2018年01月22日

主要農産物種子法廃止がもたらすもの

種子法廃止で暮らしはどうなる
長野の種子(いのち)を守ろう。 
米国では3人に一人の子どもが病気

20180120-1s.jpg いま、ドキュメンタリー映画「遺伝子組み換えルーレット―私たちの生命のギャンブル」(2012年、米国)のDVDを見て頂いた。これは5年前のものなので、それ以降の動きを簡単にご説明しておきたい。いま、米国において凄まじいことが起きている。遺伝子組換え農産物の作付けが始まったのは1996年からなのだが、糖尿病だけでなく癌や自閉症が90年代後半から急増している。これが遺伝子組換えと関係があるのかどうか。その因果関係をまず科学的に証明することは難しい。癌は食べたからといって今日や明日ではいきなりならないからである。けれども、遺伝子組換え農産物を食べなければ症状が改善することがわかってきた。そこで、2013年の独立記念日の日に米国のお母さんたちが全国128カ所で反遺伝子組換えのデモをした。実際に食べなければ、子どものアレルギーがなくなる。そこで、「遺伝子組換え農産物を食べちゃあダメだよ」と必死になって呼びかけた。必死になって呼びかけた。実際、いま米国では3人に1人の子どもが糖尿病やアレルギー、慢性疾患に罹病しているのである。

遺伝子組換えを食べない運動をお母さんが展開し有機がブームに

 当然のことながらこれに賛同するお母さんたちも出てくる。この運動が大きな影響を与え、例えば、米国には「ホールフーズ・マーケット(Whole Foods Market)という大手スーパーのチェーンがあるのだが、そこでの非遺伝子組換え食品の売り上げが、わずか5年で4倍になっている。また、米国には「食品表示」がないため、「非遺伝子組換え」を選ぶには日本の有機JASに相当する「有機食品」を買うしかない。そこで、これも売り上げがものすごく増えている。最初はお母さんたちは、スーパー側に「そうしたコーナーを設けて。私たちが必ず買い支えるから」と頼み込んで、コーナーを設けてもらったのだが、蓋を空けてみたらその必要はなかった。誰もがわかってきている。そして、たちまち商品がなくなってしまう。そこで今度は困ってしまったのがスーパー側である。スーパー側が頭を下げて「農家さん、作って下さい」と言っている状況になっているのである。つまり、米国では、遺伝子組換えは壁にぶつかっている。

 こうしたお母さんたちの動きは止められない。英語で「アンストッパブル・マムズ」と呼ばれ、米国に留学していた女性が帰国後に、中国や台湾を始め、世界各地でGMOをなくす運動をしている。

世界と逆行して日本では遺伝子組換え農産物の輸入が増えている

 ところが、世界の潮流と逆行して、これとは逆に遺伝子組換えが増えている国がある。日本である。例えば、2007年には輸入トウモロコシの7割が非GMOであったのが、2013年現在では3割しか非GMOではなくなっている。また、餌用、つまり、家畜飼料の97%は遺伝子組換えである。また、発泡酒。本当の高いビールはまだ大丈夫なのだが、発泡酒も、2015年から糖類をGMOにしてしまった。

 そして、大人はまだ免疫があるが、今深刻なのは赤ちゃんや子どもたちである。赤ちゃん向けの粉ミルクにGMOが入っている。これは、あまりにもひどい。和光堂や森永は頑張っているのだが、明治乳業は違う。そして、日本には「有機粉ミルク」はないため、選びたくても選べない。

遺伝子組換えを巡るモンサントと市民のバトルは市民が勝ちつつあり

 さて、いまご覧いただいた映画、「遺伝子組換えルーレット」の最後のシーンでカリフォルニア州での住民投票のシーンがでてきた。けれども、その後、どうなったか。実は、モンサントが大量の金をバラまいて、反対したら食品の価格が高騰すると嘘のコマーシャルを流して、騙された住民たちが反対したためにわずかに賛成を上回って成立できなかった。けれども、バーモンド州ではできた。ところが、モンサントもさるもので、その後に連邦法をロビー活動で制定させ、各州が制定した州法は無効となるようにしてしまっている。

 このようにモンサントは人々を騙している。けれども、男性の市民運動とは違って、お母さんたちは止められない。女性たちは各家庭の食材を決める決定権を持っている。そこで、彼女たちが変われば社会も変わる。事実、デルモンテ、そして、多国籍企業ダノン(Danone S.A.)が変わり、原料から遺伝子組換え農産物を排除し始めた。つまり、米国が変わり始めている。遺伝子組換えルーレットを製作したジェフリー・スミス(Jeffrey M. Smith,1958年〜)氏は、「もう50%もの消費者が遺伝子組換え農産物を避けるようになってきた。これからの問題は、日本やアジアにその成功モデルを伝えることだ」と語っている。

