2018年08月21日

在来種を保全しよう〜SBCラジオJポイント

日本のタネが危ない~TPP11による国際化はタネの多様性を喪失させる

 日本の多様なタネを守ってきた「種子法」が2018年4月に廃止され、日本農業は大きな転換点にさしかかっている。SBCラジオ(信越放送)の「Jスポット」というコーナーは「種子法廃止」の問題を連続してとりあげている。4月30日の第1弾では山田正彦元農業大臣が登場し、6月4日の第2弾では「日本のタネを守る会」の事務局アドバイザー、印鑰智哉氏が出演した。7月9日の第3弾では、種苗法の改正問題で再び印鑰氏が登場した。

 さる、8月20日、第4弾ということで、在来種保全が放送された。8時15〜30分まで15分ほどだが、コンパクトになぜ在来種の保全が大切なのかがまとめられており、かつ、それを実践している方の生の声も聞ける。ということで、この放送の一部をテープ起こししたものを紹介しておこう(1)

 まず、なぜタネの問題が重要なのか。その背景を久保正彰アナウンサーがコンパクトにこう紹介する。

「TPP11で日本の農業は国際化にむけて大きく変わろうとしています。ラジオJでは、4月からこの農業にまつわる法律の様々な改正にむけた動きをお伝えしてきました。4回目の今日も、取材を進めている 生田アナウンサーです」(1)
Masaaki-kubo.jpg 「前回は、いま声をあげなければ自家採種、自分が育てた野菜から種を取ってまた植えることが、禁止されてしまうかもしれないという話題をご紹介しました。今回は、在来種、地域で育てられてきた種を守る取り組みを6年も前からされている池田町のご夫婦を紹介します」

 前述したとおり、種子法廃止が廃止されたのは今年の4月。廃止が決まったのも昨年だ。「最近かと思ったのですが、ずいぶんと前ですね。6年も前ですか。なぜ、ご夫妻は在来種に着目されたんですか」と久保アナウンサーが率直な疑問の声をあげる(1)

いま、野菜の9割は海外産

 そこで、生田アナウンサーが野菜のタネのほとんどが国内産でなくなってしまっていることを指摘する(1)。

「家庭菜園用に販売されている野菜の種、袋の裏には生産国が書いてありますが、約9割が外国産となっているのですが、ご存じでしたか?」

「確かに、夏野菜を植えようと生田さんに言われて種苗店に行ってみるとブラジルとかが書いてあって驚きました」

Akiko-Ikuta.jpg 「そうなんです。インゲン、ホウレンソウと身近な野菜も外国産なんです。そして、農林水産省のホームページを見てみると『国内で売られている多くの野菜の種は、日本の種会社が開発した種。種を生産するための条件がよい場所が外国だったので、外国に親種をもっていって交さ配させて種をとり、日本へもってかえってきていると記載されています。

 それに対して臼井健二さんと朋子さんご夫婦は、農薬も肥料も使わない自然農法をされているのですが、こういった意見をお持ちなんです」(1)

 生田アナウンサーが指摘するとおり、いまホームセンターや種苗店で販売されている野菜の種は、9割が外国で生産されたものだ。それも「一代交配種」=F1種が多く、その種は翌年撒いても実がならない。農水省は「知的財産権の保護」の観点から、今後新たに企業が開発した種の自家採種を禁止していく方針だともいわれる(2)

 そこで、臼井夫婦のインタビューが入る。裏にアブラゼミの鳴き声が入る。夏の現場で取材したばかりだというリアリティ感がある。

朋子さん 今の種はほとんど外国産で。その土地でとっていると、そこの土地にあった種ができていくんだけれども毎回買っていると、よその土地の基準にあっているのがあるし、本来は、自分たちの種は、自分たちの場所でとるということをしていったら、その土地に根差した種で強い種がどんどんできていくっていうふうに思います。

健二氏 種がなければとにかく作物は実りません。種があって大地があって地水火空風すべてに支えられて僕らはきっと生きていると思うんですね。その根源が一つの種だと思うんですね。そして、みんなを幸せにするのが種だと思うんですね」(1)

タネバンクを作り480種もの野菜を保存する

2018082101.jpg 生田アナウンサーはさらにこう続ける。

「お二人は、昔は地域の種をとることがあたりまえだったのに、いまは種を毎回、それも外国産のタネを買うことがなんだか変だなぁと感じられ、種バンク=種の銀行というのを作られたんです」

