2018年01月10日

遺伝子組換え農産物を輸入し表示もなくす

発がん性除草剤を世界に先駆けて認可

遺伝子組換え農産物で使われる除草剤は発がん物質である

河田昌東.jpg 分子生物学者の河田昌東(1940年〜)氏は、除草剤耐性遺伝子組換え作物とセットで用いられるラウンドアップの危険性を指摘する。除草剤耐性ダイズで使われるラウンドアップの主成分はグリフォサートだが、南米においてはこの残留グリフォサート農薬濃度が安全基準を超えていたため、南米においては身体障害者の乳児の出生率が4倍に高まっている。これを受けて、WHOの国際がん研究機関(IARC=The International Agency for Research on Cancer)は、2015年3月20日にグリフォサートの発がん性を認めた(2p144)

輸入国に対して残留農薬の規制基準値の緩和を要請

 けれども、米国政府は除草剤耐性ダイズの栽培を禁じるどころか、ダイズが海外に輸出できなくなることを危惧し、輸入国に対して残留農薬基準を規制緩和することを要請した(2p144)

 グリフォサートの安全基準は、オーストラリア(従来0.1ppm)、イギリス(従来0.1ppm)、ニュージーランド(従来0.1ppm)、日本(従来6ppm)であったが、いずれも基準値を20ppmに引き上げることとなった(2p145)

強力な除草剤を世界に先駆けて認可し米国の露払い

 第二のラウンドアップの問題点は、除草剤を散布し続けていると、それに耐性を持った雑草が繁茂するようになり、除草剤の散布回数が増えて農家の手間と経済的負担が増えてしまうことである(2p144)

 このため、さらに強力な農薬としてダウ・ケミカルは枯葉剤「2,4―D」耐性トウモロコシ、モンサントは枯葉剤「ジカンバ」耐性ダイズを開発した。この除草剤耐性トウモロコシを食品・家畜飼料として栽培することを世界に先駆けて2012年5月に認めたのは日本政府である。枯葉剤「ジカンバ」耐性ダイズも2013年2月に食品として認可し、2013年10月には栽培も許可した。さらに、ジカンバの残留農薬基準も0.05ppmから10ppmに引き上げた。

 これを受けて、米国においては2014年10月に「2,4―D」耐性トウモロコシ、2015年1月にジカンバ耐性ダイズを認可している。日本政府が認可を与えたから米国においても安全だとして認可されたのである(2p145)

遺伝子組換え小麦を召し上がれ

遺伝子組換え小麦は家畜が食べるものである

 山田正彦元農水大臣は、狂牛の問題で何度か米国を訪れた際、なぜ、米国ではトウモロコシと大豆では遺伝子組換え種子で栽培しているのに、小麦では遺伝子組換えをしないのか」と聞いたことがある。すると米国政府の高官は「トウモロコシ、大豆は家畜が食べるものだから、遺伝子組換え種子を使うが、小麦は人間が食べるものだから遺伝子組換えにしない」との答えが返ってきたという(1p104,2p130)

Alan-Tracy.jpg けれども、2012年1月に訪米した折には、米国小麦協会のアラン・トレーシー(Alan T. Tracy)会長は「これからは小麦も遺伝子組換え種子で始めます」とはっきり答えていた(1p104,2p130)。米国政府も多国籍企業からの圧力に屈したのである(1p104)

遺伝子組換え小麦を輸出するため全農を株式会社化する?

 そして、栽培される遺伝子組換え小麦の輸出先は日本がターゲットとされている(2p130)。「JA全農」は系列として米国ニューオリンズ州に「全農グレイン社」を保有している。世界最大の外航船積引き込み施設を持ち、そこで、遺伝子組換えダイズとそうではないダイズの分別をしてきた(2p131)。TPP交渉ではJA全農の株式会社化が取り上げられ、「規制改革会議」でも検討されたが(2p130)、米国内での反対が強い遺伝子組換え小麦をまず日本に輸出するためには、この全農の分別施設が邪魔でしょうがないからなのである(2p131)

 実際、オーストラリアの農業協働組合の穀物部門は、米豪FTAの後に株式会社に鞍替えされ、その後、カーギル社が株を買い占めてその傘下においている(2p131)

遺伝子組換え魚を召し上がれ

 2015年11月。米国食品医薬品局(FDA== Food and Drug Administration)は、アクアバウンティ・テクノロジーズ社が開発した遺伝子組換えシャケに対して「自然界のシャケと同じもので食べても人体に危害をもたらすものではない」として食用として認可した(2p119)