人間も植物も微生物のおかげで生きられている

 さて、ここで、今日のメインテーマである種子法廃止の問題についてお話したいと思うが、種子の問題は非常に大きな問題だと思っている。まず、このスライドをご覧いただきたい。赤茶けているがこれが地球ができたばかりの頃と言われている。つまり、土もなければ、酸素もなかった。そして、最近、微生物の研究が進むことで、この地球は何よりも微生物の星であることがわかってきた。今も地球上に棲息する微生物を全部集めてその重量を量れば、それは象を含めたすべての動植物を集めたよりも重い。そして、人体内には100腸を超す微生物がいる。

 さらに、ミネラルがなければ動物も植物も生きられない。それでは、そのミネラルをどこから得ているのかというと微生物が岩石から抽出したものを得ている。そして、そのミネラルを腸内細菌のおかげで身体も吸収できる。だから、私たちは微生物のおかげで生きられていると言えるだろう。

土壌と植物の関係が壊れれば農薬が必要となる

 植物は光合成を行う。けれども、その植物はせっかく光合成した炭水化物の実に4割を地中に流している。一見すると無駄に思えるが、地中に流される炭水化物が微生物を呼ぶ。こうして生きている土では菌根菌の菌糸がびっしりとあったりすることで土壌浸食にも強い。さらに、大気中の二酸化炭素を吸収してくれる。けれども、その土が世界からなくなろうとしている。あとわずか60年で土壌がなくなる。そこで、国連は2015年を「国際土壌年」とした。

 では、なぜ、土壌が失われるのか。それは、化学肥料と農薬のためである。例えば、化学肥料を施肥すると、栄養を与えられるためにわざわざ地中に炭水化物を出さなくてもすむ。その結果、微生物がやってこなくなる。すると、菌根菌もなくなり、日照りで乾燥すれば風で飛ばされ、雨が降れば雨水で流され土壌浸食が進んでゆく。さらに、植物はミネラルも吸収できなくなり不健康で身体が弱くなる。さらに、土壌中の微生物が病気から守ってくれていたのに、それもいなくなれば病害虫に冒されやすくなる。これは、私たちと腸内細菌との関係でも同じである。そこで、登場するのが農薬である。

戦争の中で生まれた化学肥料と農薬が130年で地球の土壌を破壊

 それでは、この化学肥料や農薬はどこから生まれたのだろうか。戦争、第二次世界大戦から生まれた。種子、化学肥料、農薬の3点セットが「緑の革命」と言われる。もちろん、緑の革命では、品種改良に携わった良心的な人もいるために一概に否定はできないのだが、大きく見れば、爆弾を作るための「爆弾プラント」が転用され、爆弾の代わりに窒素肥量を作った。工業型農業が始まって50年。それとあわせて60年、わずかこの130年で土壌が失われてしまうのである。

いまの種子会社とは農業会社ではなく農薬会社である

 さらに、いま、種子を握っているのは化学企業である。実は彼らは農業はまったく関係がない企業である。もともと農薬を作ることで農業には進出してきた。この化学企業が農業のあり方を変えてきてしまったのである。そして、この延長線上に遺伝子組換え農産物もある。例えば、ラウンドアップという農薬を作る。その成分名はグリホサートだが、これがバカ売れする。タネだけだと儲からない。そこで、農家にラウンドアップと種子をセットで買わせる。農薬とセットで売っていく。

公共の種子が企業の「モノ」になる異常事態

 つまり、工業型農業において種子企業が力をつける。種子に対する特権を認めさせようとしている。種子の権利が確立したのは1961年である。そして、その後、1970年代には企業から買った種子をわかちあったりすると偽造罪とされるようになった。それでも、種子を取ることは農家の特権として認められていた。

 さて、遺伝子組換えが始まるのは1996年からだが、それ以前の1980年代から多国籍企業は種子の権利の独占を狙いはじめる。そして、ロビー活動によって1991年には「種子の育種が原則禁止」という国際条約、ウポフ1991年条約ができてしまった。

 さて、モンサントの遺伝子組換え大豆について、モンサントは技術を持っている。けれども、当たり前のことだが、ここでの特許とは、大豆そのもの、生命体そのものへの特許である。

 その大豆の発明者にモンサントがなるというのはどういうことなのであろうか。もともと、大豆は、東アジア、満州や日本にあった公共財産のはずである。にもかかわらず、それがモンサントが発明したものになってしまうのである。

