2018年01月24日

仏の農政

世界農業が直面する難題に対応しうるアグエコ

 いま世界の農業は、多くの難題に直面しそれに応じて適応するため改革が求められている(5)

・食と栄養の安全保証の課題― 高品質で、安全で、かつ、健康的な食べ物によって2050年に90億人以上を養うこと(5,6)

・環境面での課題-天然資源を効果的に保全、かつ、利用し、気候変動問題にも対応すること(5,6)

・社会的な課題-貧困や農村の過疎化に対処し、想定外の出来事に対処して生産システムのレジリアンスを高めること(5,6)

 これらを達成するには、天然資源を保全しつつ、同時にその生産性を維持・向上させる多様な農業が必要とされている(5,6)。こうした世界各国の共通課題にアグエコは斬新に対応していく(6)。こうした問題に対処するために、フランスは2012年に「アグエコ・プロジェクト」を立ち上げた。つまり、アグエコは、農業が直面する挑戦への対応の一部なのである(5,6)

2012年、仏農相、世界のアクエコ・リーダーを目指してアグエコを発動す

 Le-Foll.jpgフランスのアグエコ・プロジェクト(Agroecology Project)は、ステファヌ・ルフォル(Stéphane Le Foll,1960年〜) 農業・農産加工業・林業相によってなされた断固とした政策決定に由来する。それは、我々の農業にインスピレーションを与え、未来のための野心的なビジョンを描くことを目指す(6)

 2012年12月に開催され、500人が参加する全国会議Produisons Autrementで、ルフォル農相は「私はフランスを、ヨーロッパにおけるアグエコのリーダーにしたいのだ」と述べた。

 このフランスのアグエコ・プロジェクトのため、ルフォル農相は「農業生産モデルの新たな転換を始めていただきたい」と述べた(1)。フランスはアグロエコロジーの世界のリーダーになることを目指しているのだ(5)

就任早々経験した苦い体験

 ルフォル農相は、元は農業経済学を教える大学の教員であった。だが、1990年代に政界に転じる。2004年には、欧州議会(European Parliament)の議員となり、そこで、共通農業政策(CAP= Common Agricultural Policy)のための政策決定を監督する農業委員会(agriculture committee)となる(3)。ルフォルが農業大臣となったのは、2012年5月のことだが、フランスの霞が関ことルードゥヴァレンヌ(Rue de Varenne)に登庁して(4)、農相となった数日後にル農相が体験したのは「ドゥ家禽グループ(Doux poultry group)」が3億ユーロ以上の負債で管理下におかれるという事態であった(3)。5月31日にシャルル・ドゥ(Charles Doux)という鳥肉の輸出グループが管理下におかれたのだ。養鶏農家はもちろん、輸送業者、畜産関係業も支払われず、これは地方経済の基盤を脅かす(4)。際限なき会議、未払い請求書の山。大規模畜産会社の破産からそれがあるブルトン地方の経済を救済するため農相は全力で働く(3)

DouxS.jpg この大規模養鶏のビジネス・モデルは、グループの飼料工場が飼料を供給して殺される体重まで鶏を育て、それをアウトソースした輸送業者が加工処理場に運び、凍らせてただオーブンに入れるだけで食べられる鶏となりEU外に輸出するというモデルである。しかも、ドゥ・グループは単独でCAPから最大の補助金を受けていた。

 その後、グループはこの危機をなんとか乗り切る。とはいえ、その過程でビジネスはリストラされ、何百もの仕事が切り捨てられた(4)

 一般的には大規模なアグリビジネスは、小規模で多様な家族農業よりも力強い経営体であると専門家たちから主張されている。けれども、このエピソードはその常識に疑問符を付けるのに役立った。同時に、農業は景気のサイクルと関連なく操業されることが期待されるのに、大規模アグリビジネスにはそれに対してリスクがあることを明らかにしたのである(4)

 工場型の鳥肉生産や運送業者、飼料工場。こうした企業が地方経済に何を意味するのか。従来のビジネス・モデルの脆弱性を避ける持続可能なシステムとは何か。それをル農相は学び理解したのだった(3)。もちろん、この経験が、後述する新農業法をル農相が制定することにつながった唯一の動機ではない。とはいえ、それは、機能不全に陥る現行の農政を転換することに対する説得力のある議論を提供したのだった(4)

生産モデルを改革し、経済と環境とを統合

 フランスのアグエコ・プロジェクトは、経済・環境・社会の3エリアでのパフォーマンスを統合させる目的でその農業生産モデルの転換を目指す野心的でインスピレーションをもたらすプロジェクトである(5,6)。この「アグエコ・プロジェクト」は、まず現実をわかちあうことから始まった。すなわち、農業が直面しているのとまったく同じ問題を経済、環境、社会も抱え、それらはバラバラの政策では対処しえないのである(6)。かも、さらに一歩足を踏み出せば、矛盾を抱えた成長モデルを農業は越えていかなければならない(5)。つまり、アグエコ・プロジェクトは、この意味で、現在の生産システムを再考し、別のやり方で生産することを目指す。それは行政当局のみならず、農業への社会全般の思考法を変えることも意味する(6)

仏大臣の三本の矢

 ル農相によれば、アグエコ・プロジェクトは、認知、普及、奨励の三本の矢からなる。最初の矢は、アグエコの知識や体験を集積し、組織化して、達成することである。二本目の矢は、様々なイニシアティブを普及させることである。そして、第三は、農民たちがアグエコに転換するのを奨励することである(1)

普及のため全組織を動員~全分野を統合する壮大なアグエコ・プロジェクト

 ル農相は、そのために農業協同組合、科学技術学会、農民ネットワークとあらゆる関係団体を動員した(1)

 アグエコ・プロジェクトは、鍵となるプレーヤー、参加者全員をインスパイアするようデザインされている。農相のビジョンを共有し、一連のアクションプランによる転換をサポートするため、国家レベルでは、プロジェクトは、フランス農業省と公共管理組織、農業貿易労働組合、研究組織、農業開発ネットワーク、環境保護NGO、食品加工会社等と主な関係団体から編成される「運営委員会(steering committee)」によって運営される集団的なガバナンスに基づいて運営されている(5,6)

 つまり、プロジェクトは、農業省と関連全セクターが共同で展開し、農業教育、農民への支援政策、一般国民の意識転換、研究開発等、すべてのエリアをカバーする様々なプロジェクトからなっている(5)。アグエコを成功させるには関係する全セクターの関与が必要だからである(6)。つまり、アグエコは、あらゆるパートナーをこのセクターに巻き込む野心的な公共政策なのである(5)。例えば、アグエコの原則に基づく生産方法のシフトは、農業者のみならず、食品加工業を含めたすべての川下側の関係者にも影響する。そこで、マーケティング方法や販売チャンネル他も変わることになる(5)

教育がすべての柱~将来世代のために夢を示すことから始めるビジョン

 そして、「農業教育がそのすべての中心にある」と、ル農相は言う。農相は、プログラムと教育的スタンダードにアグエコを統合することを狙っている(1)。例えば、2013年9月、国家農業教育プログラムの中心的な部分として、国内の農科大学で学生たちにアグエコを教えるため、フランス政府は、220人もの新たな研究者やチューターを雇用した(3,4)

 その狙いは、2つある。まず、アグエコという新たな農業技術や農法を学生たちに教えることである。技術教育は、長らくフランス全土の農業教育でも重視されてきたことだった。と同時に、第二にアグエコの知識を得た次世代の農民を創り出すことを狙う(3)。すでにフランスの農家の40%は定年を超えているか、今後5年以内に定年を迎えるほど高齢化が進んでいる。こうした状況の中で、国の農場を引き継げる新たな世代の農民たちを緊急に育成しなければならない。同時に、アグエコに転換することによってセクターで環境と関連したより多くの仕事が創出できる(4)

 将来世代には持続可能で前向きな農業戦略を実践するスキルや能力があるはずだ、とのゆるぎなき信仰がル農相にはある。進行する農家の高齢化を受けて、ル農相はこう強調する(3)

「…この大きな挑戦に応じて、我国の若者たちのための雇用を創出すべく、多くの努力を農業教育に注ぐことをいま我々が経験している危機は求めている(3,4)。国内の農民の40%が、引退する年齢に近づく中、我がフランスは、産業型農業によって長年苦しめられてきた農村景観を元に戻すことを約束する、新たな農民たちの一大集団を必要としている」(3)

 かくして、学生のための教育プログラムにアグエコと関連した知識や教育を効果的に含めるだけでなく(6)、アグエコを教える教師に対するトレーニング・プログラムも実施されている(5,6)

アグエコは可能だ~先駆者たちの実践から公的補助事業全体の転換へ

 アグエコ・プロジェクトは、先駆的なアグエコ農民たちが達成してきた成果に基づいている。こうした先駆者たちは、イノベーション行い、新たなやり方でアプローチしてきた(5)。その経験からこの種のアグエコ・プロジェクトによって農場において経済的環境的社会的なハイパフォーマンスを組合せることが可能なことが明らかになっている(5,6)

 その狙いは、これまではアグエコは、数少ない草分け的な先駆者のものでしかなかったが(6)、プロジェクトは、2025年までに大多数のフランスの農民たちがアグエコにコミットするように転換させることを目指す(5,6)

 後述する2014年法は、2025年までに20万の主体にアグエコの原則を適用するとの目的を掲げるが(3,4)、これは過去の『productiviste』、すなわち、ますます集約的な農業技術に対する補助を止めることを意味している(3)。それは、一見すると大胆な政策目標に聞こえるが、ル農相は既存の数値を読み抜いたうえで前向きの戦略をすでに実践している次世代農民たちを期待して「別のやり方で生産しようではないか(produisons autrement)」とのキャッチフレーズで、アグエコに期待する(4)

 当初から、新農業法は、従来とは異なる食べものを生産し、消費することを目指すのであり、さらに、未来の農民たちを育成することが重要なのである、とル農相は力説してみせる(3)

 つまり、アグエコに向けた農民たちのトランジションを支援しインセンティブを提供するため、現在のコアとなっている農業政策、とりわけ、支援プログラムも変化することとなっている(5,6)。例えば、補助事業も農場におけるアグエコ開発プロジェクトに向けて調整されている(5,6)。アグエコへのトランジションへのサポートは農業環境政策としても実施されている(5)

2014年10月、仏国、新農業法発布す

 2014年10月に仏政府は『未来農業・食料・森林法(Loi d’Avenir pour l’Agriculture, l’Alimentation et la Forêt= Law for the Future of Agriculture, Food and the Forest)』と称される新たな法律を可決した(3,4,6)。同法は党派を超えて圧倒的大差で支持されたが(3,4)、議員内閣制内で可決するまでの一年、この新法はアグエコへのコミットによって動かされたのであった(3)

CAP政策を疑問視、仏のアグエコ、欧州全体の農政に影響か

 この新農業法が討議されていたのと同時に、CAP改革が討議されていたことは偶然の一致でない。アグエコやフランスの新農業法が展開していくとすれば、それは、ヨーロッパ最大の単独政策をどう管理するかということも同時に疑問視されることを伴うからである。産業型農業が問題なのであり、アグエコや有機農業はそうではないという事実が、まさに摩擦の原因であった(3)

 ル農相は言う。

「CAPインセンティブ(CAP incentivisations)は、その実践や投資の改革を助長するため方向が見直されることとなろう。アグエコがPillar II政策の動員のプライオリティーとなる。我らは、全体的な農業環境対策を講じてゆく」(1)。この内容は、2014年8月26日から2016年2月11日までの政府Valls II(Government Valls II)下で発表される(2)

アグエコの自己評価ツールの創設

 新農業法によって「経済・環境懸念グループ(GIEE=Groupements d’intérêt economique et environnemental:EEIGs=economic and environmental interest groupings)」も立ち上げられる(2,3,4,6)。セクターを超えたグループをもって、景色レベルで資源を管理するために経済的、環境的ステークホールダーを奨励する(4)。従来の産業型農業の評価尺度ではアグエコの進歩を評価できない。そこで、新農業法は、教育や研究を通して、作物の多様性と生物多様性をアグエコのガイド原則として促進し、経済環境グループという部局間横断組織によって資源管理をするため(3)、経済・環境・社会的を考慮して、農民グループやそれ以外の地域集団が、その農法を変えるための動機づけを与える仕組みを整えたのである(6)。これによって、経済環境社会的なパフォーマンスの目的が、いま法律に掲げられた(2)

 アグエコを推進するためには、農民たちが自分たちの農業について考え、かつ、自分たちのシステムを変えることを奨励することが求められる。このため、自己評価ツールが開発され、2015年9月から無料で利用できるようになっている。このツールによって、各農民たちは自分たちのパフォーマンスを自分で評価し、それを国内の他の農民と比べることができるようになっている(5,6)

 また、これらの事業の結果やアクションプランの成果は、省のウェブサイトに掲示される年次報告書に含まれ、達成された進展は評価指標を用いることで評価できるようになっている(5,6)

農薬を規制する新農業法

 新農業法は効果的な農業政策だが、とりわけ、農薬の使用をめぐって、農業に対する公的懸念が考慮されるべし、と主張する。食用作物に対する農薬の散布や学校や家庭へのドリフトの可能性に対して多くの国民が反感を抱いていることがある。

 フランスは大量の農薬使用国である。そこで、新農業法はそれを変えることを目指している(3,4)。そこで、若者、老人、病人といった脆弱なメンバーを保護するため、学校、保育園、病院、退職者家の公的施設には垣根を設け、防除を周知することを求める(2,3)

 また、農薬の削減と共に、生物学的防除や天然農薬といったオルタナティブな開発も支援し社会の期待に応える(2,3)。ルーチンで化学資材を使用することはもはや認められない(3)。そのうえ、同法は、農場における抗生物質の使用を削減するためのフランスで最初の法律となった(2,3)。抗生物質耐性、土壌侵食、消費者の健康等の問題も考慮されているのである(5)

農地を守る新農業法

 新農業法は、土地政策も抜本的に変える。フランスには、農地を管理するための「サフェール(SAFERs)」として知られる農地管理団体がある。これを再編成することで、農地を競合する転用圧力から保護し、若者が農業を始めることをより推進するのだ。サフェールは、さもなければ開発されてしまうであろう農地を強制的に購入することで農地転用に介入できる。さらに、ローカルなサフェールは若者に土地バンクから農地を割り当てることで新規就農を支援する(3,4)。インフラプロジェクトのために環境的な補償(environmental compensation)が存在すると同様に、将来的には農業補償(agricultural compensation)もあるであろう。すなわち、農地を転用する大規模プロジェクトや開発事業は、それによって失われる農業のポテンシャルを補償しなければならなくなるであろう。それは、その領域の農業経済を強化するのを助けることにつながる(2)

小規模な家族農家と流通業者を守る

 小規模な小売業者を支援することも新農業法の役目である。近年、小売業者が虐待されたとして裁判沙汰となっているが、調停者を任命することで、集団訴訟を実行する権利を設け、流通面における虐待を防止する新たなパワーを生み出している。また、新農業法は、もし、持続可能な農業に未来があるとすれば、フランスは言うまでもなく、それ以外の場でも小規模の家族農業がその解決の一部でなければならないとし、食糧生産者のためのより安全な将来を約束しているのである(3)

 さらに、これらの3本の軸を超えて「Ecophyto 2018」といった現在のアクションプランも強化され、それ以外の5つの計画も「エコ反抗生物質計画(Ecoantibio Plan)」、「窒素バイオガス計画」、「持続可能な養蜂業のための生物多様性マップ」、「全国有機計画(national organic plan)」(1)、さらに植物タンパク質の生産を支援する「タンパク質計画」も講じられている(1,5)

アグエコの農法の主な特徴

○アグエコは、農業生態系内でのバランスを図るため、各農場でホーリスティックでシステマティックなアプローチに基づく(3,4)。農場内にある全要素をカバーするシステマティックなプロセス活かし、農場内でのシナジー効果を構築し、その操業を最適化するのを助ける(5)

○アグエコではどの農場にも適応できるシングルな対応策やレシピ・スタンダードといった仕様は存在しない(5,6)。すなわち、アグエコで問題視される課題はすべての農場が抱えているものだが、見出されるべき解決策は、各々の特定の状況にふさわしい必要がある(5)。ル農相も「我々は個別の論理を残さなければならない」とひとつのやり方だけではすべてを解決できないと主張する(1)。けれども、個別の解決策はある(5)。このため、レディ・メードのレシピを適用せず(6)、解決策は共通する原則に基づきつつ(5)、各文脈毎に適切な解決策を開発していく必要がある(5,6)

○アグエコでは、農業生態系内におけるポジティブな生物相互作用を活用する。例えば、垣根、草小片を活用し、適切な輪作を奨励し、生物多様性を維持することで害虫の自然な防除機能、前作の効果を活かしていく(5,6)

○アグエコでは、水や窒素等の生物地球化学的な循環を推進することで、農場の自律性やレジリアンスを支援する。例えば、輪作や作物間のカバー作物を行い、合成化学肥料等投入資材への依存度を減らし、地力の向上させる。また、耕畜連携の相乗的な効果を活かし、有機廃棄物物の流出管理に取り組む(5,6)。同時に、農場そのものである程度の自給することによって生産コストの変動への影響も減らす(5)

アグエコへの10のポイント

 新農業法は、農作物の多様性や生物多様性の推進をガイド原則としながらも、あまりもガチガチにアグエコを規定しないよう配慮しつつ、教育や研究を通してそれを進めるとしている。そして、アグエコの鍵となる10ポイントをチェックリストとして掲げている。それは以下のとおりだ(4)

 ① 教育:今日と未来の農民を育成
 ② 多様なステークホルダーの関わりGIEEsを開発
 ③ 農薬使用の削減
 ④ 生態的防除とオルタナティブな防除(例えば、アブラムシの管理にテントウムシを活用)
 ⑤ 家畜の抗生物質の使用を削減
 ⑥ ミツバチ:持続可能な養蜂を開発
 ⑦ 家畜廃水からのメタンガス利用
 ⑧ 有機農業を促進
 ⑨ 地元に適した種子のストックを選抜育種する
 ⑩ アグロフォレストリー:生産を改善するために木を活用(4)
なお、新農業法は、森の生態学的な役割を認め、不法に伐採された木材や材木製品の輸入販売を規制する処置を規定している (2)

研究開発と農民のイノベーションの重視

 アグエコ型の生産システムに向けて改革を行い、草の根での実践を支援するため、研究開発や実験も推奨されている。ここでは、とりわけ、2014〜2020年のCAPの新政策である「ヨーロッパ・イノベーション・パートナーシップ(EIP= European Innovation Partnership)」の活用が重視されている(5,6)。そして、科学的にベースでオープンな対話を促すため、アグエコのイニシアティブは、アグエコについての科学的な知見や実際的な経験の普及を支援している(5)

 また、イノベーションもアグエコ・プロジェクトのアクション・プランのコアとなっている。アグエコ・プロジェクトは、農業生態系における試行錯誤やイノベーションに基づく。そして、アグエコでは静的で決まりきったシステムや実践を設定するのではなく、連続的な革新を行っていく(5)

 そして、農民たちがその経済的・環境的パフォーマンスを各自に改善することを支援していく。そこで、農民たちへのトレーニングやサポートが中心として重要視される。アグエコは、各農場での農業生態系を管理する農民たちのスキルを高めることに基づくからである(5)

世界と国と地方の関係〜アグエコとCOP21、食料安全保障と気候のための土壌4%

 アグエコでは2017年の国際会議や地域ワークショップのように国際会議が含まれる(5)。農業をアグエコに転換し、適切な農業を行い土壌中の有機物含有量や炭素隔離を増やせば、土壌も肥沃でより生産的となり、土壌浸食や気候変動へのレジリアンスが高まり、かつ、かなりの量の炭素を吸収することで気候変動緩和にも寄与する。そこで、フランスはイニシアティブ「1000につき4:食料安全保障と気候のための土壌(4 per 1000 : Soils for Food Security and Climate)」を立ちあげ、アグエコを採択することによって、農業も気候変動への対応策となりうるとして、環境を守る革新的なアグエコ農業のメリットを示し、COP21間にこのメッセージを送った。それは、100以上の国際的パートナーによって支持されている。そして、このイニシアティブは、リマ・パリアクションアジェンダ(Lima– Paris action agenda)に選ばれた(6)

 このようにグローバルな取り組みがある一方で、アグエコ・プロジェクトは、各地域の特性も反映すべく地域レベルでも実施されている。

 各地域のステークホルダーは、自分が支援したいアクションにボランタリーでコミットすることになっている。すなわち、アグエコ・プロジェクトは、行政当局がトップダウンで指導するだけでなく、様々なステークホルダーが自分たちにあったやり方でかかわれるフレームワークとなっている。そして、先駆的な農民たちの具体的な経験や彼らが特定の状況のために見出した解決策は、実践的な議論、会議、様々な普及手段を介して、仲間がアクセスできるようになっている(5)

 アグエコでは、自主的な主体、農場に重点が置かれる。と同時に、アグエコは農村地帯の社会組織をサポートし、農民たちのグループの集団的なプロジェクトを奨励・支援している。イノベーションを公的化するため、フランスの法律には新たな条項(provisions)が導入されている(5)

種子の評価での改革

 また、様々な品種の種子のパフォーマンスを評価する際に適用される基準では環境的なディメンジョンを強調することも狙いとされている(6)。販売される品種のパフォーマンスを測定するための基準も改正され、経済的環境的なパフォーマンスを改善するため、遺伝子選抜での進歩を奨励する助けとなっている(5)

成長経済の発想を見直しつつ、同時にイノベーション的でモダンで競争力のある農業を

 これまで述べてきたアグエコの基礎となる原則から、アグエコでは次のようなメリットがもたらされるとされている。

○投入資材経費が削減されることで、地力が高まり生産性も高まる(5)

○農場の持続性が高まり、想定外の出来事へのレジリアンスも高める(5)

○収入源が多様化することによって、農民たちの経済的なレジリアンスが改善され、地域発展の支えとなる。

 すなわち、経済問題と環境問題に対して統合的にアプローチすることで、自然資源が効果的に管理され 同時に、経済的・環境的な成果によって競争力も向上している(5)。環境に考慮することが、競争力要因にもなっている(5,6)。そして、革新的な農業実践によって、地域における雇用創出や高付加価値にも成功している。そして、フランスのアグエコ・プロジェクトは、世界のそれ以外の地域で見出された懸念を反映しているが(5)、各地域の特定の特徴や努力に基づくローカルな解決策を定めるため、フランス以外の世界のそれ以外の地区でも可能なのである(6)

フランスのアグエコ法は本物か?

 多くの人々は、環境と調和した農業への回帰を目指す新農業法を「長く待望されてきた政策だ」として歓迎している。けれども、フランス小規模農民組合(Confédération Paysanne)は、「今年はアグロエコロジーの年だ…」との2015年2月のル農相の発表に疑念を抱く。良き意図も政治的な功利主義によって簡単に変ってしまうと警戒する。そして、こう述べた。

「いわゆる競争力や工業型農業を支持する公共政策、あるいは、小規模な家族農場を排除する政策とともにアグエコは座すことはできない」

「興味深い要素を含む」としながらも、小規模の農民組合はアグエコ農業の実施に向けたル農相の計画には規模の論理が不足していると失望する。

「環境に対する配慮は良く知られているが、そこでは農地の規模が疑問視されていない。それは…百姓のノウハウのための場を残さない」

 「緑の政策(term greening)」がCAPのほとんどに適用されていったように、アグエコのラベルが無差別に乱発されることが懸念される。それ以外の多くの百姓組織はアグエコ的なアプローチを開発してきた。そして、この政策が意味をなし、単なる言葉以上のものとなることを担保するためには、アグエコの光に照らして農業諸政策を再想定することが重要である、と述べているのである(4)

編集後記

 「仏の農政」というこのタイトルを読んで、「おおっ、ブッダの慈悲の精神に基づく農政か」と思った人は勘違いである。「仏」とは「釈迦」ではなく「仏蘭西」のことなのである。とはいえ、仏のアグロエコロジーの10のチェックポイントを見ると、まさに食べ物を食べる国民のことを考えており、勘違いされた「仏の農政」のタイトルを裏切らない政策を展開している気がしてくる。その一方で、種子法の廃止であれ、ネオニコチノイドやグリホサートの規制緩和であれ、サフェールによる農地保全とは真逆の農村地域工業導入促進法の改正であれ、日本がまったく逆の方向に突き進んでいることがよくわかる。ル農相がアグエコの世界のリーダーになることを目指しているとすれば、経産省によって日本は遺伝子組換えの世界のリーダーとなることを目指しているのであろうか。けれども、そのモデルが破綻したときにその責務は誰が負うのであろうか。選挙権を持つ若者はまだしも、この国にこれから生を受けるであろう新たな命には、政策の選択権がない。嫌みな言い方だが、「種子法を廃止してくれて本当にありがとう」と随喜の涙を流しながら、遺伝子組換え米がたっぷり入ったおかゆを、将来、自閉症になることを願いつつ、母乳の代わりに選べるだけの智慧を残念ながらまだもっていないからである。
(2018年1月24日投稿)
【画像】
ステファヌ・ルフォル農相の画像は文献4より
ドゥグループへのデモの画像はこのサイトより
【引用文献】
(1) Samuel Féret, France to become EU leader of agroecology?, Agricultural and Rural Convention,3 Jan,2013.
(2) Law on the Future of Agriculture: major advances for farmers and citizens, 11 Sep,2014.
(3) Peter Crosskey, Writing agroecology into law, Sustainable Food Trust, 6 Feb,2015.
(4) Peter Crosskey, New Law, Contested Agroecology – France’s Loi d’Avenir, Agricultural and Rural Convention,4 Feb,2016.
(5) The Agroecology Project in France, Ministry of Agriculture, Agrifood and Forestry, april2016.
(6) The Agroecology in France, Ministry of Agriculture, Agrifood and Forestry.


posted by José Mujica at 07:00| Comment(0) | アグロエコロジー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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