2019年09月24日

化学薬剤で処理するファストな技術はSDGsになじまない?・中

はじめに

 2018年4月に「種子法」が廃止されて以降、SBCラジオ(信越放送)の「Jスポット」というコーナーは、「種子法廃止」の問題を連続してとりあげてきたのだが、どうやら、売られているのは「タネ」だけではないらしい。改正水道法が10月1日から施行されることを受け、「Jスポット」は、「持続可能な水道」をテーマに3回シリーズで水道問題を扱うという。ということで、9月2日に放送されたものに続く、第二弾。この放送の一部をテープ起こししたものを紹介しておこう(1)

スローな水の浄化法はメリットが多いのに普及していない

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久保正彰 さて、自治体の水道事業に民間企業が参入しやすくなる改正水道法。来月10月1日から施行されます。法律の施行を前に、改めてこの飲み水、水道について考えていますが、スタジオは生田明子アナウンサーです。おはようございます。

生田明子 おはようございます。

久保正彰 1回目の前回は、緩やかな速度と書く「緩速ろ過」という浄水技術について紹介してくれましたが、今朝はどんな内容ですか。

生田明子 はい。今回は、急速濾過という浄水技術について紹介します。その前に、久保さんがおっしゃったまず前回のおさらいなんですが、前回紹介した緩速濾過は、砂の層に水をゆっくり通すことにより、濁りを取り除くだけでなく、藻、バクテリア、プランクトンですね。藻をはやしまして、藻やそこにすみつく微生物の働きによって水を浄化するという技術でした。「濁度」という濁りを計る数値は0.000度を示していました。

久保正彰 薬も電気もほとんど使わなくて、それから費用もあまりかからないということでメリットがたくさんあるように思うのですが、数を比べると少なかったんですよね。もっと広がってもいいのかなと思うのですが。

生田明子 はい、長野県内の年間浄水量でみてみますと「緩速濾過」は9.8%。一方、28.8%を占めるのが、急速濾過という浄水処理技術です。どんなふうにして浄水しているのでしょうか。急速濾過システムを取り入れている県営水道、上田市にある諏訪形浄水場を取材しました。案内して下さったのは、長野県企業局、上田水道管理事務所の浄水係長、軣廣人さんです。

凝集剤と濾過池の二段階で水を浄化するシステム

軣係長 水が到着する井戸と書いて、着水井(ちゃくすいせい)という設備になります。ここでは薬品を二つ入れてまして、臭い取りのための活性炭と、汚れを静めるための「凝集剤」、イメージ的には液体糊を想像していただければと思います。

生田明子 こんな言い方してはなんですけども、ほぼ泥水みたいな。

軣係長 そうですね。台風も過ぎ去った後ですし、昨日とかも雨が降りましたので、ちょっと川が濁ってる状況でしたので、今こんなに茶色の状態になってます。で、これちょうど、凝集剤の効果で汚れが沈みやすくなったということで、これが2、3時間経ちますと、汚れが完全に沈んで、この上の部分がきれいになってるんですが。

生田明子 わぁ全然違いますね。無色透明の水になって。

軣係長 この薬がないとこんなに綺麗にならないということですね。

生田明子 この工程だけでは、まだ飲める水にはなっていませんので、このあと、急速濾過池、「ち」は池と書きますが、濾過地と呼ばれるプールの中に70 cmの砂の層と20cmの砂利の層がありまして、そこに水を通過させるということでした。

緩速濾過の4倍の速度で水が浄化できる急速濾過

chindenchi1-suwa.jpg生田明子 その早さが急速濾過の名前の由来でした。時間的に1分あたり急速濾過は、8cm。比べまして緩速濾過では、1分あたり、3mmということで、速度については約25倍のちがいがあると。で、これは、「濾過池」の砂の層を水が通過するスピードを比べたものなんですね。川から入ってきた水が処理されて浄水場を出るまでは、急速濾過の諏訪形浄水場は、およそ6時間。前回お話を伺いました緩速濾過の染谷浄水場の場長は「一日程度」とおっしゃっていました。

 比べてみると急速は、緩速の4倍の速さということになるんですが。

久保正彰 6時間と24時間ですものね。

生田明子 県営の上田水道からは、上田市、坂城町、千曲市方面に水を送っているので、1日に多くの水を処理しなければならないと。そこで、一日あたり、処理できる量が多いことから、急速ろ過を採用しているということでした。ちなみに、ろ過した後の 浄水濁後は 「0.01度」とのことでした。

メカが多いため故障が起こり敷地も必要とする急速濾過

久保正彰 急速濾過は、早く浄水できるということが最大のメリットなのでしょうが、一方で デメリットはどうなんですか?

生田明子 再び、軣さんです。

轟係長 急速濾過方式は、機械の数が多くなります。ですので、あと10年20年経ってきますと機械を取り替えなければいけないということがございますので、緩速濾過に比べますとその部分が費用がかかったりですとか、故障の率が高いということがデメリットになるかと思います。

生田明子 そして、もうひとつデメリットと言われているのが広い敷地です。単純に敷地の広さを比べますと緩速濾過の染谷浄水場の方が広いのですが、諏訪形の急速濾過の上田水道管理事務所の上空からの写真をご覧ください。

久保正彰  はい、手前に真っ黒なプールのような場所があるんですが。

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生田明子 さきほど 活性炭という黒い粉末と、凝集剤=「ポリ塩化アルミニウム」を混ぜて、水の濁りを沈めていると紹介しましたが、その沈殿物を乾燥させているのがこの黒い部分「天日乾燥池」です。9カ月から1年間、天日で乾燥させて、土壌改良剤として再利用していますが、乾燥させるために広い敷地が必要なんですね。

久保正彰 写真でみますと浄水施設とほぼ同じだけの面積が必要ですね。

生田明子 そうですね。また、この天日乾燥池を敷地内ではなく、浄水汚泥を別の場所に持っていて処理しているという浄水場もありますが、いずれにしても、処理するための施設が必要になります。

緩速濾過は実際にはもっと早く浄化できる可能性がある?

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生田明子 最後に、今日の放送した染谷の緩速ろ過の処理スピードについて、信州大学の中本信忠名誉教授は、今言われているよりも、実際はもっと早く、4時間から6時間できれいな水ができあがっているという研究結果、調査結果を示しています。だとすれば、大変画期的なことです。染谷浄水場で処理スピードの検証がなされるべきだと考えます。

ということで、2回にわたり、水道の濾過の違いについて紹介してきましたが、次回は、改正水道法で懸念される民間企業の参入について考えます。

久保正彰 はい。この改正水道法はこの10月1日ということですね。生田 アナウンサーでした。

編集後記

 災害があったときにどうするか。被災地で恐ろしいのは伝染病の蔓延である。ゴミが収集されなければ腐敗する。塩素殺菌されなければ飲み水も汚染される。けれども、倒木で道路が封鎖されていれば給水車も来ない。こうした状況の中で電気や薬剤がなければ動かない『急速濾過』システムは、災害に弱い。つまり、普段は効率的に見えても、いざというときには持続性がなさそうな気がしてくる。

 もうひとつ気になったのは、水道の沈殿物が土壌改良材として販売されていることだ。もちろん、浄化された有機物を大地に還元するという意味では素晴らしい。けれども、大量の廃棄物が生じることには他ならない。ウィキペデイアを見ても、緩速濾過と比べて、管理が大変である、味や香りの問題に対して効果がない、大量のヘドロが廃棄物として生じる、凝集剤を購入するための費用が継続的に必要とされる、原水の化学薬品処理が必要とされる、管理監督に高度な技術が必要とされる、管理コストが高い、細菌を取り除くことはできないとデメリットばかりが並ぶ。

 唯一のメリットは早いことなのだが、これも中本教授の見解によれば差がないという。となれば、ますます急速濾過法を採択するメリットが見えなくなってくる。それでは、なぜ、緩速濾過法は普及しないのか。

 技術はさておき、人材育成という面からストレートに切ってみたい。つまり、端的に言えば「技」を持った職人の育成に失敗したからだと言える。

 グローバル・スタンダードとは、すべてに応用が効くレシピさえ作っておけば、素人でも対応できるマニュアル人間を大量に育成することである。一見するとハイテクに見えても、投下薬剤の量から流速までメカがコントロールしてくれれば、たとえ職人がいなくても浄水場は運営できる。

 これに対して、微生物に依存する緩速濾過法は生き物である。いま、水がどんな状態なのかを見抜く職人の目と、微生物の状態に応じて迅速に対応できる職人の「技」が必要とされる。それは、中本教授のような「名人」から伝承されるべきものであって、マニュアルは通用しない。

 と、ここまで書いてきたところで、緩速濾過法がまさにアグロエコロジーと同じであることに気がついた。アグロエコロジーは生態系を読み解き、生態系がうまく作動する環境を整えることによって安全な食べ物を生み出す技である。同じように、緩速濾過法も微生物生態系の状態を読み解き、微生物生態系がうまく作動する環境を整えることによって安全な水を生み出す技ではないか。アグロエコロジーの技を駆使できる職人は「百姓」として尊敬されるべきだと私は思っているのだが、であれば、これと同じく、緩速濾過法の技を駆使できる職人も命の守り手、「水の匠」といっていい。

 「将来なりたい職業は?」と子どもに問いかけてみよう。マニュアルどおりに動き、つねに代替えが効くメカ工場の部品と、その土地特有の風土の水の「特性」を読み解いて、余人をもって替えがたい浄水池の「守り人」のどちらになりたいかを問いかけてみよう。おのずから答えは明らかではないか。

 以下のサイトも参考にされたい。中本名誉教授の凄みがおわかりいただけよう。けれども、残念ながら、信州大学には、中本名誉教授の後継者はいない。まさに、日本の貧しさを象徴する事象と言えるだろう。子どもたちが憧れる「粋な職業」を復活させたい。
  (2019年9月24日投稿)

【画像】
久保正彰アナウンサーの画像はこのサイトより
生田明子アナウンサーの画像はこのサイトより
中本名誉教授の画像はこのサイトより
急速濾過浄化地の記事の画像はこのサイトより

【引用文献等】
(1) 2019年9月23日、 モーニングワイド ラジオJ



posted by José Mujica at 07:00| Comment(0) | 水道民営化 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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