2018年01月25日

欧州アグエコ

2016年にブタペストで欧州と中央アジアのアグロエコロジー・シンポ開催さる

 2014年9月、FAOはローマにおいて『食糧安全保障と栄養のための農業生態学に関する国際シンポジウム(International Symposium on agroecology for food security and nutrition)』を開催したが、このシンポは、2015年には、ラテンアメリカ、サハラ以南アフリカ、アジアと太平洋と3地域において開催されたシンポによってフォローされた。

 この地域シンポをさらに発展させるため、2016年11月25~26日にかけては、ブダペストにおいて『ヨーロッパと中央アジアのためのアグロエコロジー地域シンポ(regional Symposium on Agroecology for Europe and Central Asia)』が開催され、地域内の41カ国から180人以上が参加者した。そして、ヨーロッパや中央アジアにおける持続可能な食料・農業システムのために37もの提言がなされた。この地域シンポに関して、FAOの新レポートも出されている。アグロエコロジーを発展させるために何が必要なのか。以下の5課題に対して論じられた内容を紹介しておこう。

1. アグロエコロジーとは生態系のサービスを生かした高度集約型農業

アグロエコロジーはより少ない投入資材で高収量を達成する高度な知的農業

 土壌がますます劣化し、貴重な農業生物多様性やミツバチが失われ、気候変動も激化する中、食の安全保障は大きな脅威にさらされている。そのうえ、ヨーロッパでは農家戸数が減り、かつ、農家所得も低下している。

 この深刻な問題を打開し、食の安全保障を担保するため、トレードオフ関係にある「より少ないインプット」によって「より多くのアウトプット」を達成する、すなわち「エコ的な効率化」、「持続可能な集約農業」を達成することが提起された。これは、投入される資材や天然資源の単位あたりの生産性を最大化することでもある。この持続可能な集約化は、高度に専門的な生産システムであり、投入資材の段階的な削減はたいがい「知識」をもって達成されている。すなわち、アグロエコロジーとはオルタナティブなパラダイムなのであり、FAOが提唱する『保全と成長パラダイム(Save and Grow’ paradigm)』とも深く関連する(FAO, 2011)。

アグロエコロジーは自然生態系を模倣しレジリアンスを強化

 この鍵となるのが生物多様性をさらに活かした統合型の生産システムである。アグロエコロジーでは、農業も生物多様性を維持し、自然生態系が持つ機能を模倣すべきであると考える。

 アグロエコロジー生産では、外的投入資材が削減されるが、その代わりに、生物学的な窒素固定や養分循環し、昆虫による授粉と病害虫の生態的防除、土壌有機物の保全と炭素隔離、水循環の維持や水質浄化といった自然生態系のサービスを強化する。そのことで、持続可能に食料を生産していく。そのうえで最も役立つ戦略は、耕畜連携を含めた農業システムの多様化である。こうした農業は自然生態系と類似して、生産的で、かつ、害虫に対する抵抗性もあり、養分も保持され、気候変動に対してもレジリアンスがある。すなわち、自然生態系を考慮することから、アグロエコロジーは単なる農業生産を越えている。

アグロエコロジーは、科学・実践・運動からなるダイナミックな概念

 自然生態系を模倣することから、アグロエコロジーは科学がルーツとなっている。けれども、現実のアグロエコロジーはよりダイナミックで、現実に立脚し、社会・経済・文化といった要素も含んでいる。アグロエコロジーが科学のみならず、実践や社会運動という3要素からなることに関しては、いま、コンセンサスが得られつつある。

アグロエコロジーでは中心となるのは現場の農民

 さらに、アグロエコロジーでは、農業における農民たちの「立ち位置」が大きく変わる。というのも、いざアグロエコロジーを推進するとなれば、その中心となるのは人間となるからである。そこで、シンポにおいては、アグロエコロジーは、あらゆる食料生産者が含まれるアプローチであるとしてプレゼンされた。

2.研究、イノベーション、知識のわかちあい、そして、運動

アグロエコロジーでは研究も分散型のものとなる

 アグロエコロジーの中心となるのは、学び、教育、そして、知識のわかちあいである。それが、アグロエコロジーの実践や政治運動を広げ、農民たちをエンパワーする支えにもなっていく。

 従来の研究技術開発モデルは中央集権型でトップダウンものだった。けれども、アグロエコロジーの研究や学びのプロセスでは、これが分散型で、水平的・ボトムアップなものへとシフトする。とりわけ、知識創造においてはそうである。事実、数多くの「知」がアカデミック外で創造されている。農民や市民たちの能力が強化され、多様な知識体系に橋が渡され、水平的に広がってゆけば、学問分野を超えたイノベーションが推進されるメリットもある。このため、アグロエコロジーでは、農民たちの地元組織の「自己組織化(self-organized research)型」の研究をサポートする必要性がおおいに強調された。

 また、アグロエコロジーへの転換を達成するうえでの技術革新の重要性も指摘された。そして、アグロエコロジーのイノベーションには民間が貢献することも言及された。事実、持続可能な農業実践を追求し、環境負荷やカーボン・フットプリントを最小化しつつ、自然環境保全を促進している会社の事例があげられた。

テクノロジーの公共性や技術独占の課題

 アグロエコロジーとハイテク・ローテクの進歩との関連性は、興味深く研究されなければならないものとしてあげられた。例えば、農民たちの自治がアグロエコロジーでは重要とされるが、それとテクノロジーとの間には大きな矛盾がある。そして、イノベーションや研究成果が公的領域において担保されることの重要性が主張された。というのは、イノベーションやデータがオープンにされず私有化され、政治的倫理的なギャップがますます懸念されているからである。

3. アグロエコロジーは気候変動を防ぎ、水、土地、生物多様性を守る

アグロエコロジーは気候変動問題を解決する

 ヨーロッパや中央アジアでは気候変動の影響が重要課題となっている。水不足、塩害、異常気象と気候変動の被害をすでに受けている。けれども、アグロエコロジーには、この気候変動の影響を緩和し、かつ、気候変動に農業生態系を適応させるポテンシャルがある。アグロエコロジーが解決策である可能性がある。

生物多様性を維持し人間が中心となるアグロエコロジーは知的産業

 化学窒素肥料、農薬、家畜飼料等の生産には大量の化石燃料を要するが、アグロエコロジーでは、生物多様性によって支えられる生態系サービスを活用することで、化石燃料を代替えしていく。そして、投入資材の削減には、土壌から農村の景観レベルに至るまで、あらゆる段階で生物多様性が保全され、かつ、「人間」が関与していくことが欠かせない。すなわち、アグロエコロジーは地域資源に依拠する知識集約型のテクノロジーである。

貴重な天然資源では先住民の土地権利問題も関連する

 重要な天然資源は、先住民たちが居住・生活する領域圏内に見出せることが多い。このため、農業の社会面や文化面に光をあてることは、先住民や先住民の土地への権利と関連した開発が環境や社会にもたらす影響への議論につながった。

現場で農業生物多様性を維持するには農民の種子の権利が不可欠

 農業生物多様性を再新するためには、現場や農場内で農業生物多様性をダイナミックに管理していくことが欠かせない。これは世界中でなされているが、改めてその重要性が強調された。この点で、食料安全保障を担保するためは育種計画が鍵となる。農民たちが種子を手にし、種苗を交換する権利が百姓の権利として重視された。

4.アグロエコロジーこそが持続可能なフードシステム

小規模家族農業がある地域の方が地域経済は元気で人々も幸せ

 意外に思えるが、世界の食料の80%以上は、百姓たちによって生産され、地元や非公式な市場で販売されている。このことをふまえれば、グローバル市場だけでは世界を養うことができないことがわかる。しかも、輸出指向の大企業がある地域に比べて、小中規模の農場がある地域の方が、地域経済も元気で農民たちが幸せであることが示された。

多様な農業があってこそ栄養価の高い食を手にできる

 アグロエコロジーでは、あらゆる所得水準の人々が栄養価の高い多様な食を手にできる。農業が多様化するほど、生産者のみならず、消費者も多様な食を手にできる証拠がますます得られている。一方で、穀物だけに基づく食事は、重要な栄養素が欠けていることが多い。

5.アグロエコロジーを開発・推進するには公共政策が必要

大きな目で戦略目標を掲げることが重要

 アグロエコロジーに向けたトランジションには様々なネックがある。それにどう対処していくのかが大きな挑戦課題である。ヨーロッパ農業は、とりわけ投入資材への依存度が大きい。農業の技術革新においても、投入資材メーカーや流通業者が演じる役割が大きい。このため、普遍性のある大きな枠組み「戦略的開発目標(SDGs= Strategic Development Goals)」等を提起することの重要性が改めて提起された。

 例えば、「Goal 2(ゼロ飢餓= Zero Hunger)」は、なによりも、健康、教育、気候、水、生物多様性、不公平、男女平等、尊厳ある仕事(decent work)、持続可能なコミュニティといった多様な問題に対処するうえで最も強力なレバレッジである。そして、それ以外のすべての目標ともつながっている。

目先のミクロ経済の経済益ではなく外部経済や新たな評価軸が必要

 アグロエコロジーは、慣行農業の生産性とも十分に競合しうるし、生物多様性を高め、生産システムのレジリアンスも高まることがデータからは示されている。とはいえ、慣行の農民や政策担当者たちは、アグロエコロジーの経済パフォーマンスを疑問視する。そこで、アグロエコロジーでは利益があがり、かつ、短期的なパフォーマンスを越えた社会益があることをきちんと示すことが重要である。

 現在では、社会に対してマイナスのコストを負わせているにもかかわらず、慣行農業を支援する補助金が出されている。この状況を転換するため、外部経済性(externalities)に関してさらにデータを増やすことが強調された。

 なお、この点に関しては、農場パフォーマンスや成功事例の評価は、一般のミクロ経済のパラメータを越えたものなければならない。統合的で多面的な視野を持ち、かつ、参加型のパフォーマンスの評価方法をデザインしテストする必要がある。

政府が市場に介入、公正な価格を維持する重要性

 ロエコロジーを推進していくために政府によって講じられる政策の中でも最も重要なものは、「公的入手プログラム(public procurement programmes)」である。生産者たちがアグエコを実践できるためには、政府が地元に適した「入手プロトコル(procurement protocols)」を採択する必要がある。

 また、政府には、流通機構を統治し、革新的な市場モデルを開発し、地域経済や地域市場を創出するという重要な役割がある。

 ローカル、地域、国家レベルにおいて、「食料委員会(food councils)」を創設し、地元市場に対して補助し、また、政府が市場に介入することで農民たちの公正な価格を担保することも示唆された。

アグロエコロジーに転換するために慣行農業への転換支援を

 慣行農業の農民たちがアグロエコロジーに転換するという変革を達成するためには、そのための政策やインセンティブが喫緊に必要とされている。アグロエコロジーに向けて転換するにあたっては不確実性が伴うし農民たちは転換コストにも直面する。このため、過渡期においては、こうしたインセンティブが欠かせない。

すでに変化は起きている

 すでに変化は起きている。数多くのアグロエコロジーのイニシアティブが開発されており、アグロエコロジーが単なるニッチにすぎないという思考を越えて動くことが重要である。転換を妨げる制約を克服し、アグロエコロジーの前進に欠かせない政策をサポートしていくことが重要である。フランスのアグロエコロジープロジェクトやルーマニアの有機農業法(Organic Law in Romania)等、ヨーロッパですでに国レベルでロエコロジーに向けた改革がすでになされている。

 そして、有機農業に関しては、有機農法がその原則と実践のいずれにおいても、アグロエコロジーのアプローチに大きく根差していることが認められた。アグロエコロジーと有機農業とのシナジー、共進化を考慮していくことが推奨されたのである。

編集後記
 今日も乱筆・駄文を最後までお読みいただきありがとうございました。で、なんと面白い時代に産まれたことよ、と個人的には思っている。
 何が面白いかというと、史上かってない一大転換が起きているからである。FAOのアグロエコロジー・シンポが2014年にローマで開催されたことは知っていた。この会議に日本の佐藤英道農林水産大臣政務官が参加し、ハイレベル会合で演説をしたことはネット情報で知っていた。そして、日本でもアグロエコロジーを推進することとし、農林水産省内にアグロエコロジーが設置されたことも知っていた。けれども、そのコンテンツはというと、環境保全型農業のセンスアップとされていた。だから、「なんだ、有機農業やエコファーマーがそろそろ飽きられたから、まだ第二弾のキャッチフレーズか。ロハスの欧州版か」ぐらいにしか思っていなかったのだ。

 けれども、実体は違う。アグロエコロジーが世界化していることは、2014年11月19日付けの印鑰智哉氏のブログ、「世界化するアグロエコロジー運動」で知った。

 印鑰智哉氏は1月21日に、ノエル・キッチンで行われた勉強会でこう語っている。

「アグロエコロジーとは、日本の有機農業よりも大きな概念で、食を社会の中心に据えて生態系の力を引き出す。そして、作る人のあり方を問う概念である。文化人類学、生態学、医学と多彩な分野からなり、主体性を取り戻すことが求められる。社会運動であると同時に生態系の力を引き出す科学でもある。農業実践運動であることから、アグロエコロジーに関わる学者は、社会運動もしなければならない。そして、今、ヨーロッパやラテンアメリカの大学にはそれを本格的に学ぶアグロエコロジー学科がある。

 フランス政府は大規模農業を進めてきたが、アグロエコロジーを進める法律を制定した。イギリスでもアグロエコロジーの議員連盟ができている。イギリスの政策にアグロエコロジーを組み入れる市民ネットワークもできている。そして、2014年9月にはローマFAOの国際会議も開かれ、農水省も参加した。そして、どうなったのか。「アグロエコロジーは有機農業企業のセンスアップ。ブランド化である」と。つまり、小規模家族農業が根幹なのにそれを無視している。世界的に見てもアホな政府である」

 そうやはりアグロエコロジーなのである。FAOは着実に前進していたし、フランス農政の発展如何ではCAP政策そのものが変わる可能性がある。

 日本の戦後農政を規定してきた旧農業基本法(1961年)も構造改善事業も、欧州のマンストホルトプランを意識したものである。CAPの産みの親、マンストホルトプランが大転換するとなれば、大変なことではないか。

 しかも、フランスでは環境保全はすでに前提となり、大規模アグエコ農業VS小規模家族農業という思想線が展開されている。アグロエコロジーはすでに「大前提」となって、そのうえで、第二ラウンドが展開されているのだ。日本が一周も二周も遅れてしまっていることがわかる。となれば、かつて平沼騏一郎が「欧州情勢は複雑怪奇」との名台詞で内閣総辞職したように「戦後日本農政のモデルとなった欧州農政、転換す。欧州情勢は複雑怪奇」との見出しが新聞の一面を飾ってもおかしくないとおもうのだがどうであろう。

 ということで、いつも印鑰氏の情報にだけ頼っているわけにもゆかないので、アグロエコロジーで何が起きているのか私なりに調べてみた。これは、オックスフォード・リアル・ファーミング会議というのを立ち上げたルス・ウェストさんが書かれた論文の我流のまとめだ。以前にWHOやUNDPで働いていた経験を持つだけにその分析はリアルだ。是非、アグロエコロジーのリアルな動きの理解の一助となれば幸いである。
(2018年1月25日投稿)
【引用文献】
(1) Ruth West,What is Agroecology? Why does is matter?, 10oct,2017.


posted by José Mujica at 07:00| Comment(0) | アグロエコロジー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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