2018年07月12日

種苗法改正問題〜SBCラジオJポイント

力強い大規模農業を推進するために種苗法は改正される

 姉妹ブログ、アグエコ堂の2008年6月4日付の「タネとラジオ」では、真実を伝えることの重要性について書いてみた。そして、SBCラジオ(信越放送)の「Jスポット」というコーナーが「種子法廃止」の問題を連続してとりあげていることについてもふれた。

 4月30日に第一弾ということで山田正彦元農業大臣がインタビューに登場したのだが、6月4日には第二弾ということで種苗法の改正問題が放送され、「日本の種を守る会」の事務局アドバイザー、印鑰智哉氏が出演した。そして、7月9日(月)も第三弾ということで、種苗法の改正問題が放送されている。8時15〜30分まで15分ほどだが、コンパクトに種苗法改正の問題がまとめられており、かつ、農家の生の声も聞ける。ということで、この放送の一部をテープ起こししたものを紹介しておこう。

Masaaki-kubo.jpg まず、なぜ種苗法が改正されていくのか。その背景を久保正彰アナウンサーがコンパクトに紹介している。

 それによれば、TPP=環太平洋パートナーシップ協定の関連法が参議院本会議で可決成立し、そこに、大規模農業を推進していく考え方があるからだという。5月15日の日本農業新聞は1面で「海外に日本の種子が流出するのを防ぐために『種苗の自家増殖原則禁止へ転換・法改正を視野に』と伝えた。ちなみに自家増殖とは自分で育てた苗から種を取ったり、接ぎ木をしたりして増やしていくことだ。これが禁止されるとなると大変なことだ。という前段をふまえたうえで、取材を進めている生田明子アナウンサーが登場する。

農家が自家採種できなくなることは消費者に直結する大問題

 生田アナウンサーによれば、前回の6月4日の放送後も多くの農家からメッセージが寄せられたという。そして、一人、南信地域の60代の農家の声が以下のように紹介される。

「私は、野菜を作り直売所等で販売をしている農家です。農家の経費の中でも種代はかなりのウエイトを占めています。「F1」という一世代しか作れない種は毎年購入していますが、それ以外は自家採種をして農業を続けています。自家採種が出来なくなると、メーカーとお店が潤うだけで、益々農家は大変になってしまいます。確かに海外や地域外へ持ち出され日本の農家を脅かす事例も聞いてはおりますが、それは国が農家を守りながら、種を守ることを考えて頂きたいと思います。大変奥が深く私にはなかなか理解が出来ない問題ですが、農家のおいさんの一言を書かせて頂きました」

 確かに、イチゴであれば、赤くて美味な新品種を開発するには、専門知識や技術も必要だし、長期にわたる労力や資本が投下されている。開発者がその権利を主張したくなる気持ちもわかるし、当然のことだ。けれども、農家の立場からすれば、それは困るということだ。そこで、生田アナウンサーはこのメッセージをよせてくれた農家の方を訪ねてきたという。仮に自家採種が禁止になったとしたら、どれほどの費用がかかるようになるのかの現場の生の声を伝える背景に計算機で計算する音が入るだけに実にリアルだ。

「私の場合は落花生をちょっと作っておりまして、昨年も3000本作っておりますので、苗の場合は一本300円程で販売されているのでこれで90万円になってしまいます。種だと20万円弱に。ゆきづまっていて今でもやっとこやっとこやっているのに、やらんほうがよくなる。いまでもやっとこやっとこやっているので、私も野菜好きで土にこだわってやってきたんで、野菜を買ってくれるファンの人にも申しわけない。農家の立場にたって法律もきめていただきたいと思います」

 まあ、農家が困るのはわからないでもない。とはいえ、それは、種子を買っている農家の問題であって、例えば、このブログをいまお読みになられているあなたが農家でなければ、それは他人ごとではないかとも思いたくなる。けれども、久保アナウンサーがここで鋭い突っ込みを入れる。