遺伝子組換えシャケ.jpg このシャケは少ない餌でも通常の2倍のスピードで成長するように、アトランティックサーモンにゲンゲという深海魚の成長ホルモン遺伝子を組み込んだものだが、染色体を4組も持つ4倍体のシャケが自然界に放たれたら、海洋生態系を破壊すると多くの科学者が反対してきた。にもかかわらず、2016年から流通することとなった。食用として遺伝子組換え動物に許可が出されたのも初めてのことである。また、パブリックコメントでも200万人の米国民が反対したという。このため、ウォールマート以外のスーパー、8000店は販売を拒否している(2p119)

TPPが発足すると遺伝子組換え農産物の輸入は止められない

遺伝子組換え農産物は安全か

Gilles-Éric-éralini.jpg 米国食品医薬品局(FDA)では、遺伝子組換え食品の警告を発した学者はことごとく研究職を解かれる等の迫害を受けてきたが(1p103)、遺伝子組換え農産物については、2012年にフランスのカーン大学のジル=エリック・セラリーニ(Gilles-Eric Seralini,1960年~)教授がラット200匹にモンサント製の遺伝子組換えトウモロコシ「NK603 」系統を2年間と長期間にわたって食べさせるとガンになることを証明した(1p102,2p122)。モンサント側はマウスを使って70日間の実験を行い安全であると発表してきた。確かに、70日では以上はなくデータとしては間違えではない。けれども、マウスの70日は人間では10年にしか相当せず、10年は食べても大丈夫だというデータにすぎない(2p124)。このため、EUは遺伝子組換え作物の作付けを認めていないし、輸入もさせていない。家畜の餌としての輸入は認めているが、それでも0.5%以上混入されているものには表示義務を求めている(1p103)。遺伝子組換え食品はEUだけでなく、ロシアや中国も禁止している(2p122)

TPPでは遺伝子組換え食品の輸入促進が謳われた

 このため、TPP協定ではかなりのページを割いて遺伝子組換え食品についてこと細かに記載されている。しかも、従来であれば「衛生植物検疫措置」の章に記載されるのが、第2章の商品アクセスの章に位置付けられている(2p117)。すなわち、第2章27条第8項には「遺伝子組換え農産物の貿易の中断を回避し、新規承認を推進する」と書かれている(2p119)

 米国農務省は「初めて国際貿易協定に遺伝子組換え食品を盛り込むことができた。TPPの素晴らしい成果である」と自我自賛のコメントを出している(2p117)

 遺伝子組換え食品の貿易を円滑に進めるためにはTPP加盟国間で農産物だけの小委員会を設け、さらに作業部会を発足させることとなっている。この小委員会において、例えば、遺伝子組換えシャケの輸出入の促進、遺伝子組換えシャケとしての表示等の措置について話し合いができるようになっている(第2章27条第9項)(2p120)

TPP協定がされれば原則輸入禁止の法制度が変わる

 日本は、これまで、遺伝子組換え食品は「食品衛生法」によって原則輸入を禁止している(2p119,2p128)。現在は、「食品安全委員会」が承認した(2p132)ジャガイモ、ダイズ、トウモロコシ等、8種類が輸入を認めれているだけである(2p128,2p132)

 また、遺伝子組換え食品についてはカルタヘナ議定書の第17条、第25条によって、その国の生物多様性や人の健康を害する危険性がある場合には、速やかに輸入を止める緊急措置を取れるようになっていた。あわせて、罰則もできることとなっていた。

 例えば、かつて米国で開発され人の健康を損なうとして生産が止められた遺伝子組換えトウモロコシ、スターリンクが輸入されるような場合である(2p120)

 けれども、今回のTPP協定においては、輸入国は独自の緊急措置を取ることができず、処罰規定もなくなり、自らの経費で随時米国に送り返すか、それを死滅させることを求められることとなっている(2p121)

 例えば、米国から遺伝子組換え小麦やシャケの輸入を求められたことを考えてみよう。食品貿易の小委員会、作業部会が開かれることになる。そして、日本の「食品安全委員会」が「遺伝子組換え小麦やシャケが人体に有害である」と立証すれば輸入を止めることができる(2p121)。けれども、各国の遺伝子組換え食品の安全性の評価手続きには、利害関係人としてモンサント等から意見を聞き、それを考慮しなければならないとされている(第8章第7条)。すなわち、小麦の場合ではモンサントが提供した実験結果だけが考慮されるのである。遺伝子組換えシャケについても、それを開発したアクアバウンティ・テクノロジー社からの意見を聞くことになり、そのデータが重要視されることから、科学的な証拠を日本側が準備することは非常に難しい(2p124)。なお、今回のTPPでは委員選任時から利害関係者としてアクアバウンティ・テクノロジー社の関係者を入れることができるようになっている(2p125)