風土にマッチしない一律の種を押し付けられて経営的に破綻

 公共の種子が私有化されるとどうなってしまうのだろうか。モンサントの遺伝子組換え大豆は基本的にモンサントの所有物なので買うことができない。農家はモンサントとライセンス契約をして栽培できるだけだる。そして、この大豆には健康面で害があるはずだと思われても、それを研究することもできない。法的訴訟もできない。大豆に特許を与えてしまったのは、米国の最高裁の判決なのだがこれが大問題でそれ以降ずっと後を引くことになる。

 昔であれば、良質な種子を用いて新品種の開発もされてきていたのだが、それができなくなってしまった。また、種子開発には巨額の金がかかる。ドイツの事例では2.6億円。遺伝子組換え種子では150億円がかかるという。

 これだけの値段がかかるとなると、長野の山間地のためだけにしか実需者がいない種子を開発することは経済的にペイしないのでできない。結果として、米国で開発されたひとつの種子をどこでも作れという論理になっていく。

 長野県で開発されてきた種子は長野の気候風土にあったものである。ところが、モンサントのビジネスモデルでは同じ種子を世界中で作らなければ持たない。そこで、アフリカやインドでも同じ種が作らされる。そして、風土にあわないために収量もあがらず、農民たちが経営的に破綻して自殺していく。それも、こうした種子だからということになる。

世界の農民が種子を自給できなくするモンサント法案

 さて、世界の種子市場の7割は6つの遺伝子組換え企業に席巻されている。けれども、それほど遺伝子組換え農産物の作付けはやっているのだろうか。実は世界の農地のたった13%でしかない。世界の農地の87%は関係ない。けれども、この数字には裏がある。世界の多くの農家は自分たちの種子を持っている。市場に依存していない人が7割もいる。そこで、モンサントから種子を買わなくてもいい。だから大丈夫であるというのがこれまでの時代であった。けれども、今、起きているのは「モンサント法案」ができたことによって、農家が種子を保存したり交換したりすると犯罪とするという状況である。

 種子は毎回買わなければいけなくなる。そして、TPPの中に、モンサント法案と呼ばれるものを作らなければならないとしているのが、ユポフ1991年条約である。これによって強制されることになる。

 チリ、ペルー、メキシコはいずれも、TPPはモンサント法であるとしてだからこそ反対が強かった。けれども、日本は批准してしまっている。また、アフリカ、ガーナもいつ始まるかどうかわからない。

日本はTPPの批准者であると同時にモンサント法案の推進国である

 そして、モンザンビークでは日本のODAによってそれが進められている。実は、日本政府は米国に次ぐユポフの推進役なのである。日本は世界に対して遺伝子組換え種子を売りたい。日本政府はバイテク企業立国を目指している。アールセップにおいても日本政府はこれを主張している。

 もちろん、ヨーロッパでもEUや各国に登録されていない種子を扱うと犯罪になる。登録すればよいのだが、それは130万や200万かかる。つまり、大企業しかやれない。そこで、ヨーロッパでは種子の自家採取と無償での交換運動が盛んになっている。そして、わずかな金銭を受け取ったとしてスペインで捕まっている。

 また、世界銀行も農業における企業活動の法的障壁として、政府が種子を保護しているとしてそれを撤廃させる動きをしている。

種子法廃止はあまりにも早急でかつマスコミも報じない

 さて、種子法の廃止が決まった。種子法は、種子を生産する義務を科す。これを元に種子計画ができる。種もみを作るには4年がかかる。4年後に過不足がないように計画して作らなければならない。まさに、戦後の日本の食料を支えてきた法律である。

 これだけの法律を廃止するとなれば、まず関係者にヒアリングして十分に議論してやるべきである。そして、政党の部会で検討して、マスコミにもリークされ市民社会も知る。そして、「こんな廃止は国会にあげるな」といった声がでる。けれども、この法律の廃止は2月10日にわずか2カ月で決まってしまった。ベタ記事が日経新聞にはでたが、それ以外は、マスコミには一つもでていない。毎日が少し書いただけで、朝日、読売は一切書かない。

 種取り農家の意見も聞いていない。都道府県の担当者の話も聞いていない。自民党の農政族の見解も聞いていない。規制改革推進会議。すなわち、TPPを進めるために設けられた推進会議が、ここが日本の政治を決めているのだが、種子法廃止を決めた。自民党の農政族のトップは反対していたし、維新の会の議員もおかしいと言っていて採決の時には賛成した。農家からの選挙票をもらっていても官邸がいうとおりに従う。これが日本の政治の現実である。