「自家採種ができなくなると経費がとてつもなくあがり、ひいては、消費者にしわ寄せがくる。ということですか」

 そして、生田アナウンサーがこう答える。

「自家採種ができなくなれば、十分に考えられます。そして、あまりに収入と支出があわないとなれば、農業に携わる人も少なくなっていくでしょうし、そうすると私達の食糧はどうなってしまうのだと心配がつきません」

 なるほど。さすがに鋭い。そう。自家採種ができるかできないかは消費者の暮らしにも直結してくる大問題なのである。

声をあげなければ種子の権利が奪われるかもしれない時代

Tomoya-Innyaku.jpg そして、この種苗法の改正に向けた動きについて、日本の種を守る会事務局アドバイザーの印鑰智哉氏が再び登場する。氏はこう語る。

「農水省はすぐにこれを法案にするつもりはないということを話していて、今すぐそういった動きになっていくに関してはまだわかりません。農水省はアンケートを出して自家採種している人があまりにも多い時には、それは混乱を引き起こしますので、農家の現場を混乱させないようにしながらやっていくという姿勢を取っています。これは逆に言えば、農家の人たちがこれでは困ると声をあげなければどんどん自家採種が禁止される可能性は僕はありうると思うんです。ですから県が開発した品種は、ちゃんと使わせてください。自家採種させて下さいということは、声としてあげていくことはこれからも必要になっていくと思います」

 生田アナウンサーがさらに補足する。

「付け加えてお伝えしたいのは、改正の動きがある「種苗法」について、全ての種を自家採種禁止ということではありません。種を取ることが禁止の対象となるのは、主に「登録品種についてのみ」です。登録品種とは品種登録という制度があり、「種苗法」に基づいて新しい品種を農水省に登録したもののことをいいます。開発した育成者の権利を保護する制度です。そして、地域にある伝統野菜は対象外となっています。農家が対象で、販売しない家庭菜園レベルであれば問題はないということです。そしてこれは国内法であるということ。海外への流出はまた別の条約で決められているということです。さらに、品種登録は企業が行ったものもありますし、それから我々の税金が使われた「県」などの公共機関が登録したもの」と両方があるということです」

 なるほど。実にわかりやすいし、安心もできる。素晴らしい補足解説だ。どこか残っていた隔靴掻痒感もすっきりした。とはいえ、このくだりを聞いていて、同時になんとも言えない不快感が残ったのは、ナチス勃興期の マルティン・ニーメラー(1892〜1984年)牧師の以下の有名なフレーズを思い出したからだ。

Martin-Niemöller.jpg「ナチが共産主義者を襲ったとき自分はやや不安になった。けれども、結局自分は共産主義者でなかったので何もしなかった。それからナチは社会主義者を攻撃した。自分の不安はやや増大した。けれども自分は依然として社会主義者ではなかつた。そこでやはり何もしなかった(略)。それからナチは教会を攻撃した。そうして自分はまさに教会の人間であつた。そこで自分は何事かをした。しかし、そのときにはすでに手遅れであった」
丸山眞男訳、「現代における人間と政治」(1961年より)

 私なりにコピペをしてみよう。

「自家採種が禁じられると農業新聞に記事がでたとき自分はやや不安になった。けれども、自分は何もしなかった。それから、農家が声をあげなかったため自家採種の権利が奪われると聞いた。自分の不安はやや増大した。けれども自分は農家ではないし、『家庭菜園では大丈夫』と聞いていたのでやはり何もしなかった(略)。それから自家採種したタネの種苗交換会を開いていた友人が投獄された。自分の家庭菜園のタネはこの交換会からもらっていた。そこでやっとこれが他人事ではないとわかった。けれども、そのときにはすでに手遅れであった」

いのちを特許化するのか贈与するのかという思想戦の時代

 久保アナウンサーはまた別の50代の男性からのメッセージを伝える。

「植物が種を残すことは自然の摂理であり、それを利用して農業をすることは農民、農家の基本的人権だと思っていました。さらにどんな影響が出ようとしているのか、私たちの生活は心配ないのか。世界の動きはどうなのか。続けて番組で取り上げて欲しい」