「種の銀行?!あまり聞かないですね」と久保アナウンサーが首をかしげる。そこで、「初めて聞くという方も多いと思います。6年前に作られたという種バンク。ご主人の健二さんに案内して頂きました」と生田アナウンサーの現場取材が始まる。ギーという扉の音が鳴る。とんがり屋根の小屋の扉を開くと壁際の棚に様々な形の種が入った瓶が並んでいる。

「中には無数の瓶が、そして種が」

臼井氏が瓶を振る音をバックに説明がされる。

2018082104.jpg「これはオクラですね。ここにヘチマもありますね。これはズッキーニ。そういえば少しずつ音が違いますね。これはかぼちゃですね。へへへ。480ぐらいある」

500近くもある。こんなに多くの種を集めてどうするつもりなのか。久保アナウンサーが首をかしげる。それに対して、「では続けてこちらをお聞きください」と生田アナウンサーが次の現場取材音声を披露する。このあたりのやりとりがいい(1)

タネは無料で贈与する

「この種は販売しているんですか」

 生田アナウンサーの問いかけに対して臼井氏は驚くべき返事をする。

2018082102.jpg「いいえ、すべて無料なんです。無料で貸し出して、そしてできたら2倍にして返してもらおうと。種の銀行、種バンクですね。2倍って高利貸しですよね。でも、種って一粒が何千倍。お米の場合は300倍になるわけです。そのうちの2粒を返してもらえればいいわけですから。それほど自然界では高利貸しではないんですね。そういう意味で自然ってたくさんの恩恵を僕らに与えてくれているような気がします」

「種銭(証券投資等、お金を殖やそうとする時、もととする金銭)という言葉もありましたけれども、2倍にして変えてしてもらうんですね」と久保アナウンサー。

「たった2倍でいいんですね。無料というのも大らかですが、さらに気前がいいのは、もし万が一失敗して種が、とれない時は、とれないでもいいんだと。借りたほかの誰かがまた2倍にして返してくれるから…と。銀行という言葉を使っていますが、利子や返済に追われるお金とはずいぶん違いますね」(1)

 臼井夫妻はなぜ、これほど気前がいいのであろうか。「お二人の思いをお聞きください」との生田アナウンサーの促しとともに朋子さんの地声が流れる。
2018082103.jpg「種についてはとったら何倍にもなって増えるじゃないですか。だから喜びなんですよ、種をとることは。そしてそれをたくさんとれても全部撒くことができないから、みんなとわかちあうことができる。ただであげても「惜しい」と思わないでしょ。みんながまたそれを育ててくれることで、もし自分のところで種がとれなくても、だれかが育ててくれているから、またもらうこともできるし。そうやって種をみんなで保存していったら、いい種がどんどん残っていくし、私たちも種を買わなくてもみんなが持ってきてくれた種で種をまくことができる。それが一番かもしれない。

健二氏「いつも種があるから」

朋子さん「すごい豊かですよ」

健二氏「ふつうタネは買いにいかないといけないからね」

朋子さん「全国各地から興味をもってきてくれる。いろいろな珍しいものも集まってくるし」

健二氏「たくさんの人が集まると、たくさんの情報がありますね。そんな情報が集まるのも、種バンクのよさかもしれませんね」(1)

 健二氏はさらにこうも言う。

「種は一人でずっと抱えていると劣化します。みんなで分かち合うと、後で何千倍にもなって帰ってくるんです。年に5回ほど開く『種カフェ』での種の交換会では、東京からも人がやってきます。種を通じて、人的ネットワークも広がりました」(2)

バクグラデシュでの種子バンクとの出会いから在来種確保を始める

 健二氏、朋子さん夫妻がシードバンクをはじめたのは2012年のことだが、臼井氏がシードバンクの存在を知ったのは、訪れたバングラデシュでのことだったという。臼井氏は言う。

「バングラデシュは有機農業が盛んで、国内だけでシードバンクが50カ所、米の品種は3000種も保存されていました。種を集めて預かり、それを倍にして返していた。そうしてできた農産物の方が土地に合っていておいしかったのです」

 バングラデシュでは1960年代に「緑の革命」と呼ばれる農薬・化学肥料を用いた近代農業が始まり、作物収量は2倍になった。

「ですが、機械化で仕事がなくなったり、環境悪化で魚もいなくなったり、農薬の影響か皮膚病が発生したりと、マイナス面もたくさんありました。農産物の種も自家採種していたものが、だんだんと毎年買わなければならなくなってしまったのです」

 その体験をもとに夫妻は「種センター」を始める。帰国後に種の交換会も始めた。種を倍にして返す仕組みもバングラデシュから取り入れられたのだ(2)

贈与的世界から見た種子法廃止と種苗法改正の異様さ

「なるほどね。タネを無料で使って頂くとまた無料でもどってくるんですねと。長野県ではおすそわけがありますよね。自然に与えられたものということで、実だけでなくタネもわかちあっていくと。自分で全部独占しないで、みんなでわけあう。わかちあう。これって本当に素晴らしい文化だと思うんです」

と久保アナウンサーが賛同するのだが、生田アナウンサーのわかりやすい補足説明がとても重要なので、改めて全文をきちんとテープ起こしして書き留めておこう。

「種には、もともとそれぞれの土地に根差した「固有種」、「在来種」があったのですが、現在は大企業によって「大量生産しやすく、流通する時に運びやすい等、改良された「F1(エフワン)と呼ばれる品種」が多く出回っています。このF1の種は、一度しか実らせることができず、そこから種をとることはできないので、毎年種を買う必要があるのです。また9割が外国産ということは、もし万が一、種子の輸入が途絶えれば、日本ではほとんど野菜が作られなくなってしまうということもありうるわけなのです。ですから、ここに種子バンクがある大きな意義のひとつに「大企業の種」に頼らない農業を行うためというのがあります。夫妻は実はバングラデシュで種子バンクに出会ったことからこうしたことを始められたのですが、インドやバングラデシュだけでなく、ヨーロッパですとかラテンアメリカをはじめ世界中で盛んになっているんですよね。私たちの食はすべて種によってできています。言い換えれば種は私たちの命です。臼井さんの活動は、私たちの食の自由を守ること。地域に支えられた農業をまもること、種と食の多様性を増やす活動。そこに着実につながっていくものではないかのかなと取材をしていて感じました」(1)

 臼井氏は、種子法の廃止や種苗法の自家採種禁止に向けた動きについては、こう語る。

「本来「種(たね)」に特許はあってはいけないような気がします。というより自然界ってすべてがあたえられている。その中でぼくら人間は生かされているわけで、自然のそんな法則にのっとってこんな種が皆なでわかちあえるっていうような形でいるのが一番自然の本来の姿のような気がするんですね」(1)

「自然界は、種が落ちれば芽が出て実がなるもの。新しく開発した品種の保護はあってもいいと思いますが、企業はその自然界の法則まで開発したわけではありません。本来、農産物の著作権は自然界にあるのですから」(2)

編集後記

 このブログの内容に関心を持たれた方はタネの画像を引用させていただいた「5分でわかる種子法廃止の問題点。日本人の食を揺るがしかねない事態って知ってた?」を訪れることをなによりも薦めたい。明解な文章で種子法の問題を見事にさばいて見せている。短い文章ながら、山田正彦元農相、印鑰智哉氏、そして、今回登場された臼井氏と三人が揃って登場しており、いずれも「タネ」のキーパーソンであることを教えてくれる。

 米国でラウンドアップで「癌」になったと訴えていた末期患者の訴えが受け入れられ、320億円の賠償が命じられたという衝撃的なニュースをほとんどの日本の大手メディアが報道しないこと一点を取ってみても「マスゴミ」という、どちらかといえば、わたくし的には使いたくないフレーズも喉元にまででかかってしまうのだが、こうした素敵な情報発信を見るとある種の清涼感を覚える。著者の宗像充氏は存じあげないし面識もないのだが、ネットで検索してみると、長野県大鹿村在住のジャーナリストらしい。なんと、過疎地ではないか。情報の構造も東京から地方へとシフトしているのだろうか。そんな副産物的な感想もいだいた。

 さて、余談はさておき、ということで、宗像充氏の痛快な文章を読まれたうえで、以下の私のたわいもない床屋談義におつきあいいただきたい。

 「本来の著作権は自然界にある。みんなを幸せにするのが種だと思うんですね」という臼井氏の言葉。「地域に支えられた農業をまもること、種と食の多様性を増やす活動」という生田アナウンサーの発言。ラジオから流れる音声を聞き流すだけだと「ふーん。まぁ、そうだよなぁ」程度でスルーしてしまうのだが、活字として書き留めておくと、実は、ここには、最先端の保全生態学(アグロエコロジ―)と腸内細菌叢と生理学、脳神経科学の知見がすべて詰め込まれていると思うのだ。

 7月9日の第3弾で、生田アナウンサーは、「科学技術や医療技術が進歩する中で、今世界では食をめぐって2つの考え方がせめぎあっている。食材も種も苗も医療もセットでビジネスにして「知的財産」にしていこうという考え方。種苗法改正や遺伝子組み換えの作物の動き。もうひとつは、人間も地球上の、ひとつの生き物である以上は、気候や風土を無視して生きられないという考え方。パーマカルチャーやアグロエコロジーのように種子も「ある企業」の知的財産ではなく、みんなのもので特許化できないという考え方がある」と指摘されている。Steven-McGreevy2.jpg

 ロンドン大学のティム・ラング教授は著作『フード・ウォーズ』(2009)コモンズでまさにこうした対立軸を描いてみせる。総合地球環境学研究所のスティーブン・マックグリービ准教授もこの図式に共感して、印鑰智哉氏と同じように、GMO農業VSアグロエコロジ―という対立構造から世界のフードの見取り図をわかりやすく語ってくれたのだが、米国出身だけに実に面白いエピソードを披露してくれた。

Ayn-Rand.jpg 米国人に最も影響力を与え、米国で一番売れている書物といえば、いわずとしれた『聖書』なのだが、二番目がアイン・ランドの『肩をすくめるアトラス』なのだと言う。アイン・ランド女史は、日本ではほとんど知られていないが、グリーン・スパンや元レーガン大統領を含め、彼女の著作に影響された人々は数知れず、米国のリバータリアニズム、いわゆる新自由主義の理論的ベースとなっているという。そして、私が調べた限りでは、アイン・ランドは、慈悲心を一切欠いた「サイコパス」だったのだ。

 ここから、非常に興味深いことが見えてくる。米国最大のベストセラーは『聖書』だ。そして、その事実上の著者、イエス・キリスト氏は、アガペー(慈悲心)にあふれた人物だった。死後にも再生できる程の超能力を備えた「グル」でありながら、人類の苦悩を一身に背負って磔にまでなったのだから、その利他心は正真正銘であって並大抵のものではない。一方の米国の第二のベストセラー作家、アイン・ランド女史は、これとは正反対の利他心を一切欠いた人物だ。つまり、イエス氏にも通じるであろうパーマカルチャー・在来種保全・「贈与」というワンセットの思想群と、ランド女史にも通じるであろうGMO農業・種子法廃止・種苗法改正・「知的財産化」というやはり一群の思想グループとの対立構造は、ベストセラー第1位の不動の人気作家、イエス氏VS第二位のベストセラー作家、ランド女史というマインド構造、なぜか、人類が持つ二つの思想的なアトラクター(落としどころ)、善か悪か、光か闇か、腹白いか、はたまた腹黒いかへと読み換えることができるのだ。

 さらに、面白ことがある。この6月末にカリフォルニア大学ロサンゼルス校のエムラン・メイヤー教授の『腸と脳』紀伊国屋書店が翻訳出版されたのだが、その中には、実に興味深いことが書いてある。

Buzz-HollingS.jpg アグロエコロジーや生態学では、外的撹乱を受けても、どれだけ生態系が安定性を維持できるのか。同時に破壊された生態系がどうすれば復活できるのかが重要な役割をはたすのだが、この復元力、レジリアンスをベースに生態系の安定性にフロリダ州立大学のバズ・ホリング名誉教授が、斬新な理論を提唱したのは1970年代のことだった。同時に、バズ・ホリング名誉教授の凄みは、生態系には二つの安定状態があることを指摘したことだ。

 簡単にイメージできよう。ひとつは、多くの生物が繁殖し多くの食物連鎖がある魚豊かなすんだ湖だ。そして、もうひとつは、数少ない生物種、例えば、アオコや赤潮だけが繁殖した富栄養化した湖だ。イメージ的に後者は悪とされているし、米国の近代農業のツケを一手に背負わせれたメキシコ湾もデットゾーンが出現しているのだが、生態学システム的に見れば安定している。

 そして、ある生態系が別の生態系へとシフトするには、レジリアンスが重要なのだが、この復元力はシステムを構成する生物種の多様性で決まるのだ。ここまではいい。エコロジー、保全生態学の常識だからだ。

David-A.Relman.jpg けれども、スタンフォード大学のデヴィッド・レルマン教授によれば、腸内細菌もヒトの腸内で生態系を形成しており、これには二つの安定状態があることがわかってきたのだ。善玉菌がいる健全な状態と悪玉菌がいる病的状態だ。まさに、ホリング名誉教授の指摘どおりではないか。というか、レルマン教授はホリング名誉教授が見出した原則を腸内細菌にも適用することで研究を進めたのだ。

 それだけではない。私が参加した野口法蔵師の坐禅断食会では「皆さん、腹黒い生き方は止めて腹白くなりましょう」と言われた。これは、言葉遊びではない。坐禅断食によって真っ黒な宿便、悪玉菌が排出されると、それ以降、善玉菌に腸内生態系が占拠されたのか便の色は白くなり、それとともに身も心も清々しくなってきたのだ。

 健全な腸内細菌は健全な心身を維持する。禅の悟りも慈悲心も腸内細菌が作り出す神経伝達物質、セロトニンに大きく左右されているとの説もあるのだが、腸内細菌が乱れると慈悲心を失って利己的になる一方で、腸内細菌が健全化すれば慈悲心がほとばしりでて利他的になるとすればどうであろう。人間が持つ二つの思想的なアトラクター(落としどころ)、善か悪か、光か闇か、腹白いか、はたまた腹黒いかは、腸内細菌が決めており、腸内細菌は幸せと直結することになる。

 さらに、さすがは米国。グリホサート(抗生物質)によって砂漠化し悪玉菌だけが繁殖するようになってしまった生態系を、健康な食べ物のインプット(食物繊維豊かなマメや野菜中心の食生活)とデトックスによって回復させる実験もなされている。予想どおり、腸内細菌は健全化した。善玉菌がいる健全な生態系へとシフトした。けれども、成功しないケースがあった。なぜか。繊維は難分解性の物質である。いかな腸内細菌といえども誰しもが処理できるわけではない。ある菌が先陣を切って厄介な繊維を分解するための突破口をまず開き、それが出来れば、他の微生物がその副産物をさらに別の化合物へと次々と分解していく。けれども、元に戻らない被験者の腸内では、細菌の多様性が失われ、食物繊維を分解するための橋頭堡を築く切り込み隊長、いわばキーストーン種がいなくなってしまっていたのだ。自然生態系と同じだ。レジリアンスがなくなっていたのだ。

 Landscape.jpgさらに、驚くべきことがある。米国型食生活をしている人たちの腸内細菌叢を伝統的な狩猟採集民のそれと比較すると30%も多様性が少なかった。これは1970年代から失われた地球上の生物多様性の喪失率30%と奇しくも一致する。いま、人類のカロリーの80%は12種類、90%はたった15種類だけの植物から得られている。その内実も寂しい。1903年から1983年にかけ、キャベツの品種は544から28へ、ニンジンは208から21へ、カリフラワーは158から9へと減少している。食の単純化は農業の画一化も進める。そして、近代農業が食の画一化とタネの画一化を進める。

 けれども、ここに大きな矛盾がある。誕生以来、ずっと細菌と緊密な共生関係を育んで来た多細胞生物の腸と脳は、人間を含めて、まだ細菌なしに生きられるよう進化していない。人間の腸も脳も、多様な種類の食べ物を消化・分解しているようにできている。ホモ・サピエンスは誕生以来、野草から木の実から果実から虫からキノコからありとあらゆるものを食べてきたし、その腸内細菌もその食べ物とずっと一緒だった。多様性に富んだ腸内細菌叢と共生した健全な内臓があってこそ、健全な心身は維持される。多様性に富んだ腸内細菌は多様性に富んだ食によってのみ維持できる。多様性に富んだ食は多様性に富んだ農業によってのみ維持できる。そして、多様性に富んだ農業は多様性に富んだタネによってのみ維持できる。

 おわかりだろうか。種と食の多様性を増やす活動。タネがみんなを幸せにするという今回の発言は、まさに正鵠を射ていたのである。

(2018年8月21日投稿)
(「編集後記」を2018年8月21日に改正)
【画像】
久保正彰アナウンサーの画像はこのサイトより
生田明子アナウンサーの画像はこのサイトより
三角屋根の画像はこのサイトより
タネの画像はこのサイト、「5分でわかる種子法廃止の問題点。日本人の食を揺るがしかねない事態って知ってた?」より
臼井夫妻の画像はこのサイトより
アイン・ランド(Ayn Rand)女史の画像はこのサイトよりバズ・ホリング(Buzz Holling)名誉教授の画像はこのサイトより
デヴィッド・レルマン(David Relman)教授の画像はこのサイトより
腸内細菌の生態系の3次元画像はこのサイトより
【引用文献等】
(1) 2018年8月20日、 モーニングワイド ラジオJ
(2) 2018年6月26日宗像充「日本の農業が危ない。種を保存する「シードバンク」に取り組む人たち」週間SPA


posted by José Mujica at 06:00| Comment(0) | 講演・学習会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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