日本の食品安全委員会はすでに遺伝子組換え食品を安全としている

山浦康明.jpg TPP協定第7章「衛生植物検疫措置」では、輸入を禁止するためには、厳格な科学的な人の健康を害する危険性についての証明、証拠を提示することが必要とされる(2p131)。これは、WTOのパネル(紛争解決のための小委員会)でもこれまで認められたことがないと言われるほど難しい(2p132)。さらに、明治大学の山浦康明(1949年〜)講師によれば、「食品安全委員会」はすでに「遺伝子組換え食品は安全である」としているという。したがって、輸入解禁を拒否できないのである(2p121)

 さらに、仮に「食品衛生法」によって遺伝子組換え小麦やシャケの輸入を止めたとしても、米国のアグリビジネス企業は、日本に子会社を作り、TPP協定第9章「投資章」によって、日本政府に多額の賠償金の支払いを求めることができる(2p132)

TPPが発足すると遺伝子組換え食品の表示ができなくなる

現在はJAS法が遺伝子組換え表示をしている

 ほとんどの国では、遺伝子組換え食品は、消費者が選択できるように「表示義務」が課せられている(1p103)。日本においても、現在の国内法JAS法において、輸入される遺伝子組換え食品は全て表示しなければならないこととされている(1p119,2p133,2p135)。ただし、例外もある。日本の食用油の大半は遺伝子組換え大豆から絞られているが(1p103)、それを搾油した場合、タンパク質の形状が現れないために表示されていない(2p133)。その搾かすから味噌、醤油は作られているが、この場合も表示されていない(1p103,2p133)。コンビニやスーパーには、合成甘味料、異性化糖が使われているが、これらも表示されていない。したがって、大豆製品の場合には、国産大豆使用の表示がなければ安心できない(1p103)

遺伝子組換え表示ができなくなる

 たとえ輸入されたとしても、遺伝子組換え農産物と表示があるものは買わなければ良い、と思われるかもしれない。けれども、TPP協定によって表示ができなくなる恐れが出てくる(2p134)。これはTPP協定では「強制規格」というものに相当することとなる。そして、「何を理由」によって、表示義務を課さなければならないのか、その「適合性の評価手続き」を求められることになる(2p135)。例えば、遺伝子組換え小麦の場合はモンサント社、遺伝子組換えシャケの場合はアクアバウンティ・テクノロジーズ社が利害関係者となり、彼らの説明を聴取し、「考慮」して決めなければならない。さらに、米国の通商代表部も参加して作成しなければならないこととされている。したがって、これが遺伝子組換えであると表示することがTPP協定下ではできなくなってしまうのである(2p135)。遺伝子組換えシャケも蒲鉾やすり身等の加工品として輸入され、何の表示もなければ知らないうちにこうしたものを食べることになってしまうのである(2p121)

 いま、スーパー等で売られている豆腐や納豆のパッケージにある「遺伝子組換え食品ではありません」という表示もできなくなってしまう(2p137)。最も、以前、山田正彦元農水大臣が、豆腐と油揚げについて「遺伝子組換え食品ではありません」と表示されていたものを再調査してみた。すると82%が虚偽の表示だったという(1p103)

米国では連邦法の改正によって遺伝子組換え表示はできなくなった

 米国においても「遺伝子組換えの表示くらいはして欲しい」という声が高い(1p104)。2012年にカリフォルニア州では、遺伝子組換え食品に表示を義務づける法律案の住民投票が行われた。その結果は、賛成47%、反対53%であった(1p105)。なお、2010年1月には企業による選挙の広告費を制限することは言論の自由に反するという違憲判決が最高裁判所から出された。5対4の際どい採決であったが、最高裁判所の裁判官も米国においては国民投票によって決められる。そのため、多国籍企業は周到な準備をした(1p105)

 その他、ワシントン州、オレゴン州、コロラド州でも否決された。けれども、コネティカット州、メーン州、バーモンド州では遺伝子組換え食品表示を義務とする州法が可決された。さらに、ハワイでは州会議によって表示義務を課すだけでなく、遺伝子組換え食品を作らせない州法も制定させていた(2p136)

 このため、2015年7月、全米統一の連邦法として「安全で正確な食品表示法(The Safe and Accurate Food Labeling Act)」が下院で可決された(2p136)。これは表示を「義務」ではなく「任意」とする法律である。したがって、同法案が上院でも可決すれば、上述した州法はすべて無効とされ、州独自の規制を行うことが一切禁じられることになる(2p137)

TPPが発足すると残留農薬も食品添加物も規制が緩和される

米国は日本に比べ残留農薬も食品添加物もゆるゆるである

 米国では日本に輸出する小麦、コメ、ダイズ、トウモロコシ等が貨物船で運ばれる際にコクゾウムシ等の害虫が発生しないように、大量のポストハーベスト農薬を使用している。マラチオン、クロロピリホスメチル等、日本での使用が禁じられている農薬も使われている(2p146)。そして、ジャガイモの発芽を抑制するためには、農薬クロロフォルムを使用しているが、日本への輸出するため、日本の残留基準を1000倍にまで引き上げている(1p108,2p147)。また、米国ではジャガイモの発芽を抑えるため、あるいは腐食しやすい野菜に放射線を照射している(1p114)

 米国では食品添加物だけで1600品目の使用が認められ、化学合成添加物がモンサントやデュポンによって開発されている。日本はうち653種類の食品添加物しか使用を認めていない(1p108,2p148)。また、食品の残留農薬基準も米国に比べて厳しく設定されている。WTOにおいても、残留農薬や食品添加物の安全基準については、各国がそれぞれ独自に決められることとしている(2p147)

コーデックス国際基準とは多国籍企業と米国の基準である

Demetrios-Marantis.jpg 米国では、2010年に上院の公聴会において通商代表部のデメトリオス・マランティス(Demetrios Marantis,1968年〜)代表補が「TPP加盟国の労働基準と環境基準は同一にする」と述べている。ここでいう「環境基準」には、残留農薬と食品添加物が含まれる(1p107)

 そして、マレーシアで開催された2013年7月の第18回TPP交渉の会合では、米国は食品表示について、遺伝子組換え食品については表示の義務付けをしてはならない。また、食品の安全基準についてはコーデックス基準(国際食品委員会によって定められた国際的な食品基準)を参考にTPP交渉参加国はすべて統一するという提案を行なった(1p102)。コーデックス基準といえば世界的な安全基準であるため、一見するともっともらしく思える。けれども、コーデックス委員会そのものが問題である(1p108,2p147)。コーデックス委員会に代表を出すことが許されている団体の半数以上は多国籍企業であり、消費者側の代表ポストはひとつしかない。コーデックス基準では、家畜への成長ホルモンや抗生物質の投与、放射線照射を推奨していることからも、これが消費者保護のためのものではなく、取引指針のための組織であることがわかる(1p109,2p148)。米国が2011年に成立させた食品安全近代化法(FSMA= Food Safety Modernization Act)では、米国が食品を輸出する相手国の食品安全計画のルールを米国側が決める権限を与えている(1p108)。米国食品医薬品局(FDA)が米国及び貿易相手国の食品産業をコーデックスに調和させると定めている。すなわち、コーデックス基準そのものが米国の基準なのである(1p109)。簡単に言えば、各国の表示があると米国産のものが売れないから廃止しろ、と要求しているのである(1p106)

TPPでBSEが懸念されるゼラチンも安全に

 そして、今回のTPP協定でも独自の基準は認められず、残留農薬や食品添加物についてはすべてがコーデックス基準に合わせよ、と言っている(1p108,2p147)。そして、TPP協定の内容を見てみると、食品添加物については46品目を認めたとしている。また、BSEの発生で懸念されていた牛由来のゼラチン、コラーゲンについても食品安全委員会の承認を得て緩和している(2p149)

 もちろん、これらは、これまでも国内法と矛盾する。けれども、憲法上、条約の方が国内法よりも優位に立つ。したがって、国内法を書き変えなければならないのである(2p120)。TPPとはあまりにも一方的な不平等条約なのである(2p121)
(2018年1月10日投稿)
【画像】
河田昌東氏の画像はこのサイトより
アラン・トレーシー会長の画像はこのサイトより
ジル・セラリーニ教授の画像はこのサイトより
遺伝子組換えシャケの画像はこのサイトより
山浦康明講師の画像はこのサイトより
デメトリオス・マランティス代表補の画像はこのサイトより

【引用文献】
(1) 山田正彦『TPP秘密交渉の正体』(2013)竹書房新書
(2) 山田正彦『アメリカも批准できないTPP協定の内容はこうだった!』(2016)サイゾー


posted by José Mujica at 07:00| Comment(0) | GMO | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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