2018年06月30日

GMOフリーゾーンの緑の枢軸を築こう

国民の懸念の声と多国籍企業の種子独占への不安からプーチンGMOを否定

Elena-Sharoykina.jpg 2016年7月、ロシア連邦のウラジミール・プーチン大統領は、試験や科学研究で使用する以外、遺伝子組み換え動植物の栽培や繁殖を禁止する法律に署名した。事実上、この法律は、世界最大のGMOフリーゾーンとして、有機農業の発展のための大きなプラットホームをロシアに提供する(1,2)

 人間の健康や環境に対するGMO食品の長期的なリスクに関しては信頼のおける科学的な研究の欠落している。ロシア政府によってなされたこの決定は、環境団体や農業者他のロシア社会の代表たちの懸念する声も影響している。さらに、遺伝子組み換え種子の世界市場が、多国籍企業、そのほとんどが米国、ドイツ、スイスに拠点をおく企業に独占されており、クレムリンは国家食糧安全保障も明らかに考慮している(1,2)

GMOから離脱したがるEUvsGMOで世界支配を目指す米国

 多くのEU諸国は、米国とは異なりすでにGMOへの規制を適用している。それは、ロシア連邦が現在実施しているものと類似している。EU諸国のうち、5カ国、スペイン、ポルトガル、チェコ共和国、スロバキア、ルーマニアだけが遺伝子組み換え作物を栽培している。けれども、そこでも、徐々にGMO作物の作付け領域を減少させ始めている(1,2)

 米国は、そのバイテク会社の意向を受け、EUの農業セクターを征服して、それをグローバルなGMO市場の一部としようと試みている。この不適当な結びつきはトランスアトランティック貿易や投資協力(TTIP= Transatlantic trade and investment partnership)と公式には呼ばれ、マスメディアはそれを『経済NATO』と呼んでいる。GMO問題がTTIPをめぐる交渉プロセスの主な争点のひとつに見えることは興味深い(1,2)

 2016年9月中旬、この議論の中に、ドイツ化学製薬巨人バイエルが660億ドルの乗っ取り取引において米国のモンサントを買収することに同意すると発表された(1,2)。バイエルとモンサントとの合併が発表されたのは、この文脈においてなのである(2)。米国とEUの規制当局が合併を承認すれば、それはこれまで世界が目にしなかった『大西洋を超える怪物』を産み出すこととなろう。そして、この新企業が、私たちが何を食べるのか、どのような医薬品を飲むのか、そして、どのように農業を経営をするのかで全世界に命令を下すことになる(1,2)

 この合併は、世界バイテクと医薬品市場のさらなる独占へとつながる。庶民である消費者、あるいは各国の利益の見地からしても、かかる巨大な多国籍企業をコントロールすることは極めて難しい。独占企業は対話をすることを受け入れず、市場に一方向的なアプローチを強いるであろう…(2)

 いったいこの合併劇の背後には何があるのであろうか。そして、それは、ロシアやヨーロッパ、あるいはそれ以外の世界の誰しもにとって何を意味するのであろうか。それをこの劇の主要人物、バイエルとモンサントを見ることから探ってみたい(1,2)

化学兵器企業バイエルはウォール街の資金援助で巨大化

Antony-Sutton.jpg バイエル1863年に設立され、設立当時は、咳止めのヘロインとアスピリンで知られていた。現在、同社は広範にわたる農薬、製薬、医療品を製造しており、同社の一部門、「バイエル穀物科学」は、遺伝子工学分野の研究を行っている。

 バイエルが歴史的に『死の産業』であることはさほど知られはいないが、第一次世界大戦と第二次世界大戦中に同社はドイツの化学兵器メーカーであった。同じく、米国との『特別な関係』のほぼ百年についてもほとんど知られてはいない。傑出した歴史家、スタンフォード大学のアンソニーC.サットン(1925〜2002年)教授によれば、I.G.ファルベンは、ウォール街からの資金援助で、バイエルを含めた6つの既存のドイツの巨大な化学会社からハーマン・シュミットによって1925年に結成された。

第二次大戦後にバイエルは西側の軍需産業体と癒着する

Hermann-Schmitz.jpg「20年後、I. G.ファルベンが犯した戦争犯罪のためハーマン・シュミッツはニュルンベルグ裁判で取り調べを受けた… 。だが、I. G.ファルベンの米国側の系列企業やI. G.そのものの米国の責任者は静かに忘れ去られた。真実はアーカイブに埋められた… 。ウォール街からの資金供給がなければ、I. G.ファルベンはまず存在せず、アドルフ・ヒットラーと第二次世界大戦もなかったことはほぼ間違いない」。サットン教授は著作『ウォール街とヒトラーの隆盛(Wall Street and the Rise of Hitler)』でこう書いた(1)

 第二次大戦後に、再びバイエルには『科学的な可能性』で需要が生じる。けれども、今度は、ナチスがNATO軍司令官に取り替えられた。西側の軍産複合体とバイエルとのつながりは、実際には決して終わらなかった(1,2)

原爆研究と枯れ葉剤に関わっていたモンサント

 二番目の登場人物、米国企業モンサントは、遺伝子組み換え種子や遺伝子組み換え作物用の農薬の生産で有名である。バイエルと同じく、1901年に設立された直後から、モンサントは軍事プロジェクトに深く関係していた。オハイオ州にあるそのデイトン研究所で、マンハッタン・プロジェクトの一部として、ポロニウム・ベースの最初の中性子起爆装置が造られた。それらは原子爆弾で使われ、米国はそれを広島と長崎に落とした。

 ベトナム戦争中には、モンサントは米陸軍のオレンジ剤を最も多く供給した。それは化学兵器として使われ、ほぼ300万人が影響を受け、50万人が殺された(1,2)

過去は、未来を語る。バイエル、モンサントと「死の産業」

 言い換えれば、バイエルやモンサントは、非常に変わった企業なのだと考えなければならない。それは旧世界と新世界における最大の化学産業・バイテク産業であると同時に、ある意味では、軍需産業グループを完全に代表している(1,2)

「モンサント」と「バイエル」の西側の軍産複合体とのつながりが過去のものだと信じることはナイーブであろう。「バイエル」は、ワクチンの開発や製造の世界的リーダーである。けれども、ほとんどの場合、ワクチンはバイオ兵器プログラムのコインの裏側である。珍しいウイルスに対するワクチンを製造することはウイルスそのものを必要とする。そして、後者の見返りは、バイオ兵器エージェントの基礎となる。

 その一方で、「モンサント」には遺伝子工学技術がある。『バイオ戦争とテロリズム(Biowarfare and Terrorism)』の著者、米国のイリノイ大学ロースクールのフランシスA.ボイル(1950年〜)教授は、企業は米国のバイオ兵器プログラムと深く癒着していると述べている。

 これは何を意味するのであろうか。まさに、これは1例だが、致命的なウイルスの原種を遺伝子組み換えすれば、超兵器を得ることができる。そして、自然の既存の免疫は機能せず、開発者だけにそのためのワクチンがある。ヒトゲノムの飛躍的な発見とバイオ情報科学研究は、特定の遺伝情報のキャリヤーにだけ影響を及ぼすというバイオ戦争をリアルなものとする。

 グローバルな独占企業は、あなたが口にされる食ベモノの遺伝子の組成とあなたが接種するワクチンの化学組成を同時に決定するのだが、私たちはこのすべてを信頼することができようか?(2)

ヨーロッパ市民の願いを裏切って米国にしてやられたEU官僚

 このため、この合併問題はただ経済的な見解からだけではなく、現在の米国とEUのパワーバランスを反映した地政学的な問題としても評価されなければならない(1,2)

 私からすれば、これは乗っ取りではない。新たな多国籍構造を創り出すバイエル-モンサントとの合併なのだ。もし、このことが真実でなければ、ワシントンとブリュッセルとの関係ではEU側の影響力がかなり高まるであろう。けれども、それはリアリティとは完全に異なる。しかも、米国の外交政策におけるGMOの重要性を考慮に入れれば、ドイツ人ではなく、ホワイトハウスこそがこの莫大な資産を手にすることを想像することは難くない。明らかに、この二大巨人の合併劇の舞台裏には、米国とEUとのTTIPの交渉プロセスがある。そして、ブリュッセル側は、議論の余地があるいささかの問題に関する『撒回』と引きかえに、グローバルなバイテク産業のおこぼれを獲得した。一方で、モンサントは米国企業からヨーロッパ企業へと商標を変えることで、GMO生産でEU市場を開くことを期待している(1,2)

 例えば、最初の620億ドルの申請が2016年5月にバイエル側からなされ、これがモンサントによって断られたことを思い出させてほしい。けれども、2016年8月にドイツとフランスのリーダーによりなされたTTIP上の交渉が実際に失敗したとの声明の後、突然、コンセンサスに達したのだ。ロシア人と同じく、圧倒的多数のヨーロッパ市民は、GMO農業が広がることに対して明確に反対する態度を打ち出している。したがって、こうしたコンセンサスは、ヨーロッパの官僚たちによる公共益に対する裏切り行為である(1,2)

ヨーロッパへの侵入する準備をしているモンサントのGMO

 この合併は、とりわけ、ヨーロッパにおけるGMO規制への高まる圧力や、TTIP他の多国籍貿易協定に対する高まる反対に対するある一種の反撃と言える。こうした協定は、現在交渉中だが、国を超える先例なき権限を私企業に提供することとなろう。食べ物や健康といった最もセンシティブなエリアでさえも、国家の規制・管理する役割を実際に無効化してしまう。それらは、健康、そして、人間の遺伝子の安全性にとってさえ大変なリスクと言える(2)

Árpád-Pusztai.jpg 私の見解からすれば、GMOの使用問題は、予防原則に基づかなければならない。GMOが生きた生物の健康や環境にとって安全であることを、これまで誰1人として証明していない。いくつかの独立した研究、例えば、英国ロウェト研究所のアルパド・プシュタイ(1930年〜)博士、フランス・カーン大学のジル=エリック・セラリーニ(1960年〜)教授、オーストラリアのフリンダース大学のジュディ・カーマン教授、そして、ロシアの全国遺伝子安全協会他は、哺乳類でガン、不妊性、内臓の劣化、免疫系抑制他の深刻な健康リスクを示している。けれども、GMOの生産者は問題となっている研究に専念することに急ごうとはせず、不快な実験を繰り返している。そのかわりに、GMOのロビーは、彼らの仕事を批判して信用させないよう独立した研究者を攻撃する。フランスのセラリーニ教授に対する攻撃がそのケースである(2)

露、仏、独の緑の枢軸〜大陸規模でのGMフリーゾーンの構築

 米国企業の圧力を受けながらも世界の数少ない『緑の要塞』のひとつであったヨーロッパの没落は、ロシアにとってもトラブルを意味する。『遺伝子が組み換えNATO』が我らが国境に近づいており、私たちの生物的、遺伝子、食料の安全保障を脅かしているからだ。もし、米国がGMOでのEU市場の自由化を達成することに成功すれば、ロシアも必然的に人間の健康や環境にとって安全ではない領域への進出から保護されなければならないであろう。この場合には、モスクワは、EUにとってある種の先例なき「農業の鉄のカーテン」「ダブリンからウラジオストックまでのグリーン・スペース」を構築しそうである。つまり、ヨーロッパの農産品輸入に対するラディカルな規制の導入だ。けれども、この「グリーン・スペース」を夢みるかわりに、私たちは、ヨーロッパにおいて新たな境界線、環境における地政学を得ることもできる(1,2)

 ロシアとEUの農業におけるGMOの使用を規制する現行法律は非常に類似している。相互の制裁や規制にもかかわらず、いまだに十分に多い取引高のレベルを維持しており、将来にそのドアを開くキャパシティを保っている(2)

 私は、ある日、いささかの奇跡で、堕落しているヨーロッパの官僚が、国家的にまっとうな指導者とおきかえられることを信じたい。それは可能だし、私の見解ではこれがロシア国民にもヨーロッパ人にも必要なのだ。そして、手遅れにならなければ、私たちはパリ・ベルリン・モスクワにおいて「グリーンの枢軸」を構築するであろう。そして、私たちの協同の努力は、大陸スケールでGMOフリーゾーンの境界を拡大していく。旧世界において農業の伝統を保護して、有機農業を拡大し、持続可能な発展の原理に従って世界経済を改革していくことが可能となる。けれども、ヨーロッパ人たちにはその奇跡を待つ余裕があるだろうか(1,2)

編集後記

 去る6月24日に埼玉県比企郡小川町で「種子法廃止と種苗法改正の問題点について」と題して、山田正彦元農相の講演会が開かれた。ロシアの反GMOについても元農相は言及されたが、「ロシアは、すでに有機農業へのシフトを決断していて、これに中国も同調しそうという情報も衝撃だった。それに比べて、日本は時代に逆行している印象です。まずは、たくさんの人に現状を知ってもらうことが大切だと感じました。『農業は産業ではない。命をつなぐのが食料』というあたりまえの言葉が心に残りました」との感想が寄せられた。山田元農相は少しアジテートしすぎなのではないか、と批判される方もいる。けれども、ネット検索すれば「現実にフィリピンでGMO米を作付けされるくらいならばロシアから有機米を輸入しよう」あるいは「有機農業で自給を目指したキューバは熱帯の島だし、何でも栽培できる。だが、こうした恵まれた条件はそれ以外の世界にはないという批判に対して、人口も多く、米国よりも国土が広く、工業国で、かつ、温暖な気候にも恵まれていないにもかかわらず、機械も家畜も用いず、国民の食料需要の半分を有機農業で賄っているキューバ以外の事例があるとすれば、それは小規模でローカル農業が人類を養えるとのオルタナティブ・モデルを実証するうえで十分なのではあるまいか」というブログが見つかるほどプーチン脱GMOや有機農業宣言は話題を呼んでいるのが現実なのである。

 問題は、簡単に英語でゲットできる情報がなぜか日本語のメディアには乗らないことだ。プーチンは傑出した指導者だし、怪物ではある。けれども、国家をあげてのGMOの規制というのはただ1人ではできない。ロシアの動きの背後には、GMOは入らないという強力な空気があるに違いない。それが、ダーチャの文化に根ざす自然と調和したいという気質が「アナスタシア」ブームを引き起こし、GMO汚染と戦うヒーローというSF小説がベストセラーとしているのであろう。では、そうした価値観を持つロシアからは、いまのこの世界はどのように見えるのであろうか。ということで、ロシアを代表する反GMOジャーナリスト、エレナ・シャロイキニさんの論文をまとめてみた。

 モンサントとバイエルの合併劇の背後には軍需産業の癒着があるという「陰謀論」的な史観の是非はともあれ、「露、仏、独による緑の枢軸」とは実に壮大なビジョンだし、勇気がでてくる。私は種子法廃止問題から、関心をもっているのだが、こうしたグローバルな視点がないと、バクロステレビの主演者で社会的に影響力もある著名なU医師の「種子法は都道府県の閉鎖的な利権構造なのだから、廃止は大歓迎」という見解になってしまう。

 確かに、ロシアの脱GMO情報に対しては、ネット上で一番ヒットするのは、イリノイ大学の研究者による「プーチンの謀略に乗るな!これは米国内を混乱させる陰謀である」との情報である。

 浅学非才の一介のサラリーマンには「何があおりで、何があおりではないのか」をひとつひとつ判断するだけの力量はない。とはいえ、「イリノイ州立大学というのは多国籍企業から献金をもらう御用学者が多いのです」と京都の地球環境研のマックグリービー准教授は個人的に教えてくれた。マックグリービ准教授とは一緒に有機弁当を食べたりもしている。その中で「この人はいい人だ」と感じている。頭脳の分析よりも、そうした皮膚感覚での直感の方が真実に近づけることは、最先端の脳神経科学からも次第に明らかになってきている。ということで、最終的な判断は読者諸兄が各自でやっていくしかないのだが、拙ブログのネタも玉石混淆の情報のひとつとしてあなたの世界の見方への一助となれば幸いである。
(2018年6月30日投稿)

【人名】
アンソニーC.サットン(Antony Cyril Sutton)教授の画像はこのサイトより
ハーマン・シュミット(Hermann Schmitz, 1881〜1960年)氏の画像はこのサイトより
フランシスA.ボイル(Francis A. Boyle)教授の画像はこのサイトより
アルパド・プシュタイ(Árpád Pusztai)博士の画像はこのサイトより
ジル=エリック・セラリーニ(Gilles-Eric Seralini)教授
ジュディ・カーマン(Judy Carman)教授

【用語】
ヘロイン(heroin)
バイエル穀物科学(Bayer Crop Science)
I. G.ファルベン(I. G. Farben cartel =Interessen-Gemeinschaft Farbenindustie AG)
デイトン研究所(Dayton laboratory)
中性子起爆装置(neutron initiators)

【引用文献】
(1) Elena Sharoykina, Moscow Bans GMO: Russia, the World’s Largest GMO-free Territory, Platform for the Development of Organic Agriculture, Global Research, September 29, 2016.
(2) Elena Sharoykina, Europe – “Green” Alliance with Russia or experimental field for genetic Monsters?, Defend Democracy Press, Oct20, 2016.


posted by José Mujica at 12:46| Comment(0) | GMO | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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