2020年02月27日

ラウンドアップの安全性、国会質問さる

はじめに

 20200227Hideaki-KarakiS.jpgラウンドアップに関しては、元農林水産大臣、山田正彦氏が著作で危険であると警告する一方、加計学園系列の倉敷芸術科学大学の元学長、公益財団法人食の安全・安心財団理事長でもある唐木英明東京大学名誉教授が危険をあおるのは風評であるとして、緊急シンポジウムを開催しているところである。

20200227Yoshinori-khonS.jpg 昆吉則氏もラウンドアップは分解されるため作物に影響を与えないと力強く強調する。こうした中、2020年2月25日衆議院予算委員会第六分科会において宮川伸衆議院議員がラウンドアップに関して国会質問を行ったので、動画をベースに質疑応答をテキスト起こししてみたので、関心ある方は是非、必要な部分をコピペして活用していただきたい。なお、画像は以下のリンクから抜粋したもので国会質問とは無関係である。また、議論の流れをわかりやすくするため、編集子なりの見出しも付けてみた。

日本の農薬使用量は英国の3倍

20200227Shin-MiyagawaS.jpg宮川伸 立国社の宮川伸でございます。どうぞ、よろしくお願いいたします。今日は食の安全について、特に農薬、除草剤、グリホサートに関してお伺いしたいと存じます。

 特に2017年にグリホサートの残留基準値が大幅に緩和されました。私はこのように大きく緩和をされたのが、我が国にとってプラスにはなっていないのではないかと思っておりまして、そういったことも含めて、今日、大臣としっかりお話ができればと思っております。

 まず、最初に農薬全体に関してですが、日本は欧米諸国に対して農薬をたくさん使っていると聞いております。具体的に例えば、イギリスと比べて、日本はどれだけ農薬をたくさん使っているのでしょうか。農水省お願いします。

20200227Yutaka-Arai.jpg新井ゆたか消費安全局長 農薬の使用量は適正に使用することを前提としておりますけれども、気候条件等によって国によって異なると認識しております。お尋ねにありました日本と英国との比較でございますが、FAOが取りまとめております単位面積あたりの構成成分ベースの農薬使用量の取りまとめによりますと、最新2017年では1haあたり日本におきましては11.8kg、イギリスにおきましては3.2kgということでございますので、日本の使用量は英国の約3.7倍ということになります。

宮川伸 お配りした資料、皆さんよくご存知なので今更なのですが、欧米に比べまして日本が使っている農薬の量が多いと。この多いというのは非常に大きなポイントだと思うので、最初にご指摘をさせていただきました。そのうえで最初にもうしあげました除草剤。グリホサート。これがどういう状況なのかということでありますが、グリホサート製剤、例えば、ラウンドアップ。これが増えていっていると私は聞いておりますが、例えば、2010年度比に比べて、いまグリホサートの使用量はどれだけ増えているのでしょうか。農水省お願いいたします。

新井ゆたか消費安全局長 農林水産省におきましては毎年農薬の出荷実績の統計調査を実施しております。この調査結果に基づきましてグリホサート製剤に含まれる有効成分の割合を計算いたしまして合計いたしますと、構成成分ベースでの国内出荷量がでてまいります。この10年間で最も少なかった2013年(その後、2010年に修正)が4149トンでございました。最新の2018年は6179トンということでございまして、約2000トンの増加となってございます。

宮川伸 ありがとうございます。お配りの資料2という資料、レクを受けた資料と若干違いますが、いずれにせよ増えていると。ただでさえ農薬を使用する量が多いのに、それにもかかわらずグリホサートの使用量が増えているということでございます。そうした中で大臣にお伺いしたいのですが、大臣も前に答弁に立たれているのでご存知だと思うのですが、増えていることに対してどのように農水大臣として思われておりますでしょうか。

20200227Taku-EtohoS.jpg江藤拓農林水産大臣 製剤の段階になったら農林水産省の管理のもとに入るということをまず申し上げたいと思いますが、農薬につきましては、やはり農家の方々が選択をする。これがまず一義的にあると思っております。選ばれるからにはその有効性が農家によって評価されているという側面があるのではないかと思っております。農家におきましては非常に高齢化も進み、そして、就業人口等も減っているという残念な実態がある中でですね、除草効果が高い。省力化にも資するという意味で、選択されているという結果がこういう数字で出ているのであろうと受け止めております。

2017年にグリホサートの基準値をあげたのは国際的な整合性を図るため

宮川伸 私としては残念でですね、増えているのもしようがないという答弁であったかと思いますが、私はただでさえ農薬を多く使っている日本においてこれ以上増えない努力をしていく必要があると思っております。私は国が「もっと使っていいよ」というようなメッセージを送っていることに問題があると思っております。例えば、2017年にグリホサートの残留基準値が大幅に緩和されました。なぜ、これを大幅に緩和したのでしょうか。厚労省お願いいたします。

20200227Kazunari-Asanuma.jpg浅沼一成生活衛生・食品安全審議官 お答えいたします。農薬グリホサートの残留基準につきましては、使用可能な製剤を追加することに伴い農林水産省から基準値設定の依頼があったことから、食品安全委員会のリスク評価も踏まえ、実際の使用方法による残留濃度の結果及び国際機関でありますコーデックス委員会で定める食品に基づく国際基準により改正を行ったところでございます。

 今回の残留基準値の改正につきましては、食品によっては残留基準値が従来よりも高くなった食品がある一方で、低くなったものもあり、一概に基準値が高くなったものではございません。以上でございます。

宮川伸 いま、下がったものもあるということでありますが、増えたものは400倍にまで増えているわけでありまして、減っているものがあることは私も承知しておりますが、増えているものは相当増えていることを強調しておきたいと思います。そのうえで、色々な人から話を聞く中でですね、米国等の海外から食品を輸入しやすくするためにこの基準を緩めたのではないかと聞くこともありますが、そのような判断材料があったのでしょうか。厚労省お願いします。

浅沼一成大臣官房生活衛生・食品安全審議官 お答えいたします。消費者の健康を守るため、国産品であれ輸入品であれ、科学的に安全性が確保されたものでなければ流通が許されないというのが食品衛生上の大原則でございます。グリホサートの残留基準につきましては、2005年の11月以降、改正されていなかったことから、その間に改正された国際基準の反映や適正に実施された残留農薬の試験の結果を踏まえ、国際的な基準設定の考え方に基づき、2017年10月に基準値の改正を行ったところでございます。なお、食品安全委員会の食品影響評価等の科学的な根拠に基づきまして、人の健康を損なう恐れがないように基準値を設定していることから、問題が生じることがないと考えているところでございます。

グリホサートは農家が使いたいから使っているのか

宮川伸 大臣、いまの答弁をお聞きだと思いますが私はよくわからないのです。なぜ一番多いもので400倍も基準値を緩めているのか。緩めた理由がよくわからないのです。大臣にお伺いしたいのですが2017年にこの基準値を緩めたことで日本の農業はどのようにプラスになったのでしょうか。農水大臣としてお答えいただけますか。

江藤拓農林水産大臣 残留基準値を大幅に緩めたことによってですね、プレスにしろマイナスにしろ日本農業に影響がでたことはないと思っております。対象作物によりあがったものもあれば下がったものもあるということは先ほど厚労省の方から照会がありましたけれども、基準値につきましては内閣府における食品安全委員会のリスク評価に基づいて厚労省が人の健康にリスクがないように設定を行っていると。製剤になった後は農林水産省の方で管理をするということであります。重ねて大変に恐縮ですが、この残留基準値は国産の農産物だけではなく輸入品も対象にして、科学的根拠に基づいて改められたものだと認識しております。

宮川伸 もう一度確認をしたいのですが厚労省がグリホサートの基準値を決めておりますが、製剤。実際に使うのは製剤なわけで、グリホサート製剤が使われていると。そして、基準値を緩めたけれども、日本の農業にとってはプラスもマイナスもないと。すると、基準値を変えなくてもよかったと。そう大臣はおっしゃられているのでしょうか。

江藤拓農林水産大臣 最初にもうしあげましたとおり、農家によって選択をされているからグリホサートの使用量が増えておると。営農活動において一定の効果があるから使用量も増え、選択枝として使用されておると。ですから、プラスかマイナスかということで、農家の立場でいえばプラスの答えがでているのであろうと。

宮川伸 大臣、本当にそうした事実があるのでしょうか。具体的に農水省としてグリホサートの使用量の基準値が緩められたことによって、例えば、ラウンドアップが使いやすくなって、これで農業がよくなったという事例を大臣はご存知なのでしょうか。いま答弁をされましたが。

江藤拓農林水産大臣 個別具体的にどこでどういうことが起こったということまでお答えできないことは大変に残念だと思いますが、しかし、選択をされるということはですね。効果が認められるから選択をするのであって、農家の方々はですね。農薬や肥料については非常にシビアな目をもっておられます。私も田舎の人間ですから、そういった方々の話をよく聞きますけれども、グリホサートの入っているものを選択されるということは、農家の選択がその評価につながっているものだと考えております。

宮川伸 農家の方々。しっかりと農業をやるうえで、必要があるのであればやむをえない部分もあるのかもしれません。ただし、健康等に関しては必ずしも専門家ではないわけであります。大臣はいま、「仕方がないのではないか」という答弁をされているのかと思いますが、例えば、400倍にまで基準値があがっているような状況ですが、本当に農家さんや消費者の健康に問題がないとお考えなのでしょうか。

江藤拓農林水産大臣 まず、消費者の方々への影響についてはですね。内閣府の方の食品安全委員会の方で検証していただいて、そのうえで厚労省の方でも人に影響がないように設定をしていると。それは先ほど申し上げた通りでございます。そして、それから先でこれを使用する農家の方についてはラウンドアップは表示のところで防護服を必要ということも聞いておりますし、これまでは農家は背中に背負って散布してきましたけれども、これから先はヘリコプターやドローンのようなものを使ってなるべくドリフトを含めて、なるべく人間から遠いところで、いまドローンのスマート実証実験などを見ておりますとですね、面的にきちんと捉えて撒きすぎない。適量をまくことが管理できるようになることが実証されておりますので、色々な技術を使ってですね、先ほどイギリスに比べて3倍以上というお話もありましたけれども、減らす努力をしてまいりたいと思っております。

動物試験でも3割は人間で試験をすると危険

宮川伸 消費者に対しては厚労省ということでありますが、私はやはり日本の農業が人に優しい、安全安心な食が作れる農業を作っていくことが非常に大事であると私は思っております。