 生田アナウンサーは「こちらのご意見に対しても、再び印鑰さんの考えをお聞きしました」ということで、印鑰智哉氏が再登場する。

「種を開発した企業の権利がどんどん主張されていく中で、一方で農家の権利。これもそれにあわせて認めていくことをやっていかないとおかしいと思うんです。EUでは有機農業がもう爆発的に増えていまして、有機農業をさらに発展させようと。ドイツでは3倍にしようという意欲的な施策を取っています。その有機農業を伸ばすためには農家の種を生かさなければだめだということになりまして、今年の4月にEUはその施策を2021年から農家に種の売買を認めさせるという決定をしています。その意味でも制限するということだけでなく農家の種の権利を守ろうということも世界で動いていますので、日本も本当はそちらのほうもしっかりやっていくべきだと僕は思います。例えば、在来種保護法とかね。そういったものを作って自家採種の権利、種苗法が扱わない種をとる、農家が持っている権利をそういったものを保障するような法律が僕は作っていくべきではないかなと思っています」

 この印鑰氏の発言はやや難しい。けれども、生田アナウンサーがわかりやすくこう続けて解説をしてくれていた。

Akiko-Ikuta.jpg「科学技術や医療技術が進歩する中で、今世界では食をめぐって2つの考え方がせめぎあっていると言われています。ひとつ目は、食材も種も苗も医療もセットでビジネスにして「知的財産」にしていこうという考え方です。今日、ご紹介した種苗法のお話、そして、遺伝子組み換えの作物はこちらにあたると言われています。

 もうひとつは、人間も地球上の、ひとつの生き物である以上は、気候や風土を無視して生きられないという考え方です。有機農業ですとかアグロエコロジーという環境に配慮した農業はこちらの考え方になります。種子も「ある企業」の知的財産ではなく、みんなのもので特許化できないという考え方なんですね。種子を知的財産権としてとらえるか、それとも農家や、もしくは人類の共有財産として育んでいくか、両方のバランスが必要なのではないかと思います」

編集後記

 生田アナウンサーのバランス感覚には共感できるものがあるし、「アグロエコロジ―」という言葉は海外ではメジャーだが、日本のラジオで登場するのは初めでではあるまいか。なお、この放送はすでに終わっているが、7月15日(日)まではこのサイトで聞くことができる。なお、パソコンのブラウザCookie を有効にしないと聞けないことがあるのでご注意を。

 ちなみに、姉妹ブログ、アグエコ堂の2008年7月1日付の「三つの幸せ~情報発信とタネと贈与経済」でも書いたが、まさに声をあげなければならなければ大変なことになるし、逆に口コミでこうした情報を伝えることが、庶民が唯一できるレジスタンスだ。日本国中央政府の「パブリックコメント」は有名無実化していると印鑰智哉氏は憂えるが、SBCのような民間企業であれば、リスナーからの反響があればあるほど、こうした番組が続いていくことにつながるだろう。良い番組であれば誉める。碌でもない番組であれば叩く。さらに、報じるべき情報を報じなければ「何をしておる。しっかりせいっ。社会の木鐸としての矜持を忘れたか」と気合いを入れる。こうしたことが本当に必要な時代だと思う。

 なお、Nagano農と食の会の吉田百助氏が種子法廃止や種苗法改正の問題点についてわかりやすくまとめている。ご関心ある方は以下のリンク先からPDFファイルでダウンロードしていただきたい。
(2018年7月12日投稿)

【画像】
久保正彰アナウンサーの画像はこのサイトより
生田明子アナウンサーの画像はこのサイトより
印鑰智哉氏の画像はこのサイトより
フリードリヒ・グスタフ・マルティン・ニーメラー(Friedrich Gustav Emil Martin Niemöller)牧師の画像なこのサイトより


posted by José Mujica at 06:00| Comment(0) | 講演・学習会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください