターのジーン・バンク担当者、ベント・スコウマン(Bent Skovmand,1945~2007年)卿の言葉を紹介し、こう強調した。

Bent-Skovmand.jpg「遺伝資源は人類共通の遺産であり、国民が何を食べ、農家が何をつくるかを決める食料主権は、基本的人権のひとつだ。ところが、種子法廃止に当たり、食料主権についてはまったく議論されていない」

「種子法で、地域に合う稲などの品種が育成されてきたが、地域品種の種子生産は量が限られ、民間企業の参入は収益上、考えにくい。種子法廃止で都道府県が関与しなければ、地域品種が存続の危機に直面する」(6)

反対した共産党と報じないマスコミ

Kazuko-SaitoS.jpg 主要農作物種子法が廃止になることは大問題だとの東京農工大学の梶井功(1926年~)名誉教授の発言を引用し、ジャーナリスト、石堂徹生氏も、これはまさに唐突で不可解な、そして先の見通しなしに断行された愚かな振る舞いで、将来に禍根を残すといえるのではないかと指摘する(6)。日本共産党の斉藤和子(1974年~)議員は、国の基本的・基幹的作物である稲、麦、大豆の優良な種子の生産・普及を国と都道府県に義務付けた種子法は日本の食糧自給を支えてきたもので、廃止は容認できないと強調。「種子の生産・普及体制を崩壊させ、外資系多国籍企業のもうけの場にされる恐れがある」と述べた。そして、都道府県の知見を民間に提供することで遺伝資源の開放につながる懸念や民間の開発コストの上乗せが種子の価格高騰につながる危険を指摘した』(3)

 けれども、三橋貴明氏は、国民の安全保障に決定的な影響を与える主要農作物種子法廃止法案について報じたのは、赤旗だけで大手メディアは、完全に黙殺している。この事実上の情報統制にわたくしは恐怖を覚えると指摘する(3)。高野孟氏は「私が大手紙の編集局長なら『安倍首相が『瑞穂の国』を殺そうとしている』くらいの過激な見出しを立てて反対キャンペーンを張っただろう。けれども、マスコミのどこからもそういう蛮声はあがらず、したがって多くの国民はそんなことが起きているとは気づかないまま、この売国法案がまかり通ってしまった(4)

奇々怪々なる廃止の論理

改正ではなく廃止された3つの理由

Takahiro-Sasaki.jpg 2017年3月23日の第193回国会・衆議院農林水産委員会では、民進党議員、佐々木隆博(1949年~)委員が行った質問に対して、政府参考人、柄澤彰農水省政策統括官は、種子法には法律上の3つの構造的問題があり「改正してもこれは直らないために、廃止の判断に至った」旨、答えている。

 第一は、種子法の仕組みとして、都道府県の開発品種を優先的に奨励品種に指定することになっているため、民間企業の開発品種の奨励にはつながりにくい。

 第二は、輸出用米や業務用米等、都道府県の枠を超えた広域的な種子生産が求められても、奨励品種に指定されにくい。

 第三は、必ずしも米麦等、主産地でない都道府県を含めたすべての都道府県に対し、原種、原原種の生産や奨励品種の指定試験などを義務付けている。

 これらの課題が明らかになり、これは「法律の構造的な問題」のために、「改正しても直らないので、廃止する判断に至った」と述べている(6)

 そして、柄澤政策統括官は廃止後のメリットについて、

(1) 義務が廃止されて、都道府県はフリーハンドになり、民間を含めて奨励品を指定しやすくなる

(2) 別に農業競争力強化支援法案などで民間事業者の新規参入支援措置をするために民間企業の参入が進み、農業者の選択が拡大する

 と述べている。

Akira-Edagara.jpg 佐々木委員が「身軽になるための声や要望はあったのか」と問いかけると、柄澤統括官は「日ごろ私どもいろいろな業務をしている過程で、そういう判断に至った」と述べ、佐々木委員は「誰かのニーズなどがあったわけではなく、自分たちがそう思ったから廃止した話だから、説得力が非常にない。主要穀物が稲と麦と大豆なのは、日本人の主食として代替がきかないからだ。この3つはちゃんと行政が責任を持って育種をし、種を保存しなければならない。その考えを捨てるのか」と問いかけると、農林水産省の齋藤健副大臣は「稲、麦、大豆が我が国の土地利用型農業の重要作物で、その生産の基本的資材の種子は重要な戦略物資という基本的認識は今後も一貫して変えるつもりはない」「輸出向けとか、市場ニーズに適した品種改良を民間参入含めて進むようにするには、国が法律で強制する必要はなくなった」と述べている(6)

種子の開発がなぜ公共では駄目なのか

 国民の主食である米の種子開発で、国や都道府県が中心ではなぜダメなのかだろうか。自由競争下にあるはずの多国籍企業等、外資系を含む民間企業の開発意欲を考慮し、その参入を促進しなければならないのであろうか(6)

 農林水産省が提出した種子法廃止法案の趣旨をみてみると、次のように書いてある。

「良質かつ低廉な農業資材の供給を進めていく観点から、種子について、地方公共団体中心のシステムで、民間の品種開発意欲を阻害している主要農作物種子法を廃止する」

 要するに、都道府県が農業試験場を中心に種子開発に取り組んでいることが、企業の種子開発意欲を阻害しているから、都道府県の種子開発を支えてきた種子法を廃止するというのである(3,5)

 けれども、「民間の品種開発意欲を阻害している」というのはどういう事実から出た判断なのか。その事実が示されていない。第二に、品種開発の競争で「都道府県と民間の競争条件は対等になっておらず」とも言っているが、何をさして「対等」でないというのか、それも事実が示されていない(3)。さらに、仮に民間企業の力が必要ならば、「地方公共団体中心のシステム」という法律の構造を変えずに、種子法の一部を改正すれば、それですむ。何がなんでも民間企業をという筋立ては、余りにも強引で乱暴である。民進党議員、福島伸享(1970年~)委員は国会で、次のように質問した。

「この話は規制改革推進会議などで議論されたが、専門家の議論をしているか。審議会(例えば食料・農業・農村政策審議会食糧部会など)などの手続きを経て農水省として意思決定をしたか」

 これに対し、政府参考人の柄澤彰農水省政策統括官は次のように答弁した。

「その審議会の権限に属せられている審議(米穀の需給及び価格安定に係わる基本指針など)には該当しないので、議論されていない」(6)

不透明な廃止の動機

 最も意味不明なのが、種子法廃止法案を国会に提出した際の理由である。「最近における農業をめぐる状況の変化に鑑み、主要農作物種子法を廃止する必要がある。これが、この法律案を提出する理由である」という一文だが「最近における農業をめぐる状況の変化」といいながら、どこにも説明されていない(2)。つまり、この「廃止劇」の第一の問題は、最も重要である廃止理由や経緯が明確ではない点にある。何がなんでも民間での種子開発を推進したいという意図に基づく強引さが際立ち、後味の悪さだけが残るのである(6)

 下山久信・全国有機農業推進協議会事務局長は、「2016年11月に安倍さんが米国でトランプさんに会った後の2月の閣議で、突然、種子法廃止が決まった。その間、自民党の農林部会でも一切、議論はなされていない。どのようないきさつがあったのか」と、疑問を投げかける(6)

推進会議が出した結論が先にありき

 それでは、なぜ種子法は廃止されることになったのか。廃止は、2016年10月6日の「規制改革推進会議/農業ワーキング・グループ」で配布された資料、「地方公共団体中心のシステムで、民間の品種開発意欲を阻害している主要農作物種子法は廃止する」と一致する(2,6)。すなわち、規制改革推進会議が出した結論が先にあり、農水省は後からそのための3つの理由を考えたように思えるのである(6)

 久野教授はこの間の経緯を議事録から整理して報告する。

 当初、生産資材価格の引き下げの議論のなかでは種子法に関連する項目は一切なかった。けれども、2016年の10月6日の農業ワーキング・グループで「地方公共団体中心のシステムで、民間の品種開発意欲を阻害している主要農産物種子法は廃止する」と問題が提起される。その理由は、戦略物資である種子・種苗について「国は国家戦略・知財戦略として、民間活力を最大限に活用した開発・供給体制を構築する」というものであった。「国家戦略」としてなぜ「民間活力を最大限に活用」することになるのか等、議論となってしかるべき点は多いが、ほとんど議論された形跡はないという。

 専門委員である本間正義(1951年~)東大教授が「この法律のどこが具合が悪いということについて、もう少し詳しい説明をされたほうがいい」との意見を述べているが、それ以上の議論はなかった(2)。つまり、同会議では同法の役割や廃止の理由など議論を重ねていない(3)

 そして2017年1月の農業ワーキング・グループでの法律廃止の趣旨説明では、農水省の山口英彰総括審議官は、「世界的にも戦略物資として位置づけられているので民間事業者によって生産供給が拡大していくようにする。都道府県と民間企業の競争条件が対等になっていない。奨励品種制度などはもう少し民間企業に配慮が必要等の理由を挙げ「ということで、今回この法律自体は廃止させていただきたい」と説明したとの発言があったことを(2)、共産党の畠山和也(1971年~)議員が告発している(3)

変節した農水省の見解

Kazuya-Hatakeyama.jpg 今から10年前の2007年4月20日に開かれた規制改革関連会議(規制改革会議地域活性化ワーキンググループの第2回農林水産業・地域産業振興タスクフォース)において民間委員が「民間の新品種が奨励品種になることは極めて困難で阻害要因となる」との意見が出されたことに対して、当時の農水省生産局の竹森三治農産振興課長は「公的機関による育成品種が奨励品種の大半を占めるという現状だが、奨励品種に採用する品種については公的機関が育成した品種に限定していない。民間育成品種についても優良なものは積極的に奨励品種に採用するよう都道府県に対して指導している。民間育成品種も一部奨励品種になっている。稲では2品種、小麦では1品種、二条大麦(ビール麦)ではビール会社が育成した7品種が奨励品種である。奨励品種制度が新品種の生産・販売・普及の妨げになっていないと考える」と回答していた(2,6)

 2017年3月23日の衆議院農林水産委員会の2週間前の3月8 日の同委員会で、畠山和也議員がこのことを指摘している。驚くべきことに種子法に関連しては今回の説明とはまったく逆の反論文書を農水省自身が出していたのである(2,6)。当時のこの発言を基に、畠山議員は「これまで明確にこのように否定してきた。なぜ、認識が変わったのか」と迫った。けれども、柄澤彰農水省政策統括官も、さらに答弁を求められた山本有二(1952年~)農水大臣も「民間企業との連携云々」と、「民間参入ファースト論」を繰り返すだけだった(6)

変節と廃止の陰にあるモンサント

 この間になぜ認識が変わったのか。久野教授はこの背景にあるものは、農業の成長産業化の名のもとの政府・財界による新たな農業・農協攻撃であり、また、植物遺伝子資源を囲い込んで種子事業を民営化し、公共種子・農民種子を多国籍企業開発の特許種子に置き換えようとする種子ビジネスの攻勢だと強調する。それは世界の動きでもある(2)

「種子を握れば、我々の命を掌握できる。食糧を支配できる。彼ら(モンサント)は世界中の食糧を支配しようとしている」(「モンサントの不自然な食べもの」より)

 バイエルによって買収されたモンサントだが、モンサントのビジネスモデルは「種子の特許を握る」ことにある。モンサントは、遺伝子組換え穀物について「特許」を保有しており、収穫した作物からとれた種子を播くことを認めていない。毎年、農家はモンサントから種子を購入し続けなければならない。違反すれば、告訴される。モンサントのモデルは、ラウンドアップとの組み合わせによって遺伝子組換え作物への依存度を高め、特許料で儲けるというものである。

 そして、遺伝子組換え作物が安全かどうかは、「実質的同等性」という不思議な基準によって評価されている。従来作物と「実質的」に同じであれば、安全とみなされるわけである。遺伝子組換作物については、既存の食品とは違い、安全かどうかの知見が蓄積されていないのだが、モンサントはロビー活動によってFDA(アメリカ食品医薬品局)に遺伝子組換えに関する規制を緩和させてきた歴史がある(3)

種子法が廃止されたらどうなるか

公的試験場の種子開発体制が瓦解

 それでは、種子法が廃止されると、どのような事態になるのであろうか(5)

「原種及び原原種の生産」は多くの人手と費用が必要である(1)。ひとつの種子開発には6~8年はかかる(5)。この義務が種子法に規定されていることが根拠になって試験機関の育種費用の確保を財政当局に求めることもできた(1)。それに必要な予算も国から地方交付税で支給されていた(5)。けれども、種子法が廃止されることで、都道府県の農業試験場を中心とする主要農作物種子事業の予算も根拠もなくなり、打撃を受ける(2,5)。人手と費用のかかる事業から手を引かせることになりかねない(1,5)。都道府県間での競争の激化も考えられ、種子の需給調整を全国で図ることも困難になるだろう(2)

種子の値段があがる

 他方、民間企業の種子開発には公的資金が入っていないので、当然ながら企業が負担する人件費を含む開発コストは高くなり、種子の値段も高くなる可能性がある(5)。根拠法がなくなり財政的な裏づけがなくなれば米の原種価格は5倍以上になると指摘もあった。生産資材価格の引き下げと逆行する(2)。農水省のこうした説明について久野教授はいくつもの疑問点を指摘し批判した。そもそも種子の生産の拡大が強調されるが、公共育種によって不足しているわけではない。国家戦略として位置づけるのなら民間に任せるのではなく、より公的な管理が重要になるはずではないか。そしてそもそも生産資材価格の引き下げがテーマだったはずなのに、低廉な種子を供給してきた制度の廃止は、種子価格の上昇を招くのではないのかというものである(2)

企業の利益二重取りが可能に

 廃止にともなって、国や都道府県が持つ育種素材や施設を民間に提供し、連携して品種開発を進めるというが、それは公的機関が税金を使って育成した品種という国民の財産を民間企業へ払い下げることにつながる。外資の参入は現行の種子法のもとでも自由となっており、廃止によって新規参入を促すものでないと農水省は説明するが、官民連携という名の国民財産の払い下げが行われるのであれば話は違ってくる。

 さらに都道府県が開発・保全してきた育種素材をもとにして民間企業が新品種などを開発、それで特許を取得するといった事態が許されるのであれば、材料は「払い下げ」で入手し、開発した商品は「特許で保護」という二重取りを認めることにならないだろうか(2)

食料主権が危うい

確かに、少子高齢化で胃袋の数が減り、そのサイズも小さくなっている点では、米の増産は必要ではない。とはいえ、米国トランプ政権などによる貿易や安全保障情勢の緊迫化、あるいは各種災害・冷害などの懸念は増すばかりである(6)

 食料安全保障のためにも、先の「我が国の基本的な食糧であり、かつ、基幹的な作物である主要農作物」生産の基礎となる優良種子生産・普及制度の必要性は、むしろ高まっている。そのうえ、外資系企業参入や遺伝子組み換え稲等の登場で、外資系企業の参入による種子の支配、食料安全保障の根幹、つまり、食の安心・安全の基礎が揺らぐリスクも高まる(6)。日常的に食する農産物の「種子」を、外資の遺伝子組換え種子に握られれば、これは、食料安全保障の崩壊である(3)。種子は国民・農家の財産であり、数少ない遺伝資源の確保という国の責務を放棄するという点からみても、極めて無責任な態度である(2,6)

 そして、米モンサントをはじめとする種子開発多国籍企業は、日本の種子市場を狙っている。現在日本では認められていない遺伝子組み換え米の種子開発が進められ、除草剤耐性の強い稲がモンサントの除草剤とセットで売られる事態も想定される。

「種子を制するものは農業を制する」とまでいわれるが、海外企業の種子のシェアが高くなると、もしそうした企業からの供給がストップした場合に日本の米生産が成り立たなくなり、食料安全保障の面でも問題がある。種子法の廃止は、国家主権の放棄ともいえる暴挙なのである(5)

外国でも種子は保護されている

 久野教授は米国やカナダ等でも公的種子事業の意義と危機感が議論されていることを紹介する。

 米国では州立大学が公共品種の開発、提供を行っており、小麦の最大生産州カンザスでは州立大学と州農業試験場の種子の供給量が1、2位を占め公共品種の役割を一定程度維持しているという。カナダの小麦は95%が公共品種で、長期的・安定的な予算配分による公的育成プログラムの有効性が立証されているという。

 ただ、豪州では2000年代から政府が育種事業から徐々に撤退し民間企業の投資が増加、英国でも公的小麦育種事業が1987年に民営化されたという。米国でも地域差があり、アーカンソー州の米は州立大学で育成された品種が大半だが、栽培面積では民間育成品種が7割を超えるなど徐々に増大しているという。米国では1980年代に民間への技術協力を法制度で決めるなど、民間移転が進んでいるが、一方で公共品種が食料安全保障、持続可能性、教育などの役割を果たすと評価する動きも決してなくなっているわけではない。また、種子事業を民営化した英国では統合的な研究システムが分断した「失われた15年」という反省も出ているという。久野教授は食料主権の一つとして種子主権も主張するとともに、世界で取り組まれている種子保護の運動とも連帯すべきなどと主張した(2)

亡国の道を“公共種子保全法”で断つ

 先のもう一人の呼びかけ人、金子美登・全国有機農業推進協議会理事長は、「種子法廃止は亡国の道」と断じた。最後に山田元農水大臣が、種子法に代わって、議員立法による「公共種子保全法(仮称。公共機関による公共品種育成)」の制定を提案した(6)。また、議員立法で種子法に代わる法律を制定することも食と農の未来のために必要だとの意見も出た(2)
(2017年11月20日投稿)

【画像】
久野秀二教授の画像はこのサイトより
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斉藤和子議員の画像はこのサイトより
柄澤彰農水省政策統括官の画像はこのサイトより
佐々木議員の画像はこのサイトより
畠山和也議員の画像はこのサイトより

【引用文献】
(1) 2017年3月11日「種子法廃止は大問題」シリーズ:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す、農業協働組合新聞
(2) 2017年3月30日【種子法廃止】種子の自給は農民の自立」農政クローズアップ、農業協働組合新聞
(3) 2017年3月21日三橋貴明『移民政策のトリレンマ(前編)①新世紀のビッグブラザーへ blog
(4) 2017年4月20日:高野孟「TPP復活信じ 「瑞穂の国」を殺す安倍政権による売国法案」日刊ゲンダイ
(5) 2017年4月20日:小倉正行「安倍政権、日本の食料安全保障を危機に晒す法案を提出…安定的なコメ生産を破壊」Business Journal
(6) 2017年6月5日:石堂徹生「危ない食品の時代、何を食べればよいのか―安倍政権、米の安定供給を放棄…専門家の議論なし、突然の種子法廃止が波紋」、Business Journal


posted by José Mujica at 07:00| Comment(0) | 種子法廃止 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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