種子法によって国内で300種もの米品種が自給できてきた

 さて、種子法が出来て以来、70年間も種もみが足りなくなることはなかった。コメ、麦、大豆の種子は海外から入って来なかった。一方、野菜は9割が海外産である。そして、交通が遮断されたら野菜は食べられなくなる。

 そして、都道府県ごとに奨励品種を定めることができた。もちろん、問題もあった。それは、産地品種銘柄に指定された品種はいいが、その指定に漏れたものは「その他の品種」としか書けないし、その品種として売れないことである。奨励品種や銘柄は優遇されたがそれ以外の自然栽培や有機の小規模な種子を排除してきたというマイナス部分もあった。けれども、日本全体でただ一つの品種を作れというバカげたことはなかった。各都道府県が決められた。そして、いまも日本は300種類の米品種がある。これは日本の宝だと思うし国内での種子の自給もできてきた。

種子法が廃止されいまは種子に関しては無政府状態にある

 さて、種子法廃止の理由は、それが民間企業の投資意欲を割いてしまうからというだけであった。また、種子法と良く似た名称で「種苗法」というものがある。「種子法はなくなるけれども、種苗法で対応するから大丈夫」と農水省の官僚は言っている。けれども、種苗法は種子を開発した企業の知的所有権を守る法律である。種子法の精神とは反対ものである。また、廃止まで3月31日まではあるはずのものが、11月15日に事務次官依命通達が出てすでに廃止されてしまっている。種子計画の根拠となる法律がなくなっている中で、国は各都道府県に対して「作りたかったら作ってもいいですよ」と答えている。けれども、都道府県は困っている。いわば無政府状態にある。

 それでは、いま、どのような品種が作られているのか。日本では化学企業が作った品種がある。ひとつは三井化学が作った「みつひかり」である。これは3倍もの大きさがあるため、普通のコンバインでは壊れてしまう。大型の機械が買えない小農家農家では生産できない。また2カ月長く栽培しないといけない。食べたければ、吉野家にいけばいい。なお、北日本では作れない。また、公共品種の10倍の値段がする。

 次に住友化学が作った「つくばSD」。この親は、公共品種のコシヒカリである。鉄で種子をコーティングし、機械化できる大規模農家向けの種子である。これはセブンイレブンで使われている。

 最後が東銀座にある日本モンサント社。ここでも農業試験場の人をスカウトして引き抜いて種子を作っている。大規模に労力を減らして作れるのがメリットで外食産業向けの種子である。

 この三つのうち、特にすごいのが住友化学の契約内容である。モンサント社の大豆の事例を先ほど述べたが、それと良く似ている。農家は住友化学の種子を買えない。そこにはあるのは、生産委託契約である。つまり、種子は住友化学のものである。この農業においては生産の主体は住友化学であって、ライセンス契約となっている。すると、例えば、消費者のニーズがあるからといって生産者が減農薬ができるかというとできない。それは、契約違反になってしまう。また、その収穫を消費者に配ることもできない。全量買い上げということになると食そのものが企業のものになる。そして、消費者が生産者を支援することもできなくなる。住友化学に監視されてその通りに作らなければならなくなってしまう。

 つまり、種子法廃止というと種が危なくなるというイメージがあるが、危機にさらされているのは、食全体である。社会全体の問題なのである。農薬や化学肥料をセットで買わざるを得なくなっていく。

 今の公共品種は非常に自由度が高い。有機農業、慣行農業、農家の自由でなんでもできる。けれども、それができなくなってしまう。種子は生産コストの中でわずか2%しか占めない。これでは種子産業は儲からない。だから、公共機関がやっているとも言える。けれども、収穫まで支配すれば利潤は25%になる。

種子法廃止後の世界

 さて、こういう元気がなくなる話ばかりになってしまうのだが、これがうまくいくとは限らない。実は、こういうシステムに対する抵抗運動はすごく強いのである。けれども、その前に種子法が廃止されたときの最悪の事態の懸念だけを見ておこう。

 まず、このままいくと、現段階では各都道府県は「自分たちで種子を作る」と言っているのだが、特産品の品種がなくなる。それは、「銘柄が多すぎるから集約しろ」と競争力強化法が述べているからである。日本には300種もの米品種がある。このような小規模な市場はいらない。そこで、わずか数種類の品種を日本中で作るようにしていく。

 次に種子の値段が5〜10倍にあがる。そして、農業試験場が潰される。いまでは都道府県が必要な種子を製造しているのだが、すでに新規採用がない。そして、現在いる知見を持った技術者に対して、モンサントや住友化学からオファーがかかる。

 こうして地域のために育てられてきた技術者が民間のものになる。地域でタネ取りをしてきた人たちもそれを続けられなくなる。種取りという高度な技術を持った人が失われる。すると海外で作られた品種だけになる。

「種苗生産の知見を民間に提供しなさい」。これは、アジテーション文ではなく、本当に法律や事務次官依命通知に書かれている。本当に日本の政治はおかしい。そして、マスコミもそれに対して語らない。もし、こうした種子がモンサントに行くかもしれない。そうずればまず戻ってこない。

 狙われているのは何か。食のシステムそのものが化学企業に持って行かれる。農民組織が壊される。そして、消費者も声があげられなくなる。

2008年の食料危機で世界は小規模家族農業を求める時代に

 それでは、こうしたことは歴史の必然なのだろうか。実はそうではない。例えば、農業を大規模化すれば飢餓がなくなるのだろうか。2008年には世界で食糧危機が起こってしまった。その時に、企業型農業は無力であった。儲からないと生産しないからである。一方、小規模家族農業は生産を止めなかった。彼らのお陰で世界では餓死者が減った。そこで、国際機関、FAOが変わった。これからは小規模家族農業の時代だと変わった。2014年は国連の小規模家族農業年となった。そして、これは10年伸ばされている。つまり、世界では小規模家族農業が求められる時代に入ってきていると言えるのだが、日本農政はこの動きを無視している。力強い農業ばかりを求めている。

 今後は市場法も廃止される。これは、上流から下流まで大手の流通資本が支配するというマスタープランが実施される。

 これが怖いのは、種子の多様性が失われると生態系にも影響を与えることである。例えば、1903年にはアイルランドでジャガイモがウイルスでやられて2割の人が餓死した。人口が半分に減少した。これも、ウィルスに強いジャガイモがあれば危機は起きなかった。1970年代にも同じようにイネがウイルスにやられているが、このときは6000品種ものイネがあったため助かった。

生物多様性条約に即してブラジルは種子法を制定

20180120-2s.jpg 先ほど述べたモンサントを優遇する国際条約は、多国的貿易協定とセットで50カ国で無理やりやらせているが、なかなか増えない。一方で、世界の主流は多様性を保護する方向に向かっている。

 例えば、196カ国が批准している生物多様性条約というものがある。この中では農民の権利として、種子に関しては農家が主役であることを認めている。これを批准した政府は農家の種子の権利を守らなければならない。そして、日本政府はこの条約を批准している。けれども、これに対応した国内法を作ってはいない。

 けれども、それ以外の様々な国は変わってきている。例えば、ブラジル政府は2003年にクリオーロ種子法を制定し、種子を守る条項を作っている。その法的枠組みの下で、種苗交換会等、色々なことを試み、小規模農家が在来種を増やしている。

種子を守る小規模農民の権利宣言も今年6月に成立見込み

 また、小規模農民、地方住民の権利宣言もある。これは、世界人権宣言をルーツとして、農家の文化の権利や土地の権利を保護しようとした、いわば農家の人権宣言である。そして、その中にはタネを守る権利もある。この権利宣言は実は2017年の6月に成立する予定であった。けれども、米国、イギリス、日本政府が邪魔した。そこで、国会でどのような議論をしたうえで、対外的に反対するようなことをしたのかと、先般の12月の参議院農林水産委員会で議員から質問されたところ、一言も答えられなかった。農水省が知らないところで外務省がやっていたのである。おそらく、米国からの忖度でやったのではないか。何はともあれ、どういう権限でやったのか国民が知らないところで勝手にやっているのである。

 ただ幸いなことに今年の6月には成立する見込みである。となれば、日本政府もそれを作る義務がでてくるであろう。

種子と食料主権を守る運動は世界中で広がる

 要するに、世界中でタネを守る運動がある。インドはシードバンクを作っている。ヴァンダナ・シバさんが中心となり、17州に100以上もある。そこで、有機農業に適したコメ品種も守られている。また、フィリピンにも1800種があるという。

 タネを守るネットワークはドイツにもあり、ドイツでは種子の民間の特許を認めていない。フランスや米国にも運動がある。

 こうした権利が守られなければ、大変なことになる。日本では農業がGDPで占めるのは1%にすぎないとの主張が強いが、食べないで生きていける人はいない。この日本から食がなくなることは、民主的な権利がなくなることである。

「食料主権」という言葉は、日本語にはなっていないが、この言葉を理解せずして、いま農業関係の国際会議には出られない。主権とは私たちの食べる権利のことである。

米国すらを乗り越えていく日本

 さて、京都大学の久野秀二教授によれば、米国では小麦の3分の2が自家採種で、19世紀の法律を元に州立大学等で作っている。種子を守る州法を廃止してはいない。それを日本では廃止してしまった。つまり、日本は米国よりも悪くなってしまっている。

種子の多様性を守る新たな法律を

 では、これから何をして行くべきなのか。まずは各都道府県の県議会を動かしたい。そして、県議会から国に対して「種子を守る旨の意見書」を出してもらう。そうしたことをしていただくと大きな意味がある。また、各県のJAも申し入れをされている。今、農協は孤立している。なればこそ、消費者から、市民から声を上げていく。まず県が第一目標。そのうえで全国レベルで法律を作る。国内法は絶対に必要である。

 また、推奨品種は作ってきたがそれだけでは片手落ちである。種子の多様性を守ることも必要である。したがって、新たにできるのは別の法律になるかもしれない。

 例えば、北海道では独自のルールを作っている。かつてあったコメははっきり言ってまずかった。けれども、いまは「ゆめぴりか」がある。それがあるから北海道でも農家が生きられる。

 最後の方のp67の資料は、新しい権利法として考えられることを私なりに抜き出してみたものである。これからは抜けているが、タネは女性が守ってきたことも忘れてはならない。

日本は世界ダントツの遺伝子組換え推進国

 では、日本で遺伝子組換えはされていないのかというと実はされている。それどころか、今後、急速に高まる可能性がある。例えば、遺伝子組換えカイコはすでに出荷されている。つくばでは遺伝子組換えトマトが開発された。また、遺伝子組換え微生物技術でも日本は世界でトップである。

 さらに、これまで遺伝子組換えでは経産省は関係がなかったが、今、経産省の下に農水省をおいて遺伝子組換えを進める計画がある。

 遺伝子組換えイネも北海道知事に作付けを認めよという要請行動が起きている。そこで、北海道で遺伝子組み替えが始まるかもしれない。

 日本の2018年1月の承認件数は309もある。米国をはるかに抜いて世界断トツである。資料によって数値は違うが133品種とも言われている。いずれにせよ、膨大な数を認めている。

世界は逆の流れになっている

 世界を広く見回せば、種子の多様性を守ることが主流となっている。工業型農業を止めることが主流の動きになっている。日本では有機農業は日の目を浴びないが、例えば、モンサントの農薬。グリホサートをEUでは、ドイツ、フランスが禁止しようとしている。けれども、日本では2017年の12月25日に通達を出してグリホサートの残留基準をヒマワリでは400倍に緩和した。また、小麦も5ppmから30ppmにした。なぜ、遺伝子組換えされていない小麦でグリホサートの基準値緩和が必要なのかというと、収穫前に散布するとたったまま立ち上がれて、乾燥するために収穫が楽になるからである。

 こうしたことを「プレハーベスト」というが、グルテンアレルギーやセリアック病が米国で増えているのもそのためである。そして、日本では小麦の数値を緩和してしまったため、さらに多くのグリホサートを摂取せざるを得なくなる。いま、パン、パスタで日本では米以上に小麦を食べている。本当に危ない。ちゃんとした小麦が必要である。そこで、ラテンアメリカの戦いを描いたDVDの日本語盤を作っている。

 まさに種子は社会のど真ん中で支えられなければならないものである。農業がダメになれば生きられない世界になってしまう。

質疑応答

会場 信州新町から来ました。北海道において、遺伝子組換えでビーツを作らせろと言っているのは誰なのでしょうか。

印鑰 農民です。より正確に言えば、遺伝子組換え企業が善良な農民たちを騙して生産グループを作っている。そこには嘘の情報がある。セミナーをやり農家に「作らせろ」という署名運動をさせ、道知事に圧力をかけている。

会場 その推進協会はメーカーサイドのものなのか。そして、群馬や北海道以外でもあるのでしょうか。

印鑰 群馬県では緑色に光るカイコの飼育が始まっている。また、つくばでも遺伝子組換えトマトが誕生している。今後は、経済特区で、経産省と農業省がさらにおおがかりなものを作っていく。

会場 多くの情報を共有することが大切だと感じました。

印鑰 そうなのだが、マスコミが一切情報を流してくれない。10年ほど色々なことを書き続け、インタビューもされるのだが何一つとしてオープンにならない。マスメディアは触れない。「遺伝子組換えルーレット」を製作したジェフリー・スミス氏を昨年の3月に日本に招聘したら、びっくりしていた。「知らないのか」と。米国においてはフェースブックで情報が駆け巡っている。そして、医師がそれをサポートしている。けれども、日本に来たら誰も知らないと。

 例えば、日本は世界最大の遺伝子組換え農産物の輸入大国といえる。けれども、納豆には「遺伝子組換えではありません」との表示があるので、自分では食べてはいないと思っている。

 そこで、口コミしかない。まずは耳を傾けてくれる人に伝える。そして、それが5%になれば企業が変わる。絶望しないでわかち合えばいい、とシェアリングさんも言っていた。まずは、それが重要かなと思っている。

渡辺啓道 長野で5%というと2万人。この会場にいる300倍ですね。つまり、口コミを含めて一人が300人に伝えればやれてしまう。

会場 上田からきた。二つ質問がある。まず、テンサイ糖は大丈夫なのか。

印鑰 米国産が95%。ただ世界的にみれば世界の砂糖の6割はブラジルでそこでは遺伝子組換えサトウキビを生産している。

会場 農民が種子を自家採取して保全するのは禁止とのことだが、日本でそのようなことになって農家は大丈夫なのか。

印鑰 ライセンス契約をしているものを自家採取すればそれは犯罪になってしまう。さらに共謀罪には「種苗法」も入っている。これは、タネを共有しようとするのはダメだということだ。そこで、そういう品種を維持していけば守っていけるし、公共品種を守ることが必要だと思っている。ただし、国によっていろいろと制度が違う。例えば、コロンビアでは政府に登録された種子を買わなければいけない。また、米国でも家庭菜園までは禁止することはない。自家消費するものは大丈夫らしい。そうした恐れがあると誰かが書いたブログが広まってしまって、自家採取できないという都市伝説になってしまっている。ヨーロッパも自分が持っているタネは売ることができる。

会場 動物の遺伝子を植物に組み込む。例えば、サソリの毒を組み込むという話を聞いたことがあるが。

印鑰 確かに、そういうタイプの遺伝子組換えもなされている。寒い寒流に棲息する魚の遺伝子をトマトに入れようとして作ったのだが、それは成立しなかった。サソリは実験段階である。7〜8割は大腸菌を入れるものである。ただ、恐ろしいのはゲノム編集である。これからは遺伝子そのものの発現をオンにしたりオフにしたりできるようになっていく。例えば、切っても茶色く変色しないリンゴが米国の店ではすでに出回っている。これは遺伝子を組み込んではいない。そこで、規制しなくてもいい。さらに怖いのは合成生物学である。既存の遺伝子をコピー&ペーストして、コンピューターでDNAで設計して作り出す。それがすでに実現している。水中にいる藻は作り出せている。オイルを製造する藻が作られている。化粧品や石鹸でも実用化されている。組換えではないために規制対象でない。

 パームオイルもオランウータンを絶滅危機に追いやっている。そこで、オランウータンの保存というエコを売りに出しているため市民の反感を買っている。つまり、企業だけに委ねているとおかしなものができてしまう。自分でやれるものは自分で作る。僕は庭がないところで住んでいるが、プランターでも農業はやれる。そうしたことが必要な時代だと思う。

質問 農協がどれだけこのことを自覚しているのか。恐ろしいことだと感じたのだが。農協はTPPには反対したのだが何をしているのか。

印鑰 農協も反対はしている。けれども、意見を聞いてもらっていない。また温度差があり県によって違いもある。例えば、群馬の農協は本当に怒っている。日本のタネを守る会の会長は、茨城の水戸農協の組合長である。また、今、実際に農業をやっている人がすべて情報を持っているとは限らない。情報を共有することが、新しいチャンスかもしれない。農協はこういうものだとレッテルを貼られないほうがいい。

埋橋茂人議員 昨年の2月議会で、種子法が廃止されることになれば、これは危険であって懸念すべき状況であると議会質問した。県の試験場では優秀な農家がヒエとかを抜いてちゃんとしたタネを作っているがそのシステムが壊れていくと。県は参議院で付託決議がされたためにこれをベースでやると言っていたが予算がつかなくなる。試験場が縮小する。県議会のホームページにも乗っている。私よりももっと専門家であるのが、小林東一郎議員なので彼に。

小林東一郎議員 種子法が廃止される以前の問題として、まず長野県の試験場にどれだけの財産があるのかを誰も知らない。これは県民財産である。そこで、県の農政部としては守りたい。種子を供給するシステムを維持したいと言っている。ただ、大元の国が予算を切ってしまうなかで、どれだけの予算を確保できるのか。今度の2月16日の議会で審議してみたい。

 また、先ほど、試験場から資源が流出する危険性を指摘されていたが、例えば、デルタエンドトキシンを虫が食べると害虫は死んでしまう。そうしたジャガイモは、大学院時代には現役で食べだりしていたのだが、一昨年はきちんと予算ついている。つまり、研究は進められてようとしている。そして、人員の確保は大丈夫なのかと。県レベルでみると長野県は突出して早い。人員の確保は重要である。

 また、国の法の制定をしていくのは自民党であったとしても、長野県にいる限りは100haや200ha規模での大規模稲作を全員がやっていくことは考えにくい。県民のために種子を生かしていく議論をしていく中で、しっかりとその意味を理解してもらう。

埋橋茂人 そうした長野の現状に関しては国会議員に対しても情報を送り、国会審議のネタとして使っていただいている。

鎌倉希旭長野市議 市議会で種子法廃止問題を2月議会で話題に出していきたい。農政の中では「種子法」といってもわからない。そこで、いかに長野市内の中で、食に対する市民の関心をあげていくかが大切である。私も家は農家ではあるが農業に関しては素人である。議会に皆さんの声がきちんと届くように勉強させていただきたい。

印鑰 確かに種子法だけを見ていると何が起きているのかがわからない。けれども、大きな目でみれば、農業競争力強化法で、例えば、いろんな種類の種子があることがダメだと言っている。これこそ、まさに、食料主権、自分たちが食べたいものを食べる権利を奪われている。つまり、多国籍企業の自由貿易だけが利することになっていく。生活の権利が我々の手の届かないところで勝手にねじ曲げられていく。そこで、こうした動きを人権侵害として規制していく。それを縛っていく。そうした動きが国連内でも起きている。

 日本は本当に多国籍企業に牛耳られている。世界が反対しているネオニコチド系農薬も許可してしまった。日本の動きが世界と真逆なのは住友化学に政治的実権を握られているからではないか。だから、マスコミも伝えない。けれども、国民がそれを知れば変わる。

会場 農法を転換しなければ、ネオニコチノイド系農薬は減らせないと考えるのだが。

印鑰 ネオニコチノイド系農薬が必要となるのは虫が吸ってコメに斑点が出てしまうからである。誰も白い綺麗なコメよりも安全なコメが欲しいはずである。つまり、必要なのは消費者教育である。フランス政府も農薬を禁止し、アグロエコロジーの法律も制定した。そして、ローマではこの4月にFAOがアグロエコロジーの国際シンポを開く。有機食品は日本では高いが、それを一番食べているのはキューバではないか。キューバでは7割が有機であり、ブラジル人もちゃんと食べている。

編集後記

 印鑰氏には来県早々、講演をいただき、夜も宿泊旅館の門限時間ギリギリまで地元農業者たちと交流をしていただき、翌日も昼過ぎまでたっぷりと議論をいただいた。そのようなタイトなスケジュールの中で、地元松代の観光地ということで象山にある「松代地下壕」だけご覧いただいた。

20180121-1.jpg 信州人は防衛線に強いのであろうか。「松代」は、大河ドラマ「さなだ丸」でも話題になった大阪城の防衛線で全国的に脚光を浴びた「真田」の城下町である。そして、「松代」出身の著名人としては、映画「硫黄島から手紙」で渡辺謙が演じた「栗林忠道」師団長がいる。栗林中将は硫黄島の地下に地下壕を築くことで、ゲリラ戦を展開。玉砕はしたものの、第二次大戦中に唯一米軍に多くの出血を強いて見せた。そして、作家村上龍の「五分後の世界」は、全土に原爆を落とされながらも、米軍に無条件降伏をすることを拒否した日本人たちが、わずか26万人に減らされながらも日本の伝統文化を守りつつ、松代の地下壕に独立国家を築き、ゲリラ部隊を送りキューバ革命の成功を支援することで世界から喝采を浴びるという過激小説なのである。

 村上龍氏は小説の中で、登場人物に「他国の奴隷になることなく、唯一持たなければならないのは誇りである」と語らせる。種子と食を他国に奪われることとは、まさに食料主権を手放し奴隷になることであろう。それと戦い続ける印鑰氏の姿が、小説に登場するヤマグチ司令官に思わず重なったりした。
(2018年1月22日投稿)
【画像】
講演会の画像は渡辺啓道氏のフェースブックより
ジェフリー・スミス氏の画像はこのサイトより


posted by José Mujica at 07:00| Comment(0) | 講演・学習会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください