2018年01月31日

ゲノム編集は問題?

ゲノム編集、やはり問題あり

 主催:日本消費者連盟、遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン

ゲノム編集技術は遺伝子組み換え技術

 私は、遺伝子組み換え食品の問題をずっと追って来たのだが、ゲノム操作食品の技術を見ると遺伝子組換え食品のときの問題と大きく重なってみえる。その技術的メカニズムや推進しようとしている人たちの主張を聞いてみると、まったく一致する。

ゲノム編集技術とは、作物のゲノム情報や遺伝子操作技術を使ったもので、最新の遺伝子組み換え技術と見るべきである。したがって、「これは遺伝子組み換えではない」との主張は間違っていると私は考える。

30年前に古細菌で発見された原始的免疫システム

 まず、ゲノム編集とは何かについてふれておこう。ゲノムとはDNAの塩基配列のことすべてを言う。遺伝子を形作っている化学物質名の総称である。私たちの体内にある酵素やタンパク質は、アデニン、チミン、グアニン、シトシンからなる遺伝情報がRNAに転写(トランスプリクション)され、それが翻訳されることで合成されている。

Yoshizumi-Ishino.jpg さて、クリスパ―とは、いまから30年も前の1968年に、九州大学の石野良純(1957年〜)教授が古細菌の中で発見した原始的な免疫システムである。古細菌はウイルスに感染するとそのウィルスの一部をクリスパーに取り込む。そして、同じウイルスに再び感染すると、以前に取り込んだウィルスの遺伝子情報とクリスパー情報をRNAに写し取る。写し取られたクリスパーの情報は折り畳まれて、突起状の出っ張りのある物質となって細胞内を動き回っていく。そして、目的とする場所の遺伝子を切断してしまい、これを働かなくする。こうして、外部から侵入したウィルスを破壊してしまう。こうしたシステムがあることがわかったのである。

クリスパ―を用いたゲノム編集技術の発見

 Jennifer-DoudnaS.jpg2012年、カリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ(Jennifer Anne Doudna, 1964年〜)教授とフランスのウメオ大学のエマニュエル・シャルパンティエ(Emmanuelle Marie Charpentier, 1968年〜)教授は、ウィルスを認識する部分をゲノムの中から切り取りたい目的配列に入れ替えると、その部分を見つけ出して、そこと結合して切り取ることを発見した。この発見からクリスパーを用いたゲノム編集が全世界に広がっていくことになる。

クリスパ―キャス9システムを用いたゲノム編集

 ゲノム編集のやり方とは簡単に言えばこうである。まず、標的とする部位に対してガイドRNAを設計して、細胞にプラスミドやウイルス粒子によってキャス9タンパク質(分解酵素)と一緒に導入する。導入されたRNAとキャス9タンパク質は複合体を形成する。そして、標的とするDNA配列が認識されると、その場所でキャス9タンパク質は、ゲノムDNAの二重鎖をカットしてしまう。

 Emmanuelle-CharpentierS.jpg二重鎖を切られた生命体は当然のことながら、これを修復しようとする。けれども、これを何度でも切る。そのうちに、修復が間に合わなくなり欠損する。この修復プロセスのエラーによって、遺伝子が破壊(ノックアウト)される。そして、隙間ができたところに新たな性質の外来の遺伝子を入れてやる。これを遺伝子ノックインという。こうして、目的遺伝子を入れたり、なくすことができる。

無目的に切ってしまうオフターゲットの危険性

 ゲノム編集に使われる「クリスパーキャス9」は化膿性連鎖球菌由来のシステムである。そして、どの遺伝子の配列でも切ることができる「万能バサミ」であるために一挙に広がった。けれども、問題がある。万能バサミであるために、目的の場所ではなく、それ以外のところも切ってしまうことがある。つまり、目的とする以外の遺伝子も破壊してしまうことが避けられないと言われている。これを「オフターゲット」という。その恐れがある。

すべての遺伝子を発現させてしまうカリフラワー・モザイクウィルス・プロモーター

 良く似たリスクを持つものにカリフラワー・モザイクウィルス・プロモーターがある。ジャガイモに含まれるソラニンは有害物質である。食べると危険である。おまけに、ジャガイモのすべての細胞中には、ソラニンを作り出す遺伝子がある。けれども、現実のジャガイモでは光が当たって青くなった芽の部分でしかソラニンは作られていない。なぜだろうか。ジャガイモが、ソラニンという毒素を作り出すのは大切な芽が害虫に食われないようにするためだからである。それ以外のところでは、ソラニンを作り出す遺伝子は「発現」しないように抑制されている。だから、芽のところだけを取り除けばよく、安心してジャガイモを食べることができる。