 さて、健康に関しては厚労省マターだということでハザマの部分があるので、厚労省マターの部分を答弁していただいて、本当に厚労省が安全だといっているのが安全なのか。農水省としても判断していただきたいと思います。ですから、少し医薬品の話をいたしますが、いま農薬の場合は動物での毒性試験しかやっていないとのことでありますけれども、医薬品の場合は人での安全性試験まで行います。医薬品の場合、低分子化合物で人の場合、どれくらいドロップするのでしょうか。厚労省お願いします。

20200227Fumi-Yamamoto.jpg山本史大臣官房審議官 お答えいたします。日本製薬工業協会が2013年7月に公表した資料によりますと、低分子化合物に限定した数字ではございませんが、企業自らが開発した化合物等において、第一層試験を実施し、第二層試験を実施するに至らなかった割合は27%との報告がございます。

宮川伸 いまお聞きのとおり、動物で毒性がでなければ人で99%毒性がでないのであればいまの農薬の議論もいいのですが約3割も人で毒性がでてドロップしているわけです。もうひとつ例をあげたいのですが、日本でも「イレッサ」という肺がんの薬がありまして、日本が欧米に先行して承認を出したということで注目された薬だったわけですが、イレッサはどのような状況なのでしょうか。厚労省説明をお願いします。

20200227iressa.jpg山本史大臣官房審議官 医薬品は疾病等に効果を及ぼすものでございますが、必然的に副作用が生じることは避けられません。そのために動物実験等での臨床試験に加えまして実際に人に投与する試験を実施し、その有効性と安全性を確認したうえで市販されております。しかしながら、市販後は試験時に比べまして使用患者者が増加するとともに、様々な医療機関におきまして幅広く使用されることから、試験での限られた情報では得られなかったさまざまな副作用の発生状況等が明らかになることがございます。ご指摘のイレッサにつきましては試験時にも認められた肺障害につきまして、販売開始から約3カ月後の間にかんし性肺疾患を含めて肺障害の22の副作用が認められたことから緊急安全性条項を発動し現場に注意を促したものでございます。

ラウンドアップがネズミだけの試験はアニマルウェルフェアのため

宮川伸 ありがとうございます。大臣、いまお伺いしたとおりでございますが、今日、厚生省の三役の方にも来ていただきたかったのですが、是非、閣僚の一人として厚労省の方にも言っていただきたいのですが、動物での毒性試験が安全だからといって人で安全だというのは医薬品開発をやっている人間であれば信じられないわけです。しかも、元気な人でも毒性がでるかもしれない。さらに、体の弱い人はでやすいわけです。さらに、臨床試験をやっても投与する人の数を増やして、暴露するとわからなかったものが出てくると。そういう説明をされたわけです。これにプラス、子どもはさらにセンシティブなわけです。子どもに対する医薬品開発、臨床試験というのは非常に困難を極めるわけです。つまり、安全性というのは簡単に安全と言えないことを強調しておきたいと思います。

 もう一点、製剤の話ですので、これは大臣の話になりますが、グリホサートはある程度毒性試験が行われていると私は思っております。ラウンドアップは人に近い犬やサル、非齧歯類と言われていますが、これに近い安全性の試験は行われているのでしょうか。農水省お願いします。

新井ゆたか消費安全局長 お答え申し上げます。ラウンドアップの非齧歯類の安全性試験が行われているかどうかですが、安全性の試験につきましては齧歯類での試験が求められておりまして、非齧歯類では要求されてございません。当方の知る限り欧米におきましても、ラウンドアップの登録において非齧歯類を用いた安全性の試験はなされていないと認識しております。

宮川伸 大臣にお答えいただきたいのですが、いまこうした議論がありました。ラウンドアップには補助剤等が色々入っているわけです。医薬品の場合は最終産物で必ず試験を行うわけです。けれども、ラウンドアップの場合はやっていないわけですね。齧歯類というのはネズミなわけです。ネズミと人間は全然違うわけですから、もう少し人間に近いものでやるべきなのですがやっていないわけです。そして、グリホサートの安全性試験でADI、安全性の基準が決められているわけですけれども、それでもラウンドアップは安全だと大臣言えるのでしょうか。

江藤拓農林水産大臣 これはですね。まさに科学や化学の世界でありまして、私のようにそうした知見を持たない人間がお答えできないし、申しあげられませんが、イレッサのお話を伺って色々な臨床試験をやってから市販されて3カ月間で22例と。これは政治家として重く受け止めなければならないことだと思います。これは厚労省のこととはいえ内閣の一員ですから。そして、先生がおっしゃられたように製品になりましたら我々農林省の所管ということになりますので、我々が責任をもってみていくのも当然だとは思いますが、いろいろと私もこうしたことで質問をいただきまして話を聞かせていただいたわけですけれども、非齧歯類でやっていない理由としてですね、アニマルウェルフェアとかいろいろな話があって世界のトレンドとしてサルや犬とかでそのような臨床を行うことは適切ではないと。そういうトレンドもあってこういうふうになっていると聞いておりますけれども、我々としては最終消費者の方々、そして、農業を営むうえで使用する方にも影響がないような基準にする努力はしなければならないと思います。

宮川伸 まずですね、科学にも限界があると思います。いま大臣が言われたように動物愛護の問題もあります。したがって、やれる範囲内で努力をすることだと思うのですね。その中で判断をしていかなければいけないわけですが、2017年の残留基準値の大幅緩和というのは、当時どういう状況だったのかといえば、WHOの国際がん研究機構が2015年にグリホサートは人に対する発がん性があるかもしれないということで、グループ2Aに入れたということ。あるいは、カリフォルニア州はグリホサートが、これは製剤。発がん性だと表示すべきだと言った。あるいは、フランス、イタリア、欧州諸国が、あるいはサウジアラビア等の中東諸国がグリホサートの使用を控えるように動き始めていたというのがこの2017年なわけです。大丈夫だと言っている意見があったかもしれませんが、「危ないですよ」と警告を出している国やグループもあったわけです。こういうような状況の中でADIが一日許容摂取量がクリアできれば、ラウンドアップ、グリホサート製剤をたくさん使えるようにする判断が正しいと大臣本当に思われますでしょうか。もう一度お願いいたします。

江藤拓農林水産大臣 ラウンドアップに限らず農薬全般に言えることだとも思いますけれども、まずは使用方法をしっかり守る。どれぐらいの頻度で、どれくらいの体制でこれを使うか。我々としてはそれを示しておりますのでそれをしっかり守っていただくと。そうすれば安全性については担保されると考えております。

米国で4万件訴訟が起きていても日本では適切に使うから安全

宮川伸 いま私が申し上げたのは残留濃度の問題で消費者の食べる側の人たちの問題であります。議論していま答弁をお聞きしていても、大臣は農家さんにメリットがあると言われておりますが、少なくとも私の選挙区で様々な農家に意見を聞いておりますが、「もう、グリホサートの基準値をあげてもらわないと農家がつぶれてしまいます」という声を私は聞いたことがないのです。その一方で、安全性の話をいたしました。本当に危機的状況ではないのに消費者の暴露を平気であげてですね。健康にもしかしたら影響があるかもしれないような形の商品を農家さんが売っていることを農水省が認めていたら、日本の農家は困ってしまうではないですか。将来。本当にあげなければならないのであれば、これは仕様がないです。本当にそうなのか。そうした中で、厚労省の説明は「安全だから」という回答ですけれども、いま、議論したように安全だということはないのです。だから、ADIよりも低い数値であったとしても、できる限り農薬は使わないように努力をすることが大切であるということを議論したいと思っているわけでございます。少し時間の関係もあるので、大臣がお答えになられた農家さんが使われる方の話、直接暴露する方の話をいたしますと、アメリカでいま大きな問題になっております。アメリカでグリホサート製剤の健康被害、訴訟がいま何件行われているのでしょうか。農水省お答えください。

新井ゆたか消費安全局長 お答えいたします。アメリカで起こされている訴訟の正確な件数につきましては承知をしておりませんが、報道ベースでは数万件ということでございます。これにつきまして、日本でこの農薬を登録しておりますバイエル日本法人、バイエルクロップサイエンス社に問い合わせたところ、件数として公表できる情報はないとういうことでございます。

20200227Dewayne-johnsonS.jpg宮川伸 色々な報道が流れておりますが私は4万件くらいの訴訟が起こっていると聞いております。今後、8万件も訴訟が増えるかもしれないということも聞いております。そういった中でひとつの例でドウェイン・ジョンソン(Dwayne Johnson)さんの案件の訴訟がありますが、約320億円の賠償金が命ぜられたと。最終的には80億点程度まで賠償金が下がったかもしれませんけれども、いずれにしても莫大な量での賠償金の判決が出ている状況でありますが、これだけアメリカで問題になっておりますけれども、いま基準値を緩めて、いまグリホサートの使用量が農家さんで増えている。大臣、本当に大丈夫ですか。農家さんの健康、大丈夫ですか大臣。

江藤拓農林水産大臣 ジョンソンさんの訴訟の件については少し勉強させていただきましたが、この判決はグリホサートの安全性自体ではなくて、先ほど先生の情報にもございましたとおり、安全性への適切な表示をしなかったことで賠償命令が出たと聞いております。一方で2019年のEPAの評価では適切に使用する限りにおいては発がん性のリスクは極めて低いということで農薬として米国内でも引き続き使用されていると聞いております。ですから、本当に大丈夫ですかと委員からお尋ねですから、あらゆる化学物質には一定のリスクがあるんだと私は思います。有機農業が一番ベストでありますし、生産性と安全性のバランスをとりながらどのようなものを使っていくのかが一番大切な選択になると思いますけれども、「本当に農水大臣、これは100%安全なのですか。あなた保障できるのですか」と言われるとですね、先ほどの肺がんの製剤の話もありますのでなかなか断定的なことは申し上げられませんけれども、内閣府、環境省、そして、製剤にあっては農林水産省。2018年の法律改正に基づいてですね。令和3年にはグリホサートだけではありませんけれども、製剤について安全性について審査してまいりたいと考えております。

宮川伸 資料で写真で有名な奴ですが、賠償金の高さでは表示の問題があったかもしれませんが、がんになったということに関しても議論されていると理解しております。そうしたうえで、私の質問のポイントは、それでは日本ではアメリカでこれだけ問題になっているわけですから、日本ではこうした事象がないのか。ただ隠れているだけではないかということで、いま日本でこうした話がでてきていないのか。あるいは調査がされているのかどうか。注意喚起が行われているのか。そこを農水省お聞きできないでしょうか。

