2017年11月30日

大海を知る蛙-種子を守る三つの条約と宣言


小規模農民の価値を再評価せよ

Tomoya-Innyaku.jpg 大規模な工業的農業はバイオ燃料や家畜飼料、加工食品の原料を作るうえでは存在を発揮するが、人々が日々口にする食料を作っているわけではない。政府の補助金のほとんどを使い、大量の農薬・化学肥料、大型機械の使用によって土壌の喪失にも責任を負っているのも工業的農業である。

 世界的には、工業的農業が推進され、農地が没収され、土地から出て行こうとはしない小農民や小漁民、先住民族等が殺害されたり、暴力を受けたりしている。あるいは、そうした暴力を受けないとしても、小規模家族農業を重視しない政府が多い中、債務に苦しめられて離農や自殺に追い込まれる農家も少なくない。

 けれども、小規模農家は3割ほどの農地で7割の食料を生産している。多くの場合、政府からの補助金をわずかしか得ることができないにも関わらず、地域における食料生産では大きな役割を果たしている。小規模農民の権利を守ることは、地方における環境や文化を守っていく上でも大きな意味がある。多国籍企業がますます世界の農業に直接力を及ぼし、遺伝子組み換え企業が種子を独占して、農民たちの種子の権利を奪おうという動きが目立つ中、農民たちの種子の権利や生物多様性への権利を守ることにも大きな意義がある。小規模農家こそが農業生物多様性を守り、食料保障の基礎となっているからだ(20171007)

農民の種子の権利を明確にうたう食料・農業植物遺伝資源条約

 日本ではコメ、麦、大豆に限り、種子の安定的生産と供給を国の義務としてきた主要農作物種子法が廃止されてしまった。したがって、国内法では権利を守るものがないというのが現状である(20171015)

 けれども、「食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約」においては、農民の種子の権利がはっきりとうたわれている。署名国は140カ国にもなり、EU諸国も日本も2013年に批准している(20171015,20171028, 20171107)。つまり、日本政府は農家の種子の権利を守る義務を負っている(20171028)。その権利を実効力のあるものとするための国内法の制定を早急に急ぐべきである(20171015)。国内法においても農家の保護法を作り、種子を蒔くだけで牢屋に入れられるような横暴は防がなければならないはずである(20171107)

小農民の権利宣言で種子を守る

小農民の権利宣言の成立を邪魔した米国と日本

 いま、国連では「小農民と農村で働くその他の人びとの権利宣言」(以下小農民の権利宣言)が来年採択される見込みで、交渉が進んでいる。その中でも種子の権利がしっかり規定されている(20171015, 20171107)

 小農民の権利宣言が国連で最終段階に入って、2017年5月には完成かと思われた時、立ちはだかったのは米国であった。また、「権利宣言不要論」をわざわざ表明し、その成立を妨害したのは日本政府であった。

 主要農作物種子法を廃止し、コメ、大豆、麦の主要農作物の種子の生産・供給における国の責任を放棄することを決めた日本政府としては、こうした宣言が作られれば困るのであろう。5月に国連のワーキンググループにわざわざでかけ、この起草作業が無意味であるかのようなコメントを発表した。その際、日本政府が理由としてあげたのは、日本政府がODAの世界トップの拠出国として世界の小農民の権利については貢献しているとの主張であった。けれども、現実には、日本のODAによって、輸出向けの大規模農業プロジェクトが何度も行われて、小農民が土地から追われ、日本政府は抗議の対象となっているのである(20171007)

小農民の権利宣言が来年成立することは朗報

 米国と英国はこのワーキンググループの継続に反対した。日本や韓国等11カ国も保留した。とりわけ、米国は、このワーキンググループを終わらせて宣言起草をできなくしようとした。そこで、9月には、そうさせないためのオンライン署名もなされ、34カ国が賛成し、このワーキンググループは継続することになり、9月29日には、第5回のワーキンググループの開催が決まり、宣言は成立に向けて踏み出したのである。そして、来年6月の国連人権理事会で採択される可能性が高くなっている(20171007)

 この宣言は世界人権宣言を元に、世界の小農民や地方住民の権利を宣言するもので、27条にも及ぶ宣言には農村女性の権利、種子の権利、生物多様性等を含めて、現実の世界の農村住民の人権状況を踏まえた包括的なものとなっている。そして、そうした権利を守る責任を国家や国連等の国際機関に課す。このため、この権利宣言が出ることは画期的である(20171007)

 この宣言の成立は、日本における種子の権利の確立、農業における生物多様性の保護を考える上で非常に意味あるものになる(20171007)。人々の食を支配下に置こうとする多国籍企業に食を牛耳られたくなければ、これは農家だけの問題ではなく、社会のすべての人が声を上げていかなければならないものといえる(20171107)

多国籍企業の活動を規制せよ

多国籍企業の利潤のために知らないところで決まっていく物事

 生活に関わる政策がただ一言も問われることなく、遠いところで勝手に決められてしまうことがますます多くなってきた。その背景にあるのは多国籍企業である。多国籍企業が決め、米国政府に指示する。あるいは直接米国政府の政策担当者となっていく。その政策が日本政府にも押しつけられてくる。まったくわからないところで暮らしを支える公共の富が多国籍企業の独占物に変えられていってしまう。これは、日本だけで起きている現象ではなく、今、世界各国の人びとを苦しめている現象である(20171021)

 人々の権利を踏みにじり、多国籍企業を利することは主権者を無視することである。情報を与えて議論すれば、そうした政策は成立しえない。ならば、秘密裏に情報を与えずにやってしまえ(20171031)。いまは、各国の議会も無視される状況にある。議会が多国籍企業に対してしっかりと規制しない限り、議会はますます無意味なところになっていく(20171021-2)。TPPしかり、東アジア地域の包括的経済連携、アールセップ(RCEP=Regional Comprehensive Economic Partnership)しかり、主要農作物種子法の廃止法案の審議しかり。それらは、民主主義の崩壊をもたらしてしまう(20171031)

多国籍企業の活動を規制する条例づくり

 多国籍企業の活動を規制しなければ世界が壊される。人権、暮らし、環境が破壊されてしまう。例えば、気候変動は世界中で巨大な被害を与えているため、それを引き起こす原因を止めることでもたらされるメリットは計り知れない。けれども、それが多国籍企業の利益にならないとなれば実行できない(20171021)

 そこで、多国籍企業の活動を包括的に規制する国際条約を作ろうとの声が世界中からあげられている。多国籍企業に支配された政府同士の作業がまともに進むことは期待することは困難である。けれども、今、この動きを世界各地の市民運動団体が監視し、多国籍企業の規制を求めた国際条約の成立に向けて活動を拡げている(20171021)

 2017年10月23日から27日まで、国連において「多国籍企業やその他の企業の人権に関する法的拘束力のある国際条約作業部会(an Open Ended Inter-governmental Working Group for the development of a legally binding treaty on TNCs and other business enterprises with respect to human rights)」が開催されている(20171021, 20171021-2)

議員たちの不満に火をつけよ

 多国籍企業による横暴に歯止めをかける。世界の市民と連帯して、多国籍企業の動きに規制を加えていく。TPPやRCEP、種子法廃止に象徴される農業改革という名の家族農業解体の動きを弱めていく。現在の日本の政治状況を見れば、絶望的にすら思える。とはいえ、それだからこそ、逆にこの取り組みは有効に機能するかもしれない。というのも、安倍政権をつなぎとめている生命線のひとつは、米系多国籍企業をバックにした米政権と経団連等の日系多国籍企業だからである(20171031)

 さらに、この条約成立を求める国際的なネットワークが世界各国すべての議員に賛同を求める署名を行っている。これは非常に面白い(20171021-2)

 国会議員でありながら、TPPもRCEPもその内容すら知ることができない。種子法廃止に至っては、自民党の農政族ですらすっ飛ばされて議論にすら入れてもらえなかった(20171021, 20171021-2)。与党議員と言えども煮え湯を飲まされ続け頭に来ているに違いない。官邸が怖くて動かないという議員が多いだろうが、一人でも多くの議員が賛同してくれればこの条約が成立するために大きな力になる(20171021-2)

編集後記

カエルS.jpg 遅まきながら、主要農作物種子法の廃止を巡る動きを調べている。モンサントとバイエルの合併の情報だけしか知らなければ、破竹の勢いで大躍進する多国籍企業の絶大なるパワーの前にはもはや何一つ打つ手が残されていないと陰鬱な気分になってくる。けれども、印鑰智哉氏のフェイスブックを読むことでビックピクチャーをみれば、苦しめられて断末魔の悲鳴をあげているのはモンサントの方であることが見えてくる。

 同じように、国内法だけを見ていれば、破竹の勢いで大躍進する日本国現行政権の絶大なるパワーの前にはもはや何一つ打つ手が残されていないと陰鬱な気分になってくる。けれども、印鑰智哉氏のフェイスブックを読むことでビックピクチャーをみれば、勇気が湧いてくる。井戸の中の蛙、まさに大海を知るである。氏の膨大なFacebookをかいつまみながら、私なりに、ストーリを整理してみた。
(2017年11月30日投稿)
【画像】
印鑰智哉氏の画像はこのサイトより
カエルの画像はこのサイトより
【引用文献】
2017年10月7日:印鑰智哉氏のFacebook
2017年10月15日:印鑰智哉氏のFacebook
2017年10月18日その2:印鑰智哉氏のFacebook
2017年10月21日:印鑰智哉氏のFacebook
2017年10月21日2:印鑰智哉氏のFacebook
2017年10月28日:印鑰智哉氏のFacebook
2017年10月31日:印鑰智哉氏のFacebook
2017年11月7日:印鑰智哉氏のFacebook

ブックマークボタン


posted by José Mujica at 07:00| Comment(0) | GMO | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください