2018年01月11日

成長ホルモンと牛乳と牛肉

モンサントが開発した牛成長ホルモン入り牛乳を召し上がれ

インスリン様成長因子1でガンになる

William-B-Grant.jpg 前立腺がんや卵巣がんの発症リスクが乳製品の摂取量と関係があるかもしれないと示唆する研究がある。その理由の一つに、「インスリン様成長因子1(IGF-1= insulin-like growth factor 1)というホルモンの存在がある。IGF-1は、細胞の成長や分裂を促進し、細胞死を抑制しているホルモンである。健康維持や成長にとって非常に重要なホルモンなのだが過剰に摂取すると、異常な細胞増殖、すなわち、がん化につながってしまう(7)

 サンフランシスコにあるサンライト健康栄養研究センター(Sunlight, Nutrition, and Health Research Center)のウィリアム・グラント(William B. Grant)博士は、乳がん、子宮体がん、腎臓がん、卵巣がん、膵がん、前立腺がん、精巣がん、甲状腺がん多発性骨髄腫の発症の原因のひとつに、IGF-1の産生が関与すると主張する(7)

Samuel-Epstein.jpg そして、イリノイ大学公衆衛生学部のサムエル・エプスタイン(Samuel Epstein, 1926年)名誉教授は、ガン予防の最高権威の1人なのだが『あなたのミルクには何が入っている?』でこう書いて警告する。

「成長因子1は、天然の正常な成長因子だが、rBGHの入った牛乳にはIGF-1が非常に高レベルで含まれている。IGF-1は消化されずに生き残り、小腸から直ちに吸収されて血液へと入り込む。そして、IGF-1が増えると乳癌、結腸癌、前立腺癌のリスクが高まる。さらなる懸念は、IGF-1が増えると早期がんを阻止するための身体の自然のメカニズム、アポトーシスが妨害されてしまうことだ」(4,9)

モンサントの成長ホルモンは乳量を増やすがインスリン様成長因子も増やす

 rBGHの小文字「r」は、「recombinant=組換え体」、「BGH(Bovine Growth Hormone)」は牛成長ホルモンで(9)、モンサントが遺伝子組換え技術を用い、開発した牛成長ホルモン、別名rBST (recombinant Bovine Somatotoropin)、商品名『ポジラック』なのである(2p39)

 このホルモンを乳牛に注射すれば乳量が15~20%増す(2p39,8p75)。乳を出す期間も平均30日長くなる。このため1994年から使用されている(2p39)。けれども、この注射を受けた乳牛が出す牛乳にはIGF-1が含まれている(2p39,8p75)

 rBGHを注射された牛の牛乳中のIGF-1は、中立な研究者による調査では6倍も増えているが、モンサント自身の調査でも2倍以上になったことが明らかとなっている(4)

27カ国が使用を禁止している危険ホルモン

 1998年にランセット誌やサイエンス誌には「IGF-1の血中濃度が高い男性は前立腺がんの発生率が4倍、女性では乳がんの発生率が7倍になる」との研究論文が掲載された(4,8p75)

 このリスクが明確なことから国連の食品安全機関(FSA)は1999年にrBGHミルクの安全基準を設定しないことにし、同機関はヨーロッパ全土における米国の牛乳の使用を禁止した(4)。EUに設置された科学委員会はrBGHには発ガン性があると警告し、これを投与した乳製品と肉の輸入を禁止した(2p39)

 それだけではない。rBGHを投与されると不妊や歩行困難のリスクも増える(1)。カナダ政府保健省もrBGHで不妊症、四肢の運動障害が増えると報告した(2p39)。さらに、乳房炎にかかる率も最大25%も増える(2p40)。ミルクに膿汁が生じるとともにこの炎症を抑えるため抗生物質も常時投与されるようになり、それが残存する可能性も高まる(1,2p40,4)。これが抗生物質耐性菌を発生させ酪農製品に抗生物質が残留することにつながる(4)。カナダ、ニュージーランド、オーストラリア、日本、EUと全27カ国で禁止されたいわくつきのホルモンなのである(1,4)

モンサントに天下りしたFDA次長によって発がん性ホルモンは承認された

 rBGHは、モンサントの最初のバイテク製品で米国食品医薬品局(FDA=)がこれを認可したのは1993年のことである(1)。しかも、通常であれば、新たな生化学製品・動物用医薬品の検証には、数百匹のラットを使った24ヵ月の検証を行うのが標準なのだが、rBGHの場合、30匹のラットで90日間検証されただけだった。つまり、FDAは、rBGHを適切に検証することさえ要求しなかった。そして、rBGHの使用を承認してしまう。全米の消費者団体から抗議があったにもかかわらず、なぜ、認めてしまったのであろうか。

Michael-Taylor.jpg それには、FDAのマイケル・テーラー(Michael Taylor)食品担当次長の存在が大きい。遺伝子組換え食品の危険性を訴えているジェフリー・スミス(Jeffrey Smith1958年〜)氏によれば、テーラー次長がFDAに在籍していたときにrBGHは承認された。この決定は、FDA史でも最も論争の的となったもののひとつで、多くの科学者、農業者、政府首脳の意見とも衝突していた。その後、間もなくテーラー次長はFDAを去り、モンサントの副部長・議会工作担当になった。そして、またFDAに戻っているのである(4)

遺伝子組換えを非表示にして販売促進

 さらに、スミス氏によれば、テーラー次長は、rBGHを注射した牛が出す牛乳に特別な表示義務を課さないことも決めた。さらに、天下り先であるモンサントへのプレゼントとして「rBGH未使用と食品表示をする企業は『FDAによれば投与の有無で牛乳に差異はありません』との但し書きを記載しなければならない」とまで白書で書いた。この白書によって、モンサント社は「rBGHフリー」の食品表示をした乳製品会社を訴えることができるようになったのである。健康な牛乳を提供しようとするメーカーも「rBGHフリー」と表示できず、表示したとしても「rBGHには既知の健康リスクは無い」との但し書きを大きく付けることが必要になったのである(4)

米国の消費者の不買に撤退を余儀なくされたモンサント

 このため、2002年には米国にいる牛の5頭に1頭、22.3%がホルモン注射をするにまでなる。けれども、rBGHの売り上げはそれをピークに減退し、2007年には17.2%に落ち込んだ。2007年8月、連邦取引委員会(FTC)はFDAとともに食品企業が「不使用表示」を行なうことを認める。消費者はrBGHミルクを避ける選択をし、このホルモンを使用したミルクを買わなくなった。乳業メーカーも市場の要望に答え、2008年には多くの乳業メーカーが不使用を宣言した(1)。米食品衛生局(FDA)は、人々の懸念に対して「人間への影響はわからず、今後の研究が必要」としていたが、多くの米国民は、この影響に不安を感じ、rBGHフリーと表示された牛乳を選んでいる(7)

 連邦レベルでの不使用表示削除に失敗したモンサントは、ペンシルベニア州やオハイオ州のように州レベルで不使用表示を禁止するように働きかけたが、この企ては、地元の消費者や運動グループ、農家や乳業メーカーの強力な抵抗に直面した。2008年の夏には、圧倒的な市民の反発を受けてペンシルベニア州知事は不使用表示を削除する命令を撤回させられている(1)

成長ホルモン入り米国産牛肉を召し上がれ

WTOパネルの敗訴にめげずに成長ホルモン輸入を禁止しがんを減らすEU

 1985年にプエルト・リコでたった3歳の少女で生理が始まってしまった。また、6歳の男の子の乳房が大きくなる事件も起きた(2p111)。このため、EUは成長ホルモンを用いて飼育している米国産牛肉の輸入を禁止した(2p111,8p125)。米国は直ちにWTOのパネルに訴えた。一審ではEU側の主張が通ったが、二審で米国側の勝訴が確定した(8p125)。成長ホルモンを使用した牛肉がヒトの健康に危害を与えることの科学的な立証が不十分で、それを禁じることは不当な貿易障壁にあたり、公正・衡平の原則に拝するとの理由で敗訴した(2p111,8p125)。それでも、EUはなおも輸入禁止を貫き通している(8p126)。そして、成長ホルモン入りの牛肉の輸入を禁止してから、乳がんなどの生殖器系の癌の発症率が20から30%減少した(8p128)

人間に禁じられた医薬品で太らした牛肉

 タイソン・フーズは、アーカンソー州スプリングデールに本部がある巨大な多国籍企業である(8p127)。けれども、タイソンの精肉工場に解体用に運ばれて来る牛に異常な個体が増えているという。思うように歩けなかったり、口から舌をだらりと垂らして、ただ寝そべっていたり、奇妙な格好で座り込んでいる牛もいる(2p112,5,8p127)。そうした異常な症状を引き起こす原因として疑いが持たれているのが、最近、使用されるようになった「β刺激薬」と呼ばれる体重増加薬である(2p112, 5,8p127)

「β刺激薬」はホルモンではない。成長促進剤「ジルマックス(Zilmax)」は、以前には「ジルパテロール」の名で用いられていた喘息の治療である。この薬剤は、β2アドレナリン受容体におけるアゴニストで、代謝を変えて筋肉のタンパク質を堆積して肉質を変える。このため、世界アンチ-ドーピング協会によって人での使用は禁止されている薬剤である。人間に禁止されたため、メルクはジルマックスを家畜の筋肉増強剤として販売することを始め(3)、承認を受けて以来、2500万を超える畜牛にジルマックスが与えられてきた(5)。確かに、解体を数週間に控えた牛の餌に混ぜると赤身筋肉の成長を促進し脂肪ではなく引き締まった筋肉の成長を刺激することで体重を10~15㎏増やせる(2p113,3,5,8p127)。けれども、人間で禁止された薬剤を家畜飼料に混ぜ、無理やり肥大化された肉を食べることで本当に影響は出ないであろうか(3)

Guy-Loneragan.jpg 食品安全性と公衆衛生の専門家、獣医学者、テキサス工科大学のガイ・ローンレーガン(Guy Loneragan)教授によれば、β刺激薬を投与された動物では死亡率が70~90%と高いという(2p113, 5,8p127)。異常が増えたためさしものタイソンも買い取りを停止し、米国の大手製薬会社メルクも2013年8月にジルマックの販売を一時中断したのだった(2p112, 5,8p127)

規制緩和天国日本は米国にとってありがたい消費先

 米国においても、人口ホルモン剤が残留した牛乳や肉によるアレルギーやホルモンの影響が問題視され(2p40)、いまウォルマート等でも販売を取りやめている(8p75)。もちろん、EUだけでなく日本でも成長ホルモンの使用を禁止している(2p111)。けれども、日本は、国内での成長ホルモン使用は認めていないものの、2種類のホルモン剤、ゼラノールとトレボロンアセテートに残留基準値が設けられているだけで、それ以外は規制がない(2p40)。このため、日本では税関の入館手続きをフリーパスで素通りしてスーパーに並んでいる(2p40,8p75)。これに対して、日本ではEUのような毅然とした態度を取れず、輸入を続けている。そのためか、オーストラリアはEU向けの輸出牛肉には成長ホルモンを使っていないが、日本向けでは使っている(8p126)。米国産牛肉は日本の牛肉消費量の25%を占めているが、北海道大学の半田康医師の調査によれば、残留ホルモン、エストロゲンの濃度が国産牛肉の600倍もあったという。エストロゲンは発ガン性が認められている(2p111)

yasushi-handa.jpg 成長ホルモンを使用した牛肉の健康への影響は侮れない。過去25年で牛肉の消費量は5倍に増えているが、それとともに、乳がん、卵巣がん、子宮体がん、前立性がんとホルモン依存性のがんも5倍に増えていると山田正彦元農水大臣は懸念する(8p126)

 rBGHによる飼養は、EUだけでなく、もちろん、日本でも禁止されている(8p75)。けれども、日本の酪農は現在でも約半数の経営体が赤字に陥っている。毎年6%の酪農家が廃業に追い込まれている(8p74)。そして、乳製品の関税が撤廃されれば、日本からは酪農家が消えていくことになる。そして、成長ホルモンIGF-1を大量に含んだ乳製品を食べなければならなくなる(8p75)。さらに、TPP協定が発効すれば、日本の食品基準をコーデックス委員会の決定にあわせなければならなくなり(8p75)、成長ホルモンの規制はますます難しくなっていくのである(8p76)

編集後期

 地球少女アルジュナという年に放映されたアニメがある。のっけから、原発事故が起こり、遺伝子組換え作物と腸内細菌の不調による危篤とのっけから重いテーマが次から次へと出現する。サブ主人公は、胎児期に母親が知らずに摂取した薬物によって犯されていたとの衝撃の事実も明らかになる。「薬をなんでこんなに使うのかわかる。それはゴミよ」

 まさに、ジルマックの登場を予言するかの内容である。是非、ご覧いただきたい。
(2018年1月11日投稿)
【画像】
ウィリアム・グラント博士の画像はこのサイトより
サムエル・エプスタイン名誉教授の画像はこのサイトより
マイケル・テーラー元FDA次長の画像はこのサイトより
ジェフリー・スミス氏の画像はこのサイトより
ガイ・ローンレーガン教授の画像はこのサイトより
半田康医師の画像はこのサイトより

【引用文献】
(1) 2008年10月28日安田節子「モンサントが遺伝子組み換え牛成長ホルモンから撤退!消費者、そ
(2) 安田節子『自殺する種子―アグロバイオ企業が食を支配する』(2009)平凡社新書
(3) 山田正彦『TPP秘密交渉の正体』(2013)竹書房新書
(4) 2013年3月4日:谷智子「食肉産業で使う筋肉増強剤は喘息治療薬の再利用」
(5) 2013年5月1日:為清勝彦「そのアイスクリームはモンサントの人工ホルモン入り?」春と修羅
(6) 2013 年 8 月 19 JESSE NEWMAN、KELSEY GEE「日米畜牛の身体的異常、成長促進剤が原因か」
(7) 2014年7月25日:大西睦子『牛乳は身体に良いのか悪いのか? 』医学博士 大西睦子のそれって本当? 食・医療・健康のナゾ、日経トレンディネット
(8) 山田正彦『アメリカも批准できないTPP協定の内容はこうだった!』(2016)サイゾー
(9) 2017年9月24日:内海聡「牛乳が体に悪い根拠一覧」


posted by José Mujica at 07:00| Comment(0) | GMO | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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