新井ゆたか消費安全局長 お答え申し上げます。まず、ラウンドアップを使用する際の注意事項でございます。使用時の安全上の注意として皮膚に付着しないようにすること。長ズボン、長袖、あるいは農薬のマスクを使用することを注意事項として挙げてございます。加えまして、作物ごとに使用すべき量、回数について示しているということでございまして、これにしたがって農家の方は使っていただいていると承知しております。

 それに加えて、農水省としては農薬の使用に伴う事故について毎年、都県を通じて調査を行っております。それによりますと農薬の使用に伴う事故は農薬全体で10~30件で推移しております。原因は主に農薬の誤飲や誤食によるものでございます。グリホサート製剤を伴うものでは誤飲や誤食が2件、マスクの非着装によるものも多くて年に1~2件と承知しております。

宮川伸 公園や学校での規制がどうなっているのか。これは重要な問題で、閣僚として農家以外の一般の使用についても。これをほっとくとアメリカと同じように何万件と同じようになるかと思いますので是非リーダーシップをとって取り組んでいただきたいと思います。

(注) 新井ゆたか氏は農水省初の女性農業局長。長野高校出身で山梨県でも女性初の女性副知事を務められた。

【画像】
唐木英明氏(公益財団法人食の安全・安心財団理事長)東京大学名誉教授の画像はこのサイトより
宮川伸衆議院議員の画像はこのサイトより
新井ゆたか消費安全局長の画像はこのサイトより
江藤拓農林水産大臣の画像はこのサイトより
浅沼一成大臣官房生活衛生・食品安全審議官の画像はこのサイトより
山本史大臣官房審議官の画像はこのサイトより
ドウェイン・ジョンソン(Dwayne Johnson)氏の画像はこのサイトより
イレッサの画像はこのサイトより
昆吉則氏の画像はこのサイトより

【引用】
2020年2月25日衆議院予算委員会第六分科会(国会中継)7時間46分から


posted by José Mujica at 22:08| Comment(0) | GMO | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年11月06日

ゲノム編集の恐ろしさ

いまこんなことまでなされているゲノム編集

 世界で初めてゲノム編集による治療がなされたのは、2015年11月9日である。急性リンパ性の白血病の少女が治療された。T細胞が白血球を攻撃してしまう病気だが、米国ではすでに63名で治療がなされている。

 ひとり一人T細胞が違うため、オーダーメイドでの治療が必要である。これは1回の処理に5000万円もかかる。しかし、政府はゲノム編集による白血病治療を5月に保険適用を認めるとした。

 2月21日に池江選手の発表がなされた直後である。池江選手そのものは適用されていないが話題性を利用した。

 さらに、ゲノム編集が話題になったのは2018年11月29日に中国の研究者がゲノム編集でエイズにかからないように人間を処理したことにある。それまで、中国では人間で扱うことが法的に禁止されていたが、それを解禁したために話題を呼んだ。実は、2015年に人間のゲノム編集についての国際会議がなされ、第2回の国際会議が2018年にシンガポールでなされたのだが、中国のHIVの改変はこれにあわせてわざわざ出された(2)

 治療目的での体細胞のゲノム編集は容認だが、ヒトの胚・生殖細胞の編集は禁止、ゲノム編集をするために卵子を取ることも禁止、体内に戻すことも禁止である。

 これが米国、ヨーロッパの動きだが、ロシア、中国、日本は規制していない。そこで、ロシアの研究者、Denis Rebrikovも2019年の6月に同じ実験をすでにやっている。ネイチャーの10月18日付けの論文に掲載されたが、遺伝子難聴の受精卵GJB2を5組、ゲノム処理している。また、HIVの患者夫婦の受精卵もゲノム編集しており、この夫婦の子どもは年内にも産まれる。すなわち、医療分野からゲノム編集が始まっている(2)

 それでは、ゲノム編集技術を用いてどのようなことがなされているのか。見てみよう。2018年8月30日には、レム睡眠を起こす遺伝子を破壊して、ゲノム編集で夢を見ないマウスが作られている。2019年1月24日には中国科学院がゲノム編集によって体内時計を壊したサルを創り出した。2019年3月27日にはサルの脳にヒトの遺伝子を1個入れる実験がなされた。このサルは環境の変化への反応が早くなったという。

 マウスではメス同士で子どもまで作っている。性を決める染色体を壊すとメスのマウスが生まれている。このメスを普通の雄と交配したが子どもができた。つまり、地球上すべてを女性にすることができる。同性婚でも子供が欲しいニーズがあるが、それに答えることも可能になっている。

 京都大学と近畿大学では、成長ホルモン抑制遺伝子、ミオスタチンを破壊することでマッスルマダイを創り出している。近畿大学はゲノム編集がよほど好きらしく、米国、スペインと協働でが豚を1000頭使った膨大な研究をしている。

 東京大学ではラットの膵臓を作るマウスを作っている。また、東大では豚の体内でヒトの心臓を作る実験がなされている。これまではヒトの内臓を持った動物は作ってもいいが、胎児のレベルで殺してしまわなければいけないとされていた。しかし、2019年3月1日に文部科学省は文科省が指針を改定し、これを認可した。これによっていろいろな臓器を作ることができる。10年以内に起こりうる。

 人の脳を持った豚を作ったら何を考えるかが本気にヨーロッパでは論じられている。さらに、筑波大学では、GABAが15倍もあるトマトが作られている。血圧が下がるとされ日本で最も早く市場にでるであろう。

ゲノム編集はどのようにして行うか

 ゲノム編集をするためには、遺伝子をちょん切ってハサミの役割をする「編集酵素」が必要である。

 現在、3種類がある(2)。人工のDNA切断酵素、ZFN(ジンクフィンガー・ヌクレアーゼ:1996年)とTALEN(ターレン・ヌクレアーゼ:2010年)、さらに、2012年に目標遺伝子の塩基配列にDNA分解酵素を導くガイドRNAとDNA分解酵素からなるCRISPR・Cas9(クリスパー・キャスナイン)が開発された。その特異性と使い易さから、現在はCas9が多く使われている(1,2)

 また、切ったままでは細胞は死んでしまうため、DNAの修復酵素がある。これは、生物が持つ酵素で、切れたDNAを修復する。そして、これが修復する時にミスが起る。これが突然変異である(2)

 これまでの遺伝子組み換えは、金粉に遺伝子をまぶして、組み換え遺伝子を無理矢理入れるものであった。いまのゲノム編集はそんな乱暴なことはしない。これを画期的に変えたのが、Cas9(キャスナイン)酵素と案内役ガイドからなるgRNAである。

 この酵素を発見・開発したのが、フランスのエマニュエル・シャルパンティエと米国のジェニファー・ダウドナの米国である。いずれノーベル賞をもらうが、もともとはDNAの分解酵素の基礎研究をしていた人である。そして、どこでも切れる酵素を見つけた。なぜ、こうした酵素が自然界に存在していたのか。それは、バクテリアの免疫反応であった。実は、バクテリアにも免疫反応を持つことが二人の研究でわかった。

 バクテリアに感染するウィルスをファージというが、これは感染すると細菌が持つ機能を借りて自分の遺伝子を増やしていく。これに対して、バクテリアが進化の過程で身に付けたのが、入って来た情報の一部を自分の中に取り込んで記憶することであった。そして2回目に感染したときに、その相手を認識してDNAをちょん切ることであった。そうすれば、細菌は死なずにすむ。このように感染したファージの配列20塩基を記憶して、それをgRNAが切るのである(2)

ゲノム編集の技術的な問題点~間違って切ってしまうこと

1)ミスによるオフターゲット

 ゲノム編集の問題のひとつ、標的以外の遺伝子をも変化させてしまう「オフターゲット」問題がある(1,2)。オフターゲットが起れば、意図しない遺伝子の破壊につながり大きな問題となる(1)

 ゲノム編集に使われるいずれのDNA分解酵素も、それが認識する標的DNAの塩基配列は20~30個にすぎない(1)。CRISPR・Cas9の場合は、ガイドRNAは、かなりアバウトで、20個並んでいる塩基のうち、2、3が違っていても結合してしまう。一方、人間の遺伝子は31億対もある。膨大なゲノムの中には20程度の類似した塩基配列がかなりある(1,2)。具体的には第6染色体にある「血管内皮細胞増殖因子ホルモン」、これはアミノ酸232個からなっているのだが、ここを切ろうとして、第15染色体にある「免疫グロブリン/サブクラス3」、これはアミノ酸814個からなっているのだが、ここを間違って切ってしまったケースがある。これは、2013年にハーバード大学が論文で出している(2)

 また、DNA分解酵素が切断した標的遺伝子は、細胞が持つDNA修復酵素による修復によって再結合されるが、この際の修復ミスによって新たな突然変異が生ずる可能性もある(1)

2)効率性アップとのジレンマ

2019110601s.jpg オフターゲットのもう一つの原因は、標的遺伝子はひとつにすぎないが、細胞に挿入されるDNA分解酵素やガイドRNAが数十倍~数百倍と多くあることに起因する(1)。すなわち、Cas9の濃度が低いとDNAの切断は起こらない。濃度をあげれば切断が起こるのだが、この編集効率性の向上とオフターゲットとはジレンマの関係にある。専門家はごくあたりまえにやっているのだが、マスコミや素人が理解できないし知らされていないので強調しておきたい。ゲノム編集の解説イラストを見るとたいがいハサミが一個しか描いていない。そこで、ハサミを1個を入れれば、それが丁寧に切ってくれると思われている。けれども、現実には、数百万、1千万、1億ものハサミがある。そうしないと実はDNAは切れない。そして、1000万ものハサミがあれば、当然、違う構造のところも切ってしまう。マスコミはそのことをわかっていない(2)

2)癌の危険性

 Cas9という酵素そのものにも問題があることが最近わかってきた。その一つがゲノム編集された細胞は癌化しやすいという指摘である。その原因は癌抑制遺伝子の「p53」にある。p53は古くから癌抑制遺伝子として知られているのだが、Cas9によってゲノム編集出来た細胞はp53遺伝子が壊れていることが多いのである(1,2)。これは、例えば、中国のHIVの赤ちゃんは、HIVは防げたものの将来がんになりやすいかもしれないことを意味する(2)