 このように、どの生物にも遺伝子の「発現」を抑制するシステムが備わっている。だから、例えば、ダイズ中にある種の生物の遺伝子を入れて、その形質を作動させようとしても、そのままでは発現しない。けれども、例外がある。カリフラワー・モザイクウイルス・プロモーターである。これだけは、どの植物の中に入っても働く。これによって遺伝子組み換え技術の応用化に弾みがつくことになったのである。

推進側のチェックは杜撰でも政府はそれを安全と認める

2018012901.jpg けれども、逆に言えば、カリフラワー・モザイクウイルス・プロモーターは、眠っている遺伝子をすべて目覚めさせて「発現」させてしまう可能性がある。このため、私たちは「すべてを調べなければ危険だ」と主張してきた。けれども、これに対して、推進側は、過去に実際にトラブルが生じた事例があるのか(そのようなものがあるはずがないのだが)、あるいは、目的とした遺伝子がきちんと動いているのかだけしかチェックしていない。

 おまけに、遺伝子が機能しているかどうかをチェックするためにはマーカー遺伝子として抗生物質耐性が活用される。これが水平遺伝して腸内細菌が抗生物質耐性を身に付けてしまうリスクもある。そこで、「これも調べて欲しい」と依頼しているのだが、これも調べていない。これほど杜撰な検査であっても推進側は「安全なのだ」と述べて来た。

 そして、日本政府も同じく安全であると言っている。さらに、遺伝子組み換え食品の表示すらない。混ぜているからである。けれども、現実はどうなのか。どうも、色々と調べるとそれを食べることによって身体がおかしくなっている。世界中の人たちが遺伝子組み換え食品を拒否しているのはそのためなのである。

ブレーキ遺伝子を破壊することで巨大生物を創り出す

ベルジャン・ブルー.jpg それでは、ゲノム編集でどのようなものが誕生しているのかを見てみよう。ベルギーにベルジャン・ブルーという牛がいる。どの生命も身体が一定の大きさ以上には大きくならないようにそれを抑制しているブレーキ遺伝子、ミオスタチン遺伝子がある。ベルジャン・ブルーは、このミオスタチン遺伝子が壊れた突然変異である。これをヒントに、普通の2倍もの大きさのある巨大な「マッスル牛(ネロール牛)」が作り出されている。この写真を見て頂きたい。同じ母親から生まれた双子のネロール牛でも、ゲノム編集をした牛の方が、していない牛に比べて二回りも大きく育っていることがわかる。

 近畿大学で実施されたマッスルマダイも原理は同じである。ミオスタチン遺伝子を人工的に壊して、アクセルだけの遺伝子にしたものである。生命体はなかなか倍以上の大きさにはならないのだが、肉の量が1.5倍のマダイができた。

torafugu.jpg 京都大学はメタボのトラフグを開発している。こちらは、満腹を感じる遺伝子を破壊することで、ひたすら食べ続けるもので、メタボのふぐが作られているのである。

消費者が願ってしまうため機能性食品が誕生していく

 また、アレルギーが出にくい卵も開発されている。卵白に含まれて、卵アレルギーの原因となるオボムコイドを破壊することでアレルギーを防げる卵である。けれども、アレルギーにならない面だけをみれば都合がいいかもしれないが、ウゴムコイドは熱や消化酵素の影響を受けにくいインヒビターである。それによって、病原体の侵入を許してしまう卵になってしまうかもしれない。

Hiroshi-Ezura.jpg また、筑波大学の江面(えずら)浩(1960年〜)教授はギャバの量が15倍もあるトマトを開発している。江面氏は、「かつての失敗は二度と繰り返してしまってはいけない。消費者が求めるものを作るべきだ」と主張している。つまり、教授は、消費者が喜ぶと考えてこうしたトマトを開発しているのだが、世論調査をすると確かに食べたいと望む消費者がいるのである。そして、私からすればこれは遺伝子組み換え技術そのものである。

カルタヘナ議定書ではゲノム編集食品は規制できない

 さて、遺伝子組換え農産物を規制する制度としては、カルタヘナ議定書があるのだが、そこでは「現代のバイテクの利用によって得られる新しい遺伝物質の組み合わせを有するあらゆる生きている生物」と規定している。ゲノム編集では、ごくわずかな変異しかおきていない。

 以下の三つのケースを見て頂きたい。

 A外来DNAを使わない1〜数塩基のランダムな変異

 B短い外来DNAを用いた変異や修復

 C長い外来のDNAを用いた遺伝子の導入

 まず、最後のCの場合。これは、当然のことながらカルタヘナ議定書の規制対象になる。もちろん、ゲノム編集でも遺伝子の挿入ができる。けれども、BやCの場合、これをどう判断するのか。

 ここで規制の考え方と各国の状況を見てみよう。規制には改変された生産物、つまり、結果の方に重点をおく米国やそれを追従する日本のアプローチと、改変プロセスそのものを考慮するEUの規制のアプローチがある。

 前述したBの場合では、日本や米国型のアプローチの基準では規制対象外となる可能性が高いし、Aは規制対象外になってしまう。例えば、米国のシンプロット社は、黒斑ができる遺伝子を抑制したジャガイモを開発したのだが、他の遺伝子が入っていないものは規制にならない。そのため、米国農務省・動植物検疫所は、規制対象外としている。

激しい論争を繰り広げるEUや規制を強化するニュージーランドに対して検討すらしていない日本

 これに対してEUでは激しい論争がなされている。2017年9月28日に、欧州の科学者団体「社会と環境への責任を持つ欧州科学者ネットワーク」が60名以上の科学者の署名とともに以下の声明を発表している。

「食の安全面で問題がある。生態系に悪影響を与えるリスクがあり、厳格に規制すべきである。オフターゲットを防ぐことは困難で、それが生命体にとって大事な遺伝子の働きを破壊し、予想外の毒性やアレルギーを引き起こす恐れがある」

 ニュージーランドでは、2012年に「C」は規制すべきだが、「A」と「B」は従来の育種法と近似しているため規制対象外とするべきと認めた。けれども、NGOが反論した。環境庁が規制法の解釈を誤っているとして高裁に提訴し2014年5月に環境庁の決定は十分な知見集積に基づくものではないと棄却されてしまった。このため、現在、すべてのゲノム編集食品を詳細に調べて行く方針である。

 一方、日本はどうか。国レベルでは本格的な検討すらしていない。政府はケース・バイ・ケースでしていくと非常に曖昧である。

 現在のカルタヘナ法の適用でさえ、対象作物ではなく雑草に影響がでているのであれば、これは問題だが、作物そのものならば問題がないという詭弁に満ちた扱いがされている。けれども、実際には対象植物だけでなく、微生物もみな影響を受けるのである。となれば、AとかBとかわける必要はなく、組換えそのものの影響評価が必要である。

 要するにゲノム編集は、従来の遺伝子組み換え規制を超えている。このため、規制対象外となってしまう可能性があるのだが、人工的な操作によって生まれたものであることには違いはない。このため、私は「新しい遺伝的特徴を有するあらゆる生きている生物」と規定し直す必要があると私は考えている。

ゲノム編集では食品表示が非常に困難となる

 また、ゲノム編集では食品表示が非常に困難になることも問題である。遺伝子組み換え食品の場合では、遺伝子組換え部分の塩基配列データを元に、PCR検査で遺伝子組換えが入っているかどうかをチェックできる。けれども、ゲノム編集では一塩基単位の変異であるために痕跡が残らない。すなわち、検査ができない。マーカーを入れれば良いという意見もあるが、マーカーとして余分な遺伝子を入れることも、余計な遺伝子を加えることになる。

 推進側の見解として、米国では、検出できないから表示も規制も不要であると述べている。けれども、それはおかしい。検出できないものは認めてはならないというのが食品安全規則の原則である。検出できる技術が出来ない限りは、そうしたものは流通させてはならないというのが添加物でも残留農薬でも根本である。検出される技術があわせて開発されていなければならないのだが、ゲノム編集の場合はそれがない。となれば、そうした検査ができないものは応用化してはいけないのではないだろうか。

自然に起きた変異であれば奇形を食べ続けても安全なのか

 また、たとえ、検査方法が確立できたとしても、自然界においては前述したような奇形の生物体は淘汰されていく。自然に起きた変異と同じであるからゲノム編集は遺伝子組み換えではないとの論理もある。確かに、自然界においても稀には起きる。けれども、やはり人工的な操作で作られたものであるに他ならない。その上、奇形種を人工的に食べ続けても良いものか。こうした奇形を食べ続けるリスクもある。

想定外のリスクという問題

 全ゲノムにオフターゲットの変異がないかどうかを比較してみることをやるとなれば、企業側は時間やコストがかかる。このためにやりたくないと主張する。けれども、コロンビア大学が昨年の5月にネーチャーに発表した論文によれば、シミュレーションでは起こらなかったはずのオフターゲットが実際にやってみると色々な場所で想定外のオフターゲットが起きていることがわかった。このことを重く見て、論文では「すべての予期せぬ変異が起きていないかを慎重に検討することが必要だ」との結論を下している。

 実は、モンサントでは遺伝子組換えダイズそのものを食べさせる実験をしていない。本来は組替えたダイズそのものを食べさせなければいけないのだが、それをしていない。そして、実際に食べさせてみたロシアの科学アカデミーの研究によれば、色々な異変が起きていることがわかっている。

 けれども、最初の杜撰で不確実な評価によって、問題がないとされるとどうなるか。驚くべきことだが、最初に安全だと評価すると、その後に、様々なリスクを示す研究結果が明らかになっても、いくら海外でリスクがあると示されても、はたしてその論文が指摘した問題が実際に起きていないかどうかを再評価システムが日本にはない。このため、安全というまま流通が認められてしまうのである。

RNA干渉を日本は安全として認めている

Mello-Fire.jpg ゲノム編集だけでなく、RNAの干渉も問題である。以前は、RNAは単なるDNAからタンパク質が合成されるための遺伝情報の仲介役にすぎず、かつ一本鎖というのが常識であった。けれども、1998年にマサチューセッツ大学のクレイグ・キャメロン・メロー(Craig Cameron Mello, 1960年〜)教授とスタンフォード大学のアンドリュー・ファイアー(Andrew Fire,1959年〜)教授によって、センチュウではRNA干渉という減少が見出され、かつ、2本鎖のRNAが遺伝子発現を制御していることが発見される。2006年には、この業績で二人はノーベル賞を受賞している。

 RNA干渉とは、2本鎖のRNAがいくつかのタンパク質と複合体を作り、相同な塩基配列を持つメッセンジャーRNAと特異的に対合し、切断することによって、遺伝子の発源を抑制する減少である。RNA干渉はさまざまな局面で重要な役割を担っている。ウイルス感染を防御する機能もあれば、ゲノム上を動く遺伝子を抑制し、ゲノムの安定性を保つことにも関わっている。これまで見逃されて来たマイクロRNAという短い2本鎖のRNAが生体内では多数発見されており、多くの遺伝子の発源を調整していることも明らかになりつつある。そして、RNAの干渉機能は、細胞から哺乳類まですべての生物が持っている。発生、代謝、ウイルスの感染防御等、生命維持に欠かせない多くの現象を制御することがわかってきている。バイオサイエンス研究計画の科学者、ジョナサン・R・レイサム(Jonathan R Latham)博士は、「RNAはDNAに比べてはるかに複雑なシステムを持ち、いまだにそれを理解する手段を持ち合わせていない」と述べ、その応用の拡大に警告を発している。

 Jonathan-R-Latham.jpgRNA干渉法とは、2本鎖のRNAをヘアピン形状の前駆体から産生(shRNA)させるか、細胞外から導入(siRNA)する。これが、細胞内では分解酵素による分解プロセスを経て、一本鎖のRNAが標的となるmRNAと塩基対を形成する。そして、mRNA崩壊、あるいは翻訳阻害によって遺伝子サイレンシングが生じて、遺伝子コードを変化させることなく、これをノックダウンさせて、遺伝子を働かなくできるのである。けれども、たとえ、ノックダウンできたとしても、機能を持つRNAやタンパク質の一部は残る。このため、完全な機能喪失とはならず、非特異的な影響があることも考慮しなければならない。

 2017年5月にシンプロット社のジャガイモは、アクリルアミド生成と黒斑形成が起こりにくくしたものである。日本での環境影響評価はされていないので生産はできないが、冷凍ポテトとして輸入ができる。食品の残さを家畜飼料とすることを想定してか、農水省は飼料
としても認可している。また、消費者庁も安全性が確認済みのGMジャガイモとして認めてしまっている。

切っても茶色にならないリンゴが開発されている

 昨年から切っても茶色にならないリンゴが袋に入ってスーパーで並んでいる。カナダのオカナガン・スペシャリティ・フルーツ社が、切っても変色しないリンゴをRNA干渉法で開発し、2017年11月に米国市場で販売が開始されている。

 リンゴの変色は、果肉中のポリフェノールが、ポリフェノールオキシターゼ酵素(PPO酵素)によって酸化することで起きるのだが、このPPO酵素をゲノム編集でノックダウンし、変色しにくくしたものである。けれども、PPO酵素は、微生物、植物、動物に広く存在している。ジャガイモの葉では虫に食われた時に茶色の重合物が虫の口をふさぐ作用をする。植物でこれがどのような働きをしているのかは不明だが、イカの墨もこれが関与しているという。また、昆虫の甲殻を硬くする働きもしている。生物は無駄なことをしないので何か意味があると思っている。

変色しないリンゴにはバーコードでしか表示がない

 さらに、変色しないリンゴがGMであるのかどうかの表示はパッケージに表示されていない。オカナガン社のウェブサイトを見ればGMと書いてあるが、商品にはQRコードがついているだけである。実は米国では各州の住民たちが遺伝子組み換えを表示せよと住民投票したことで州法ができたのだが、連邦法がこれを骨抜きにしてQRコードでも構わないとした。つまり、各州の厳格な制度をパーにした。そんなものをわざわざ見る人はいない。こうしたリンゴが果たして日本に輸出されるかどうかわからない。けれども、そうなった場合、QRコードでも大丈夫とすることになれば、これは要注意である。

ゲノム編集の特許支配を進めるモンサントとデュポン

 遺伝子組換えは多国籍企業が支配するためのものである。これと同じように、モンサントやデュポンは、ゲノム編集でも特許による支配を進めている。例えば、モンサント社は、クリスパー・キャス9技術の基本特許を持つ米グロード研究所とのライセンス契約を結んだ。2017年8月には韓国のバイオ企業、トゥールジェントもライセンス契約を結んだ。一方、これに対してデュポンは、ダウドナの研究室から誕生したベンチャー企業、カリブー・バイオサイエンス社と提携している。

日本はゲノム編集の消費者に

 2018年1月23日に米国は、今後6年で1億9000万ドル(200億ドル)もの研究費をゲノム編集に投じて、EU、中国を引き離す計画を発表した。要するに、米国企業がゲノム編集の特許を推進させている。中国も凄い。

 そして、遺伝子組換えには特許支配が伴う。日本で作られる遺伝子組み換え技術が本当に応用できるのかというと研究者の本音ではすでに米国に負けているという。ゲノム編集も特許を抑えられている中でそれを開発したところで勝てることはない。となれば、日本は輸入を強要される可能性がある。

遺伝子組換えは飢餓問題を解決しない

 また、遺伝子組換え農産物の時にも散々言われたことだが、ゲノム編集が食料増産に貢献し、飢餓問題の解決に役立つという推進側の主張がある。けれども、これは嘘である。いま地球には100億を養えるだけの十分な食料がある。飢餓があるのは、経済的搾取、経済的な分配や戦争の問題である。ただ量を増やせばよいという問題ではない。むしろ、先進国の肉食過多を治した方がいい。

ゲノム編集による産物は有機農産物ではない

 米国の全米有機認証基準委員会は2016年11月に、ゲノム編集技術したものについて、従来の遺伝子組換えと同じように、有機食品としては認めないとする勧告を満場一致で決議した。これは、当然のことである。ゲノム編集も遺伝子操作には変わりはないしリスクがある。安全性の確認がなされていなければならない。

人間は神となって暴走していいのか~求められる慈悲の心

 安全性が確認されていないこともさることながら、社会的に本当に必要とされているのかどうかの合意も必要である。食べる人をおきざりにして、ただ役立つということで応用化されていくことは問題がある。また、家畜の福祉の問題もある。スイスの食品規制では家畜福祉の観点からエビをいきたまま食べては行けないと。命をいただくにしても苦しめてもいけないと規定している。 複雑で深遠な領域、神の領域をわかったものといっていま手をつけている。けれども、微生物由来の遺伝子物質は宿主にとってはインベーダーである。そのようなものが入ってきたときには、生命の装置全体に異常をもたらす。そして、野に放てば自己増殖する。元に戻すことは不可能である。つまり、未知の部分がたくさんあるままで応用化すべきではない。

 原子力もそうだが、「核」に対しては人類がさわるべきではないというのが私の基本な考えである。過去に、1975年に米国のアシロマに28カ国の専門家が集まり、GMOの自主規制を自ら言い出したことがあった。その精神を思い出す必要性がある。

質疑応答

組み込んだゲノムが次世代に継承されるリスクは?

 先ほど全ゲノムを検査し、オフターゲットがないかどうかをチェックする必要性があると述べられたが、何もなかった時に、例えば、そのマダイが育つのだろうか。植物の場合であれば、なんともないことがわかればそういう植物を掛け合わせた場合に、毎回チャックがいるのだろうか。

天笠講師 それは、ゲノム編集のやり方による。セットとしての遺伝子を入れた場合にはその世代限りとなり、次世代にはその遺伝子がいかないというのが研究者たちの見解である。けれども、遺伝子として組み込むと、それが次世代に継承されてしまうリスクがある。今のところは、「遺伝子ドライブ」のようなものを意図的に組み込無ことで、次世代に遺伝子を継承するようにしている。通常の場合はそれをやらないために、その世代限りで、問題がないとされている。

意見 ゲノム編集の危険性をいくら説明してもわからない人には無理である。現在の経済システムはリスクの先にリターンを求める仕組みになっている。消費者の選択もいまの経済システム、マーケティングシステムに洗脳されてしまっている。さらに、危険だからこそ引き寄せられる人たちがいる。彼らは本当には自分が死ぬとは思っていない。むしろ、少しのリスクを冒すことができる有能な人間であるとしての自分に酔っている。不良青年が粋がっているのと同じである。

 また、現在の金融資本は実体経済を上回ってしまっている。このため、実体経済がもて遊ばれている。けれども、なんだかんだ再生可能エネルギーには投資し用途はしない。戦争をやった方が金になるからである。つまり、お金市場主義。深くいうとこれは認知科学の話である。私はこれを「経済依存症」と言っている。そして、いまの経済システムを狂信している。これに楔を打込む必要がある。

質問 先ほど検出ができないから表示も不要だとの見解があると言われたが。

安田講師 そう。国が安全性を認めてしまっている。けれども、その中に何が入っているのかが技術的に検出されることが必要だし、検査ができないものは認めてはいけないはずである。

天笠講師 原料の原産地表示は非常に難しい。遺伝子組み換え食品の表示も油では難しい。そこで、検査できないというのが彼らの論理である。そこで、私は、科学的な検査に加えて、トレーサビリティ、社会的な検査もあるはずだと思っている。原産地がわかれば、どのように作られているのかもわかるからである。

油の遺伝子検出は以前から技術進歩したのに変化していない

Gen-Ohi.jpg安田講師 油の遺伝子組み換えが検出できないという彼らの言い分には大いに異論がある。油の場合には、ほとんどが遺伝子組み換え ほとんどが遺伝子組み換え作物由来だが、政府はほとんどが油脂であって、タンパク質が入っていないから表示不要といっている。けれども、100%の純度の油はなく、ごく微量の不純物が入っている。国会で、以前に、アレルギーの専門家、東京大学の大井玄(1935年〜)名誉教授は、例えば、ゴマ・アレルギーの患者はゴマ油が入っているものは食べられないため、表示すべきだと言っている。そのとおりである。日本では5%までの混入は「非組み換え」表示とすることを認めている。けれども、ヨーロッパでは0.9%である。EU内諸国でも様々な技術者があり0.1%まで検出できる国もあれば、東欧は遅れている。そこで、0.9%としている。ということは、日本政府に対しても「0.9%まで表示せよ」と言ったときに、原料農作物でそれを検出することは技術的には可能なのである。けれども、検査技術は進んでいるのになぜかやらない。技術開発がこの20年で進歩してきたことについては一切ふれない。そこで、我々は、ほとんどのものに対して表示せよと言っている。

質問 米国の他に中国もバイテクが進んでいるとの話であったが、米国ではモンサントがでてくるが、中国ではシンジェンタぐらいであろうか。その裏に中国共産党の世界戦略があるのだろうか。

天笠講師 世界最大の農薬企業であるシンジェンタを中国加工集団公司が買収した。中国は、こうして種子の開発でも世界第三位となった。かくして、植物バイテクにおいて中国は今トップを走っている。モンサント社やデュポン社と張り合っている。また、国営企業ということが大きい。北京には国営のバイテク研究所があり、そこでハイレベルの研究をしている。つまり、中国は研究レベルにおいても、その規模においてもトップの巨大企業になりつつある。

安田講師 日経新聞にも中国がゲノム編集を進めると出ていた。これに対して、日本はコメの全ゲノム解析ができたことから、コメで特許が取れるとして遺伝子組み換えの応用化を研究しているが、その基本特許は米国企業に抑えられてしまっている。つまり、すでに特許戦争で負けている。また、米国には、高い種子を売って農業で支配していく流れもある。

意見 いま特許と言われたが、日本音楽著作権協会(JASRAC)が著作権を集めている。これはいろんなものに特許料をかけるシステムである。例えば、音楽の使用料にかける。けれども、一方では、ドーピングにはかけていない。そこの二重基準が非常にわかりにくい。私も自分で本を書くのにジャスラックのようなことをされると頭にくるが、一人の人間の中にダブルスタンダードがあり、それが上手く利用されている。やはり、今の経済システムに疑いを抱く。

手間がかからないクリスパーキャス9を使う限りオフターゲットは避けられない

質問 オフターゲット。ゲノム操作食品をどのように捉えたらいいのか、ずっと疑問に思っていた。天笠さんは「避けては通れない」と言われたが、別の理系の学習会に参加したところ、科学者の方が「気にしないでもよいレベルにまでいく。完成に近づいている」と楽観されていた。また、オフターゲットがあるからいけないのだろうか。私は、生命が持つかけがえがない遺伝子をいじくることが問わなければならないと思うのだが。

2018012902.jpg安田講師 ごく目先の利益のためだけに介入していくことはやるべきではないというのが私の考えである。人間は、生命の神秘を知り得ない。けれども、それがわからない中でやってしまう。これは、やってはいけない。ゲノム編集にはジンクフィンガーあるいはターレンを使った手法もあるが手間がかかる。標的ゲノムごとの分解酵素を使わなければならないからだ。そこで、研究者はクリスパ―キャス9を使うのだが、クリスパ―キャス9はオフターゲットが起きやすく、それを使う限りは避けられないと思っている。それでも、研究者は実用化に向かっている。しかしゲノム編集の結果を制御することはできない。核廃棄物を無毒にすることができないのと同じである。

医療で遺伝子組換え技術を使うことは?

質問 私は食品で遺伝子組み換えには反対する立場の人間で、消費者運動としてそれが流通するのを止めたいと思っているのだが、世間の人たちには遺伝子組換えは知られていても、ゲノム編集やRNA干渉については知られていない。そして、医療への遺伝子組換え技術の応用は良いことだとして着々として進んでいる。世代をまたがらないのであれば、医療のために、病気の治療で使われるのではいいのではないかと思うのだが。どう食い止めれば良いのだろうか。

安田講師 デザイナーベイビーとか遺伝子疾患の子どもたちを救うための遺伝子組換え技術は良い。医療で使うのは良いという意見が多い。けれども、私は、遺伝子の問題を抱えた人を含めてこの社会の中に遺伝子のプールがあるとした時に、それを誰が引き受けるのかを考えるべきだと思う。例えば、子どもに遺伝子の欠損があったときにそれをどう考えるのか。柳沢佳子さんは著作の中で、その遺伝子プールの中で、社会が引き受け支える。そういう社会を作るべきだと述べている。例えば、以前は駄目だ言われていた遺伝子が実は大切なものであることが後からわかることがある。その一つが鎌形遺伝子である。鎌形の人の血を吸っても栄養分が足りない。そのためマラリアに強いのである。人類が浅はかな知識で、この遺伝子が悪い、この遺伝子が良いと選別することができるのだろうか。あらゆる遺伝子が人類が生存し、環境が変化しても生き延びて世代をつないでいくために備えられているのではないだろうか。ということで、遺伝子治療に関しては私はクエスションである。

質問 まったくわからない中で初めて参加した。実は、今から20年前も前に新宿での遺伝子組換えの学習会で、「人間の感覚を大事にして欲しい」と天笠さんが言われたことをよく覚えている。けれども、今の若い人たちを見ていると、動物的な本能の感覚がないのではないだろうか。今、世界をあげて経済至上主義でデジタル化が進められている。不老不死を目指している。中国でも数日前にクローン猿が完成したとテレビで流されていたが、それを見るとクローンが医学的目的で使われるのは素晴らしいと思えてしまう。そこで、消費者としてはまず表示をきっちりしてもらいたいと思う。

天笠講師 どのように考えたらいいのか。私は古い世代であるので、ゲノム操作については、これは命の操作であって、遺伝子組み換えが成功したときに、直感でまずいと感じた。これは、ヨーロッパ的な価値観でも共有されている。それは神の領域を侵犯することだと思われている。けれども、いま経済の論理がそれを蹂躙してしまっている。そこで、私としては消費者ひとりひとりが素朴におかしいと感じることを大切にしたい。つまり、規制、表示が大事になってくると思う。

安田講師 倫理的な歯止めが必要である。それには変だと思う感覚が大事である。以前に新聞記者を対象に講演会をしたが、誰も書かない時期が続いた。けれども、最初は誰もわからないところでも言い続ける。するとだんだん世間は変わってくる。

天笠講師 いま食品表示を巡って検討委員会が開催されている。1月31日が8回目である。この検討委員会がひどい。消費者の代表とされる人が業界よりの意見で動いている。現在でさえ不十分な制度がさらに改悪される可能性がある。

編集後記

 1月29日、東京の飯田橋で安田節子さんと天笠啓祐氏によるゲノム編集の学習会があるというので参加してみた。天笠氏は「今日はゲノム操作食品の第1回の勉強会である。やはり、知ること。そして、知らせることが大事である。つまり、知る、知らせるの基本に立ち返る必要がある」と語り、その後にどうしたらこの動きに歯止めをかけられるのかを皆さんと議論できればいいと思っていると述べた。

 けれども、参加していたのは、自分も含め高齢者ばかりである。若者がいない。安田節子さんは熱心ではある。けれども、これでは自己満足に終わってしまう。とても、大切なことが語られていると思うのだが、なぜであろうか。

 ひとつ、感じたのは、やはり、反対、反対というかつての運動がもはや若い世代には受けないということではあるまいか。例えば、このブログにアクセスしてくださる若者がいたら「ともかく反対」という市民団体のラジカルで一途な態度には辟易されるのかどうか。是非、聞いてみたい。あえて、反対したり対立軸をあおらなくても、結果として、するりと反対しないですむ「オルタナティブな社会」が実現してしまうのであれば、それにこしたことはないからだ。

 もうひとつ、感じたのは、論理展開の限界である。例えば、安田さんは「自然に変異で生まれるものであっても、奇形なものは自然に淘汰されるはずである。それを食べ続けることは危険だ」と警告する。けれども、この論理を突き詰めれば、米も麦もダイズもすべて自然界で人為的に無理に作り出したものであり、それだけでは自然界で淘汰されてしまう不自然な生き物である。また、不自然なものは食べたくないという直感を大事にしたいという主張も怪しい。

 古人類学からはホモ・エルガスターがアフリカの大地で火を使った料理を始めたことから、脳の肥大化という道を人類が歩み始めたことがわかっている。自然界に存在しない「料理された食」という不自然なモノを口にしたことによって、消化器官への負荷を減らすことができ、脳は肥大することができた。とすれば、脳と腸の関係性はオフトレードである。けれども、腸よりも脳を肥大化させるために、火を用いた食を口にしたことは人類だけの業なのか。人類の縁戚である天才ボノボは言語を学ぶことができ、パソコンを介して人間とコミュニケーションすることが可能となっている。このボノボたちに生食と火で料理した食事を提供したところ、ボノボたちは迷うことなく料理食を食べた。なぜ、こちらの方を選択したのか。研究者がボノボに問いかけると返って来たのは「こっちの方が美味いから」という実にシンプルな答えだった。

 ホノボといえども、不自然な食べ物を食べる欲望には逆らえない。となれば、安田さんの話の論理をつきつめれば、やはりラジカルすぎるということになるであろう。けれども、その一方で、遺伝子組換え派のスタンスもやはりラジカルだし歪んでいる。とりわけ、このブログの文字を叩いていて一瞬目が点になったのは「最初の杜撰で不確実な評価で問題がないとされると、その後に様々なリスクを示す研究結果が海外で示されても、その問題が本当に起きるのかどうかを再評価するシステムがなく、安全なままに流通が認められてしまう」という安田さんの発言である。これがもし、本当だとすれば大変なことである。例えば、1928年にフレオンガスが発明されたときには、それは安全な夢の物質とされた。けれども、1970年代にオゾン層の破壊が問題となると、さしものデュポン社もあらがえず現在では規制されているではないか。海外がモントリーオール議定書等で規制する中、日本だけが「過去に安全と認めた以上、再評価はしない」と主張して冷蔵庫で使い続ければ、この国の指導者は頭が狂っていると諸外国からあざ笑われるのが関の山であろう。本当かどうか安田さんに確認してみたい。

 話を元に戻す。印鑰智哉氏は、アインシュタインが感じたであろう核の脅威を今の若い研究者は感じないと憂える。私は印鑰氏とも世代的に重なるのだが、当時は、科学のあり方や倫理性が本当に問われたりしていた。ヨーロッパにはまだ神の領域を超えてはならないというキリスト教的な歯止めがあるという。けれども、日本の仏教はその歯止めにはならない。原発にすら文殊や普賢の名が付いている。それでは、無邪気にDNAやRNAをいじくり回す若き研究者たちが、とりわけ、スピリチュアルな伝統がない日本の研究者たちが、安田節子さんが評価するアシロマ会議のようなメンタリティを持つ可能性はあるのであろうか。

 私は、ひとつの可能性はまさに操作対象となっている「微生物」にあるのではないか、と思っている。微生物、とりわけ、腸内細菌が人間の健康に影響していることはほぼわかりつつある。そして、その健康は「マインドの健康」でもある。腸内細菌の働きで迷走神経が活性化すれば、大地とつながり、「生きとし生けるもの」に慈悲心をいだく先住民のマインドが呼び起こされる可能性もある。そのとき、本当の「動物福祉」が実現されることであろう。

arjuna.jpg もうひとつは、印鑰智哉氏が指摘していたように「微生物」が土壌等を通じて地球のバランスと保っていたことを改めて、「科学的」に理解してみることである。かつて、ジェームズ・ラブロックは「ガイア仮説」を提唱してみせた。けれども、今は、地球がそれほど「優しくない」こともわかってきている。土壌と海洋という薄皮のような生きた「皮膚」が、この地球を荒涼とした砂の惑星にならなくしていることが、過去の地質学的な歴史研究から判明しつつある。微生物を始めとした無数の生きとし生けるものたちの「皮膚」としての働きが科学の言葉で見えて来たとき、「今 この星の上に生きる奇跡」という地球少女アルジュナの副タイトルが、無邪気に核をいじくり回す科学者たちにもリアリティをもって琴線に響いてくるに違いない。 
(2018年1月31日投稿)
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posted by José Mujica at 07:00| Comment(0) | GMO | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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