3)Cas 9蛋白質に対する自己免疫反応の恐れ

 Cas9はアミノ酸が1000~2000もつながっている巨大なたんぱく質である。抗体と反応することを「エピトープ」というのだが、抗体反応が起こりやすい(2)。事実、CRISPR/ Cas9は多くの場合、黄色ブドウ状球菌やA型溶血性連鎖球菌から採られているのだが(1)、米国人の血清を調べてみると、黄色ブドウ状球菌のCas9に対しては79%、А型溶血性連鎖球菌のCas9に対しては65%が抗体を持っていることがわかった。こうした細菌のCas9酵素を注射で注入すると、人間の細胞が抗体を持つことから、自己免疫反応がおこるリスクがある(1,2)。Cas 9に対する自己免疫反応でアレルギーや免疫疾患をもたらす危険性が指摘されている(1)

4) 一個の遺伝子から多くのタンパク質が作られる

 一個の遺伝子から一個のタンパク質が出来るという所謂「セントラル・ドグマ」はバクテリアなど原核生物では当てはまるが、真核生物では当てはまらない(1)。1個の遺伝子は、それに相当するただ1個のタンパク質を作っているのではなく、たくさん作っている。真核生物のゲノムは、タンパク質のアミノ酸配列を起こす「エキソン」と呼ばれるDNA配列(構造遺伝子)と、タンパク質に翻訳されないイントロン(調節遺伝子を含む)と呼ばれる塩基配列からなり、それが一個の遺伝子の中に交互に並んでいる(1,2)

 さて、タンパク質合成の際にDNAから直接作られるRNAは「pre-mRNA」と呼ばれ、これをスプライシングという特殊な酵素反応機能によって切り取り、必要なエキソン同士をつなぎあわせて初めて一個のタンパク質に対応するmRNAが出来る(1,2)。即ち、スプライシングによって一個の遺伝子DNAから複数のタンパク質がつくられることが多い。

 その結果、複数のタンパク質に共通のエキソンのゲノム編集をすれば、複数のタンパク質に影響が及びオフターゲットが起こる。

 要するに、ゲノム編集を行う場合、標的DNAが複数のタンパク質の一部になるエキソンかどうか慎重に見極めなければならない。

 しかも、スプライシングで除去されるイントロンにはタンパク合成の調節作用を持つRNAがある等、DNAからタンパク質を作るプロセスは複雑でいまだに解明されていないことも多い(1)。ラットの筋肉を変えようとして、実は脳までやられてしまったということが起こりうる(2)

不必要な遺伝子を混入すること

 植物や動物の培養細胞のゲノム編集においては、編集に使われるプラスミド(ベクター)には、ガイドRNAやCas 9のDNAの他に、これらの遺伝子の発現に必要なプロモーター(遺伝子発現のスイッチ)として、カリフラワー・モザイク・ウイルスのプロモーター(Ca MV35)や(1)ゲノム編集が出来た細胞と出来なかった細胞とを容易に見分けるため、ペニシリン耐性やストレプトマイシン耐性等の抗生物質耐性遺伝子が導入されたり、発光クラゲの遺伝子、GFPを同時に感染させることが多い(1,2)

 抗生物質耐性遺伝子が多いが、抗生物質をたっぷりと注げばできていない細胞は死んでしまうことからわかる。これはゲノム編集のプロセスでは必要であっても、編集が終われば不要となる必要悪の外来遺伝子である。そして、WHOはこれを危険だと言ってきた(2)

2019110602s.jpg 例えば、普通の豚の皮膚は白いがマッチョの豚は赤い。これは、プロモーターのスイッチとして、カリフラワー・モザイク・ウィルスが使われ、区別するためには、ハイギロマイシン耐性遺伝子、クラゲの遺伝子、赤色蛍光遺伝子を入れてあるのだが、TALENというゲノム編集酵素を使ったのだが、赤い色のバクテリアの遺伝子、赤色蛍光遺伝子残ってしまっているからである。

 ちなみに、これは、Exon2という成長ホルモンを抑制している。ミオスタチンが働くことでストレスがあるときに痩せるようになっているのだが、それがないために筋肉質となる。なお、この抑制遺伝子がないために恐竜は巨大化して絶滅したともいわれる(2)

 また、筑波大学が開発したタネなしトマトもある。タネくらいトマトにあってもいいと思うのだが、加工産業からすればタネは邪魔である。ここでは、カリフラワー・モザイク・ウィルスの他、カナマイシン耐性遺伝子、発酵クラゲの遺伝子、口蹄疫ウィルスの遺伝子も入れてある。

 毒であるソラーニンを作らないジャガイモは、キリン株式会社が作っているが、ここにはカナマイシン耐性遺伝子とカルペニシン耐性遺伝子が入っている。農研機構が作り出した多収米はハイグロマイシン耐性遺伝子とカナマイシン耐性遺伝子が入っている。このほか、香りがよく日持ちが良いように改良されたシャインマスカットもある(2)

遺伝子の水平遺伝の恐ろしさ~イギリスでは除草剤耐性腸内細菌が発見されたため慎重

 こうした選択マーカー遺伝子が問題なのは、食品の場合、こうしたものを食べると、腸内細菌が遺伝子を取り込んでしまうことがある。これは、遺伝子の水平伝達として知られている現象で(1,2)、O157は大腸菌がチフス菌の毒性を一部として取り組んだから毒性を持つようになった。

 ヨーロッパがゲノム食品の扱いに慎重なの理由のひとつにイギリスで数千頭も殺処分することとなった狂牛病の苦い経験がある。それ以降、イギリスでは食の安全性が厳しく見直され、ラウンドアップ耐性の大豆を食べた時にはたして人間がどうなるのかの実験もなされている。人工肛門を持った患者7名に除草剤耐性大豆で作ったハンバーグを食べさせ、30分毎に便を採取し分析してみた。すると全員の便から除草剤耐性菌が検出された(2)

 このことは、腸内細菌が除草剤耐性という特性を取り込んでしまったことにほかならない(1,2)。もし、これが抗生物質耐性であったらどうなるか。病気になった時に抗生物質が効かなくなってしまう。そこで非常に厳しく規制するようになった。

 毎日新聞の4月3日の記事では、厚労省の研究班がやっと発表したが、国産と輸入の半分の鶏肉から薬剤耐性菌が見つかったとしている(2)。原因は遺伝子組み換え飼料を餌として与えたためである(1,2)。GMトウモロコシはすべて抗生物質耐性遺伝子がマーカーとして入っているからである。このため、鳥の腸内細菌が抗生物質耐性になっているのである(2)

 これも米国のCDC国立疾病予防センターの研究によれば、食肉には抗生物質耐性遺伝子が常在している。米国人では4人に一人が抗生物質耐性菌を持っていると言われる。しかし、米国では、学校給食に使うため放射線をかけてこれを殺せばいいとしている。放射線を照射すると動物の油が発ガン性を持つのだがこれは気にしていない(2)

ゲノム編集が区別できないというのはペテンである

 要するに、ゲノム編集された動植物には本来存在しなかった異種生物の遺伝子が入り込むことになり、従来の遺伝子組換えと変わらないリスクが生ずる(1)。マーカーはれっきとした外来生物の遺伝子である。これはゲノムであってもGMOと同じである。

 ただ、作るときには必要であったとしても、これを第二世代、第三世代で戻し交配するため、削除できる。だから大丈夫であると言われている。しかし、河田が知る限り、いままでの開発されたものでマーカーが削除されたものは1種類だけしかない。

 岡山大学が開発した雨が降っても芽がでないようにゲノム編集した小麦である。これは全部のゲノムを分析した論文が出ている。しかし、それ以外のトマト等はデータが乗っていない。

 実は、2016年には米国ではゲノム編集によって角を作る遺伝子を壊し、角がない牛が作られた。角がなければ飼育や輸送が楽だからである。そして、これを売ろうとした。FDAも認可していた。しかし、研究者がチェックしたら抗生物質耐性遺伝子が見つかった。角がない牛のゲノムの全構造を調べたところ、マーカーが入っていることが判明した。2019年10月21日のニュースによれば、この牛の精子を掛け合わせたところ、6頭子どもが産まれた、2頭はマーカーがなかったが、4頭からはマーカーがでていた。

 なお、北大が開発したアレルギーフリーの大豆は、マーカーとして除草剤耐性、グリホシネート、商品名「バスタ」を使っている。これが残っていれば、それはまさに遺伝子組み換え大豆になってしまうではないか。

 このことからすれば、自然界で起きたことなのか、ゲノム編集によってなされたことなのかどうかを区別することができないとも言われるが、「わからない」という消費者庁の主張はいいわけにすぎない。嘘である。院内集会においても、説明したが、全部のゲノム構造を決定すればわかる。したがって、どうやって確認するのかを厚生省と農水省の官僚に院内集会でも質問したのだが、その確認方法を答えてくれなかった(2)

ゲノム編集はまだ不完全な技術である

 遺伝病の治療を目的として受精卵にゲノム編集を行った場合、途中で卵割が起こり、プラスミド(ベクター)が入った細胞と入らない細胞が出来て、成長後の体内でゲノム編集が出来た細胞と出来ない細胞が共存する「モザイク」が生ずる恐れがある。この危険性は中国のP. Liangらの2015年の論文でも指摘されている。いまから4年前の2015年には中国が受精卵のゲノム編集を世界で初めて行った。これは世界的に批判を浴びたが、科学的には極めて精密な研究である。標的遺伝子がβ-グロビン遺伝子(HBB)であったが、編集効率が悪く、構造の似ているδ-グロビン遺伝子(HBD)はじめその他の非標的遺伝子にもオフターゲットがあった。要するに、技術としては未熟であって時期尚早であり、実用化は無理であると結論づけた。けれども、この論文を見て若い研究者がゲノム編集をやってもいいとやってしまったのである(2)

 開発者のジェニファー・タウドナは、生物兵器に使えるとして恐れている。核兵器と同じであり、日々悩んでいる。一般市民も参加しなければならず、科学者、専門家だけでは決められると声明を出している。エマニュエル・シャルパティも2019年3月14日に研究すべきでない、停止すべきだと70名の連盟で出している。

 要するに、ゲノム編集はまだ未完成な技術である。自然界においても類似した現象が起っていると言われる。しかし、自然界で起こっている切断はランダムである。類似した配列構造のところが同時に何カ所も切られるような現象は自然界においてはありえない(2)

人類へのゲノム編集は危険視されるものの食を懸念するのは生態学者のみ

 ゲノム編集の開発者は、人類に対してゲノム編集技術を利用することについて倫理面から危険視している。しかし、こと「食」に関してはなんら懸念していない。これを懸念しているのは生態学者である。

 2018年に米国において遺伝子組換え鮭が認可された。この鮭はカナダで産ませた卵に遺伝子組換えをした雄の精子をかけて、何重にも柵を作って逃げないようにしている。そのために安全だと主張されている。ただし、「災害等によって万が一逃げ出したときには、河川に塩素を流してすべての生命を殺すので大丈夫である」とトリセツに書いてある。このようなことはとても米国内においてすることできない。したがって、南米のペルーで行っている。

 また、こうした雄が外界に仮に逃げ出したとする。すると、魚の雌は大型の雄と交尾をしたい本能を持っている。しかし、この雄の鮭からは不能の子どもが産まれやすい。このため、20世代後には世界の海から鮭が消滅するとの論文も書かれている。

 これは遺伝子組換え技術である。しかし、ゲノム編集においても同じことが起る。確かにマラリアを媒介する蚊はいなくなるかもしれない。しかし、それは人間にとっての都合を見ているだけであり、マラリアを媒介する蚊が生態系の中においてどのような役割を果たしているのかは無視している。なお、世界のDNAの分析の7割に使われているのは、長野県の「かんてんパパ」が作っている驚く程純度が高い寒天である。

遺伝子組み換えの次ゲノムを狙うモンサント~米国はオリンピックでの普及を狙い圧力をかけている?

 遺伝子組み換え技術の9割を抑えているのはモンサント社だが、モンサントは「遺伝子組換えの時代は終わった」と発言している。るカリクスト社(Calyxt)は、ミネソタ州で高オイレン酸大豆を14800haで製造しているが、このCEOは3年前にはモンサントのCEOであった人物である。そして、これから本格的にゲノム編集をすると述べている。さらに、有機認証の加工搾油工場で搾油しており、オーガニックを名乗り、表示しなくてもよいとされている。

 例えば、(株)あずま食品は、いま米国のミネソタ州から大豆を輸入している。「オーガニック有機育ち」となっているが、このままゲノム編集をしてもその表示を変える必要がない。OCIAが国際有機認証してしまう。EUではゲノム編集食品に対して表示義務があるが、日本ではない。これは米国からの圧力のためである。米国内ではどうなっているのか。米国においては小麦等多くの農産物が開発されているが、まだ流通しているのは高オイレン酸大豆だけである。なお、これはゲノム編集食品を普及させるためかどうかは確認できていないが、ミネソタ州の大豆企業のトップが20019年の5月に来日した。その理由は自分たちのダイズをオリンピックで扱ってもらうことで世界にPRさせたいらしい。この働きかけを日本側は歓迎したとも聞いている。ゲノムを有機にしたい理由もそこにあるのではないか(2)

内閣府の成長戦略で解禁されたゲノム~世界の趨勢はプロセスか結果で対立

 さて、この10年間でゲノム関係の論文は指数関数的に増えており、2018年だけで4500件もでている。とても読み切れない。それだけ研究が盛んとなっており、特許も急増している。

 実は日本でも以前から研究はされていた。しかし、環境省も厚生省も慎重であった。この政府の態度が変わったのが、2018年6月15日に「総合イノベーション戦略」が閣議決定され、成長戦略のどまん中に位置づけられたからである。内閣府のHPによれば、将来のゲノム関係の市場は600兆円とされている。こうして、政財界が動き始めている。証券会社も革命だとして投資しようとしている。つまり、産業分野でその価値が認識されている(2)

 2019年9月30日に農水省がゲノム編集作物のあり方を検討した。委員の中に有機農業研究会のメンバーがいて強力に反対した。そこで、延期になったが、今後も検討するとされている。

 争点は、プロセスベースのEUか、米国の結果主義かである。農水省は米国式の結果主義にしたく、外来遺伝子がなければよいとしている。これに対して、途中で外来遺伝子を使うのであれば、それをオーガニックにしてはいけないという主張が対立している(2)

Masaharu-kawata.jpg ノックインは審査が必要だが、ノックアウトは審査が不要というのは、河田によれば嘘である。間違っている。識別するための目印として、抗生物質耐性遺伝子や発光遺伝子等がマーカーの役割をしている。キャスナインもガイドも自然界にはあるが、マーカーは自然界にはない。欧州司法裁判所は2018年7月25日にGMOと同じであると決定した。結論として、表示は必要である。一方、日本は、10月1日から受付を開始している。届け出も任意である。知らずに登場してもわからない(2)

 この背景にはモンサントの意向がある。GMOは表示制度があるために買ってもらえなかった。だから失敗したとモンサントは述べている(2)

 いまから1970年の万博のときに若狭湾から原発のエネルギーがやってきた。ものすごく盛り上がった。核兵器はいけないが原子力エネルギーの時代だともりあがった。被爆者も賛成した。当時も、原発事故や廃棄物を憂える声はあった。しかし、かき消された。そして、当時「そのうちなんとかなる」というのは嘘であった。河田は、いまのゲノムも当時の状況とそっくりである。いまきちんとしないと後悔することになると述べる。

 また、原発は巨大企業でなければできないが、ゲノム編集は個人ですらできる。つまり、細胞内で増えるプラスミド、ここのベクターにDNAを載せて感染させる。マッチョな豚やタイは直接注射器でゲノムを注射することですらできる。京大では学生に2000個の卵を渡して注射させている。

 さらに、卵と酵素を入れてスイッチを入れると高電圧で細胞に穴があく。自動的にゲノム編集できる機械を米国の大手のゲノム編集会社の日本支社が124万円で売っている。つまり、家庭でも趣味がある人はゲノム編集をできてしまう。これが原発と違うところである(2)

【画像】
河田昌東(まさはる)氏の画像はこのサイトより
その他は文献(3)より

【引用文献】
(1) 2018年10月15日:河田昌東「ゲノム編集の多角的考察」法学館憲法研究所
(2) 2019年10月21日:河田昌東「UPLANゲノム編集、どこに危険が潜んでいるか」第35回オルタナティブな日本をめざして
(3) ゲノム編集を考える安全性と生命倫理
posted by José Mujica at 07:00| Comment(0) | GMO | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年11月01日

ゲノム編集賛否両論~食の主権が主戦場

ゲノム編集とは人工的な突然変異を起こして遺伝子を操作する品種改良法

 他の生物、主に植物の体を少しずつ変えることを品種改良、育種と呼ぶ。例えば、南米のアンデス地区に自生していた小さくて猛毒のある芋を、何百年もかけて「毒が少なく」「大きく」「栄養豊かな」芋に変えたものがジャガイモである。

 作物を改良する手段は二つある。その1つが「交配」である。この方法はとても長い歳月を必要とし、わずかな改良も50年も100年もかかる。もうひとつが育種中に偶然に起きた「突然変異」を利用する方法である。この方法を利用した品種改良は過去かなり行なわれてきたし、いまも行なわれている。ただし、突然変異は、自然に任せるしかないため、こちらも長い歳月と多くの費用を要する(1)

 さて、細胞を支配する遺伝子情報の全体をゲノムという。歴史的・経験的に長い間行なわれてきた交配も突然変異も、ゲノムに変化を起こさせて新しい細胞を作る手段である。

 しかし、この「ゲノムに変化を起こす」うえで、近年、まったく新しい技術が導入された(1)。生物の遺伝情報(ゲノム)を自在に改変できる新たなバイオテクノロジー「ゲノム編集」である(5)

「特定の場所にある遺伝子をターゲット」にして、その遺伝子に「特定の変更をもたらす」ため、「その操作を行なうために必要な道具の役割をする遺伝子」を、いったん外から持ち込む(1)。DNAを切断する機能を持たせたハサミ役の酵素と、その酵素を特定の塩基配列まで連れて行くように設計したガイド役の物質をセットにして細胞の中に導入し、ねらった場所でDNAを切断する。

 細胞は切断されたDNAを自ら修復しようとする。この際に間違って元の配列とは違う配列になることがある。このため、その配列が含まれた遺伝子の機能が喪失し、変異が生まれる(5)

 そして、目的の遺伝子の変更がすめば、その道具の役割をさせた遺伝子は削除する。このため、遺伝子組み換えとは異なり、新しい遺伝子が加わったり、今まであった遺伝子がなくなったりはしない。つまりは、ゲノムは「編集」されただけである(1)。遺伝子組換えでは、本来その生物にはない外来遺伝子を組み込む。これは「種の壁」を越えた育種と言える。さらに、ねらった場所に組み込める頻度は非常に低い。その中から使えそうなものを選抜するのにかなりの時間と労力が必要である。これに対して、ゲノム編集では、DNAを切断するのと同時に外来遺伝子を導入して組み込めば、遺伝子組換えよりも数千倍も効率的な組み込みが可能となる(5)

 さらに、普通の作物や動物の育種に用いられるゲノム編集は、「標的配列への変異導入」がメインで、外来遺伝子は組み込まないので、「種の壁」を越える懸念はない(5)

 ねらった場所で変異を起こすことができるため、従来の育種法や遺伝子組換え技術に比べて、格段に効率的な品種改良や育種が可能である(4,5)。北海道大学の石井哲也教授によれば、現在、ほとんどの作物・家畜のゲノム情報は解析がされている。30~40%という高い確率で、狙った遺伝子に変異をもたらすことができるという(6)

 ゲノム編集はさまざまな問題を解決する可能性を秘めた革新的な技術である。実際に、『クリスパー・キャス9』という最新のゲノム編集技術の考案者は、ノーベル賞受賞が間違いないといわれている(6)。石井教授もゲノム編集技術そのものを否定するつもりはない(5)。

 2019年3月。AP通信は、米国中西部のレストランで調理に使用しているオイルが、ゲノム編集食品であると報じた(5,6)。ミネソタに本社を置くカリクスト社製の大豆オイルで、原材料はトランス脂肪酸の生成に関わる遺伝子を変異させて開発された大豆である(6)。それを原料とする植物油はレストランなどで使われている。すでに日本に輸入され、わたしたちが口にしている可能性さえある(5)

Cow.jpg 筋肉の発達を抑制するミオスタチンというゲノムを変異させれば(6)、肉量を多くしたマダイやマッチョな動物ができる(5,6)、食中毒の原因となる毒素の合成を抑えたじゃがいも、収穫増をねらった稲なども研究されている。現在は栽培試験が行われている段階ですが、本格的な商業栽培が始まるのも時間の問題である(5)

ゲノム編集は安全性審査もせず、表示不要である

 ゲノム編集に関する社会的議論が活発になったのは、2018年6月に閣議決定された『統合イノベーション戦略』が契機である(5,6)。この中で、ゲノム編集で作られた品種に対する規制のあり方を同年度中に定めることが決められた。政府は、幅広い分野で規制緩和によるイノベーションを進めようとしている。ゲノム編集に関する動きもその一環といえる(5)

 環境省は、2018年6月の閣議決定後、2か月間で検討会を2回開き、切断して標的配列に変異を導入する「タイプ1(SDN-1)」のゲノム編集については、カルタヘナ法「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性を確保に関する法律」の規制対象外とした。「甚大な環境リスクがあるというエビデンスがない」というのがその理由である(5)。ちなみに、カルタヘナ法では、ゲノム編集はレベル1(カルタヘナ法SDN-1)である。「外から遺伝子を持ち込むが後で削除する」のはレベル2(SDN-2)、「外から持ち込んだ遺伝子を組み込む」、すなわち、「遺伝子組み換え」はレベル3(SDN-3)とし、この2と3は審査の必要があるとした。「外部から遺伝子を加えないケース」を「審査対象」から外したのは、ひとつは国際的な基準であるカルタヘナ法との整合性をとるためである(2)

 このゲノム編集食品の取り扱いについて、厚労省は専門家を集めた会議(薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会新開発食品調査部会遺伝子組換え食品等調査会)で検討し、DNAを切断した際に、その生物が持っていない外来遺伝子や特定の塩基配列を、意図して挿入したりする場合には、「遺伝子組換え」と同様に「安全性審査が必要」と整理した。一方、DNAを切断した後、塩基が1~数個、抜けたり(欠失)、ほかの塩基と入れ替わったり(置換)、追加されたり(挿入)したものは、安全性審査はしないと決めた(4)。すなわち、食品衛生法上の取り扱いについて検討した厚生労働省は、タイプ1に加え、部分的に変異が含まれたDNA断片(塩基)をねらった場所に導入する「タイプ2 (SDN-2)」も規制対象外とし、さらに緩和する内容とした。厚生労働省は2019年3月27日、薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会新開発食品調査部会報告書「ゲノム編集技術を利用して得られた食品等の食品衛生上の取扱いについて」に基づき、ゲノム編集技術を応用した食品のうち、外来遺伝子が残らないようにして改変させたものについては、開発者が届け出のみすれば、国の安全性検査を受けなくても流通・販売できるとする方針を発表した(5)

 農林水産省と厚生労働省は、作物の栽培や食品の流通にあたって届け出る内容の案を示し、「農林水産分野におけるゲノム編集技術の利用により得られた生物の情報提供等に関する具体的な手続について(骨子)(案)」についての意見・情報の募集(農林水産省、2019年6月28日)と「ゲノム編集技術応用食品等の食品衛生上の取扱要領(案)」及び「届出に係る留意事項(案)」に係る御意見の募集について(厚生労働省、2019年6月27日)でパブリックコメントで意見を募集した(5)

 また、消費者庁は2019年6月20日に開催された内閣府・消費者委員会の食品表示部会で、ゲノム編集食品の表示についての検討を行ない、「従来の農産物との違いを科学的に検証できず、表示義務違反の特定が困難」との考え方を示した。消費者庁も基本的には規制緩和路線であるため、規制対象外とされたゲノム編集については、最終産物である食品などに表示義務が課されることはないとした(3,5)。これによって、ゲノム編集技術を使った食品でありながら、消費者には表示されない食品が、来年にも市場流通する可能性が出てきた(3)。ゲノム編集食品であるかを検索できる簡単な方法がないため、表示のない輸入品などをチェックすることは困難です」とハーバード大学の元研究員で、ボストン在住の大西睦子医師も言う(6)

ゲノム編集食品の技術は自然に起きている現象のため安全である

Waki-Matsunaga.jpg「人工的にゲノムを操作しているのになぜか」という疑問が起こるが、松永和紀女史は、これに対して「DNAが切断された後、1~数塩基が欠失したり置換されたり、挿入されたりする」という現象は、自然界では普通に日常的に起きている。紫外線や自然の放射線等、さまざまなものによってDNAは切断され、こうした変異が引き起こされていると指摘する。

 さらに、これまで行われてきた品種改良でも、「化学物質や強い放射線によりDNAを切断し、その後に自然に起きる塩基の欠失や置換、挿入により性質を改良する」というやり方が普通に行われてきている。この化学物質や放射線による突然変異によってできた新品種は、安全性審査もなく販売され、これまで問題が生じたことはないという(4)。遺伝子組換えが規制対象となったのは、本来その生物にはない外来遺伝子を導入することで、食品としての安全性や環境への負の影響が懸念されるというのが主な理由であった(5)。しかし、ゲノム編集については、自然の突然変異や従来の品種改良と差異がなく、安全性において同等なのである(4)

従来の品種改良でも、オフターゲット変異は起きており、さらに変異は除去される

 松永女史は、ゲノム編集技術の安全性においては「オフターゲット変異」が懸念され、反対運動を展開している人たちは、必ず言及すると指摘する。

 オフターゲット変異とは、DNAを切断する酵素が、目標とするターゲット以外の部分を切ってしまう現象である。酵素は、DNAの配列を識別して特定の部分を切るが、まったく同じ配列の部分も同じように切ってしまい、よく似た配列の部分を切ってしまうこともある。医療分野ではこれは重要な問題である。しかし、品種改良と混同するべきではない。

 植物を対象としたゲノム編集では、DNAを切断する人工制限酵素のもととなる遺伝子をまず、遺伝子組換え技術によりゲノムに挿入する。 これにより、細胞中で人工制限酵素が作られるようになり、DNAを切断し、ゲノム編集技術が目的とする変異を引き起こす。したがって、違う部位を切ってしまう「オフターゲット変異」が起きる場合もある。

 しかし、この後に遺伝子組換えやゲノム編集技術を用いていない系統を交配すれば、メンデルの法則により人工制限酵素の遺伝子や、オフターゲット変異は分離できる(取り除ける)。後代の交配と選抜により、最終的に、ゲノム編集による変異はあるが人工制限酵素の遺伝子やオフターゲット変異のない系統のみを、新たな品種とする。選抜と交配の工程が何段階にもわたってあるため、仮にゲノム編集によってオフターゲット変異が起きたとしても、最終的には除去されている、と考えられる。家畜の場合には、受精卵細胞にゲノム編集技術を施す場合が多いが、同じようにたくさんの卵細胞を処理し、その中から選抜する。同様にオフターゲット変異が残っている可能性は著しく低い。さらに言えば、従来の品種改良においても、ターゲットとしない部位の変異は普通に起きていて、その後の選抜や交配の工程で除去されている事実がある(4)

遺伝子組換えとは異なりゲノムは表示できないのは区別できないから

 厚労省が、届け出制とする方針を打ち出した報告書についてパブリックコメントを実施したところ、安全性への懸念を訴える声が寄せられた。食品への表示についても「ゲノム編集技術でつくられた全ての作物等とその加工食品について、表示の義務付けを要望する」等の意見が出された。

 松永和紀女史は「安全性に関する国の判断は信用できない。しかし、表示されれば、識別できて、避けることができる」ということであろうと述べる(4)

 しかし、そう簡単に表示できない事情がある。それは、ゲノム編集食品は、科学的には、従来の食品と区別できないからだと主張する(4)。遺伝子組換えの場合では、科学的な分析によって、遺伝子組換え品種と非組換え品種を明確に区別できる。このため、事業者も原材料を確認できるし、取り締まる側も科学的に監視できる。このため、義務表示制度を動かすことができる。しかし、ゲノム編集食品の場合には、第三者は通常の食品と科学的な区別ができない(4)。標的配列に変異を導入する手法は、自然による突然変異なのか、化学物質やガンマ線により人為的に突然変異を起こしたのか、ゲノム編集技術によって突然変異を起こしたのか。変異自体は同じなために方法の違いが識別できない(4,5)。つまり、別の生物の外部から遺伝子を加えないケースでは、自然に起こる突然変異や今までの品種改良の方法と区別できず、「ゲノム編集をしたか・しないか」の検証ができない。これが表示しない理由なのである(2,5,6)

問題は「オフターゲット変異」~基準がないから安全とは言い切れない

 しかしながら、心配なのは、その安全性である(6)。ゲノム編集はねらい通りの場所を改変できる。しかし、間違いがまったくないとは言い切れない。DNAを切断する酵素は、研究者が設計して作成する。この切断する酵素の設計にミスがあれば、狙っていた標的配列とはまったく別の部分の遺伝子を変異させる恐れがある。これを「オフターゲット変異」という(5,6)

 このオフターゲット変異によって思わぬところでたんぱく質の構造が変わり、異常なタンパク質がアレルゲンとなって食の安全上問題になることも考えられる(5,6)

 「オフターゲット変異は、従来の育種法でランダムに生じる変異と同じであり、安全性に問題はない」という主張もある。しかし、石井教授はあまりに楽観的すぎると懸念する。また、ゲノム編集では、複数のDNA切断酵素を導入して、同時に異なる遺伝子を変異させることも可能である。それによって、予想外の作用がもたらされてしまう可能性も否定できないからである(5)

 ゲノム編集作物の栽培や食品流通は規制対象外となり届け出制となるが、法に基づくものではなく、協力要請に近い。罰則もないため、届け出を出さない事業者がいてもおかしくはない。その届け出の内容も、どの程度の科学的な証拠を提供すべきかが明確に読み取れず、事業者任せである。栽培情報に関する国への届け出も「オフターゲットについて調べた結果を報告すること」となっているが、そもそもの「ものさし」も決まっていない。オフターゲット変異が起こる場所や頻度を調べて評価をしようと試みている研究者もいるが、統一された評価法はまだない。育種に応用した際の評価基準のコンセンサスもない。このため、ある意味では、個々の研究者の見識にゆだねられているのが実態である(5)

 オフターゲット変異の評価についてのコンセンサスもなく、安全性を評価するものさしも決まっていないため安全かどうかが判断できない(5)。このため、石井教授は、現段階で『安全ですか』と聞かれれば『わかりません。そうとは言い切れません。安心はできないでしょうね』としか答えられないという(5,6)

変異が、多様な生物、食品を生み出したのは事実だが、自然界では想定外の結果が起こる

 松永和紀女史は、DNA、遺伝子を切断し人為的に操作する、というのが、消費者や記者にも違和感や怖さを呼び起こしてしまうのではないか。DNA、遺伝子に起きる切断、変異を悪いことのように受け止める人がいるが、生物はさまざまな変異があったからこそ進化し、多様となってきた。この地球の多様な生物、環境は、地球46億年の遺伝的変異の結果である。

 厚労省の専門家会議などで議論をリードした農研機構・田部井豊新技術対策室長は、「農研機構はおよそ22万点の遺伝資源を保有している。品種改良をするためには遺伝資源が重要だが、これらは意図しない変異、つまりオフターゲット変異の蓄積の結果だ」と説明している。

 有用種同士の交配にしても、地理的に遠く離れて絶対に自然交配は起こりえない種を飛行機で運んで交配させているから、自然に沿うものとは言いがたい。「自然でなければイヤ」と決めてしまったら、現代においては米や野菜、果物など、ほとんどの食品を食べられず、飢え死にすることになると主張する(4)

 しかし、石井教授は、ゲノム編集技術は、自然に起きる確率を超えて、前例がない変異を持った品種を作り出せる点を懸念する。例えば、作物の場合では、研究者も予測できない想定外のことが起きる一例として、突然変異で除草剤耐性を持った稲の種子をドイツの種子会社が販売したところ、イタリアや米国で野生稲と交雑し、高さ2m近い雑種稲が繁茂してしまったケースをあげる。このことから、ゲノム編集でも、野外の栽培試験や本格的な栽培ではよほど気をつけて検証しないと、環境にも深刻なダメージをもたらしかねないと語る(5)

予防原則が大事である~欧州では市民からの訴訟で規制が起きた

 1992年に「国連環境開発会議(地球サミット)」で採択された「環境と開発に関するリオ宣言」には、「完全なエビデンスがなくても、環境悪化を防止する対策を先送りしてはならない」と書かれている。現在、ゲノム編集が環境に影響を及ぼすという具体的なエビデンスはない。ゲノム編集を使えば、前例のない品種を作ることができ、その環境や人体への影響は不確定な部分がある。遺伝子組換えの歴史は20年程度とまだ浅い。ゲノム編集はさらに新しいバイオテクノロジーで、リスクはまだ定まっていない。区別がつかないことを理由にリスクに向き合わなくてよいわけがない。しかし、これから大きく使われる可能性がある技術だからこそ、ゲノム編集にもこの「予防方策」という考え方を適用するべきだと石井教授は主張する(5)

 ニュージーランドでは、当初、外来遺伝子を組み込まないゲノム編集を規制対象外にしていた。けれども、NPOが環境省を相手に訴訟を起こし、結果として国が敗訴した。そして、「あらゆるゲノム編集を規制対象にする」という規制の改正が行われた。EUでもフランスのNPOが欧州司法裁判所に訴え(5)、このことから、『ゲノム編集食品は遺伝子組み換え作物と同じ規制にせよ』と判決を下した(5,6)。現時点では日本では一部のゲノム編集の利用を規制しない方向に動いているが、規制や表示を求める訴訟が起きてもおかしくはないと石井教授は言う(5)

科学的に安全という思い上がり~不安に思う感情は上から目線の科学では解消できない

 松永和紀女史は、ゲノム編集食品の安全性や表示をめぐっては、品種改良の科学や表示制度の仕組みがよく理解されないままの報道がされている。ゲノム編集の複雑な科学と表示の考え方を理解しないまま記事を書いている人たちが少なくない、と思わざるを得えない。「安全だ」とする主張よりもどうしても、危険視する活動家が目立ち、マスメディアも好んで取り上げる。「市民の不安は大きいのに、知らないまま食べさせられる……」という話は、センセーショナルで人を引きつける。

 もちろん、可能性はゼロ、とは言えない。科学者はいかなる場合もゼロは証明できないため「可能性は著しく低い」という言い方をする。培養や選抜、戻し交配等の複雑な工程を知っていれば、納得できるが、知らない人は、「ゼロでないなら危ないのか」と感じてしまう。しかし、ゲノム編集のオフターゲット変異のリスクが高い、とはみなせない。外来遺伝子等の挿入のないゲノム編集については、特別扱いして危険視する科学的根拠はないと私は考える、と述べる。さらに、ゲノム食品のみならず、遺伝子組換え食品の場合も非組換え食品と同等に安全であるため、安全面から区別する必要はないと主張する(4)

Tatsuo-Saito.jpg 食生活ジャーナリストの佐藤達夫氏もゲノム編集農産物は安全だと考える。従来の品種改良農産物と変わりがなく、その農産物が「ゲノム編集食品であるか・そうでないか」を客観的に知る方法が現在の科学レベルでもないことも理解する(3)

 しかし、遺伝子組み換え食品は「安全ではない食品の代名詞」にさえなっている。それは、理屈ではなく感情の問題である。言い換えれば、「安全」ではなく「安心」の問題であると指摘する(3)

 石井教授も「安全性」と「信頼」が、食品選択の中で重要な位置を占める。しかし、「安全」と「安心」は違う。「バイオテクノロジーは科学的に安全なら問題ない」という意見をよく聞くが、遺伝子組換え食品の現状を考えるとこの意見は妥当だと思えないと石井教授は指摘する(5)

 佐藤氏もこう指摘する。消費者だけに限らず、人間は「知らないもの」や「こと」に対しては保守的に接するし、不安を抱き距離を置こうとする。これは生物としての「リスク管理」からみて当然の対応である。よく知りもしないのに不用意に近づいていたのでは命がいくつあっても足りない。

 したがって、遺伝子組み換え作物が登場したときに、消費者が「不信感」を抱いたのは当然といえばあまりにも当然であった。しかし、「科学者」や「行政」は「遺伝子組み換え技術が科学的に安全である」ことを示せば「誤解」が解ける、とタカをくくっていた(2)

 遺伝子組み換えの方が「他の生物の遺伝子を持ってきて加える」のに対して、ゲノム編集の方は「もともと持っている遺伝子を変更する」という違いがある(2)。けれども、遺伝子組み換えとゲノム編集のいずれもが、人工的に突然変異を起こし、「人工的にゲノムに操作を加える」という点では基本的に同じである(1,2)。専門家からすれば、この2つの技術は、大きく違うかもしれないが、専門家以外の消費者には「似たような科学技術」に見える(2)

 「遺伝子組み換え」は「遺伝子組み込み」、「ゲノム編集」は「遺伝子変更」等とすればまだわかりやすかったのだが、その二つに対してわざわざ「遺伝子組み換え」と「ゲノム編集」というまったく異なるニュアンスの用語を使えば、まったく異なる技術だと考えるのが普通だし(2)、専門家以外の消費者は混乱する(1)

 遺伝子組み換え食品でさえ、安全性などに関して、まだ消費者の理解を十分に得られているとはいえない。最初の「すれ違い」は今でも尾を引いている。「科学だけに頼っていては(仮にその手法が正しくとも)消費者の理解は得られない(1)

 現在、食品安全の管理を担う厚生労働省や農林水産省や消費者庁の担当者、あるいは科学者やジャーナリストが盛んにゲノム編集食品の安全性について発言をしているが、現状は消費者が理解している状態ではまったくない。

「安全性は従来のものと変わらない」「調べる方法がない」「遺伝子組み換え食品とは違う」等と説明されても、受け入れがたいことは想像に難くない。

「消費者のリテラシーの問題」「消費者も勉強すべき」等と理屈を並べても、反感こそ買え、何の解決にもならない。多くの消費者は、専門家の話を直接聞いたり学ぶ機会はない。そんなことをしているヒマもない。「耳にしたことはあるがどういうものかは皆目わからない」という食品が突然「来年にも食卓に上る」となれば、拒否反応を示す人が多いのは当たり前である。このような現状で「何の表示もなく」ゲノム編集食品が食卓に上れば、消費者が「安全じゃない食品だ」と受け取るのは目に見えていると指摘する(3)

 Tetsuya-Ishii.jpg石井教授の見解も同じで、「リスクを気にせずに食べるという人もいるが、多くの人々は生命に直接かかわる食について日々気にかけている。いずれにしても、十分な議論が尽くされたとはいえない。このため、ゲノム編集食品に対する安心感は持ちにくい」と指摘する。

 ゲノム編集食品の在り方について、国会などでオープンに議論されず、法改正や規制もなく、きちんと国民に説明されず、検査は事業者任せで流通・販売されるならば「冗談じゃない、そんな素性の知れないものは食べたくない」という人も少なからずいるはずだと述べる(5)

何年判断にかかったとしても安全性の評価は食品安全委員会にきちんと任せるべき

 佐藤氏によれば、日本の「食品安全・安心」の社会状況を大きく転換させたのはBSEである。「日本は大丈夫」と政府が公言していたにもかかわらず、2001年にBSEの感染牛が発見された。「国産食品の安全性神話」は崩壊し、多くの市民が「食品の安全性」に懐疑心を抱くようになった。この「食品の安全性に対する不信感」を払拭するための対策のひとつが食品安全委員会の設置であった。

 食品安全に関して「安全性を科学的に評価する組織」と「その成果をどう管理するかの組織」を完全に切り離し、前者を行なう組織として2003年に厚生労働省や農林水産省とは別の組織として、内閣府内に食品安全委員会を誕生させた。

「食品の安全性の評価に関しては食品安全委員会に一任する体制ができあがった。それ以降、BSEに限らず、農薬・添加物・動物用医薬品・化学物質・ウイルス等、食品の安全性評価に関しては、食品安全委員会が一手に引き受けてきた。そして、国民の「食品の安全性に対する不信感」を払拭するために地道なリスクコミュニケーション活動がなされた結果、少なくとも2つの認識が市民の間に定着してきた(3)

 第一は「100%安全だといえる食品は1つもない」という認識である。

 第二は、企業や官公庁が言うことはいまいち信用できないが、「食品安全委員会が安全というのであれば、とりあえず認めよう」という消費者、市民が増えてきたことである(3)。つまり、「賛否両論はあるとしても、科学的根拠としては、食品安全委員会に任そう」というところまでようやくたどり着いた(2)

 したがって、ゲノム編集作物の研究・生産・管理等に関しては、農林水産省がカルタヘナ法に則して管理すればよいとしても(2)、「市場流通するゲノム編集食品」に関しては、厚生労働省がその安全性検証を食品安全委員会に諮問すべきである(2,3)。「従来の突然変異と変わらないのだから安全性の評価をする必要はない」という判断を、厚生労働省などの「管理機関」がすべきではない。安全性の評価はかたくなに食品安全委員会に任すべきである。食品安全委員会に諮問すれば、もしかしたら2年も3年もかかるかもしれない(3)

 少なからぬ時間を要するだろうが、結局は「それが早道」であると述べる(2)。ここをないがしろにすると、20年近くかけてようやく消費者の間に定着しつつある信頼を水泡に帰すことになる。ゲノム編集食品に遺伝子組み換え食品と同じ道を歩ませてはならない(3)

 石井教授も、絶対に安全でリスクがゼロという食べ物はない。したがって、どのようなリスクがどのくらいあるのかを調べ、どこまでなら安心できるかという「許容しうるリスクの程度を共有する」ということが第一であると述べる(5)

科学的検証は不可能でも社会的検証は可能か

 誤解であっても、いったん「危険だ」と理解されたが最後、それを覆すのには何十倍ものエネルギーが必要なことは、遺伝子組み換え食品で経験ずみのはずである。非科学的な「あおり情報」が減ることなどはまず考えられない(3)。遺伝子組換えもはじめから「科学的な説明」だけではなく、「消費者の不安に寄り添う対応」ができていれば、現状のようにはならなかったのではなかろうか。検証法は「科学的方法」だけではなく「社会的方法」もある。そして、同じことが、いま「ゲノム編集」でもやらかそうとしている(1)。なぜ今「同じ失敗」を繰り返そうとしているのであろうか(3)。佐藤氏はそう指摘する。

 これに対して松永和紀女史はこう反論する。

 遺伝子組み換えでは、消費者が自主的かつ合理的に選択できる機会を確保するために制度が設けられている。そこで、同じ制度をゲノム編集食品にも作ればいいという意見がある。

「生産段階で、ゲノム編集かそうでないかを区別し保証書を付け、分別して流通させて保証書で識別すれば良い」という意見もある。科学的分析による監視を「科学的検証」と呼ぶのに対して、書類等に基づく監視は「社会的検証」と呼ばれる。しかし、ゲノム編集の場合には、社会的検証も無理である。農場にある収穫したての農産物も区別するためには、種苗企業から種子を購入した時に、それが、ゲノム編集であるかどうかを聞き、信用するしかない。

 しかし、開発企業と種苗企業が異なる場合も多い。種苗企業は、開発企業からゲノム編集技術を用いた系統を購入し、それに従来の方法も用いて新しい品種を作り出す。そのうえで、その種子や苗を販売する。したがって、もし、種苗会社が間違えて種子や苗を販売したら、だれもチェックできないまま、その農産物は流通販売される。農家がゲノム編集による種子とゲノム編集が用いられていない種子とをうっかり間違えて植えて収穫したら、川下のすべての事業者が間違えて消費者に届ける事態となる。つまり、保証書の真正性すらも、担保するのが難しい。このような制度では、不正の温床にもなり得る。

 また、末端の製造販売事業者の被る大きな不利益も問題である。社会的検証によって義務表示制度を課す場合、制度を守らなければならず違反したときに罰則が科せられるのは、末端で容器包装に表示する事業者である。彼らは通常、原材料を購入して食品を製造し販売する。

 購入した原材料を調べても、ゲノム編集かそうでないか確認しようがなく、もし保証書が付いていたとしても、それが正しいのかどうか判断できない。にもかかわらず、違っていたら違反に問われてしまうのでは、あまりにも理不尽である。

 また、消費者の負担も大きくなる。食品業界は生産や流通の各段階での書類の確認や分別等により、莫大なコストの上乗せを迫られる。当然、消費者もコスト負担を迫られる。このような義務表示制度が多くの消費者の支持を得られる、とは私には思えない。

 そこで、6月20日に開かれた消費者委員会食品表示部会では、消費者庁は「表示違反の食品の検証可能性」という観点から「義務表示制度の創設は難しい」と明言したと、国の方針を称賛する(5)

安心と安全は違う~生命にかかわる「食」を選ぶ権利は消費者に

 要するに、ゲノム編集食品は安全性の審査もなく、届け出制となるため、ほぼノーチェックで流通することとなった。表示義務化すらしないため、消費者が店頭で選択することができない(6)

 そして、現在では、技術の発展や貿易政策上の論点ばかりで話が進んでいる。しかし、食は強制されるものではない。自らの感性や食文化、経験等をベースにした自分なりの価値観で食を選ぶ権利があると石井教授は言う。ここで、重要なのが「信頼」である。信頼があるからこそ、安心して買ったり食べたりできる。リスクについて客観的なエビデンスが備わっていることは必要である。しかし、事実に基づく情報だけでなく、いつどこで誰によって作られたのか。作っている人に対する信頼も重要である(5)

 したがって、これからどのような議論をしていくべきなのかに対して、石井教授は、市民参加の下にできるだけ多くの人が納得できるルールを作ることだと指摘する。たとえ自然に生じる変異とゲノム編集の区別は科学的には困難であるであるとしても、「ゲノム編集を経てAという機能を付与された食品」という表示をすることは可能であると石井教授は考える(5)

 これに対して、松永和紀女史は、企業利益の観点からそれはできないとこう反論する。もちろん、開発企業自身は、詳しい遺伝情報を把握して変異を加えているため、周辺の遺伝情報等から区別できる。しかし、その遺伝情報こそが良い品種作りのポイントで他企業などに知られたくない「企業秘密」である。したがって、現段階では第三者はその情報を使えず、識別できないのである(4)

多くの人が納得できるルール作りを~事業者の責任による任意表示の仕組み

 とはいえ、消費者の一部は、区別し選びたがっている。そのような人たちが、なんの表示もないままに無理矢理食べさせられる状況になるのはよくはないと松永和紀女史も指摘する。以下、松永女史の主張をまとめておく。

 遺伝子組換えにおいては、豆腐や納豆等に「遺伝子組換えでない」という表示が氾濫し、それが「遺伝子組換えは危ない」という誤認につながった。食品添加物においても、「不使用」「無添加」などの任意表示を見て購入する消費者の7割以上が「安全で健康に良さそう」と誤って受け止めていることが、2017年度の消費者意向調査で明らかとなっている。任意表示は、こうした誤認と風評被害につながりやすい。したがって、注意すべきことは「ゲノム編集でない」という任意表示が、消費者の「ゲノム編集はわざわざ避けなければならないほど、危ないもの」という誤認、そして、それに基づく買い控えという「風評被害」につながらないように、事業者も食品表示制度を規制する消費者庁も、十分に注意しなければならないことである。

 ゲノム編集食品も従来食品と同等に安全である、というのがほとんどの専門家の見解である。任意表示は、そのうえで消費者が選ぶための手段である。

 私は委員の一人として、表示義務化は不可能であるとともに、任意表示制度の重要性、誤認や風評被害を防ぐための考え方などについて、いくつかの提案をした。任意表示については、ほかの委員も言及した。

 そこで、重要になるのが「任意表示制度」である。消費者が知りたいという要望に応えて、事業者が自らの責任において自主的に表示するものである。

 遺伝子組換えの制度においては、遺伝子組換え農産物を含む場合には必ず表示しなければならない(義務表示)が、含まない場合はなにも表示しなくてよく、「遺伝子組換えでない」というのは、事業者が自らの責任において行う任意表示と位置づけられている。

 2023年4月から改正施行される新しい遺伝子組換え表示制度では、「遺伝子組換え」の混入が5%以下の場合は、その旨を表示をしてもよいし、なにも表示しなくても良い「任意表示」となっている。

 ゲノム編集食品の場合には、「ゲノム編集である」「ゲノム編集でない」のいずれも自らの責任において表示したい業者だけにしてもらい、欲する消費者に結びつける。そうすれば、事業者にとっては商品の付加価値、消費者にとっては自主的かつ合理的な選択の機会の確保につながる。

 この場合も企業秘密である詳しい遺伝情報が公開されない限り、第三者は科学的検証はできない。しかし、開発企業が「ゲノム編集である」とか「ない」と保証する種子を農家が栽培し、収穫物を近くの加工工場で加工して包装し小売りへ、というふうに、途中の流通や加工工程をできるだけシンプルにすれば、ミスや意図せざる混入のリスクは下がる。書類で責任を明確にしながら流通や加工を行い、トレーサビリティを確保して消費者へ届ければよい。

 分別流通、書類による保証等でコストはかかるが、すべての事業者に課せられるのではなく、一部の事業者が自らの責任でコストをかけて管理し、商品を値付けして売るのであれば、それは自由である。そして、消費者が、その任意表示は科学的に保証されたものでないことを了承のうえで、納得して高く買うのであれば問題はない。

 ゲノム編集により栄養成分の含有量が上がるなど、別の指標で科学的に区別できるケースもある。筑波大学が、血圧上昇を抑える機能を持つGABAを豊富に含有するトマトを、ゲノム編集技術により開発している。市販された時に、「GABAを高濃度に含有する」ことが科学的に担保され、「ゲノム編集技術が用いられている」という任意表示がなされていれば、消費者は判断し選択することができる。あるいは、科学的管理ができるように企業秘密の一部を公開して「この配列があれば我が社のゲノム編集食品だから、科学的に区別してほしい」する事業者も現れるかもしれない。

 メディアの中には、安全性審査がなく、義務表示もされないことで、「消費者がそれと知らずに手に取る事態になりかねない」(東京新聞2019年6月22日朝刊)と報じたところもある。批判するだけならば簡単である。しかし、批判をするならば、公平で公共性のある代案を示して欲しい。科学的、かつ、公平に考えるならば、厚労省と消費者庁の現在の判断にならざるを得ないと私は思う。だからこそ、欲しい人には届くという任意表示制度を、きちんと構築し運用してゆく必要があるのである(5)

【画像】
佐藤達夫氏の画像はこのサイトより
松永和紀女史の画像はこのサイトより
石井教授の画像は文献(5)より
牛の画像はこのサイトより

【引用文献】
(1) 2019年3月25日:佐藤達夫「この夏にも市場流通するといわれている「ゲノム編集」食品って、「遺伝子組み換え」食品とはどう違うの?」yahoo ニュース
(2) 2019年3月30日:佐藤達夫「ゲノム編集食品」の拙速な市場流通は、必ず消費者の混乱を招く!」yahoo ニュース
(3) 2019年7月12日:佐藤達夫「ゲノム編集食品に遺伝子組み換え食品と同じ道を歩ませてはならない!」yahoo ニュース
(4) 2019年7月9日:松永和紀「誤解がいっぱい、ゲノム編集食品の安全性と表示を解説する」WEDGE Infinity
(5) 2019年7月22日:石井哲也「ゲノム編集食品」が食卓に上る日。本当に規制は必要ないのか? 北海道大学教授・石井哲也さんに聞く」パルシステム
(6) 2019年8月28日「アレルギー発症を識者が示唆「ゲノム編集」安全審査ない可能性」女性自身
posted by José Mujica at 07:00| Comment(0) | GMO | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする